中央改札 交響曲 感想 説明

ティクス


悠久幻想曲 ティクス

第七話 パートナー




「フン、フフン、フフ〜ン♪」
エンフィールドへ続く街道。そこを、一人の少女が鼻歌を歌いながら、上機嫌で歩いている。
「あっと♪少しで♪エンフィールド〜♪」
いきなり歌い出す。ちと、音程がずれているが…
「いきなり、会いに行ったら、どんな顔するかな〜?」
とても、楽しそうである。今度は軽くスキップを始める。美しいライトブルーのポニーテールがぴょこぴょこ揺れる。
「さて、と…」
いきなり歩みを止め、辺りを見回す。
「いい加減、出て来たら?気配は漏れてるわ、殺気剥き出しだわで、見付けて下さいって、言ってる様なものよ?」
その声に、応えるかの様に、現れる十数人の男達。服装等からして物取りの類のようだ。と、いうかそれ以外に無い。
「へへへ……、結構やるな、姉ちゃん…」
リーダー格の男が話し掛けてくるが、取りあえず無視。
「面倒臭い前口上は、取り敢えず置いといて…姉ちゃん。身包み全部、置いてきな。そうすりゃ『命だけは』助けてやる」
周囲から、イヤらしい笑い声が響いてくる。どうやら、身包み剥がされるだけでは、終わりそうもない。
が、少女の美しい顔は何の表情も現さず、ただ、黙って虚空を見つめている。
男達は、少女のその態度を諦めと受け止め、ニヤニヤ笑いながら近づいていく。と―――
「……くの…の…い………」
「…?なんだって?」
少女はなにか、ぶつぶつと呟いているが、声が小さくて良く聞き取れない。
「…だい……の…」
「あぁ?ハッキリ言え!!」
「消えなさい!!あんた達!!!!」
次の瞬間、男の視界が白く染まった―――――





同時刻、自警団事務所――――――
「―――――――!!」
「どうした、如月?」
友人の様子の変化に気付いたアルベルトが訊ねる。
「いや…、ちょっと目まいが…」
「おいおい、大丈夫か?」
「大丈夫だ…」
「なんならドクターの所に行ったらどうだ?」
「そこまで酷くはない。少し疲れているのかもな」
そう言って業務を再開した―――



同じく、ジョートショップ――――――
「………これは…」
「間違い無いと思います」
「これを使えるのは『アイツ』だけだもんね」
「他の人には使えない……」
窓の外を見上げ、呟く。
「聖霊魔法…」




ピークの過ぎたさくら亭。今日のメンバーは、パティ、アレフ、エル、トリーシャ、メロディの五人である。
「イテテテテ……」
腕を押さえてうめくアレフ。
昨日、レニスとの特訓で、嫌と言うほど転がされ、次にパティと手合わせして、しこたま殴られたのである。
ちなみに、パティの方はシーラと一戦交えた結果、惨敗。さくら亭での仕事があるのでフレアが治してくれたが、それでも痛い。
「情けないな、アレフ」
「ふみぃ〜…大丈夫?」
エルとメロディの口から、全く正反対の言葉が出る。
「うるさいなぁ、そんなに言うんだったら、この凶暴女と手合わせしてみろよ」
「なんですってぇ〜…?」
怒りのオーラを身に纏ったパティがアレフに迫る。
「げ…あ〜…ちょっと待てパティ!」
「問答無用!!」
と、手元に在ったまな板を、アレフに向かって投擲する。が――――
ガンッ!!
「な…!?」
「ふっ…いつまでも、やられるだけだと思うなよ?」
なんと、アレフは手元にあった木剣で、まな板を弾き飛ばしたのだ!
「アレフさん、かっこいい〜!」
「ふみゃあ〜。アレフちゃん凄いですぅ〜」
トリーシャとメロディの声援を受け、さらに言葉を続ける。
「お前の長い棒では、店の物を破壊してしまうからなぁ…フッ、仕掛けられまい」
「なんかアレフさん、悪役みたい」
トリーシャの台詞は耳に入れないようにして、パティと対峙する。
黙り込むパティ。確かに、パティが使っている『六尺棒』は、自分の身長よりも長い代物である。店の中で振り回すには、長すぎるのだ。
包丁やフライパンなどは、この際無視である。
アレフが勝利を確信したその時、
「ふ、ふふふふ………」
いきなり笑い出す。
「な、なんだ?」
「甘い!甘すぎるわよ!アレフ!!」
叫ぶと同時に、短めの棒を突き出す。
「実は、昨日レニスから、この『肘切棒』の扱い方を伝授されてね……」
その名の通り、中指の先から肘までの長さである。
「店に被害を出さずに、あんたを殴り飛ばすには、丁度いい長さだわ…」
そのままカウンターを飛び越え、アレフの目の前に着地する。
(レニスのバカヤロー!!こんな危ない物、教えてんじゃねぇ〜!!)
