中央改札 交響曲 感想 説明

海南大物の怪奇談−夏の妖猫−第参話:Easy time and…
心伝


323教室。いつもなら、講義のため沈黙で守られているこの部屋も
今は騒がしかった。
放課後、放送部全体の集合場所となっているここでは、
授業中のような静けさはどこにもなく、雑談に溢れていた。
「ちーす」
「お疲れ様でっす」
護と今泉はそれぞれ挨拶すると、空いている席に付く。
「よっ、神薙に今泉」
後ろから声をかけてきたのは、護と同級の藤井晴喜だ。
「よぉ、藤井」
「こんにちは」
「ああ。ところで神薙、新入部員が入ってくるってマジか?」
「まぁな」
ぶっきらぼうに護は答える。
「えぇ!?そうなんですか?」
今泉が横から驚いた声を上げる。
「あ、そう言えば言ってなかったか…お前と同期でな、女の子だよ」
「へぇぇ」
今泉が少し驚いたような声を上げる。
「でも、神薙、お前どこで情報仕入れたんだよ?」
「部室でな、ね…じゃなくて、部長に紹介されたんだよ。健太郎と一緒にな」
「成る程ね。で、だ」
藤井が顔を近づけてくる。口に笑みを浮かべると
「かわいかったか?」
護はため息をつくと、藤井の後ろを指差す。
「お前なぁ…二つ後ろの席に彼女がいるくせに言う台詞じゃねえぜ」
「何言ってんだよ、やっぱ、放送部に女の子が入る!
これが美人かどーかによって俺の部活、
いやさ、大学ライフも変わってくるんだぜ!!」
横で今泉もうなづく。護は苦笑を浮かべるしかなかった。
「あ、なんだよ、その苦笑はよ。
ったく、そんな固いから、お前は彼女とか出来ないんだよ」
「なんだよ、それ」
「お前、ただでさえ女の子に話し掛ける時って、
ぶっきらぼうで目つきコワいんだからな。
もう少し、優しい笑顔の一つでも浮かべたらどうかね、神薙くん?」
無い髭をしごく振りをして、藤井は胸をそらした。
護は二度目のため息をつく。
実際、護本人は意識をしていないのだが、女の子から見ると自分は『コワい』らしい。
「実際、俺はこんなのだから仕方ない」
と、護はたかをくくっているのだが、藤井を初め、放送部の同輩や勝也達にはもう少し柔らかくなれとか女の子に優しくなれ等、よく言われるのである。

「目つきコワいのは生まれつきだから、仕方無いだろ?」
「でもなぁ…お前、女の子をどっかで拒否していないか?」
「そうか?」
今泉がふと考える仕種をして、手を打った。
「確かに。神薙先輩って何か、女性にぶっきらぼうって言うか
…そんな感じですよね。
よく一緒にいる中岡先輩とか優しいのに」
「だろ?相方が後輩にもててるのに、こっちはてんで駄目なんだぜ。
その相方は…」
回りを見回す。
「今日は演劇部の方行ってるぜ」
「ああ、そっか。…つーか、やっぱりアレか、お前?」
「…何だよ?」
藤井は手を逆の頬に当てて、
「良く噂されているけど…中岡があれだけ人気あるのに女性に手を付けないのは、お前とやっぱ関係が−って、痛てぇっ!」
護は藤井が全てを言い終える前に頭上めがけて、拳を振り下ろした。
「だーれーが、だっ!このタコスケ」
頭を押さえながら藤井は言った。
「むきになるところが、余計に−ぐえぇぇぇ…ギブ!ギブアップぅぅぅ!!」
藤井が手を叩くのを確認すると、脇に締めた頭を外した。
「ったく、しまいにゃフロントチョークで落とすぞ」
「既に藤井先輩半分落ちてますけど…」
今泉は机ごしに呼吸困難に陥っている藤井をつつきながら、今泉はつぶやく。
護はそれを聞かなかったように手をうちわがわりにして扇ぐ。
「ったく、余計暑くなっちまったじゃねーか。
ただでさえ部活中はクーラー禁止だってのに」
「それ、自業自得−いえ、何でもないです」
今泉は最後まで言おうとした言葉を途中で飲み込んだ。
何故なら一瞬護の目が異様に光り、己の身に危険を感じ方たからである。


