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第六話 隠れた才能
ティクス


悠久幻想曲 ティクス

第六話 隠れた才能




レニス達が活動を始めて一週間。今の所大した問題も無く、順調に事は進んでいた。
「で、一週間の仕事の振り分けだけど…」
現在、ジョートショップに居るのは、レニス、エル、リサの三人だけである。アリサは用事があるらしく、朝早くから出掛けて行った。
「えっと、リサとエルとシェリルの三人でこっちのゴブリン退治を頼みたいんだけど…」
「え?シェリルも連れてくのかい?」
レニスのいきなりの要請に戸惑うリサ。
「うん。何か先週、非戦闘員扱いしたせいか、そっちの皆からのクレームが殺到してね」
苦笑しながら答えるレニス。
「なぜか今週はモンスター退治の依頼が大半を占めてたからな。そういう訳で、一通り荒事を経験させる事にした」
「おいおい…」
「本気かい?」
呆れた声を上げる二人。
「当然の事だけど、実戦経験者である俺、リサ、エルの三人の目から見て『こいつには無理』と判断された場合は、すっぱり諦める事。
 と、言い含めてある。てな訳で、頼む」
「…で?もし合格したらどうするんだい?」
「本人にやる気があるなら、訓練をつけてもいい。結果によっては前線のメンバーが変わるかもな」
なんだか嬉しそうに話すレニス。二人は呆れながらもレニスの要請を受け入れた。
「で、お前はどうするんだ?」
「二・三人連れてコボルト退治。一応、念の為イリスも連れて行くつもりだ」
エルの問いに答えを返すレニス。ちなみに、イリスは三姉妹の中では、最も戦闘能力が高い。
身長三十cmの少女が、身長二mのオーガを薙ぎ倒す姿を目撃したリサは「悪い夢でも見てるみたいだ」と、ぼやいたという。
「ま、あんたとイリスが一緒なら心配無いんだろうけどね」
「少ししたらシェリルが来ると思うから、一緒に行ってくれ。それと、他にやれそうな仕事が有ったら言ってくれ、ちなみに、魔物退治は 子守りをしながらになるけどな」
「そんじゃ、こっちの奴も引き受けておくよ…ところでレニス、子守りの相手だけど…」
「マリアは明日か明後日ぐらいに俺が受け持つよ」
エルの言いたい事を察し、返事を返す。そうこうしているうちにシェリルがやって来たようだ。
「それじゃ、二人とも頼む」
そう言って、レニスは二人を送り出した。



「悪い、遅れた!」
「…遅い」
アレフが、ジョートショップに駆け込んで来たのは、もう陽が真上に差し掛かってきた頃であった。
「あんたねぇ!一体、今何時だと思ってんのよ!!」
「悪い悪い、ちょっと寝坊しちゃってさぁ…」
パティの怒りを受け流し、フレアの入れてくれたお茶を飲む。
「遅れて来たのに態度でかいぞ…えっと、パティ、シーラ、クリス、イリス、アレフ…全員揃ったな」
全員の顔を見渡し―――溜め息をつく。
「…正直、さっさと行って終わらせたいんだけどな」
「どうしたんだ?レニス」
「どっかの誰かが遅刻したせいで、後少しでお昼なんだよ」
アレフを睨みながらそう告げる。
「ははは……」
「今から行ったんじゃ空腹でろくに戦えない。と、言う訳で出発は食事の後だ」
「でも…お昼までには、まだ少し時間があるし…」
「そうだな…ん?」
ふと、気付く。
「どうしたの?」
「ああ…みんな、一つ聞いていいか?」
「どうした?」
「おまえら、どうやって魔物と戦うつもりだ?」
そう、何故かこの場に居る全員(クリスは例外)が何の武器も持って来ていなかったのだ。
「あ…」
「忘れてた…」
どうやら『戦いたい』という気持ちが空回りして、戦う手段を考えるのをすっかり忘れていたようだ。二軍とはいえ、当初からの戦闘要員であるアレフも、何一つ武器を携帯していない。
「ごめんなさい…」
沈んだ声を出すシーラ。しかし、
「別に、シーラは問題無いだろ?」
「ちょっと!なんでシーラはいいのよ!」
「だってなぁ…」
怒声を上げるパティの方を向き、
「単純な戦闘能力だけなら、この中でシーラは俺とイリスの次に強い」
「「は?」」
「多分、護身術でも習ってたんだろ。魔法無しなら、『今の』如月と対等に戦えるんじゃないのか?」
唖然としながらシーラの方を向く三人。こちらは当然の事ながら、顔を真っ赤にしている。
「そういう訳だ。で、パティとアレフの武器だけど…」
そう言いつつ、二人の方を向く。
「確か、アレフは剣を使うと言っていたな?俺の予備が在るからそれをやる。んで、パティだけど…」
「な、何?」
「何の武器使う?」
そう言われて言葉に詰まる。さくら亭の酔っ払い相手に、まな板を振り回した事もあるが、流石に魔物相手にまな板は無いだろう。
レニスは、うんうん唸っているパティを暫らく眺めていたが、ポツリと呟くように話し掛けた。
「なぁ、パティ……棒、使ってみる気は無いか?」
「え……?」
意味が解らず、しばし呆然とする。
「棒って…何の棒?」
「棒は棒だ」
「ただの棒?」
「普通の棒よりは丈夫だけど、ただの棒」
―――暫らく継続――――
「って、そんなの魔物相手に役に立つの!?」
信じられない、といった感じで問い掛けるパティ。
「当然。オーガなんかを相手にするのは辛いけど、ゴブリンやコボルト相手なら、なまじ剣より役に立つ」
確かに、素人の使う棒は大した攻撃力は持たない。だが、達人が手にすれば一転して、凶悪な鈍器と化す。もっとも、かなりの技術を要する武器ではあるが。
「都合良く時間があるからな、パティに棒術を教えるついでにアレフとシーラの面倒も見るか」
結局、レニスの一言で、昼までの時間を、どう過ごすかが決まった。





