中央改札 交響曲 感想 説明

第五話 仲間と精霊と…
ティクス


悠久幻想曲 ティクス

第五話 仲間と精霊と…




「よう、レニス。もう釈放されたのか?」
「ああ、一応な」
自警団事務所からさくら通りにでたレニスに声を掛けたアレフは、レニスの奇妙な返事に眉をひそめた。
「一応…って?」
「ま、お前にも協力を頼むつもりだったからな。実は……」
そう言って、歩きながら説明を始めるレニス。自分がフェニックス美術館盗難事件の犯人にされてしまった事、アリサがジョートショップの土地を担保にして自分の保釈金を払った事、そして、一年後の再審で自分が無罪を勝ち取らなければアリサがジョートショップを失ってしまう事―――
「おい、それって―――」
「ああ、このままだと俺は終身刑か追放、アリサさんは住む家を失う。まぁ、俺の方はどうでもいい、どっちにしろここを出て行くつもり は毛頭無いからな。」
「毛頭無いって…お前な……」
親友の発言に呆れ果てるアレフ。だが、次のレニスの言葉でその顔を真剣な物に変える。
「だがアリサさんの方はそうはいかない。あの人があの家を失うなんて事はあってはならないんだ」
「そうだな、分かった俺も協力しよう」
「助かる、アレフ」
「なぁに、このままじゃあの美しいアリサさんが路頭に迷う事になるからな、この俺がそんな事見過ごす訳がないだろう」
「ああ、それでいい。これで俺の為とか言われたら向こう一週間嵐になる」
そう言ってお互いニヤリと笑う。まぁ、何だかんだでこの二人、結構気が合うようだ。
「じゃあ俺はさくら亭に行く。他にも協力して欲しい奴はいるからな。お前はどうする?」
「それじゃ俺は他の心当たりを当たって来る。人数は多いほうがいいからな」
と、頼もしい事を言ってくれるアレフ。
「なら集合場所はジョートショップ。一旦全員集めるつもりだから」
「わかった、じゃあな!」
そう言ってアレフは駆け出していった。
…………………………………………
「……はぁ…人生って何が起こるか分からないと言うけれど…」
そして再び大きな溜め息をつく。
「まさか『あの子達』に協力を頼む事になるとはな…」
レニスは軽く苦笑してさくら亭への道を歩き出した。



カランカラン―――――
「いらっしゃい!…って…レニス!?あんた、もう釈放されたの!?」
「へぇ…結構速かったじゃないか」
「よかった…無実が証明されたんですね!」
パティに続きリサ、シェリルも話し掛けてくる。
「いや…喜んでくれるのは嬉しいんだけど、『一応』釈放されただけ」
そう言って店内を見渡す。もう昼のピークを過ぎているので店内には見知った顔しかいない。
「一応…って…どういう意味よ」
「ん…ちょっと待って…え〜と、パティ、リサ、シェリルにシーラ、エル、トリーシャ、ピート…うん、丁度いい。
 悪いけど、皆集まってくれないか?話があるんだ」
と、呼びかけるが……レニスの言葉が終わる前に皆集まっていたりする。
「速いね皆…」
「だって…レニス君の事、心配だし…」
びっくりした声を上げるレニスに、皆の気持ちを代弁するかの様に答えるシーラ。
「いや、すまない…ありがとうシーラ」
「え、えっと…そんな…」
微笑みながらレニスが答えると、シーラは真っ赤になって俯いてしまった。
(あれ…?最近は俺とは平気で話せるようになったんだけどな…ま、いいか)
「ちょっと!いいかげんに説明しなさいよ!」
とのパティの言葉で思考を中断したレニスは、先程アレフにした説明を皆に話しだした。
―――――――――――
「とまぁ、そういうわけで…このままだとアリサさんがジョートショップを追い出されてしまうんだ」
レニスは説明を終え、パティにいれてもらった紅茶をすすった。
「…そんな…レニスさんは何もしてないのに…こんなにいい人なのに…」
泣きそうになっているシェリルの言葉にとまどうレニス。
(いい人ねぇ……どっちかって言うと偽善者なんだけどな俺は…)
気を取り直し言葉を続ける。
「ま…まあ、とにかく…みんなにジョートショップの仕事の手伝いを頼みたいんだ」
「仕事の手伝い?まぁ、いいけど…犯人探しの方はいいのかい?」
てっきり犯人探しの協力を頼まれると思っていたリサが訊ねる。
「ああ、そっちの方は大丈夫。頼もしいお兄さんが頑張ってくれるから、な、如月」
そう言って戸口の方を向く。他の皆も釣られるようにそちらを見る。
「なぁ、レニス…人の台詞を横取りするのはやめてくれないか?」
そこには、いつの間にか戸口にもたれかかる様に立っている如月の姿があった。
「如月さん!!」
「…どう言う事だ?自警団員だろ、お前」
「俺は自警団員である前に一人の人間だからな…って言いたい所だけど、実は隊長命令」
疑問を投げかけるエルに苦笑しながら返す如月。
