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かってに悠久幻想曲 第2話
こうろぎコタロー


 一人の青年が佇むんでいた。青年の名は”コウ・レイナード”。背は高すぎるというほどではないが、175から180の間くらいはあるだろう。中背・中肉のごく普通の見てくれである。黒髪黒目のどこにでもあるいでたちであった。ただその青年の顔には緊張の色が見て伺えた。
 青年はある小さな一軒家を見上げていた。時間にしてはそう長い時間ではないが、青年にはとても長く感じられた。
 そして青年は何かを決意したかのような顔をしてその家のドアノブに手をかけた。
 その家は”ジョートショップ”という店だった。


 かってに悠久幻想曲
 第2話 「再会」


 からんからん。
 部屋の中に小気味のいい音が響く。間もなくして奥から人の声がしてきた。
「ウイィース、いらっしゃいッス。」
 正確には”人の声”ではなかった。声の主は人ではなかった。
 奥から出てきたそれは身長が30cmほど、全身を毛に覆われどことなく犬を連想させる生き物だった。当然、喋る犬などこの世にはいない。いや、すくなくとも発見されてはいない。それは犬などではなく”魔法生物”と呼ばれるものだった。
 その魔法生物は青年の顔を見て二の句を告げることはなかった。
「元気そうだな、テディ。俺が居ない間なにかそそうはなかったか。」
 青年は笑顔で話しかけた。


「いままでどこ行ってたんすか!!」
「落ち付けって、悪かったよしばらく留守にして。」
 口調こそ険しいテディであったが、コウと会えたことを心から喜んでいるのはその顔を伺えばわかる。
「旅先で連絡をいれなかったから、心配かけちまったな。」
「旅先どころか出ていくときも黙ってたじゃないッスか。」
「黙って出ていった訳じゃない、ちゃんとアリサさん宛てに手紙を置いていったぞ。」
「どうして目の悪いご主人様相手に手紙何スか。」
 それを聞いてやっとコウは納得がいった。
「そっか、そうだったな、ひょっとして俺の置き手紙って読まずに間違って捨てられたのかな。」
 事実コウの手紙は誰にも読まれることなく焼却炉で燃やされたのである。今となっては知る由もないのだが。
「それでか、ウムウム。」
「なに一人で納得してるんス。で、結局今までどこでなにしてたんスか?ご主人様やお店のこと放っといて。」
「別にアリサさんのことを放っといていた訳じゃないぞ、アリサさんのために目のよくなる薬を今まで探してたんだから。」
「えっ、それで薬は見つかったんスか?」
 興奮しながら、テディはコウに顔を近づけてくる。そのテディをコウは手で制しながら答える。
「残念だけど見つからなかったたよ、悪いな期待させちまって・・・」
 本当に残念そうに頭を垂れるコウ。
「じゃ、この一年半は全くの無駄だったんスね。」
 それを聞き顔を上げた。
「まったくの無駄じゃないぞ!腰痛のすぐ治るくすりとか、筋肉痛の治りが早くなる薬とか」
「どれもご主人様には関係ないっスね。」
「・・・・・(こいつってこんなに性格悪かったっけ)」
「やっぱり、コウさんッスね。」
 そんな時再び奥から声が聞こえてきた。
「テディ、お客様がきてるの?」
 それは落ち着いき払った女性の声だった。


 奥から一人の女性が現れた。茶色がかった瞳と髪をしている。エプロンを付けており、どことなく似合っていた。大人の女性という落ち着いた感じがわかる。
 その女性の瞳がコウを捕らえた。少し驚いたようすだったがすぐに落ち着きを取り戻した。
「ただいま帰りました、アリサさん。」
「お帰りなさい、コウくん。」
 そう言ってアリサはコウを抱きしめた。
「・・・よく帰ってきてくれたわ、もうあまり心配させないでね。」
「いままで勝手なことをしてすいませんでした。」
「もういいのよ、こうしてまた帰ってきてくれたんだから。でも約束して黙って出ていくようなことをしないって。」
「はい、約束します。・・・それとこれからまたお世話になっていいでしょうか?」
「もちろんよ、ここはあなたの、いや、私たちの家なんだから。」
「ありがとうございます、またこれからお世話になります。」
「こちらこそ、よろしくねコウくん」
「・・・・それとそろそろ離してくれませんか。」
「だ-め、しばらくこうさせて。」
「・・・わかりました。」
 アリサほどの美人に抱きつかれれば普通男は悪い気はしないものだが、コウはただ恥ずかしかった。そんな中”こんなとこアルベルトには見せられないな”などと思っていた。