ヒュン、ヒュン、ヒュン…………
「……すげぇ」
「パティ…本当に棒使うの初めて?」
目の前の光景に呆然と呟くレニスとイリス。
二人の目の前では、六尺棒を持ったパティが演舞を行っている。始めて一時間しか経っていないというのに、もう既に素人の域を抜け出している。
ヒュン、ヒュン、ヒュン…………
「ここまで飲み込みが速いと、教え甲斐があるな」
「ある意味バケモノよね、パティって」
「ちょっと、イリス!聞こえてるわよ!!」
演舞を止めたパティがこちらにやって来る。
「文句を付けようと思えば、いくらでも付けられるんだが………」
「な、なによ…」
「初めてやって、一時間でコレだろ…。洒落にならんぞパティ」
「…それって誉めてるのかしら?それとも、けなされてるのかしら?」
「素直に誉めるのも悔しいんでね、少し捻くれた答えになっている」
そう言ってパティに背を向ける。
「一応、他の二人の様子も見ることになってるから、ちょっと行ってくる。聴きたい事があったら呼びに来い」
そう言うと、さっさと行ってしまう。
「…そういえば」
「どうしたの?」
パティの呟きを聞いたイリスが答える。
「あいつの武器って…何?」
「レニスの武器?」
それを聞いて、不思議そうな顔をしていたイリスだったが、すぐに合点がいったのか、何処となく誇らしげに話し出した。
「そうね、レニスは基本的には剣を使うけど、実際には得手不得手は無いわ」
「そうなの?」
「うん、剣も槍も斧も弓も棒も素手も………とにかく何でも使えるの。あいつと出会ってからもう五年位になるけど、あいつが使いこなせ なかった武器は一つも無かった。まるで武具の精霊に愛されているかのように……」
パティは内心「失敗したかな?」などと後悔していたが、イリスの話は唐突に終わりを迎えた。
「でね、でね、今あいつが使ってる剣があるでしょ?あれはしん…」
スコーーーーーーン!!
いきなり飛んで来た空き缶に撃墜される。
「…余計な事言うんじゃない!!レミア、こいつ、鈴の中に押し込んどいてくれ」
「はい」
簡潔な返事を返し、命令を忠実に実行するレミア。
イリスは気絶しているらしく、されるがままである。
―――――――――――
「…い、いいのか?あんな事して……」
「いつもの事さ、それよりアレフ」
「なんだよ?」
「すでにパティに抜かれたぞ」
「…ぐはぁ!!?」
事実を突き付けられ、落ち込むアレフ。
「マジ…?」
「激マジ」
しばしの沈黙。
「ま、時間が空いたら声掛けろ。特訓なら付き合ってやる」
「スマン、レニス」
そう言って滝のような涙を流すのだった。