まぁ、友人とはいえ自警団員である如月が協力してくれるとは思わなかったのだろう。
「隊長命令?」
「長くなるから後でな。それよりもリサ以外はレニスに協力してやらないのか?」
その一言で、まだリサ以外誰も返事をしていない事に気付く。
「私も手伝います!!何でも言って下さい!!」
「私は別に構わないわよ、おばさまの為って言えば、父さん達も納得するだろうし」
「俺もいいぜ!おばちゃんの為だし、それになんだか面白そうだからな」
「協力してやってもいいんだけどね………」
シェリル、パティ、ピートからはいい返事が返ってきたが、エルの返事はハッキリしない物だった。
「ダメか?エル」
「ダメって訳じゃないけど…うちの店の事が心配でね……」
エルが住み込みで働いているマーシャル武器店の店主・マーシャルは自分の趣味で武器や防具を仕入れて来るのだが…その大半がガラクタだったりする。その上、店の整理などもエルが来るまでは全くしておらず、ガラクタ置き場以外に言いようの無い様相を呈していたのだ。
もっとも、ガラクタに混ざって、名剣として名高い物があったりして、侮れない部分もあるが。
「別に二十四時間こっちで働いてくれって訳じゃない。時間が空いた時に手伝ってくれればいいんだ」
「そうだよエル、ボクも手伝うからさ」
しばらく迷っていたエルだったが、トリーシャの一言で決心したようだ。
「…わかった、あたしも手伝うよ」
「やったーー!ありがとうエル!!」
まるで自分の事の様に喜ぶトリーシャだったが、レニスの言葉によりその動きを止める。
「ありがとうエル…で、やる気を見せてくれているトリーシャには悪いけどトリーシャはこっち、手伝わなくていい」
「…………え?」
「どういうことだ?レニス」
周囲の面々は『何故?』といった視線を投げかけ、静かな怒りを身に纏ったエルが詰め寄るように質問してくる。
それらを全て受け流し、レニスは後ろを指差しこう言った。
「トリーシャはこの『頼もしいお兄さん』を手伝ってくれ」
「…俺?」
レニスが指差した方向には、さっきから黙っていた如月が目を丸くして立っていた。
「如月さんの手伝い…?」
「おい、レニス…正気か?」
今度はエルに変わって如月が詰め寄ってくる。
「トリーシャの情報収集能力は知ってるだろう?」
「だからって…危険すぎる!」
その一言で再びレニスに視線が集中する。
「別に何か特別な事をやらせようってんじゃない。いつも通りの行動をして欲しいだけさ」
訳がわからず首をかしげる一同。
「…何を考えている?」
「トリーシャの特技である情報収集(噂集め)をして欲しいだけ。もしくはその逆で噂をばらまくとか」
レニスの言いたい事がなんとなく解ってくる。
「……言いたい事は解った。けど危険な事に変わりはない」
最後の抵抗を試みる如月。だが…
「その時はお前がトリーシャを守ればいい」
あっさりと返される。
「四六時中一緒にいられる訳じゃない!」
「お前なら守り抜けるはずだ。『如月・ゼロフィールド』」
その瞬間、場の空気が変わった。
「…そういう手を使うか…『レニス・エルフェイム』」
「この一件に関して、手加減するつもりは無い」
如月は暫く黙っていたが、再び静かに口を開いた。
「……解った。全力を尽くす」
そのとたん、空気が軽くなる。シーラやシェリルなどは大きく息を吐いたりしている。
「そういう事で、いいかなトリーシャ?」
「えっ!?う、うん」
いきなり言葉を振られたトリーシャは慌てながらも承諾する。
「つまり、手に入れた最新の情報をいの一番に如月さんに伝えればいいんだよね」
「ああ、如月がどうしても見つからなかったら俺に伝えてくれてもいい」
頷きながら付け足しの説明をする。
「了解、それじゃあ…よろしくね如月さん、しっかりボクの事守ってよ」
「ああ、ちゃんと守ってみせる、信頼してくれ」
トリーシャの言葉にしっかりと頷く如月。
「如月、一つ言っておく」
「なんだ?」
何だか解らずに首をかしげる。
「イチャつくのは二人っきりの時にしてくれ」
「お前が言うなぁーーーーーーー!!」
「な、なんて事言うんだよぉ、レニスさ〜ん」
慌てる二人の姿に周囲からも笑い声が上がる。と、急に何かを思い出したらしく、レニスの顔つきが変わる。
「っと、ゴメン、シーラの返事を聞くのを忘れてた」
そう言ってシーラの方を向く。自然と視線が集中する。
「改めてお願いする。シーラ、ジョートショップを、アリサさんを助ける為に協力してくれ」
「…うん。アリサおばさまにはとてもお世話になってるし…レニス君にも色々助けてもらってるから…少しでも力になれるのなら」
「ありがとう、シーラ」
そう言って再び微笑むレニス。が、シーラはまた赤くなって俯いてしまった。
「レニス」
如月が割り込んでくる。