形勢逆転。いくら心の中で叫んだとしても、通じるはずも無く。覚悟を決めたその時―――
カランカラン――――
「あ、いらっしゃい(命拾いしたわね、アレフ)」
瞬時に営業スマイルに切り替える。流石はプロだ。
店の中に入ってきたのは、ライトブルーの髪と瞳が印象的な、旅人風の少女だった。
年齢は、パティとそう変わりが無いだろう。背中に背負った、自分の身体よりも大きな『何か』が、殺伐とした雰囲気を持つものの、
少女自身がかもし出す、柔らかな雰囲気のせいか、危険な匂いは感じられなかった。
「ここって宿屋ですよね?」
「そうよ。一階が食堂、二階が宿よ。泊り?」
「ええ、二週間ぐらいお願い」
「それじゃ、宿帳に名前を……」
少女がペンを手に取り、名前を書入する。
「…睦月(むつき)・ファーレクスさんね。はい、部屋の鍵。部屋は階段上って、右側の一番奥の部屋よ」
「ありがとう」
―――――――
「睦月さんって…」
「どうしたんだい、トリーシャ?」
トリーシャが、なにやら考え込むようにして、睦月を見ている。
「どっかで会った事がある様な…?」
「そうなのかい?」
「それが解んないから、悩んでるんじゃない…」
「そりゃ、そうだ」
二人が話している間に、アレフが睦月をナンパして、パティに殴り飛ばされたりしていた。




「あ、そうだ」
睦月が何かを、思い出したようだ。
「えっと、人を探してるんだけど…」
「人探し?う〜ん……ちょっと待ってね。トリーシャ!ちょっと来てくれない?」
呼びかけに応え、トリーシャがやって来る。エルとメロディも一緒だ。
「なあに?パティさん」
「この人、人を探してるらしいの。協力してくれない?」
「いいよ、で、その人どんな人なの?」
トリーシャの問いに、しばし考え込み―――――
「髪と眼の色は…ダークブルー…」
「ダークブルー?紺色って事かい?」
エルから疑問の声が上がる。
「え?う〜ん…間違っては、いないんだけど……ダークブルーって言う言葉が、とても似合うのよ。彼」
その言葉で、エルは一人の自警団員を連想したが、とりあえず置いておく事にした。
「へえ〜…あ、『彼』って事は男の人?」
「ええ、世間一般でいう幼馴染ってやつ。この間手紙が来てこの町に住んでいるって事が解ったから…」
そこで、ニッコリ笑う。
「会いたくなって、来ちゃったって訳」
「きゃーーー!!」
突然、黄色い悲鳴が響く。いつの間にか、メロディの後ろに半透明の少女―――ローラが立っていた。
「ちょっと、ローラ!いきなり大声出さないでよ!!」
「ねえねえねえねえねえねえ!!」
パティの非難の声を無視して、凄まじい勢いで、睦月に近づく。
「やっぱり、その人恋人よね!?…いいなぁ、遠く離れていても、愛し合う二人…きゃー!」
自分で言った言葉に、うっとりしているローラ。
「…愛し合う、と言うのが『絶対的な』信頼関係だって言うのなら…そうでしょうね」
微妙に『絶対的』という言葉を、強調したような気がするが、聞き流す。
「えっと、話が逸れちゃったけど…他には何かないの?」
無理矢理、話を元に戻す。ローラは不満そうな顔をしたが、このままでは話が続かない。
「あ、そうそう、手紙に何の仕事をしているか、書いてあったんだった」
「なんだ、それならかなり絞り込めるじゃない」
睦月は、ポケットの中から手紙を取り出し、眼を走らせた。
「え〜と…自警団第三部隊隊員…」
その時点で、探し人が誰なのかが決定する。自警団内で、ダークブルー…紺色の髪と瞳を持つ人間はただ一人。
「……それって、如月の事か?」
いつの間にか復活したアレフが、身を起こしつつ呟く。
「如月の事、知ってるの?」
「え、ええ、店の常連だから…後少しで、来ると思うけど……」
トリーシャの方を気にしつつ答えるパティ。
「それじゃ、先に部屋に荷物を置いてくるわ。少し待って来なかったら、仕事場の方に行く事にする」
そう言って、睦月は階段を上って行った…
「……………………」
「ト、トリーシャ?」
ギロッ!!!
