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第四話 終わりの始まり
ティクス


悠久幻想曲 ティクス

第四話 終わりの始まり




レニスがジョートショップに住み着いてから数ヶ月。
知り合いや仲の良い友人も出来た頃――――――


レニスは牢屋にいた。
「はぁ……また面倒な事に…」
どこからともなくボールを三つ取り出しお手玉を始める。
「ま、判決が下るまでは大人しくしとこうか」
いつの間にかボールが六つに増えている。
「なにをやっているんだ…?」
「見て分からんのか。古来より東方の国に伝わる『お手玉』という遊びだ」
「いや、そういう事じゃなくて…」
話し掛けてきた見張りに適当な返事をしながら、レニスは昨日の出来事を思い出していた。



「大丈夫ですかアリサさん!!」
「ええ…私は大丈夫…大丈夫なんだけど…」
「来たな…出口を固めろ」
テディから『ジョートショップに自警団が乗り込んできた』と聞いたレニスが戻って最初に見たのは、
不安そうな顔をしたアリサと、嬉々として部下に指示を出すアルベルトの姿だった。
「何の真似だアルベルト」
「犯罪者が偉そうにほざくんじゃねぇ!!」
「…どういう意味だ?」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ。もう証拠は挙がってるんだよ!」
全く話が見えてこない。仕方がないので唯一の情報源であろうアリサに聞く事にした。
「一体どういう意味なんですか?アリサさん」
「実は…今朝フェニクス美術館で盗難事件があって……その…この人達、あなたが犯人なんじゃないかって…」
「ええっ!?レニスさん泥棒したっスか!?」
「するかよ………」
テディの一言により、どっと疲労感の増したレニスは挫けそうになりながらも反論した。
「信じるわけ無いと思うが俺はそんな事やっちゃいない」
「ふんっ、誰でも最初はそういうんだよ」
「あ、やっぱり……じゃどうするかな…こいつが俺と会話するわけないし」
「ゴチャゴチャうるさい!おい、とっとと連行するぞ」
考え込むレニスに無情な命令を下すアルベルト
「待って下さいアルベルトさん!彼はそんな…………」
「ああ、別にいいですよアリサさん」
「レニスクン!?」
「こいつじゃ話にならない、事務所に行けばリカルドもいるだろうし。
 それに俺は元々何もしちゃいない。すぐに釈放されますよ」
もっとも、そんなことは微塵も考えてはいないが。
「はっ!どうだかなぁ……」
「アルベルトさん?」
「えっ!?あっ、いや、な、何でもありませんアリサさん」
「お前アリサさんの前だと態度変わるな…」
「う、うるさい!とっとと行くぞ!!」
こうして、レニスは自警団事務所へ連行された。


「やっぱり此処か」
レニスが連れて来られたのは地下牢だった。
「ふん、犯罪者は牢に入れるモンだろうが」
「だからやってないって」
「貴様、此処まで来てまだ白を切ろうってのか!?」
「やかましいぞイノシシ、難聴になる」
「なんだとこの……!」
えんえんと続いていた口喧嘩(アルベルトの一方通行だが)を、一人の壮年の男が止める。
「やめんか、アル!」
「た、隊長……」
アルベルトの相手で疲れたのか、待ちくたびれた声を上げるレニス。
「やっと来たのかリカルド……で?なんで俺が逮捕って事になったんだ?」
「貴様、隊長に向かって…!」
「アル、黙っていろ」
リカルドの言葉で沈黙するアルベルト。が、怒気のこもった眼でレニスを睨むのを忘れない。
「昨夜、フェニックス美術館に何者かが侵入し、展示品十数点を盗み出した。知っているな?」
「さっきアリサさんから聴いた」
「通報を受けた我々は直ちに現場へ急行、周辺の聞き込みをした所『レニス・エルフェイムを見た』という証言
 を得た。この証言を元にジョートショップへ急行、アリサさんの立会いの元、君の部屋を家宅捜索した所…」
「盗まれた美術品が出てきた…?」
「その通りだ」
「どうだ!これでもまだ白を切るつもりか!?」
「当たり前だ。やってない事をやりましたなんて言えるか」
その言葉にアルベルトは文句を言いかけたが、リカルドが話し出したのでしぶしぶ引き下がった。
「とにかく、これだけの証拠がある人物を放って置く訳にもいかない、と言う訳で君の逮捕に踏み切ったということだ」
「……聞きたい事がある。俺がこのまま犯人になった場合どんな処罰が下る?」
「うむ、なにしろ他国から貸し出された、しかも貴重な美術品を多数盗み出したという大規模なものだ。
 今後、同種の犯行を防ぐ為にもかなりの重罪が科せられることになる」
「つまり?」
「悪くて終身刑、良くて追放だろうな」
「ふーん」
レニスの返事は軽い。
「てめぇ…今の自分の状況が解っているのか!?」
アルベルトが怒鳴るが、大した効果は無い。
「そんじゃ、寝る」
「おい!まだ尋問が終わってねぇぞ!!」
寝る体勢に入ったティクスに再び怒鳴りつけるアルベルト。
「お前等が聴きたがっている進入方法や動機なんかは俺が犯行を否認している以上聞いても無駄だ。
 そんで、俺が聴きたかったことは全て聴いた。と、言う訳で尋問終わり。後は寝るだけしかできない」
「ふむ、確かにそうかもしれんが…こちらも立場上尋問をしない、という訳にもいかないのだよ」
「知るか。じゃ、御休み」
と言って本当に眠り始めるレニス。
「こらぁ!!寝るんじゃない!!起きろ!!」
アルベルトの怒鳴り声を聞きながら、レニスは深い眠りについていった………