 しばらくしてアリサが三人分のお茶を持ってきた。アリサは疲れているようだから休むようにと勧めたが、コウが今までのことを話したいといい、これまでの旅のことを話し始めた。
「結局無駄骨でしたね、薬は見つからずなんですから。」
「そうッス、無駄骨ッス。」
「そんなことないわ、その気持ちだけで十分よ。」
「そうッス、十分ッス。」
「相変わらず主体性がないのか、お前は。」
「ないッス。」 
 なんだか昔にもこんな事があったような気がしたが、コウはそのことがうれしかった。ひどく懐かしく、ひどく恋いこがれたものがもどってきた。そんな気がした。
 

 そんな思いを壊すかのように派手な音を立てドアが開いた。からんからん、などといういつもの音ではなかった。
「おい,コウ!いるなら出て来やがれ!」
「やかましい、どうせなら静かに入ってこい!!」
 怒鳴って入ってきた侵入者に対しコウも怒鳴り返した。その様子を見てテディは早々と別の部屋に避難してしまった。
 店に入って来たのは、身長2mはあるかという大柄な男だった。がっしりした体を鎧で身を包み、手には槍を携えていた。額にバンダナを巻き髪は怒髪天のように天に向かって反り返っていた。 
 大男はコウを見つけるなり、指を指し、また声を荒げた。
「ホントに帰って来やがったのか、ケッ、テメェなんざ一生帰ってこなくてよかったのによ。」
「ならわざわざ会いに来るなよ。ははぁーさては俺に会えなくて寂しかったか、アル。」
「そんなわけあるか!それと”アル”って言うな!!」
 この大男の名はアルベルト。自称コウの”永遠のライバル”なのらしい。
「まぁ、アルベルトさん。コウくんに会いに来てくれたんですか。」
「ア、ア、ア、ア、アリサさん、ええ、じつはそうなんです。ご機嫌麗しゅう、今日はお日柄もよく。」
「あら、今は雨が降ってますわよ。そうだ、タオルを持ってきますわね、ごめんなさい気が利かなくて。」
「い、いえにお気になさ、なさらず。」
 アリサは奥の部屋にタオルを取りに行った。そうアルベルトはずぶ濡れで店に入ってきたいたのだ。
「アリサさんの前で極度にあがるのは直ってないか、変わらん奴め。」
「ほっとけ!!」
「しかし、随分情報がはやいな、先刻帰ってきたばかりだってのに。」
「クラウスからお前に会ったって聞いたんだよ。」
「それよりなにしに来たんだ、本当に俺の顔を拝みに来た訳じゃあるまい。」
「あたりまえだ、俺は一年、正確には一年半前の決着に来たのだ。」
「まだそんなこと言ってのか、暇な奴め。」
「黙れ、決闘の申し込みの無視して行方を眩ませやがって。」
「決闘の申し込み?ああ、そういえばそんなこともあったような、いや本当にあったけ?すまんよく憶えてない。」
「てめぇ憶えてないだ!上等だ、今すぐ表にでろ、決着を着けてやる!」
「アルベルトさんどうしたんですか、声を荒げて。」
 その時アリサがタオルを持って戻ってきた。
「ア、アリサさん、いや別に彼と今度どこかに遊びにいこーかなぁー、なんて」
「そうでしたの、よかったわねコウくん。」
「ええまったくです。」
 話を合わすコウに対し驚き、そして睨みをきかせるアルベルト。もちろん、アリサには気づかれないようにしているのは彼たる所以か。
「そうだな、どこに”遊び”に行こうかアル」
 アルベルトにこれでもかという程の笑みを向け尋ねる。アルベルトもそれに笑顔で対応する。但しアルベルトの方は火山噴火直前といった感じである。
「あ、ああ、どこにしようか」
「どうしたアル、笑顔がかたいぞ。」
 その様子を見ながらアリサは、二人とも仲がいいのね、といいアルベルトにタオルを渡し、また奥に戻っていった。友人二人の再会を邪魔したくないという配慮からであろう。実際の所二人は犬猿の中なのだがアリサはこれを疑うことなどなかった。
「コウ!てめぇってやつは」
 アリサの姿が見えなくなると、途端にアルベルトは息を吹き返したかのようにコウにくってかかる。
「いいのかそんなこと言って、今からアリサさんに”実はアルベルトは喧嘩を売りにきたんです”って言っても俺は全然困らないんだぞ。」
 アルベルトの頬を手のひらで軽くパシパシ叩きながらいう。
 これに対しアルベルト火山はついに大噴火を起こした。
「もう我慢ならん!自警団侮辱罪でしょっ引いてやる!!」
「お、落ち付けって、悪かったって、からかい過ぎたよ。」
 さすがにコウも帰ったそうそう逮捕されるわけにはいかない。自警団侮辱罪というのが本当にあるかどうかは知らないが。
「そもそも俺はお前と決闘しにきたんだ!」
「ああ、そいえばそんなこと言ってたな、この雨の中ご苦労様。」
「いいか落ち着いていられるのもいまのうちだ、お前が行方を眩ませている間にどれだけ強くなったかは知らないがそれでも俺様には敵わないということを教えてやる。」
「いっとくが武者修行に行ってたわけじゃないんだぞ。」
 コウの言うことに対してお構いなしにアルベルトは一気にまくしたてる。さんざんからかわれた反動だろう。
「一週間後、グランドコロシアムで決闘だ。今度すっぽかしたら逮捕してやるからな。」
 それだけをいうと返事も聞かずに席を立ち、コウを指さし、忘れんじゃねぇーぞと言い捨て、店から出ていってしまった。
 結局一人残されたコウは呆然としていた。