「何?アレフさん……」
「いえ、何でもないっす」
あっさり逃げるアレフ。ハッキリ言って怖い。
(ふみぃ…トリーシャちゃん怖いですぅ〜……)
(なあ、エル。トリーシャってやっぱり……)
(あの様子を見ると、間違い無さそうだね……)
(もー、今更何言ってるのよ二人とも。見てればわかるじゃない)
メロディ、アレフ、エル、ローラの四人が口々に囁く。
トリーシャが、如月に好意を抱いている事は、周囲の人間にとっては公然の秘密であり、
その事に気付いていないのは、当の本人達だけである。
ちなみに、トリーシャは今――――
「負けるもんかぁ……!!」
などと呟き、拳を力強く握り締めていたりする。
カランカラン―――――――
「あー、腹減った。…って、なんで入り口付近で固まってるんだ?」
話題の男、如月・ゼロフィールド登場。…なんと間の悪い…
「如月…」
「間の悪い…可哀相に…」
「…なんだ?」
場の空気が読めず、混乱する如月。
「………………………如月さん」
「お、何か用かトリーシャ?ちなみに今、俺の懐はとても涼しくなっているのでなにも奢れないぞ」
なぜか、微妙に胸を張って宣言する。
「別に、そんな事頼まないよ、如月さん」
とても可愛い笑顔、そしてやけに冷たい声で答える。
さすがに如月も異変に気付き、目線で周囲に説明を求める。
「さっきまで、お前さんを尋ねてきた女の人がいたんだけど…」
「俺を?心当たりは無いが…何故、それでトリーシャの機嫌が悪くなるんだ?」
気付けよ、と、叫びたくなるのを必死に押さえ込むエル。と―――
「……如月?」
「ん?」
ふと、階段の方から聞こえた声に、内心「まさか」と思いつつ目をやると―――
「久しぶり!元気だった?」
「…なぜ、お前が此処にいる?」
軽い挨拶をした睦月に、なぜか、呆然としたように言葉を返す如月。
「なぜって…会いたくなったから♪」
「…一人で?」
「もっちろん♪」
「あー、此処に行くって…」
「置手紙なら書いてきたから問題無し!」
「つまり、黙って来たと…?」
「そうとも言うわね」
如月の問いに、始終笑顔で答える睦月。どう見ても、恋人同士の再会には見えない。
「…何考えてんだお前はーーーーー!!!」
ついには絶叫を上げる如月。いや、雄叫びと言った方が良いだろう。
「まぁまぁ、そんなに大声出したらお店の人に迷惑よ、如月」
「原因はお前だ!!」
「ちょっとちょっと、落ち着きなさいって」
店にも被害が及びかねない雰囲気に、慌てて如月をなだめるパティ。
「恋人同士で喧嘩しちゃダメよ、お兄ちゃん」
ローラの言葉に、トリーシャは頬を膨らませ、如月は顔を歪ませた。
「ローラ、何を言っている?」
「もー、照れなくってもいいのよ、お兄ちゃん!」
「……何を誤解しているのかは、大体解った。言っておくが、俺と睦月はそういう関係じゃない」
「え…?」
「え〜!?だってさっき『愛し合ってる』って、睦月さんが……」
きょとん、とするトリーシャと、大声を上げるローラ。
「あら、愛にも色々あるわよ。家族愛、友愛、親愛…」
「…紛らわしい…」
「全くだ…」
思わず、不平が口をつく。
「できれば、事情を説明して欲しいんだけど…?」
疲れきった声で、パティがそう告げる。
「まぁ、隠すような事でもないしな…、睦月、お前の懐具合はどんなだ?」
「皆に飲み物を振舞うぐらいには暖かいよ」
「それじゃ、パティ、皆に何か飲み物を出してくれ。睦月の奢りでな。話はその後だ」





「問題になってるのは俺と睦月の関係か…」
現在、一同は大人数用の、円いテーブルに着いている。
ちなみに、トリーシャは如月の左側、睦月は右側に座っている。機嫌が直った訳では無さそうだが……
「かなり古い付き合いだな。なんせ、赤ん坊の頃から一緒だったからな…」
そう言って、手に持ったコーヒーカップを弄ぶ。
「俺と睦月は、睦月のじいさんに育てられたんだ。
