雨の中一人歩いている男がいた。傘はささず雨ガッパのようなものをきこんでいるようだった。
その男の先には一軒のたてものがあった。「さくら停」と掲げられた看板がぶら下がっていた。男はその建物を前にこうつぶやいた。
「はらへった」
かってに悠久幻想曲
第1話「帰ってきた青年」
さくら停に大きすぎず小さすぎないドアの音がひびく。
このさくら停とは食堂のようなものだった。
「いらしゃい、なんにする」
カウンターの方から元気のいい声が聞こえる。
声の主はショートカットの女の子だった。グラスを磨いておりこちらをみていない。ぱっと見でも男勝りな様子がうかがえた。そんなことを口にだそうものならどんな報復がくるかわからいものだが・・
店の中に客は誰もいなかった。昼の三時をすぎればあたりまえともいえるが
男はカウンター前の席に座りつぶやくように一言
「あじの開き定食と”俺がいない間”で増えた新メニューで人気のあるやつたのむは、パティ」
その声を聞き初めて少女、パティはこちらを振り向いた。
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「やかましいぞパティ、客の顔見て叫ぶなんざ失礼きわまりないぞ」
「あ、あんたいつ戻ってきてたのよ、コウ」
どうやらパティは俺のいうことが聞こえてないようだ。というかなんでここまで驚くんだ?
「つい先刻だよ、驚かなくていいから飯つくってくれよ、はらへってはらへって」
「ちょ、ちょとまってこのことをアリサおばさまはしってるの?」
「新メニューで人気のあるやつか?しらないんじゃないかやっぱり」
「そうじゃなくてあんたが帰ってきてることよ!!」
すごい剣幕でパティが迫ってくる。はっきり言って怖いぞ、パティ。
「ここで飯食ってからいくつもりだからたぶん知らない・・・」
「・・・あいかわらずあきれたわねぇ、アリサおばさまに顔見せしてないのになんでさきにわたしの所に顔見せに来るのよ」
パティが本気であきれ顔をしている。
「いや顔を見せにきたっていうか、先刻もいったとおり飯くいたくてきたんだが」
「だったらアリサおばさまに頼めばいいでしょうが」
「だからはらへってて、すぐにでもなんか食べときたくて」
パティが、ふうぅとため息をついて、相変わらずきのきかないやつねぇ、といって厨房にひっこんでいった。・・・飯つくってくれるのかなぁ?
数分後パティが料理を持って戻ってきてくれた。まだあきれ顔だ。
「で、いままでなにしてたの、コウ」
「なにって、アリサさんの目を治せる薬でもないかなぁって各地を放浪」
器用に口の中に飯をつめこみながらしゃべる。すごいな、俺。
「なんにもいわずに出ていって、何の連絡もなく帰ってきて、どれだけわたしが心配したとおもってるのよ!!」
「なんだパティ、俺のこと心配してくれてたのか?」
「なんでわたしがあんたなんかのこと心配しないといけないのよ!!」
なんか言ってることが支離滅裂だが、怖くて逆らえない。われながらなさけない。
しかし、出ていくときに書き置きを残していたはずなんだが、はてさて。
「なんだい、ずいぶんさわがしいねぇ」
二階のほうから女の声がきこえてくる。
「ちょっと、リサも降りてきてこいつに文句いってやってよ!!」
「どうしたんだい、まるでボウヤがいたときみたいだねぇ」
苦笑いしながら一人の女性が降りてくる。
背がたかく、とがったツンツン頭をしている。ラフな格好をしているのは雨で湿気の多いせいか
「よぉ、久しぶりリサ」
降りてきた女性に左手をあげながら挨拶をする。右手はまだ食事中である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
リサが黙り込んでしまった。やはり食べながら人に挨拶するというのは不作法だったか。
「・・・・・・ボウヤ??」
「ひとのことを疑問系で聞くなよ、 それにいい加減に名前でよんでくれないか、 せっかく ”コウ”ってりっぱな名前があるんだから」
「ほんとにボウヤみたいだねぇ、なるほどパティが興奮するわけだは」
「興奮なんてしてないわよ、こいつにいいかげんさに怒ってるの!!」
「まぁ、そういうことにしといたげるよ、ところでボウヤ」
結局、まだ俺はボウヤ扱いらしい。
「あんたが帰ってきたことほかの人達は知ってるのかい?」
「門の前の衛兵にあって・・・・・・・・それだけかな、エンフィールドに戻ってあった人ってのは、まぁこの雨だし、道ばたでばったりあうってこともなかったし」
「へぇぇ」
なぜかニヤニヤ笑い出すリサ、ほんとになぜ?
