中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:40
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:40 陰謀の結末


「・・・今日で全て決まるか・・・」
ジョートショップの自室で、一人呟くシオン。今日はシオンの再審請求の日であり、もし請求が認められれば、その場で再審が行われる。もし再審が認められなければ、その場でシオンは街からの永久追放或いは投獄となる。牢に入れられるくらいなら追放を選ぶが、どちらにしろ完全な冤罪で罰せられるなど、冗談では無い。何としてでも、身の潔白を証明するつもりだった。幸い、自らの身の潔白を証明するに足るカードは揃っている。ともすれば、真犯人を捕らえる事だって出来るだろう。
「・・・尤も、支持率が規定数に満たなければ、何の意味も無いんだがな・・・」
自分の考えに、苦笑を漏らすシオン。彼の言う通り、再審が行われるかどうかは、住民達の支持投票数によって決まる。これが規定数に満たなければ、そもそも再審は行われず、そのままシオンは罪人と言う事になってしまうのだ。それだけは何としても避けたかったが、こればかりはシオンにもどうしようもない。運を天に任せるのみだ。
「さて・・・行くか・・・」


身支度を整え、シオンはアリサとテディを伴い再審請求支持投票が行われる、市役所に来ている。市役所の入り口には、何時ものメンバーが勢揃いしてシオンを待っていた。
「やっと来たな。今日の主役が遅れて如何すんだよ?」
「時間に遅れた訳じゃない。それより、何で態々外で待っていたんだ?」
「いや、それがさ。もう中は人で一杯なんだよ。なるべくなら、人に聞かれたくない話なんだろ?」
「まぁ、な。・・・面倒をかけてスマンな。」
「何を今更。アタシ等だってあんたには色々迷惑かけてるんだから。お互い様だよ。」
エルの言葉に微笑を浮べるシオン。が、すぐさま表情を引き締める。
「・・・はっきり言って、支持投票がどんな結果になるかは解らない。が、支持を得た場合の事を話しておく。」
全員がシオンの言葉に頷くのを確認し、これからの事をなるべく解り易いように説明していく。10分ほど説明した後、若干冗談の混じった言葉で締め括った。
「・・・まぁ、どんなに後の事を考えたって、支持投票で支持されなければ、意味は無くなるんだがな。」
「大丈夫よ、シオン君は頑張ったもの。さ、そろそろ行きましょう。」
アリサの言葉で、全員が市役所の中に入っていく。そんな彼等を、物陰から見詰めるあからさまに怪しい人影に、気付く事無く・・・。


市役所の大ホールは、沢山の人で溢れ返っていた。ざっと見た限りでは、エンフィールドの住人の殆どが、投票に訪れているようだ。中には、教会の神父や武器店の店主マーシャルなど、見知った顔も居る。入り口近くに立ち、様子を見ていたシオン達に、やや離れた場所から声がかけられた。
「お兄ちゃん!」
「シオンさん!」
「ローラにトリーシャか。二人も来てたんだな。」
小走りで駆け寄ってくる二人に、シオンが視線を向ける。二人はシオンに言葉に、何を当然と言った表情を浮べる。
「当り前でしょ。」
「ボク達だって、シオンさんの役に立ちたいんだから。」
「そうか・・・ありがとな。」
そう言って、優しげな微笑を浮かべるシオン。その微笑を浮かべられた二人は、真っ赤になってしまう。が、シオンの後ろから殺気すら篭ったキツイ視線を幾つか向けられ、若干蒼白になりつつ、弁明するかのように言う。
「あ、あはは、み、皆も投票して来なよ。」
「そ、そうだよ、早くしないと投票締切時間になっちゃうよ。」
些かわざとらしい話題転換だが、実際投票締切時間は近い。結構混み合っている事もあって、シオンを除いた皆は、先に投票を済ませてしまう事にした。投票結果が発表されるまで何もする事の無いシオンは、その場に佇んでいる。と、後ろから声をかけられる。
「・・・シオン」
「?蒼司・・・どうかしたのか?」
振り向いたシオンの視線に映ったのは、真剣な表情を浮べた蒼司だった。
「ノイマン隊長から伝言。詳しくは、こいつに書いてある」
「伝言?・・・成る程、予想通りだったと言う訳だ。」
蒼司から手渡された一枚の書類に目を通したシオンは、納得顔で頷いた。それを確認した蒼司は、急いだような口調で言った。
「それじゃ、俺はこれで。」
「・・・何かあるのか?」
「ああ、シオンの情報の御蔭で、奴の部屋の捜査令状が出されたんだ。俺はこれから、捜査の陣頭指揮に立たなきゃならない。・・・ちゃんと間に合わせるから、後は頼んだぜ。」
一方的に捲し立てると、蒼司はさっさと走り去ってしまう。それを見送ったシオンは、些か呆れ顔で呟いた。
「・・・やれやれ、急いでいるなら送ってやっても良かったのに・・・。ま、あいつらしいか。」