子供の頃から、やんちゃばかりしてたからな…じいさんには迷惑を掛けっぱなしだった」
「如月、質問がある」
そこまで喋ると、エルから質問が来た。
「何だ、エル」
「お前と睦月の両親はどうしたんだ?」
「睦月の両親の事は知らん。俺と睦月がどんなにねだっても、教えてはくれなかった。
で、俺の両親は、魔物の襲撃により住んでた村ごと焼き殺されたらしい」
他人事のように、淡々と話す如月。その声には、別段、悲しみの色は見えなかった。
「ゴメン。悪い事聞いたね」
「気にするな。両親には悪いが、顔も憶えていない上に、どんな人かも知らないんだ。
じいさんがそれ以上の事は教えてはくれなかったからな。
別段、寂しくは無かったよ、その時点で俺は一人じゃなかったから……話、続けるぞ」
そう言って、話を再開する。
「子供の頃から気があってな、いつも二人一緒に遊んでた。と、言うよりも一日中かな?」
「さらに言えば、今まで生きてきた時間で如月と一緒にいなかった時間なんて、無きに等しいし」
睦月の言葉に、むっとした表情を浮かべるトリーシャ。それに気付かず、話を続ける。
「否定できんな…で、俺達が十〜二、三歳の頃にじいさんも死んじまった。
幸い、じいさんから剣や魔法の手ほどきを受けていたから、二人で冒険者や傭兵なんかをやって生きていく事は出来た。
ちなみに、レニスに初めて出会ったのはそんな生活を始めてから一年後のことだ」
如月の言葉に、首を傾げる睦月。
「もしかして……レニスも此処にいるの?」
「ああ、ちょっとした厄介事に巻き込まれちゃいるが…元気だぞ。厄介事に関しては、後で教えてやる」
「へぇ〜…国に帰ったら、ラーナお婆ちゃんに教えてあげよっと。しきりに心配してたから」
「…………」
「おいおいおい、話がずれてるぜ、お二人さん」
そろそろ、トリーシャが怖くなってきたので慌てて止めるアレフ。
「ん?ああ、すまん。でだ、大体一年ぐらい前に睦月はある町に定住。俺は旅に出て、現在に至るって訳だ。何か質問は?」
「そんな事より、お兄ちゃんと睦月さんの関係よ!聴きたいのは思い出話じゃないんだから!」
話の内容に不満があったのか、声を荒げるローラ。
「そうか?ちゃんと話したと思うんだが」
「話してない!」
「ちょっと、落ち着きなってローラ、…オレからもいいか?」
ローラを黙らせたアレフが訊ねる。
「どうぞ」
「なんで、一緒に住むなり、旅に出たりしなかったんだ?さっきの話から考えると、凄く意外なんだが」
「ああ…その事か…」
そう言って渋い顔をする。
「まぁ…ローラの質問にも関係する事だからな…それこそ隠す事でもない」
そう言って姿勢を正し、睦月の方を見ながら告げた。
「…………睦月は…結婚してるんだ」
『は?』 
メロディ以外の全員から間の抜けた声が上がる。
「結婚…つまり、睦月は立派な人妻だ。しかも良家の」
一斉に睦月の方を向く一同。
「旧姓は『ラグレード』って言うの♪」
「そんな人間が…昔の相棒とは言え、『会いたい』って言う理由だけで男に…しかも黙って置手紙だけ残して来るなんて…」
そこで、大きな溜め息をつく。
「カインは解ってくれるとしても…ファーレクス夫人―ハセルばーさんやジーナやトロスやダイやコロサや……
……そーいった連中に文句を言われるのは俺なんだ!!『息子の嫁を誑かさないでくれ』ってなぁ!!!」
切実な想いを込めて絶叫する如月。が、睦月は何処吹く風といった感じで無視している。
「あ、ちなみに好きな『男性』は旦那様。それ以上に好きな『人』は如月だから」
しかも、爆弾はしっかり投下している。
「…………なんか、大変そうね」
「………苦労してんだな、お前…」
思わず同情する、パティとエル。
「一緒に住まない理由ってのは…まぁ解った」
確かに、新婚夫婦と(睦月と)一緒に住んでも、とことん居心地は悪いであろう。