「なんだ?」
「さっきの台詞、そっくりそのままお返しする」
ガクッ
「そうだね、イチャつくんだったら二人っきりの時にしな」
リサが笑いながらそんなことを言ってくる。シーラの顔はすでにトマトよりも赤くなっていた。
「疲れることを言うなよ…」
「さっきのお返しってことで」
レニスはとことん疲れた顔をしていたが、気を取り直して再び口を開いた。
「とりあえず…皆一旦ジョートショップ迄来てくれないか?アリサさんが協力してくれる人にお礼が言いたいって言っていたし、
 それにアレフが他にも連れて来るみたいだから」
「アレフが?」
「ああ、まぁ…誰を連れて来るのかは大体解ってるんだけどね」
そう言うとレニスは立ち上がり、皆を連れてジョートショップへと向かった。





「よぉ、レニス遅かったな」
「スマン、ちょっと話が長くなってな」
ジョートショップに着いたレニス達を出迎えたのはアレフと、そしてレニスの予想通りクリス、メロディ、マリアの三人だった。
「やはりと言うかなんと言うか…結局いつものメンバーなんだよな」
「まぁ、そういう事になるかな」
アレフも予想していたのだろう。大して驚きもせずレニスの連れてきた面々を眺める。
「アリサさんは?」
「ご主人様は皆の為にピザを焼いてるッス」
いつものみかん箱に座ったテディが報告する。と――――
「なんでアンタがここに居るのよ!バカエルフ!」
「それはこっちの台詞だ!!ヘボ魔法使い!!」
…………いつもの喧嘩が始まる。
「あいつらは顔をつき合わせたら喧嘩しか出来ないのか?」
「俺に聞くなよ」
疲れたように答えるアレフ。他の皆も呆れたようにその喧嘩を見ている。
「ねぇレニス君…」
「なんだ?クリス」
「このままじゃお店、壊されちゃうよ?」
「そうだな……そろそろ止めるか」
クリスに『ジョートショップの破壊』を指摘され、しぶしぶ行動を起こすレニス。
「俺の都合で集まってもらったんだから俺が止めなきゃな」
そう言って二人に近づいていく。
「お〜い、二人ともいい加減に喧嘩は止めてくれないか?」
『うるさい!!』
見事にハモッている。
「こんな時だけ息がピッタリなんだよなぁ……」
レニスは頭痛に耐えるように額を押さえていたが、このままでは埒があかないので手っ取り早く終わらせる方法をとった。
「それ以上やったら『ここ』を破壊する事になるぞ」
「あ…ああ……」
「う…うん…」
さすがにジョートショップを破壊する事には抵抗があるのか、すぐに二人とも静かになった。
「喧嘩なら話が終わった後に、ジョートショップに被害が及ばない所で好きなだけやってくれ」
「さくら亭もダメよ」
レニスの物騒な台詞にパティが続く。
「それ以外の所もダメだって」
一応は自警団員である如月が突っ込みを入れる。
「…ボウヤ、いい加減に始めないかい?皆待ちくたびれてるよ」
「それもそうだな…と、言っても皆に改めて礼が言いたいっていうのと、ちょっとした確認だな」
「確認?」
「ああ、さっきエルにも言ったけど、二十四時間皆を拘束する訳にもいかないからな」
そう言って全員の方を向く。
「とりあえず学生組。クリス、シェリル、マリアはとりあえず学業最優先。手伝ってくれるのは嬉しいけど、そのせいで勉強の方が疎かに なったら親御さんに申し訳が無いからな」
「ちょっとレニス!何でトリーシャには何も言わないのよ!!」
真っ先にマリアが文句を言ってくる。
「トリーシャに頼んだ事は…いつもやってる事とそう変わりが無いからね。まぁ、トリーシャの事は全部如月に任せる」
「ぶ〜☆なによそれ〜」
「おい!勝手に決めるな!」
マリアと如月が文句を言ってきたが、取り敢えずは無視。
「で、シーラ、パティ、エルの三人は…都合が付く時だけでいい。本来の仕事もあるし、無茶をして倒れられたらそれこそ目も当てられな いからな」
そして、残った四人の方を向く。
「んで…アレフとリサだけど、できれば二人はメインで手伝って欲しいんだけど…いいかな?」
との言葉に、リサはやれやれといった感じで首を振った。
「構わないよ。どうせ暇だしね」
「俺の方もO.Kだ」
続いてアレフも頷く。
「で、ピートとメロディは…好きな時に手伝いに来てくれ」
「ふみぃ?どういう意味ですかぁ?」
意味が解らず、メロディが疑問の声を上げる。
「つまりな、メロディがお店のお手伝いをしたいのなら、ず〜〜っとお手伝いをしてもいいし、休みたくなったら家に帰って御休みしても 良いって事。ピートもね」
結構、いや、かなり無責任な事をほざきながらも、にっこり笑うレニス。
「って事は、オレは遊びたい時に遊んでも良いのか?」
「仕事中に遊ぶのはダメだけどな」
「やったーーーーーーー!!」
レニスの言葉に喜ぶピート、こいつは何を言われたのか解っているのだろうか?