「で、こっちは捗ってるのか?クリス」
クリスは現在、フレアとレミアから、魔法に関する事を学んでいた。
「え、あ…うん」
引きつった笑顔で答えるクリス
「どうやら捗っていない様だな…精霊でも女はダメなのか?」
「…………………」
クリスは幼い頃、姉達にいじめられたせいで女性恐怖症になってしまったのだ。
「どうしましょうか?レニス様」
「……………」
フレアとレミアこちらをみる、が…
「だ、大丈夫です!」
「クリス?」
「せっかく、フレアさんとレミアさんが教えてくれているんだから、もっと多くの事を学びたいんです!」
珍しく熱血しているクリス。精霊である二人の知識は、彼にとって宝の山の様な物なのだろう。
「そうか、んじゃ頑張れ。フレア、レミア、当り障りの無い部分で教えてやってくれ」
「はい、レニス様」
「…………わかった」
二人の答えを確認したレニスは、残るシーラの元へ向かった。




「はぁ!せい!やぁ!!」
一方、こちらでは、レニスお手製のダミー人形相手に、汗を流すシーラの姿があった。
当初は、武道着姿に頬を染めたりしていたが、今では―――――――
「てい!やぁ!!たぁ!!!」
ドン!ドン!!ドドン!!!
…………四連撃。最後の二つは、ほぼ同時にヒットしている。
(もしかして………アルベルトより強い?)
と、いうより、これは護身術ではなく戦闘術ではなかろうか?
(俺とフレア達を除いたら………メンバー最強かも」
「え?何?」
どうやら最後の方は声に出ていたようだ。
「いや、強いとは思ったけど…まさか、これほどとはね」
「そ、そんな……」
すぐにトマトよりも赤くなる。これがさっき四連撃を決めた女格闘家の顔だろうか?
「ところでシーラ、ココとココとココ……意識して攻撃してるの?」
「え…?ううん、違うわ」
首を横に振る
「ただ、『反撃するならココを狙え』って教えられたから…体が無意識にそこを狙う様になったの」
一瞬、レニスの背に冷や汗が流れる。
(マジか…?)
「どうかしたの?レニス」
いつの間にかやって来ていたパティが怪訝そうな顔で訊ねる。アレフも寄って来ているようだ。
「いや…」
言いよどむ。教えておいた方がいいのだろうか?
「もう!ハッキリ言いなさいよ。鬱陶しいわね」
パティの激を受け、とりあえず決心を固める。
「さっき、シーラが攻撃した……ココとココとココ……」
「そこがどうしたんだ?」
アレフも興味がわいたのか首を突っ込んでくる。シーラは不安そうな顔でこちらを見ている。
「……………人体破壊のツボ…」
―――――――――――――――――
「…は?」
「そんで、ココとココは…」
他の打撃点を指定し、
「達人なら一撃で人を殺せる急所…………」
時が凍る。
こっちの話が聞こえたのかフレア、レミア、クリスの三人の時も凍っていた。
……暫らく立ち、レニスが重い口を開ける。
「………とりあえず…無意識に狙うってのはマズイから…パティやアレフと一緒に特訓しようか」
「……うん」





「ハハハ……それで?聞くまでも無いけど、結果は?」
その日の夜。リサとエルとレニスの三人は、さくら亭でその日の事を話し合っていた。
「情報の手違いで、コボルトが三十匹ぐらい出てきた」
「三十匹!?」
さすがに驚くエル。が、
「三十匹中、十匹はイリスが、十匹は俺が相手して後は傍観」
「お、おい!」
「シーラ五匹、パティ四匹、アレフ、増援の四匹+一匹で五匹。所要時間七分」
初陣でコレである。将来が楽しみだ。ちなみに、クリスは精霊魔法や錬金魔法等での、サポートに徹していた。
「パティなんか、始めて間もない…と言うか、数時間しか経っていない棒術を完全に使いこなしてるし…」
そう言ってカウンターに立つパティを見る。
「な、なによ…」
「文句無しで合格だよ」
と、いうより、最初から不合格にするつもりは、無かった様に思われるのだが。
「そっちはどうだったんだ?」
話を振られたリサが答える。
「そっち程じゃないけどね、充分合格だよ」
「ちゃんと、周りを見て魔法を使っていたからね。文句無しだ」
この調子で行くと、メンバー全員が戦力になりそうだが……
「…それはそれで、楽になるから良いか」
そう言って、既にぬるくなったコーヒーを飲み干した。




結局、非戦闘員と言われた者全てが合格したが、調子に乗った一部の協力者達を押さえつけるのにかなりの時間と労力が支払われる事になるのだった。
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