雑談をしている間に時間がきたのか、桜が入ってくる。後ろにはもう一人、
水原奈々美が入ってきた。
どこからか歓声やらどよめきが聞こえてくる。
「はいはい、それじゃ出席取るよー!」
桜の大きな声が教室に響いた。そして、出席が取られていく。
「欠席…2人と。それじゃ、みんな、おはよーございますっ!!」
『おはようございます!!』
全員の挨拶が響く。
「さってと…さっきから後ろの子に視線行ってるので
ちゃっちゃと紹介しますかぁ。
もう、男の子らの目が『早いトコ紹介してくれぇぇ』って野獣みたいだし」
野次や笑い声が沸く。もっとも前者は男で後者は女の声であったが。
桜は手を叩くと回りを静める。
「はいはい!それじゃ紹介してもらいましょうか。ね、奈々美ちゃん?」
「あ…はいっ!」
緊張した面影で奈々美はゆっくりと前の教壇に立った。
やがて、深呼吸をして、
「みっ、みなさん、始めまして!」
もの凄い勢いで礼をして、



派手な音と共に机に額をぶつけた。
「い、痛い…」
どこからか、小さい笑い声が聞こえてくる。奈々美の後ろで
桜も笑いをこらえていた。


気を取り直して奈々美は深呼吸をする。

「はっ、始めましてっ!一回生、教育学部の、み、水原奈々美と言います!
よろしくお願いしますっ!」
拍手と歓声(ほとんど男)が聞こえてくる。
奈々美は頬を紅潮させ、少しとまどった様子で笑みを浮かべていた。
桜が横から肩を叩き、奈々美に微笑を浮かべた。
「はいはいっ、それじゃ、毎度恒例だけど質問タイムと行きましょうか。
はいっ!質問ある人、手ぇ上げなさいっ!」
桜が言いおわった途端、いくつかの手が上がった。

「はい!はい!はいっ!!」
藤井が先ほどの護の首締めから復活し、大きく手を上げた。
「はいはい、藤井くんどーぞ」
「それじゃ、いつものなじみの質問行きますっ!
どこの課にはいるつもりですか?」
奈々美は不思議そうな顔をして桜の方を向いた。


「あのー…?『課』って何ですか?」
「へ?」


桜は少し驚いた表情を見せる。
「まだ…教えてなかったっけ?」
「はい…」
「…」
「…」

「部長ー!しっかりしろよー!」
「昼に会った時に教えてなかったんですかぁ?」
回りの野次が飛ぶ。桜は片手を振ると
「シャラーップ!!あたしだってミスはあるのっ!あのね、奈々美ちゃん−」
桜は奈々美に紙を見せながらとぼそぼそと説明をした。
その間、奈々美は「へぇ」とか「ははぁ」等と、反応を見せた。
そして、少し考えると
「アナウンス課に入ろうと思っています」
奈々美が言ったと同時に歓声と嘆息が響いた。無論、前者はアナウンス課の男達で、後者は他の課の人達である。藤井もアナウン
ス課なので拳を握りしめて嬉しさをかみ締めていた。
ただ一人、護だけが我関せずとばかりに喜んでいなかったが。

「はいはい、男共、喜ぶのは後にしてねー。それじゃ、次の質問ある人っ」
一人の女性が手を上げる。
「はい、どこの出身ですか?」
「えーと…京都出身です。でも中学から高校のほとんど、
沖縄のおばあちゃんの所にいたから京都弁は喋られないんですけどね」
「そうなの?あたしと同じなんだー」
桜が嬉しそうな顔で話した。
「部長も、京都なんですか?」
「そーなの。で、そこにいる神薙君−あたしの従姉弟なんだけど、
爺さんがいるから少しぐらい京都は知ってるわよ」
「まぁな」
護はぶっきらぼうに答える。
「へぇ…」
奈々美がどこか嬉しそうな顔をして護を見た。
その後、好きな番組や芸能人、食べ物、海南大学の感想とかが
質問に上がった。

そして、いよいよ最後となった時、護の横で今泉が手を上げた。
「おっ、今泉。どうぞ」
「はいっ!」
今泉は勢いよく立ち上がった。そして、
「彼氏はいるんですか?」



一瞬の沈黙。



そして、笑い声とざわめき声が爆発したように響いた。
「え…その…あの…」
奈々美は質問にとまどって顔が赤くなっている。

「お前なぁ…なんつう質問するんだよ?」
横で護が今泉に小さく抗議した。
「だって、俺が入部した時にも聞かれたんですよ。しかも、神薙先輩に」
「…そうだっけ?」
「そうです。だから、誰かにこういう思いを味あわせたいなーって
…念願かないましたけどね」
今泉が小さく笑う。
「ったく、外道か、オマエは。そう言って『今はいません』とか言いながら、きっちり10日後に彼女作ったのはどこのどちら様でしたっ
け?」
「あ、あははー…あ、水原さん答えますよ」
回りが沈黙して答えを待っている。
(まるで芸能人のレポートだな)
護は心の中で呟いた。