「言うのが最後になったけど、もちろん働いてくれた分の給料は出す。これはジョートショップの基本方針だから受け取り拒否は認めない から、そのつもりで」
そこで一息つき、再び全員に向き直る。
「で、何か質問がある人、いる?」
一名程、手を上げる者がいた。如月である。
「『あの三人』は呼ばないのか?」
「え?『あの三人』か?いいのかな、こんな事で呼んでも」
二人の言う『あの三人』が誰の事か解らず混乱する一同。
「別に構わないだろう。それに、そろそろ呼ばないと二人目が怖いぞ」
「………そうだな、どっちにしろいつかは呼ぶんだろうし…もう少し固定戦力も欲しいからな」
どうやら決心がついたようだ。と、そこへ皆を代表してアレフが当然の疑問を投げかける。
「なぁ、レニス。さっきから言ってる『あの三人』って…一体誰の事だ?」
「ああ、ちょっと待ってろ。すぐに呼ぶから」
そう言うとレニスは皆から少し離れ、腰から小さな鈴を取り出した。
「さて…我に従いし三姉妹よ、契約の元、我呼びかけに答え、その姿を現せ!!」
そして小さく鈴を鳴らす、と、次の瞬間レニスの周りに蒼く輝く光の塊が現れ、静かにその形状を変えていった。
「…きれい」
「コレは一体…」
思わずその光景に見とれる一同。
やがて光は完全な人型になり、そして現れた時の様に消え去った。
「…今まで閉じ込めててすまない。フレア、イリス、レミア」
光が消えた後…つまりレニスの周辺には身長三十cmほどの少女達が浮かんでいた。
「…まぁ、許したげるわ。けど!次は無いわよ!!」
そう言うと、少女の内の一人はレニスの頭に座った。
「ちょっと、イリス!もう…申し訳ありませんレニス様。私達を呼んでくださり有難うございます、お役に立てるように頑張ります」
もう一人の少女がわざわざ机の上に立ってお辞儀をしている。
「相変わらずだな、フレアは……レミアは元気だったか?」
レニスが最後の少女に話し掛ける。
「…はい、元気です」
無表情に淡々と答える少女。が、すぐに複雑な表情を浮かべる。
「あの、主様…」
「ん?」
暫く躊躇した後、顔を赤くしながら告げた。
「その…か、肩に座ってもいいですか?」
あまりにも可愛いらしい要求に、レニスは苦笑した。
「…いいよ。第一イリスが頭に乗っているんだ、お前が肩に座るぐらい何でもない」
その答えを聞いたとたん、その少女はとても可愛らしい笑顔を浮かべ、あっという間にレニスの右肩を陣取ってしまった。
「変わりないな、三人共」
「如月様もお変わりないようで」
如月と机の上の少女が挨拶を交わしたあたりで、一同の硬直が解ける。
「レ、レニス…?」
「ん?なんだアレフ」
いつもと違うアレフの様子に首を傾げるレニス。
「それはなんだ?」
「…もしかして、こういうのを見るのは初めてか?」
首を縦に振る一同。
「そうか、フレア、皆に紹介するからこっちに来い」
左手を伸ばし、机の上に立っていた少女をそこに座らせる。
「えっと、こいつらは俺と契約を交わした精霊の姉妹で、左手に座っているのが長女のフレア、頭の上で踏ん反り返っているのが次女のイ リス、右肩で大人しくしているのが末っ子のレミアだ。とりあえず挨拶」
「私はレニス様にお仕えする精霊、フレアと申します。妹共々、どうか宜しくお願いいたします」
「私はイリス!よろしくね皆!!」
「主様に仕える精霊、レミア。…よろしく」
三人の挨拶が終わる頃には、皆完全に立ち直っていた。
「…すごい!レニスさんって精霊使いだったんですか!?」
「精霊なんて…始めて見たよ…」
「おー!!何だかわかんないけどすげーー!!」
皆口々に驚きの声を上げる。シェリルやマリア等は、目を輝かせてフレア達を触ろうと手を伸ばしてくる始末である。