「どうするンスか、コウさん。」
「・・・テディいつからから聞いてた?」
 いつの間にかテディがコウのすぐ後ろにいた。アルベルトが居なくなったのを見計らって出てきたようだ。
「だいたい全部聞いてたッスよ。」
「じゃ、どうするかなんて聞かなくてもいいだろ。あいつに付き合わないと後が怖そうだ。」
「アルベルトさん、コウさんがいない間に随分強くなったス、侮れないッス。」
 テディがアルベルトの槍さばきがどうとか、腕力がどうとか、あれこれ言いはじめた。
「まぁ、なんとかなるさ。」
「そんな楽観論じゃ勝てないッス。これから特訓するッス。」
「そんな、今から特訓なんてしてもどうこうなるもんでもないだろ。」
 コウとテディが討論してると、再びアリサが部屋に入ってきた。
「アルベルトさんはお帰りになったの?」
「ええ、仕事が残ってるって言って。」
「あら、そう。」
 そう言ってアリサはテーブルに今し方入れてきたコーヒーを置いた。コウは”いただきます”と言ってカップに手を伸ばす。
「帰ってきたばかりだらまだ疲れてるでしょう、今日は早く体を休めたら。仕事のこともしばらくはいいから。」
「助かります、それじゃ今日はもう休ませてもらいますね。」
「ええ、あっそうそう、あなたの部屋はそのままにしているから。」
「感謝するッスよ。」
 テディが胸を反らして言ってくる。
「わかってるってテディ、感謝してるよ。」
 そう言って席を立ち部屋を出ようとしたがドアの所で振り返った。
「アリサさん、テディ、改めてこれからもよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
「もちろんッス。」
 言葉を交わした後コウは自分の部屋に戻っていった。
 こうして平穏無事に一日は過ぎていった。





まだつづくかも





                                                           

あとがき

 なんとか第2話をお届けできたようです。いかがだったでしょうか。はじめに主人公の設定をいれてみました。ほんとは第1話で固めておかなきゃいけない設定なんでしょうがいまさらになってしまいました。ちなみに私は主人公最高主義ではないので滅茶苦茶強いということにはならないと思います。あくまでいまの段階ですので感化されたりすると、主人公が突然強くなったりするかもしれません。あまりへタレでもつまらないので、弱すぎるということはありませんが。
 次回ではアルベルトとのバトルになりそうですが細かいことはまだ決めてないので少し時間がかかるかもしれません。気長に待ってて下さい。ではこのへんで・・・
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