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第二話 目覚め、そして・・・
ティクス


悠久幻想曲 ティクス

第二話 目覚め、そして・・・




「こんにちは、パティちゃん」
あれから二日。男は一向に目を覚ます気配も無く、昏々と眠り続けていた。
「あら?シーラも来たの?」
「ええ、やっぱり心配で……、パティちゃんも?」
「うん、まぁ…そんなトコ。他にもトリーシャとクリスと…アレフが来てるわ」
「アレフ君が?」
驚いたように聞き返すシーラ。まぁアレフの事を知っている人間にしてみれば当然の反応であろう。
「ええ、男手が必要だったからさくら亭のツケを盾にして引っ張って来たの。クリスも一緒に」
クリスにしてみれば迷惑この上ない話である。
「ふふ…おばさまは?」
「ああ、アリサおばさまならちょっと用事があるって出掛けてったわ」
「そうなの…」
「私は今、お粥を作っている途中だけど…顔でも観てきたら?相変わらず気持ち良さげに寝てるわ」
「うん。それじゃ…」
ドタドタドタ…
その時、二階からけたたましい足音が聞こえて来たと思ったらクリスが勢い良く転げ落ちて来た。
「アイタタタ………」
慌てて駆け寄るパティとシーラ。
「ちょっと!大丈夫!?」
「クリス君、怪我は無い?」
いきなり近づいてきた二人から慌てて離れるとクリスはやっとの思いでそれを告げた。
「あの人が目を覚ましたんだ!」