「よかったねぇパティ、真っ先に会いに来てくれたみたいでさ」
「からかわないでよ、お腹がすいてきただけなのよこいつってば」
こういうやりとりをみるのも思えば久しぶりだな。
「なぁパティ、お願いがあるんだが」
「なによ、急に真面目な顔して」
「パスタ追加してくれ、ミートソースのやつな」
むむ、パティがまたしてもあきれ顔だ。
「やっぱりボウヤだ、このふてぶてしさは間違いないね」
「ほんっとにあんたってば成長してないはね」
「なんにせよ、はやくアリサさんにはやく顔をみせてやりな、おそらくあの人が一番あんたのことを心配してたんだからさ」
リサが諭すよう穏やかな口調話しかけてくる。
「わかってるよ、飯食べ終わったらすぐにいくってば」
「”いく”じゃなくて”帰る”だろ」
「ああ、そうだったな」
その後パティが持ってきてくれたパスタを食べてると後ろから扉が開く大きな音と大きな叫び声が聞こえてきた。
「パティいる!あの人がエンフィールドに帰ってきてるみたいだよ!!」
店に入ってきたのは頭に大きなリボンをつけた少女だった。外はまだ雨が降っているらしく、衣服が随分と濡れている。パティとおなじく活発で元気そうだが、リボンと髪の長さのおかげで男と勘違いされることはなさそうだ。
「今さっき自警団の人から聞いたんだけど、正門のところであったんだって!!」
少女はいまだ興奮が冷めないようで随分と声のボリュームがたかい。
「どうしたのよ、トリーシャなにかあったの?」
パティの声を聞くと少女ートリーシャは少し落ち着いたようで
「ふふふっ、誰が帰ってきたと思う結構な有名人だよ」
焦らすようにトリーシャが答える。
「エンフィールド出身で有名人なんかいたんだ、しらなかった」
「有名人ってわけでもないけど、この町なら誰でも知ってる名物みたいな人かな」
「俺でも知ってる人?」
「うん、コウさんでも知ってるひとだよ、
ってコウさん!?」
「よぉ、相変わらず元気そうだな、トリーシャ」
で結局名物って誰のことだ?
「なんでコウさんがここにいるんだよ?」
「なんでって腹がへったからなんだが・・・」
おれが飯を食べる所なんかそんなにめずらしいのか。
「ねぇねぇ、いままでどこいってたの、なにしてたの?なんできゅうにいなくなちゃったの?なんで・・・・」
「あっ、わたしもいろいろ聞きたいことがあるわよ」
トリーシャのなぜなに攻撃にパティまで便乗してくる。
「そのうちちゃんと答えるから今日は勘弁してくれ、まだ帰ったばかりで疲れてるんだ」
「そうだよ今日の所は帰してやんな、さぁボウヤもはやくアリサさんのとこに顔をみせてきな」
ありがたいことにリサが助け船をだしてくれる。いい奴だ名おまえって。
次会う時に話を聞かせるという約束をさせられ、今日のところは見逃してもらった。
俺はさくら停を出て、ジョートショップに戻ることにした。皆に挨拶に回った方がいいとパティからせっつかれたがホントにまだ旅の疲れがとれていない。まぁ、そのうちでもいいだろう。
ジョートショップに戻るまで特に誰と会うこともなかった。雨もまだやんでないし、まぁ当然か。
そしていま俺はジョートショップの扉の前にいる。深呼吸を一度、二度やってその扉をあけた。
つづく
あとがきのようなもの
いかがだったでしょうか、はじめてssを書いたわけなんですが、すこしでも喜んでいただけたら幸いです。時間の無駄にしてしまった人ごめんなさい。
はっきりいって難しいですな、慣れてない以前にあまり自分に向いてないような気がするぐらいですから。とりあえず不定期的にでも続けていきたいんで、暇なとき覗いてみてください。感想などをメールをいただけるとうれしいです。ではではー