「でも、同じ町に住もうとは思わなかったのか?」
「………まあな…確かに、そうなんだけどな……」
「…………」
如月が黙り込むと同時に睦月の表情も固まる。
どうやらかなりまずい事を聞いてしまったようだ。
「えっと…ごめんねー、これ以上はプライベートな事だから。聞かないでくれると嬉しいんだけど…」
「あ…いや、こっちこそ…悪かった。話したくないのなら、無理に言わなくてもいいさ」
居心地の悪い沈黙が流れる。
永遠に続くかと思われたその静寂を打ち破ったのは、けたたましい音と共に店内に飛び込んできた、一人の少女だった。
カランカランカラン――――――
「大変よー!!」
「どうした?マリア」
勢い良く飛び込んできた少女――マリアは、しばらく呼吸を整えていたが顔を上げ、ハッキリとした口調でそれを告げた。
「町の中に魔物が!!」





「何だって!?町の中に魔物!?どういうことだマリア!!」
「えっと、でっかい公園がカニに現れて自警団が泡吹いて…」
エルがマリアに詰め寄るが、混乱しているらしく要領を得ない。
カランカラン―――
「如月、此処にいたのか…事件だ。大至急、陽の当たる丘公園に集合」
マリアに続いて入ってきた自警団員が告げる。右目を隠すように巻いているバンダナが印象的な、
まだ子供と言ってもいい年齢の少年だった。しかし、十代の少年特有のあどけなさ、頼りなさなどと言う物は、微塵も感じられない。
「…何があった?」
どうやら、立ち直ったらしい如月が訊ねる。
「魔術師組合の魔道実験の失敗により、実験に使われたカニが巨大化。
しかもそのカニにスペクター…つまり、悪霊が取り付き、暴れ出した。
現在、陽の当たる丘公園に追い込む事に成功。大人しくはしているが、
再び暴れ出すのは時間の問題だ。後の詳しい事は、目的地に向かいながら話す」
「解った。行こう」
席を立ち、走り出す如月。続いて、自警団員の少年も飛び出していく。
「俺達も行こう!」
そう言って飛び出したアレフに続き、皆も飛び出していく。
「ちょっ、まってよ〜!」
置いてきぼりを食ったマリアが、慌ててその後を追う。
結局、マリアは来た道を、再び全力疾走する事になるのだった。




「確かにカニだな」
「ああ、カニだ」
陽の当たる丘公園に辿り着いた、如月が目にした物は、小さな家ぐらいの大きさのカニだった。周囲には、カニを包囲するように自警団員達が立っており、さらにその後ろには野次馬の姿が見える。
「あれは退治してもいいのか?」
「ああ、魔術師組合から直接要請があった。『あのカニを退治してくれ』とな」
「組合は何もしないのか?」
「彼ら曰く、『ワシ等の手には負えん』だそうだ。教会の神父も同様だ」
「だったら、最初からこんな物作るなっての」
そこでアレフ達が到着する。遅れているのか、マリアの姿は無い。
「げっ!?なんだよありゃあ…」
「なんて、非常識な…」
「マリアの失敗以外で、こんな物を拝めるとはね…」
なんか好き勝手言ってるなぁ…
「お前達まで呼んだ憶えは無いが?」
「な…!そういう言い方は無いだろう!折角、協力しに来たってのに…」
「いらない。帰れ」
少年の言葉に、食ってかかろうとするアレフを、如月が苦笑しながら止める。
「悪い、気を悪くしないでくれ。根は悪い奴じゃないんだが…ちょっと無愛想でな」
「そうよ、ラピスお兄ちゃん、いい人なんだから」
「ん?ローラはこいつの事、知ってるのかい?」
ローラの言葉に疑問を持った、エルが尋ねる。
「うん!ラピス・レンバードンっていう名前で、一ヶ月に一度だけ、教会に遊びに来てくれるの。子供達にも人気があるのよ」
意外な事実に一同の眼が点になる。如月もなっている処を見ると、彼も知らなかったようだ。
「へぇ………」
「こいつがねぇ…?」
「………そんな事はどうでもいい。今は、あのカニを何とかする方が先だ」
話を強引に元に戻す。照れたのだろうか?