「んっ、ん〜〜……」
「いきなり動いちゃだめだよ、二日間も眠ってたんだよ?」
クリスに連れられた二人が見たのは、起き上がろうとする男とそれを押さえているトリーシャの姿だった。
「あんたたちが助けてくれたのか…?」
下から上がってきた三人を見付けた男がベッドに沈み込んだまま誰に尋ねることなく聞いた。
「そうよ、他にも何人かいるけどね」
「そうか………礼を言う……」
「別に気にしなくてもいいわよ。私はパティ、パティ・ソールよ。こっちの娘はシーラ。
 さっきまであんたを押さえてたのがトリーシャ。んで、これがクリスよ」
簡単に自己紹介を済ますパティ。しかし男は話を聞いていなかったかの如く、呆けた顔でパティ、シーラ、トリーシャの顔を
見つめていた。
「……なに?私達の顔に何か付いてる?」
「あっ、いや…っすまないボーっとしてた」
多少慌てた感じで取り繕う男
「えっと、自己紹介だったよな?……俺は………レニス…レニス・エルフェイムだ。よろしくな」
男―――レニスはほんの少し迷った後、自らの名を名乗り、そしておそるおそるといった感じで訊ねた。
「ここは……どこだ?」
「ここはエンフィールドの町で、この家はジョートショップっていう何でも屋さんだよ」
ティクスの問いに答えるトリーシャ。
「今、家の人は留守にしてるけどもうすぐ帰って来ると思うわ」
パティが続ける。するとその時、下からカウベルの音とテディの大きな声が聞こえて来た。
「あっ、帰ってきたみたいね。ちょっと待ってて、すぐ呼んで来るから」
そう言うとパティはとっとと下に下りていってしまった。
ティクスは黙ってそれを見送り、そして目を閉じた。その顔は考え事をする様にも苦しんでいる様にも見えた。
「あの…大丈夫ですか?」
レニスの様子を見かねたシーラが訊ねる。
「ああ…何でもない……」
自分でも下手な言い訳だと思いつつ、レニスは考え込んでいた。
(エンフィールド…偶然とはいえ帰ってきた……それに…ジョートショップ?
 あいつが俺に言った言葉をそのまま信じるなら、ここには……)
「もう、起きても大丈夫なの?」
その言葉で思考をやめ、レニスは顔をあげた。
すると、そこには落ち着いた雰囲気の女性が立っており、心配そうにこちらを見ていた。すぐそばには犬のような生き物も居る。
「なんだか苦しそうだけど、どこか具合でも悪いの?」
「…いえ、大丈夫です。あなたは?」
その言葉に女性は安心した様に一息つくと再び口を開いた。
「あっ、ごめんなさい自己紹介がまだだったわよね?私はアリサ・アスティア。このジョートショップの主人です」
「ウィッス!ボクはテディッス」
「レニスさんを最初に見つけたのもアリサさんとテディなんだよ?」
トリーシャが付け加える。
「そうか…ありがとうございます」
その時、アリサが疑問の声を上げた。
「レニス……?」
「うん。この人レニス・エルフェイムっていう名前なんだって」
「どうかしたんですか?おばさま?」
「ううん、なんでもないわシーラちゃん。ただの勘違いだから」
問い掛けるシーラに答えるアリサ。レニスはしばらく黙っていたが、おもむろに口を開いた。
「…じゃあ命の恩人って事か……ん?」
ふと、アリサの左の薬指の指輪が目に付いた。
「…ご結婚なさってるんですか?だったらご主人にもお礼が言いたいんですが……」
レニスがそう言うと、場の空気が一瞬にして凍りついた。
「……ん?」
「この馬鹿!」
何時の間にかやって来たパティがレニスを怒鳴りつける。
「いいのよ、パティちゃん」
「でも…」
訳がわからないレニスは近くに居たトリーシャに小声で訪ねた。
「もしかして…不味い事聞いたのか?俺?」
「うん…アリサさんの旦那さん…かなり前に亡くなってるんだよ…」
「なっ!!?」
その答えを聞いたレニスは驚きの声を上げ、そして悔しさや後悔など、様々な感情の入り混じった表情を浮かべる。
「知らなかったとはいえ…申し訳ありません、アリサさん……」
「いいのよ、気にしていないから…」
「ふむ…しかし、恩を受けたまま出て行くわけにもいかないな……」
もっとも、エンフィールドから去るつもりはさらさら無いが。
「そうだ。ここって何でも屋ですよね?だったら仕事を手伝わせて下さい」
「そんな、気にしなくてもいいのよ?」
「そう言う訳にはいきません。ここまでお世話になったんです、少しぐらい恩返しをさせて下さい」
遠慮するアリサに頼み込むレニス。そして、結局折れたのはアリサの方だった。
「それじゃ…お願いしようかしら?」
「ありがとうございます」
アリサの言葉にホッとしたように息をつく。
「それじゃ泊まる所をなんとかしないとな…暫くは宿にでも泊まるか……」
「さくら亭が良いんじゃないかな?」
「部屋なら空いてるわよ。あっ、家、宿屋兼食堂なの」
考え込んだレニスに声をかけるクリスとパティ。と、そこへ―――
「ならもう少し大きな部屋に移った方がいいかしら?」
『……………は?』
横から聞こえて来たアリサの声に間の抜けた声を返す一同。
「あの………部屋って…?」
「あら、わざわざ宿を取る必要なんて無いわ。家に泊まればいいんだから」
いきなりそんな事をいいだすアリサ。
「そんな!只でさえご迷惑をおかけしているというのにこれ以上は…それに余計な食い扶持が…」
「そんな事は気にしなくていいの。それにここで働くのならここに住んだ方が便利でしょう?」
二人は暫くの間見詰め合っていた。が、今回折れたのはレニスの方だった。
「…………宜しくお願いします」
敗因は、ここの居心地の良さと懐の寂しさだった。
「そういえば、もうお昼過ぎなのよね…レニスクンお粥食べる?パティちゃんが作ってくれたの」
「いただきます」
ここで断る理由は無い。実際腹も空いている。
「それじゃ、ちょっと待っててね、すぐ持って来るから」
そう言うとアリサはテディを伴って一階へと降りていった。
それを見送った後、パティがふと何かに気付いた様に顔を上げた。
「そういえば……アレフは何処?さっきから姿が見えないけれど…?」
「アレフ…?」
「あんたを助けた一人で町一番の女の敵よ、手伝わせるために引っ張ってきたんだけど…」
「後ろでコソコソしてるのがそうか?」
その言葉に振り向くパティ。その視線の先にはレニスの一言によって凍りついたアレフの姿があった。
「………………何処へ行くの?アレフ?」
「や、やだなぁパティ、そんな怖い顔して……か、可愛い顔が、台無しだぜ?」
「……………」
アレフの言葉を無視し、そのまま歩み寄るパティ。
「パ、パティちゃん?」
「落ち着いて、パティさん!」
「うっ…、パティさん怖すぎ…」
レニスは、今から始まるであろう惨事からは目を背ける事に決め、開け放たれた窓から空を見上げた。少々風が強い様だ。
「本日は晴天なり…」
後ろからは時折、なにかが潰れる音や折れる音、そして人の悲鳴の様な物が聞こえて来るが取り敢えずは無視。
「相変わらず平和な町だ……」
レニスの呟きは風の音と何者かの悲鳴によって掻き消され、誰の耳にも届かなかった……
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