『え〜、皆様。大変長らくお待たせ致しました。これより、投票結果の発表を行いたいと思います。』
ざわめいていたホールが、その声で静まり返る。今回の支持投票の進行役を努める市役所の役員が、壇上に立ち、手にした紙に目を遣る。其処には、開票・集計の結果が記されている筈である。我知らず、息を呑む音が聞こえてしまう位静まり返った空気の中、役員が結果を告げる。
『集計の結果・・・支持数は、過半数を超えました。よって、シオンさんの再審請求は受け入れられる事となります!』

ワアアァァァッ!!

役員が告げた瞬間、其処彼処から歓声が上がる。歓声の大きさを見る限り、シオンの支持をしたのは此処に居るほぼ全員のようだ。シオンの努力が報われた瞬間である。
『それでは、続いてシオンさんの再審査に移りたいと思います。先ずは、シオンさんの自己弁論です。シオンさん、どうぞ壇上にお上がり下さい。』
役員に告げられ、シオンが壇上に上がる。此処エンフィールドでは、まだ弁護人制度は確立していない。その為、裁判時などにおける弁論は、被告本人又は被告の指定した第三者によって為されるのが普通である。再審等、弁論の為の証拠探しを自分で出来る期間のある裁判の場合、自己弁論が最も多いパターンである。勿論、シオンも自分で自分の弁論を行うつもりだ。と、シオンが弁論を始めようとした瞬間、耳障りな哄笑が響く。何事かと全員がホールの入り口の方に目を向けると、其処には奇妙な仮面をつけた青年−ハメットが立っている。尚も哄笑を続けた後、ハメットは口を開いた。
「クックック・・・皆さん、こんな茶番は止めにしませんか?」
「君、茶番とは如何言う意味かね?」
列席していた役所の高官が、ハメットを詰問する。今は法によって定められた、れっきとした裁判の途中である。如何なる理由があれ、その進行を妨げる行為は許されるものではない。だが、ハメットはそんな事など無視し、一方的に捲し立てる。
「良いですか、良く考えて下さい。今回の件、彼が犯人ではない事を証明するものは何もありません。逆に、彼の犯行を示す証拠は沢山あるのです。今更再審等行った所で、有罪確定ハイ終わり。そ〜んな時間を無駄にするような事は、止めにしましょう。そう思いませんか?」
ハメットの言葉に、静まり返る住人達。ハメットの言った事は、彼等が目を向けないようにしていた事だった。彼等とて、シオンが犯行を犯すような人間ではない事は、この一年の生活の中で、はっきりと理解している。だが、実際に証拠が上がっているのだ。確かに、時間の無駄かも知れない。誰もがそう思い始めた中、一人冷静な態度を崩さないシオンが口を開いた。
「・・・さて、バカの乱入で些か時間を取られたが・・・これから俺自身の自己弁論と・・・今回の件の、真犯人の告発を行いたいと思う。」
シオンの言葉に、再びざわめきに満たされるホール内。バカ呼ばわりされたハメットが、憤慨した様子で捲し立てた。
「なっ、無駄なことはお止めなさいと言ってるでしょう!それとも、君「黙ってろ」
小さく告げられた言葉に、硬直するハメット。言葉と同時に向けられたシオンの視線に、完全に気圧されてしまっている。黙り込んだハメットを無視し、シオンは弁論を開始した。
「さて・・・其処のバカも言っていたが、今回の件において俺が犯人である事を示す大きな証拠は二つ。一つ目は目撃証言だが・・・これははっきり言って何の意味も為さない。」
「それは、如何言う意味かね?」
「順を追って説明しよう。先ず今回の件の目撃証言だが・・・実は2種類に分ける事が出来る。一つは、何らかの人影を見たと言う証言。そして、もう一つは、はっきり俺を見たと言う証言だ。だが、此処で一つの疑問が持ち上がる。思い出して欲しい。事件発生当夜、あの日は完全な曇り空、月明かりの欠片すらありはしなかった。更に、はっきり見たと言う場所は、周囲に街灯はおろか、建物の部屋の明かりが漏れることすら無い、本当に真っ暗な路地裏等だった。そんな状況下で、はっきりと人の顔を見分けられる物なのだろうか?」
