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海南大物の怪奇談−夏の妖猫− 第零話:Rain
心伝


その日は雨が降っていた。
どんよりとした暗い雲が空に広がってる。回りはどこを見ても灰色。
−嫌だなぁ。
一人、つぶやいても、天気が変わる訳じゃないのよね…
でも、冬なのにあたたかいから、いいかな?。
これが雪なら、脚が滑って大変な事になっているだろうなぁ。
静かに雨が降り続けている。
雨が地面を叩いて、何かの音楽に聞こえる。多くの傘が花みたい。
−おばあちゃん家で見た…なんだっけ?楽器の何かに、にてる。

それじゃ、やってみよう。





走る。
人の間を抜けて、わたしは走る。傘もささずに走る。
水が気持ちいい。心の中でリズムを刻みながら走る。
人は気づかないように…と、いうより無視するように歩いていく。
時々、慌てた顔をした人がわたしを見て足を滑らせる。
何か、テレビで見た…喜劇だったかな?そんな感じ。
−あら〜、悪い事しちゃったなぁ。

脚に力を入れて、でも力みすぎないように走る。
意識はしっかりとしている。どうやら、成功したかな?。
−やっぱり、大丈夫だった。
−出来たよ、おばあちゃん。
心の底から、おもいっきり笑ってみる。
だって、別の世界が見えるんだから。
いつもの感じじゃ見えないものね。

脚に力を入れて地面を蹴る。そして、腕をふる。
それだけの事。いつもと違う変な感じ。
だけど、自然。いやな感じはしない。
何か、気持ちいい。

さらに脚に力を込めて走り出す。目指すは中央公園。


雨がいつもより大降りに感じるのは、やっぱり、体が小さいからかな?
少し体が重いけどそれは多分雨のせい。

−そう、思わなきゃ。

中央公園の入り口を駆け抜け、一気に一本杉の所へ。
誰もいないからおもいっきり走り抜けられる。

土を蹴り、草を踏みこえ、前へ−
木が近くなる。



−え?
途端、目の前が回った。

痛い…


痛い痛い痛い痛い痛い

−痛いっ!


脚がからんで思いっきり派手に転んだ。
雨に濡れた土の臭いが鼻につく。
いつもよりも濃い、きつい臭い。

脚を動かそうとする。
−痛いっ!鈍い、響いてくるような痛み。
動かそうにも…動かせない。

やっぱり、おばあちゃんの言う通りだった。
まだ…無理だった。
ゆっくりと体をあおむけにする。

体を捻る。
ゆっくりと、時間をかけて、
途端、痛みがきた。

声にならない悲鳴をあげてまたうつぶせになる。
歯を食いしばっても痛みは続く。
−いたいよぉ。どうしよう。
ふいに、泣きそうになる。
−おばあちゃん。


泣く。
だが、この雨の中誰も通らない。
泣く。
それでも涙は止まらない。
誰も来ない。

泣く。
雨はますます強くなっていく
わたしの泣き声を消すように。

雨まで痛いってどーゆー事よ…

木の下にいるから葉っぱに雫が溜まって、降る。
それが痛い。
普通雫って痛いわけないのに…

痛いよぉっ…!

おもいっきり、わたしは泣いた。
でも、誰もこない…


目の前が暗くなり始めた。
夜が、近い…わけじゃない。
今なら夜でも目がいいはずだから。
目の前が、コワイと思う前にますます黒くなっていく。


−イヤだよぉ…



「…ねぇ」

−え?

全部が黒くなる前に
急に空が青くなった。

−…?
−曇っているのに?
そして、気づいた。
雨が体に当たらない。
でも、雨の音は聞こえる。
「だいじょうぶ?」

そんな声が聞こえた時、
わたしが見たのは
青い大きな傘と…小さなやわらかい手だった。
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