「あの…いません…」
歓声が湧き起こる。言わずとしれた男性陣だが、
女性陣の方も何か納得したような言葉や嘆息が聞こえてきた。
「ったく、ウチのメンバーは…騒ぎ過ぎだっての。なぁ、今泉?」
「ううむ、あの恥じらい方…萌えますねぇ」
「お前もかい…」
再び嘆息した護は目が泳いでいる今泉に軽くチョップをいれた。

「さてと質問タイムは終わりにしましょうね。そいじゃ、水原さん。
テキトーに座って」
「あ、はい…」
回りを見回す奈々美。どこにしようかと迷っているらしい。だいたい回生ごとに集まっていたり、仲のいい者どうしで集まっているが、
回りの人間はどこに座るか、好奇の目で見ていた。

−ある程度の時間が立ち−


不意に護と目があった。
護は目を逸らす。



「…横、いいですか?」
「…おい」
護の答えを聞かずに、一礼すると奈々美は護の横に座った。
回りからどよめきの声が聞こえる。
「神薙君の横に座るなんて…もの好きねー」
「そうだな。あの女っ気、ゼロの神薙の横に座るとは
…こりゃ、明日は雪かな?」
「こらこらこら!お前ら、中学生みたいな反応すんじゃねぇっ!」
護は回りに叫ぶと乱暴に頭をかいた。
「神薙ぃぃぃ…」
後ろでは藤井が恨めしそうな目でこちらを見ている。
横では今泉が苦笑を浮かべていた。
奈々美は笑顔を見せて
「よろしくお願いしますね、神薙先輩!今泉くん!」
小さく礼をした。
「あ、よろしく」
今泉は軽く手を上げる。護は苦笑を浮かべて、無造作に軽く手を上げた。、
「ま、よろしくな」


喫茶店『雅』−海南大の近くにあるこの店は、よく近くの学生の最寄りの場所となっている。海南大の近くには学生向きの食堂やら本
屋や服屋等の店があるが、特にここを知っている人間は『通』と
されているらしい。
店の中は、主人が道楽で集めているのか、アンティークな物が多く、それが
木で作られたこの店に、落ち着ける感じをさらに醸し出させていた。
又、めったにないと言われている『水出しコーヒー』が飲めるので
コーヒー通の人が来ていると和人の談である。
そして、その和人はここの主人−叔父さんに住み込みのバイトとして
雇ってもらっているのである。

「…ってな事があったわけ」
アイスコーヒーを一口すすると護は苦い顔をして言った。
「へぇ、護の隣にね。珍しい事もあるもんだね」
「そりゃ、どーいう意味だよ?」
横のカウンターで健太郎が無邪気な笑みを浮かべている。
こちらもアイスコーヒーが目の前にあるが、
護と違って砂糖やシロップ等の袋が開けられてなかった。

横からテーブルを叩いた鈍い音が響く。
「何故や…何故こんな目つき凶悪な犯罪者に女の子がなつくんやぁっ!!」
勝也の魂の叫びとも言える声が響く。ちょうど和人は勝也が注文したオリジナルケーキと紅茶を持ってきた。
「神薙くんは元々人がいいからね。その内面を理解したんじゃないかな?」
「和人…人生って何何やろなぁ…」
「って、かっちゃん、人の話し聞いているかい?」
ぶつぶつ言っている勝也を横目に苦笑を浮かべながら和人は
カウンターの椅子に座った。
「で、神薙くん、その水原さんって子とはどうなったんだい?」
「ああ、何か俺になつかれちまった…っつーか、ねーちゃんの独断でな。
『新人のお守りヨロシクっ!』とか言われたんだよ…」
「は?」
「うちの放送部って新人の子に見学とかどういう事やるかって教えるのに、
上回生が面倒みるんだけどな、4月に新入生がどっと入ってきた時に、
とっくにそんなモノ終わってるから…俺が受け持つ事になったの」
アイスコーヒーを勢いよく飲むと護は一つため息をついた。
「んで、その後アナウンス課に入るからって発声練習とかしてたらよ。
水原が、俺に質問やら何やらで話し掛けてくるから、
回りの男連中の視線が痛いのなんのって、特に藤井」
「藤井かぁ…栗原さんって彼女いるのにね」
健太郎の相づちにうなづく護。
「でも、良かったじゃない。
護にこう親しく話し掛けてくる女の子っていなかったしね」
「…まぁな」
テーブルに頬杖をすると護は呟いた。