シオンの言葉に、唸る審査員達。この案件を担当する彼等も、その事には疑問を抱いていたのだ。更にシオンが言葉を続ける。
「その事を疑問に思った俺は、一部の自警団員と協力し、独自に調査を始めた。だが、その調査はいきなり行き詰まる事になる。何故なら、俺をはっきり見たと証言した者全員が、時を同じくしてこの街を出ているからだ。だが、逆にその事が、俺たちの疑問を深める結果に至った。」
「其処から先は、私から説明しよう。」
そう言って立ち上がったのは、ホール前方に設置された関係者席に座っていたリカルドだ。リカルドが視線を向けると、審査員達は承諾の意を示し、頷いた。それを確認し、壇上のシオンに歩み寄るリカルド。シオンはリカルドに場所を譲った。
「さて、シオン君の言う通り、我々はこの失踪した5人の証言者の行方を、全力で追いかけた。その途中、我々は意外な場所から答えを得る事となった。それは、ショート財団からだった。」
ショート財団の名に、静まり返っていたホール内にざわめきが疾る。更に、相変わらずホールの入り口に立っていたハメットは、若干焦ったようにそわそわし始めていた。そんな彼の様子を視界の端に収めながら、リカルドは言葉を続ける。
「5人の証言者達は、全員ショート財団社長秘書の直属の部下だった。我々は、ショート氏の許可を得、財団内の人事記録を拝見させて貰った。すると、彼等5人はいずれも他の街に派遣社員として出向しているという事になっていた。だが、よくよく調べてみると、彼等が出向した事になっている会社と言うのは、全て存在しない、言わばダミー会社だったのです。所在地そのものは正しかった為、我々はすぐさまその5人を探し出し、取調べを行いました。その結果、彼等は上司である社長秘書の命令で、シオン君を貶める為の偽証を行ったと、自白したのです。」
「これで、俺をはっきり見たと言う証言は無効となった。この時点で、俺の犯行を決定付ける目撃証言は無くなったと言う事だ。ハッキリしていない目撃証言は、何の意味も持たない。俺は別に特注の服を着ている訳でもないし、俺と同じ様な背格好の人間など、幾らでも居るからな。」
リカルドの後を継いで言ったシオンの言葉に、審査員達が何事か話し合っている。内一人が、シオンに質問した。
「では、盗難品が君の部屋にあったと言う点は?」
「それが俺が犯人であるとする証拠の二つ目だが、其方はもっと簡単だ。盗難品を俺の部屋で最初に見かけたのはアリサさんだ。さて・・・先天的に弱視であるアリサさんが真っ先に見付けたと言う事は、ドアを開けて直ぐの場所に置いてあったと言う事だ。さて、考えてみて欲しい。態々盗んだ品物を、見つかるような場所に保管するバカが居るだろうか?加えて言うなら、犯人は美術館の厳重な警備を潜り抜けたほどの手練だ。それ程の者が、そんなミスをするだろうか?以上の点から、これは部屋の主である俺以外の第三者が俺を陥れる為にやった事であると断言する。」
「更に付け加えるなら、我々が調べた所、アリサさんは朝一度シオン君の部屋を訪れている。その時はシオン君も部屋に居た訳だが、その時には盗んだ美術品など陰も形も無かった。その後、シオン君が外出し、我々がジョートショップに訪れるまでの数十分ほどの間に、突然美術品が彼の部屋に現れたと言う事になる。果たして、そんな事がありえるのだろうか?ありえる訳が無い。他の誰かが、誰も居なくなった頃を見計らい、部屋の中に美術品を置いたのでなければ、な。」
シオンとリカルドの弁論で、審査員達は先程からずっと話し合ってばかりいる。それだけ、彼等の言葉は審査に影響を及ぼしているのだ。と、先程とは別の審査員から質問が出された。
「それでは、真犯人に目処は立っているのかね?」
その質問に、シオンは一つ頷いてから答え始めた。