「でも…硬いだろ?あいつ。あのカニを何とかしないと、スペクターは出てこないしな…」
「ああ、非常に硬い。さっき、アルがファイナルストライクを命中させたが…見ての通り、無傷だ」
驚く一同。無理も無い。アルベルトはリカルドを除けば、自警団内でも一・二を争う程の腕を持ち、なおかつ、かなりの腕力の持ち主である。その彼が放った全身全霊の一撃を受けて、無傷だと言うのだ。カニが。
「アルはその時カニの一撃を受け、現在クラウド医院に運ばれている」
「…魔法は駄目なのか?」
恐る恐るといった感じで、アレフが訊ねる。
「…完全ではないにしろ、あのカニにはアンチ・マジック・シェル(絶対魔法防御)が掛かっている。
並の魔法では簡単に掻き消されるだろうな」
今度は完全に絶句する一同。なにが悲しくて、此処の魔術師組合はカニに絶対魔法防御なんぞ掛けたのだろう?
「…まぁ、絶対魔法防御とは言っても、本当に魔法が効かなくなる訳じゃない。しかも、あのカニに掛けられた魔法は不完全だ」
ラピスが言葉を続けるが、慰めにもならない。
と、考え込んでいた如月の視界が、ライトブルーに染まる。
「―――手伝おっか?如月」
そこには、自分の身長よりも長い両手剣を携えた睦月の姿があった。先程、彼女が背負っていた物の正体はこれだったのだろう。
「如月…?」
「そういえば紹介がまだだったな。冒険者時代からの相棒、睦月だ」
簡単な紹介をする。ラピスはその説明だけで充分らしく、そのまま睦月に問い掛ける。
「何か手があるのか?」
「う〜ん…まず、どれくらい硬いのか、自分で知りたいから…斬りつけて来てもいい?」
「ちょっと!それで暴れ出したらどうすんのよ!!」
「でも、このまま何もしなくても暴れ出すんでしょ?」
パティの言葉をあっさり一蹴する。
「スペクターの方は?」
「ん、そっちの方は問題無いよ」
軽く返事をする睦月。本当に大丈夫なのだろうか?
「俺は別に構わないんだが…ラピス、此処の指揮権って誰が持っているんだ?」
「俺が持っている。ノイマン隊長に任された。…行きたいのなら、行ってもいいぞ。このまま手をこまねいている訳にもいかないからな」
意外とあっさり許可を出す。
「いいのか?さっき知り合ったばかりの人間を信用して」
「如月の相棒なのだろう?信用する理由としては充分だ」
なかなか粋な台詞を言ってくれる。
「有難う。…それじゃ、睦月、行くか」
「如月も来るの?」
「邪魔か?」
「ううん!一緒に行こ!如月」
とても美しい、満面の笑みを浮かべる。が――
「あ、ちょっと待っててくれ」
そう言って、トリーシャに近づいていく。
「トリーシャ、頼みがあるんだけど…」
「……何?」
「…なんでふてくされてるんだ?まぁ、いいけど…これを預かって貰えないか?」
そう言って、懐から手の平ほどの大きさの、青水晶で出来た小刀を取り出す。
「俺の大事なお守りでな、アイツに殴られたりしたら壊れかねん」
が、トリーシャは受け取ろうとしない。
「……なんでボクなの…?」
そう呟き、うつむく。トリーシャのそんな態度に苛ついたのか、いきなりトリーシャの手を取り、その中に小刀を押し込む。
「トリーシャだから預けられるんだ、とにかく頼んだぞ」
「ちょっ!?」
「行くぞ、睦月!」
「了解!」
いつもの姿からは考えられないスピードで走り出す如月。睦月もそれに続く。
「えっ!?ちょっと!如月さん!?…もうっ!」
既にカニとの戦闘が開始されている。聞こえたとしても返事は出来ないだろう。
「相手の承諾も無しに押し付けるなんて…最低だよ!」
と、怒った顔で言い放ちはしたが…
「ふみぃ、トリーシャちゃんうれしそうですぅ」
メロディにあっさり看破されてしまうのだった。
ちなみに、今現在のマリアはと言うと…
「もう……走りたくない…」
いつの間にか到着しており、アレフの後ろで力尽きていた。




「はぁぁぁっ!!!」
ガキュゥゥィ!!!