「よっしゃ!」
急に横の勝也が意を決したように叫ぶ。
「な、何だよ…」
「護、オマエ、今すぐ恭司に占ってもらえ!」
「はぁ!?」
勝也は後ろで占いをしている恭司を指差すと
「オマエのような男に、女の子がなつくという自体で既に
『天変地異』やっ!!
オレならともかくオマエという事がおかしい!
と、いうわけで占え!オレ様命令や!」
「誰が天変地異だ!」
「そうやろ!ああ…神さんは何でオレのようなナイスガイに彼女を与えず、
こんな凶悪ヅラした無愛想太郎に女の子を近づけさせるんやぁっ!!」
「やかましい!」
護は勝也の頭を持つと額に向けてパチキをかました。

「ぐおっ!…追加や、暴力暴走魔」
「お前、命はいらないようだな…」
「嘘やっ!ったく、まもちゃんはすぐ手を出すからいかんのやでぇ」
「…気持ち悪いからやめい」
しなを作る不気味な勝也を横目に、護は恭司の方を見た。


数人の女子高生が緊張して目の前の青年に見つめている。
と、いうよりも目の前にある『結果』が気になるのだろう。
青年は額にまいてある赤いバンダナごしに額をかくとカードをシャッフルし、5枚、目の前に差し出した。
「それじゃ、どれか一枚、好きなものをどうぞ」
「う、うん…」
唾を飲み込むとその女子高生は真ん中にあるカードを取った。
めくってみると、それは黒い羽根を生やした『悪魔』のカード
「えっ…!?」
女の子は驚いた顔をして、カードをテーブルに落とした。
そして、青年−恭司の顔を見る。
「成る程ね…『悪魔』か…」
恭司は頭をかくと言葉を続ける。
「えーっと…まず、先に言っとくけど『悪魔』だからって
悪い事じゃないから」
「う、うん…」
「ただ、『悪魔』ってのはね。『人を誘惑する』って意味があんの。
よくあるだろ?良い心の天使と悪い心の悪魔の闘いって」
うなづくのを確認すると、恭司は笑顔を見せた。
「さっき、片思いの人がいるって聞いたけど、告白したいって気持ちが
それこそ『早く思いを伝えたい誘惑』ってわけ、
そうあせる必要は無いよ。逆に言ってしまった方が相手が急に言われて
困って逆効果になっちゃうかもしれないから」
「そ、そうなんだ」
「でも、その子ってかなり人気高いのよ。そんなにのんびりしてたら、
この子の好きな子って取られるんじゃないの?」
横の女の子が話しに割り込んでくる、恭司は悪魔のカードを指で軽く叩いた。
「あせらない、って言っただろ?よく、見てみなよ。そのカード」
カードを女の子の前に出す。
「どう見る?」
「…」
カードを見てみる。黒い羽根の悪魔が見える
…が、顔はどう見ても普通の女の子。少女漫画にでてきそうな悪魔だ。
「かわいい…って思う。なんか、どっちかって言うと小悪魔みたい」
「だろ?」
恭司は笑顔を浮かべるとカードを取った。
そして、売り物をアピールするかのように言う。
「どちらかと言うと『小悪魔』って感じのカードが貴方にでました。
悪魔自体は誘惑するもの。
そして、君はそのカードを選んだ。ならば」
カードを指で弾く。すると、なぜか手品のように女の子の両手の間に入った。
「君がその悪魔になって彼を誘惑すればいい。
ただし、『小悪魔』だからイタズラ程度にしておいた方がいいけどね」
「…」
「あんまり、その男の子と話した事少ないって言ったよね?
だからこそあせらず、少しつづ話していって、
君の魅力で彼を誘惑したらいいよ」
「…」
少しづつだが、女の子の顔が明るくなっていく。
「まぁ、後は君次第になるけど…OK?」
「うんっ!頑張って…みる!」