「・・・今回の美術品盗難事件の真犯人、それは二人居る。一人は、皆も知っているだろう。シャドウと言う男だ。」
「そしてもう一人・・・それは貴様だ、ハメット!」
リカルドの挙げた名前に、一同の視線がハメットに集中する。慌てたハメットは、意味を為さない言葉を吐き続けるばかりだ。
「何を言って、・・・」
「ハメット、お前は『とある理由』から、ある土地を欲していた。それは現在ジョートショップが建っている場所だ。だが、アリサさんがあの場所を手放すわけが無い。」
「何とか土地を手に入れようと画策していた貴様は、つい1年ほど前からジョートショップに住み込みで働き始めたシオン君に目をつけた。慈悲深いアリサさんの事だ、同居人が牢に入れられるような事になれば、彼女は如何にかして釈放させようとするだろう。その時に、保釈金を土地を担保にして貸せば良い、と考えてな。そこで、一つの問題が持ち上がった。」
「俺の罪状だ。余所者とは言え、俺は法に触れるようなことをしていなかった。更に言えば、保釈金が一般人には出せない程度の額になる程の罪状でなければ意味が無い。だが、思わぬ所から、お前は問題解決の手段を得る事となった。」
「それはシャドウと言う存在だ。奴はシオン君を陥れる為の協力を申し出てきた。二人の利害は一致し、シャドウはその神出鬼没さで美術品を盗み出し、その罪をシオン君に着せた。そして、貴様の思惑通り、彼の保釈金を払う為にアリサさんは金策を開始した。」
「それを見計らい、お前は如何にも善人ぶった態度でアリサさんに接近し、まんまと土地を担保に金銭の遣り取りの契約を結ぶ事に成功した。」
シオンとリカルドが交互に言葉を紡ぐ。その度に、ハメットは体を戦慄かせ、仮面を冷や汗が伝うようになっていった。
「更にだ。保釈金返済のために動き出したシオン君達を妨害する為、そして真犯人を見つけさせないため、お前は自らが彼等の妨害を行ったばかりか、自警団大口の出資先の会長秘書という立場を利用し、我々を言いように利用しようとしたさえしてくれたな。」
「今更身に覚えは無いとは言わせない。ハメット、大人しく縛について貰おうか。」
リカルドとシオンの追求に、無言で体を戦慄かせるハメット。と、ホール内に居る全ての人が注視する中、狂ったかのように哄笑を上げ始めた。
「・・・く・・・くははっ・・・くははははっははははっ!!・・・ふざけないで貰いましょうか!何故私が捕まらなければならないのです!?貴方達の推理ごっこは確かに楽しかったですよ。だが・・・証拠はあるんですか、証拠は!?」
勝利を確信したかのように吠えるハメット。だが、そのハメットに、シオンが嘲りの笑みを向ける。
「・・・バカが。証拠なら在るさ。蒼司!」
「おうよ!」
シオンの呼びかけに、突然ホールの入り口、ハメットの直ぐ後ろから返事が帰る。ハメットも含め、全員がその声のした方向に視線を向ける。その視線の先では、息を切らした蒼司が、書類の束を頭上に掲げていた。
「こいつには、ハメットとシャドウの契約内容の他、ハメットがこれまで行ってきた悪事のあらゆる事が記載されている!こいつが、貴様の行いの証拠だ、ハメット!!」
蒼司が書類の束を突きつけながら言うと、ハメットは糸が切れた人形のように、その場に跪いた。
「馬鹿な・・・そんな・・・私は・・・私は、財団の為に・・・」
ブツブツと呟くハメット。それを無視し、蒼司は書類の束を審査員達に渡す。それの内容に目を通した審査員達は、少し話し合った後、代表の一人が壇上に上がった。
『・・・今回の件、幾つかの証拠を認め、シオン君は無罪とする。保釈金は直ちに払い人であるアリサ女史に返還され、シオン君に対する一切の法的措置はなしとする。また、シオン君は誤認逮捕での心的損害の賠償金の支払いを、判決決定者である役所又は逮捕先である自警団に求める事が出来る。期間は今日から一週間とし、手続きに関しては役所に於いて行うように。』