「で、眼が覚めても何にもする事が無いからお手玉なんてやってんだよね」
「意味不明の独り言はやめろレニス」
いつの間にかやって来た如月が突っ込む。見張りは居なくなっていた。
ちなみに、今レニスは片手で五つづつ、合計十個のボールを操っている。
「なんだ、面会に来てくれたのか如月」
「少しはへこんでるかと思ったら……全然元気だな」
「ああ、お前もやるか?」
「俺はジャグリングはできない」
「ジャグリングじゃない。お手玉だ」
「そこまでいったらもうお手玉とはいわないよ」
今は片手で八つづつ、合計十六個のボールが宙を舞っている。
「ところで、そのボールどっから取り出したんだ?」
「内緒」
「……まぁいいや、それよりコレ持って来たぞ」
そう言って小さな鈴を差し出す。
「いいのか?」
「鈴の一個や二個大丈夫だろ。多分」
ボールを収め(何所にかは不明)鈴を受け取るレニス。
「助かる、俺が持ってないと機嫌を損ねる奴がいるからな」
「好かれてる証拠だよ。じゃ、俺仕事があるから」
「鍵は開けてってくれないのか?」
「さすがにそこまでは…ね」
如月は苦笑し、軽く手を振りながら去っていった。
「……ま、話し相手に不自由する事は無くなったな」
しばらく経った後、地下に小さな鈴の音が響き渡った―――


「あまり勝手な事はしない方がいい」
自警団事務所の廊下で、如月を待っていたであろう少年が話し掛けてきた。
右目を隠すように、バンダナを巻いている。
「お前……いつ出て来たんだ?」
「今回の事件をきっかけに表に出る事になった。おそらく今回の事件、長くなる」
「お前が出てくるって事は…隊長、本気だな」
肩を並べて歩き出す。
「早速調べたい事がある。手を貸してくれ」
「速いな。まぁいいけど」
「詳しい事は事務所で話す」
少年はそう言ってさっさと行ってしまう。
「…相変わらず無愛想な奴だ」
後に続きながら、如月は軽い苦笑を浮かべた。



「おい、釈放だ」
「……速いな」
次の日、アルベルトが告げた言葉はレニスにとって予想外の物だった。
「もう判決が出たのか?あと一週間ぐらいかかると思ったが」
「ぐだぐだ言わずにとっとと出ろ!……ったく、アリサさんも何でこんな奴に…」
アルベルトの言葉にレニスの目が鋭い物に変わる
「どういう意味だアルベルト。アリサさんが何だ?」
「アリサさんがお前の保釈金を払ったんだよ」
「なんだと?ジョートショップにそんな金は無いぞ!」
「俺が知るか。とにかくお前は釈放なんだ、さっさと行け!」
結局、アルベルトからは大した事は聞き出せずに自警団事務所を後にした。

「大丈夫だったレニスクン!?何か酷い事されなかった?」
「あの程度で根を上げるようなヤワな身体じゃありません。それよりもアリサさん、
 俺の保釈金を払ってくれたそうですが一体どこにそんなお金があったんですか?」
心配そうに駆け寄ってきたアリサにレニスは逆に聴き返した。
「それは………」
表情を曇らせ口篭るアリサ。逆にテディが能天気な声を上げる。
「ご主人様はジョートショップの土地を担保にしてお金を借りたっス」
テディの一言はレニスの理性を一瞬にして吹き飛ばす程の効果があった。
「なっ…!?何考えてんだアリサ!!お前正気か!?」
本人は気付いていない様だが、アリサを相手にタメ口である。
「だっ、大丈夫よレニスクン」
レニスの剣幕に驚きながらもアリサは続けた。
「この町には再審請求という法律があるの」
そう言って説明を始めようとする、が…
「知ってます。一年後に住民の大多数の支持を集めれば再審うんぬんって奴ですよね?」
「ええ、そうだけど…」
「なんでそんな事知ってるっスか?」
レニスの意外な一言に驚く二人。
「テディ…俺が法律書を読破したのを忘れたのか?」
「そういえばそうっス」
テディは忘れていたが、レニスはジョートショップで働き始めた翌日『暇つぶし』と称して法律書を読んでいたのだ。
しかも、読破した時間はたったの二週間。ジョートショップの仕事をやりながらなので大した時間は無かった筈なのに、である。
恐るべきハイペースで、その上大体とはいえ内容も記憶している。
「そういうことだ、で、アリサさんが何を考えてるのかは大体分かりました。けど…」
と、一旦言葉を切る。
「もし、支持を集められたとしても再審で無罪を勝ち取るっていうのは無理だと思います」
「どうしてっスか?」
「俺は捜査やらなんやらは素人だ。一応その道のプロである自警団がそろえた証拠を覆すような証拠を見つけるのは、ほぼ不可能に近い。
 うまくいったとしても『自警団の集めた証拠では俺を犯人にするには不十分』っていうのを示せるぐらいだろうな」
そう言うと、レニスはアリサの方を向き笑顔で言った。
「ま、とりあえずは町の人の信頼を集めると同時に保釈金…確か十万ぐらいだったかな?を貯めることを考えて仕事に励む事にします。
 もっとも、俺一人で出来る事は限られますからね、協力してくれる人を探して来ます」
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