そして、女子高生の数人は恭司に礼を言うとおしゃべりをしながら
店を出ていった。
「…ふう」
息を大きく吐くと、恭司は額のバンダナを取って丸めた。
「ほい、お疲れ」
目の前にミックスジュースが差し出される、護だ。
「おっ、サンキュ」
恭司はミックスジュースを受け取ると、勢い良くストローから
ジュースをすすった。
護は客用の椅子に座って恭司をじっと見ている。
「…おい、何だよ?ミックスジュースならやらないぞ」
「違う、…俺も占ってくれないか?」
「は?」
護は後ろを親指で指すと、
「あそこの眼鏡ダヌキが俺に女性がなつくのはおかしいって、
うるさいんだよ。んで、占ってもらえ、だとよ」
「成る程ね…勝也も何言ってんだか」
苦笑を浮かべると、片手をさし出した。
「あん?」
「見料、200円な」
「おいっ!ダチから金取るのかよ!?」
「当たり前だろ。これも一応『雅』の売り物なんだから。
それに俺はちゃんと藤原の叔父さんからアルバイターとして雇われてんだぞ」
「ったく…分かったよ」
護は財布から200円を取り出すと恭司の手に握らせた。
恭司は笑みを浮かべると、タロットカードをシャッフルする。
「先に言っとくけど、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』だからな。
運命ってのはこのカードにもあるように車輪のようなもの。
押す人間によって運命は変わっていく」
「ああ」
「ま、俺はタロットを使って運命を示し、アドバイスは出来る。
しかし、逆に言うと俺の言葉に縛られる可能性がある。
俺の言葉に縛られるな。
俺の言葉が逆にお前にとって『呪い』になるかもしれない」
「…お前、やたら縁起悪い事言ってないか?」
カードをシャッフルし終えた恭司はテーブルの真ん中に置いて、
六芒星の形に分けていく。
「簡単に言うと『俺の意見だけ聞くな』って事。
占いってのは一種のカウンセリングみたいなもんなんだから、
結局はいろんな奴の意見聞いて、自分が意識して行動しなきゃいけない。
さっきの女子高生も片思いの子がいるんだけど、まるっきり話しとか緊張して出来ないタチだったらしいからな。少し話せるきっかけ
作ってやったけどね」
「…詐欺と言わないか、それ?」
「そんなモンさ」
六芒星に並べ終わると恭司は護に見せる。


「さってと…まず5枚引いて」
「ああ」
護は無造作に5枚、引く。
「OK、そいじゃ、この五枚のうち一枚を引いて。それがお前の運命だ」
護は5枚の前で指を迷わせる。が、意を決して一番左端を引いた。
「これ!」
「よし、そいじゃ…おおっ!」
恭司はカードを引いて驚愕の表情を浮かべた。
「な、何だよ?そんなに、すごいのか?」
「…神薙」


恭司の顔が笑みへと変わっていく。
「おめでとう。お前にもとうとう春…いや、常夏がくるかもな」
恭司の見せたカードは天使が男と女を祝福するカード。
すなわち−『恋人』のカードだった。

「へぇ…縁起いいカードじゃねえか」
護も薄く笑みを浮かべた。
「出会いと恋愛関係『両思い』を現すカード。
…って事は、神薙、お前もまんざらじゃないって事か?」
「な、なっ!?」
顔を赤面して護は動揺する。恭司は微笑を浮かべると
「ま、とりあえず、勝也に報告してこいよ。あいつどんな顔するかな?」
「ああ。俺はどっちかと言うとそっち方が楽しみだけどな」
意地悪い笑みを浮かべると、護は勝也達のいるカウンターに向かった。






「でもなぁ…」
恭司はカードを見て表情を曇らせる。
「このカード…俺はあんまり好きじゃないんだよな」
恭司は『恋人』のカードを手に取る。確かに、祝福されたカードだ。
光り輝いた大地に一組の男女が天使に祝福されている。
だが、その男女の顔は『寂しい笑顔』なのだ。
恭司はこのカードが出る度に嬉しさと共に一抹の不安も感じるのだ。
今まで、別の客にこれが出てきた時、ちょっとした忠告を必ずしてきた。




(ま、あいつの事だから…な)
カードをしまうと同時に、勝也の三度目の叫び声が聞こえてきた。

「…あ〜あ…」

恭司の視線の先には、護の報告を聞いた勝也が、
真っ白に燃え尽きているのが見えた。
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