ワアアアアアァァァッ!!

審査員達の判決に、再審請求が通った時よりも大きな歓声が沸きあがる。口々に祝福の声をシオンにかける住民達。アリサさんやジョートショップを手伝った皆も、シオンに駆け寄る。喜びに包まれたホールで、審査員達が次の言葉を述べる。
『え〜コホン!次に、真犯人であるシャドウならびにハメットの措置に関してであるが・・・。』
その言葉に、静まり返るホール内。そう、まだ真犯人への措置が発表されていなかったのだ。
『シャドウに関しては、既にシオン君によって退治されていると言う事で、裁きは無し。ハメットに関してだが・・・詳しい決定は、取調べの後で決定する事になる。が、それ相応の裁きが下る事は、覚悟して置くように。』
審査員の言葉に反応する事無く、ハメットは跪いたまま、ブツブツと呟き続けている。と、その呟きが次第に大きくなっていき、狂気の色を滲ませるようになっていく。
「馬鹿な・・・そんな馬鹿な事があってたまるか・・・私は・・・私は財団の事を思ってやったんだ・・・私がやった事は、悪い事じゃないんだ・・・私は悪い事などしていない!なのに、何故私が裁かれなければならないのですか!?」
怒鳴り始めたハメットに、シオンは冷たい視線を向け、冷徹に言い放った。
「・・・ハメット、お前は財団の為だと言ったな?だが・・・財団の中の誰がお前が遣ったような事を望んだ?誰一人、そんな事を望んじゃいない。誰も望まず、唯自分の中の偽善の為に行われた行為は・・・善行なんかじゃない。唯の自己満足でしかないんだよ。」
「うぅっ・・・わ、私は・・・っ!」
「自分の間違いさえ認められない者が、偉そうに善意などと言うものを口にするな・・・!」
「う・・・」
言葉に込められた圧倒的な威圧感に、最早黙るしかないハメット。そして、シオンは最後の言葉をかけた。
「・・・少し、頭を冷やすんだな。そして、一回学びなおせ。・・・本当の、善意と言う物をな。」
「・・・連れて行け。」
シオンの言葉が終ると同時に、リカルドが指示を出す。それを受けて、蒼司の直ぐ傍に控えていた他の自警団員達が項垂れるハメットを引っ張っていく。
「終わったな。これで・・・」
「ああ、やっと・・・な。」
顔を見合わせ、頷き合うシオンとリカルド。こうして、エンフィールドの街全体を巻き込んだ、一人の男の身勝手な行いは、幕を閉じた。


『かんぱ〜〜いっ!!』
掛け声と共に、沢山のグラスが一斉に掲げられる。あの後、諸々の手続きを終えたシオン達は、さくら亭に集まっていた。シオンの無罪決定、そして真犯人の逮捕による事件の解決を祝って、である。面子は何時ものジョートショップお手伝いメンバーに、蒼司やリカルド、アルベルト。そして、アリサ。全員が全員心から喜んでいるのが、その表情から見て取れた。その声も、心情を反映してか、どこか楽しげだ。全員が盛り上がる中、主役である筈のシオンは、一人静かに飲んでいる。と、シオンが一人で居る事に気付いたリイムが、グラス片手に歩み寄る。
「如何したんだい?一人で飲んでるなんて。今回はシオンが主役なんだよ?」
「解っている。・・・ちょっと考え事をしていてな。」
「考え事?」
怪訝そうな表情を見せるリイムに、苦笑してみせるシオン。
「・・・埒も無い事さ。気にするな。」
「気にするなって・・・」
更に呆気にとられるリイム。周りが和やかなのに、一人哀しささえ見て取れる表情をしていれば、気にならない筈が無い。そのことに思い至ったのか、シオンは微笑を浮かべる。
「・・・本当に何でも無いんだ。」
「まぁ・・・君が其処まで言うのなら、信じるよ。」
何処か釈然としないながらも、取り敢えず納得するリイム。と、そんな二人に声がかけられた。
「お〜い、二人とも!そんな離れた所で飲んでないで、こっちにこいよ!」
些か飲み過ぎじゃないかと思えるくらい顔を赤くしているアレフの様子に苦笑しつつ、二人は顔を見合わせる。
「・・・だってさ?君が行かないと、収まりがつかないんじゃないのかい?」
「・・・だな。」
頷き合い、輪の中に入っていく二人。この日の宴会は、日が変わっても尚続いた。彼等の喜びの大きさを現すかのように・・・。


Episode:40・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:40、如何でしたか?
ゲーム最後の再審のイベントですが、自分なりに色々といじった結果、こうなりました。
・・・あまり内容に関して突っ込まないで下さいね(汗
それでは、Episode:41でお会いしましょう。
中央改札 交響曲 感想 説明