「きゃっ!あの、やめてください!」
「ちょっと!やめてよ!」
「……………イヤ」
たまらずレニスの頭上に退避する三人。とりあえずレニスは事態の収拾を図る事にした。
「みんな少し落ち着いてくれ、三人共怯えてしまっている」
「ご、ごめんなさい、レニス君」
「スマン、はしゃぎ過ぎた」
皆が落ち着いたのを確認し、頭上の少女達に下りて来るように伝える。
「災難だったな、三人共」
「見てないで助けなさいよ、如月!!こっちにしてみれば死活問題よ!!」
「………………見捨てた」
イリスとレミアが文句をいうが、これは無視する。
「まぁ、そういう訳でこの三人にも協力してもらう。仲良くしてやってくれ」
そこで、リサから疑問の声が上がる。
「なぁ、ボウヤ。こう言っちゃなんだけど…その子達、役に立つのかい?」
もっともな疑問である。しかし、レニスは笑いながらその疑問を一蹴した。
「ああ、大丈夫。三人共一日に三〜四時間程の時間なら、俺たちと同じぐらいのサイズになれるから」
「ええっ!?」
「そ、そういうもんなのかい?」
驚くシェリルと呆れるリサ。無理も無いが。
「ちなみに、小さいままでも十分に役に立つぞ」
「まぁ…ボウヤがそう言うんだったら、ワタシが口を挟む事じゃないけどね……」
そう言うと『いかにも楽しんでます』といった感じの笑みを浮かべる。
「…?なんだ、リサ」
「なんでもないよ」
「………まぁ、いいけど」
と、その時レニスは、自分に向けられる奇異の視線に気付く。しかも複数。
「…なんだ?アレフ、俺の顔に何か付いてるのか?」
とりあえず、近くにいたアレフに訊ねる。
「あのな、レニス…」
なぜか笑いながら答えてくる。
「身長三十cm程の美少女三人を、身体に座らせている男を見たらお前…どう思う?」
やっと自分の状況を把握する。が、
「別に、ここに来るまではいつもの事だったし」
気にしちゃいねぇ………。
「それに、家族とじゃれ合うのに何か問題でも?」
「…家族?」
「俺にとってはね。大事な家族だ」
そう言って微笑むレニス。
その表情を見れば、レニスがどれだけ彼女達を大事にしているのか一目瞭然であった。
ちなみに、その三人は、今のレニスの言葉に顔を赤くしながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「とりあえず、このメンバーでやっていく事になるのかな?んじゃ、仕事は明日の朝九時からって事で…」
頷く一同、と、そこへ香ばしいピザの匂いが漂って来た。
「…話も終わったし。アリサさん特製のピザでも食べるか」
「待ってましたーーーー!!!」
「それじゃ、私紅茶入れてくるね」
「私も手伝うわ、パティちゃん」
とたんに、騒がしくなる店内。精霊達もそっちの方へ行った様だ。
「賑やかな連中だよな…」
「ああ…」
如月が、いつの間にか近づいてきていた。
「…これで、最低でも一年間は伝えられないな」
「ああ…今伝えたりしたらアリサさんは…アリサは絶対に無茶をする。もっとも、もう無茶をしてるけど」
「単純に金だけの問題なら問題は無いんだがな」
「裏があるんだろう?」
「よくわかったな」
「当たり前だ。犯人の目的がハッキリとしない、単純に俺だけを狙うのなら、もっと簡単な方法があるんだからな」
「そこらへんはこっちに任せてくれ」
「ああ、お前の上司の腕を信頼している」
「……ひでぇ」
などとやっていると、向こうの方から二人を呼ぶ声が聞こえてくる。
そろそろ行かないとピートあたりが暴れ出しそうだ。
「…一年間、よろしく頼む」
「こちらこそ」
そう言って二人は、戦争状態に突入した食卓へと向かった。
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