「う〜ん、確かに硬いね」
そう言って再び両手剣を振り回す。
「土の聖霊アトロムよ!我盟友の命守りし、盾となれ!」
睦月に向かうハサミの一撃を防ぎつつ、足の関節を狙って斬撃を放つ。
「神無月流剣術・奥義!壱ノ太刀・虚斬!!」
如月の刀から発生した、不可視の刃が足の関節に命中する。
「如月ー、効いてないよー」
「ああ、ったく、虚斬が効かないなんて…」
どうやら、間接にもちゃんと甲羅が有る様だ。再び襲ってくるハサミを軽々とかわし、さらに斬りかかる。
一方、アレフ達は―――――
「如月さん…強かったんだ…」
「ああ…そうだな…」
ラピス以外の人間は、呆然と如月の戦いぶりを見ていた。
「それに、さっきの防御魔法…見た事も聴いた事も無い…」
「如月ちゃんすごいの・だ〜!!」
三者三様で、『如月の』戦いぶりを見ているが、どこか表情がぎこちない。
「…睦月の戦いぶりに対する評価は無しか?」
「いうなぁぁぁぁぁ!!」
ラピスの突っ込みに、頭を抱えるアレフ。他の面々も似たような状況に陥っている。
まぁ…無理も無い。身長160cm強の細身の少女が、全長2mの両手剣を軽々と振り回しているのだ。片手で。
ちょっと寒い光景である。メロディは逆に喜んでいるが。
「しかし、いい連携だ。流石だな。」
ラピスの言う通り、二人の連携は完璧だった。立ち位置からして相手の邪魔にならず、しかし常に相手を援護できる場所に位置している。
言葉も、視線も交わさずに、相手の望む行動を理解し、実行に移す。まさに―――
「二人で最強…」
ラピスの呟き。使い古されたその言葉は、この二人の為だけに作り出されたのではないだろうか?
そう思わせるのに充分な力と絆を、あの二人は持っている。
二人がカニから離れた。どうやら、このままカニを倒すつもりの様だ。
「一応聞くが…斬れるか?」
「そうね…」
そこに、ハサミが襲い掛かる。
ずずぅぅぅぅぅん………
「まっ、こんな感じかな?」
そう言った睦月の目の前には、先程まで二人に襲い掛かっていた、カニのハサミが二つ、転がっていた。
「んじゃ、動きを止めるから心置きなく斬ってくれ」
「はーい」
打ち合わせらしきものを終わらせると、如月は呪文の詠唱に入り、睦月は剣を逆手に持ち替え、構えた。
「樹の聖霊エステルよ、我敵を戒める足かせとなれ!!」
突如、地面から無数の木の根が出現し、カニの身体を縛り付ける。と、同時に二人は別方向にダッシュ、如月はカニの正面に。睦月は背後に回り込む様に疾走する。
ふいにカニが口を開き、如月に向け、泡を弾丸の様に打ち出す。半身ずらして避ける。
ちらと後ろを振り返ると、泡の当たった地面が溶けている。この力はカニではなく、スペクターの物であろう。かまわず走る。
再びカニの口が開く。この位置では避けるのは難しい。が、突如爆発音が響き、カニの両目が潰れる。その痛みに動きを止めるカニ。
ほんの少し、一秒にも満たない時間だったが、如月にはそれで充分だった。そのまま飛び上がり、左手をカニの口に当てる。
「ヴァルス!!!!」
その言葉と同時に、カニの口が、綺麗にえぐられた様に消滅する。それだけでは終わらず、そのまま右手を口の在った場所に突っ込む。
「フォレスト・バーン!!!!」
今度は、カニの体内で大規模な爆発が起こる。同時に、如月はカニから離れる。
体内で起こった爆発には流石に耐えられないのか、暴れようとするカニ。
しかし、木の根に動きを封じられているが為に何も出来ずにいる。
そして、静かな声が響く――――
「―――神無月流剣術・裏奥義…闇月」
その声が聞こえた瞬間―――カニの身体は縦一文字に両断されていた。
カニの死骸から、黒い霧の様な物が染み出るように現れ、一つに集まっていく。
「…スペクター!」
ラピスが緊張した声を上げる。魔術師組合や、教会の神父までもが匙を投げた悪霊だ。
カニを退治した所で、スペクターを何とかしなければ同じ事の繰り返しである。しかし――――
「レイ・アーク!!」
「ギトゥ・ファイア!!」
如月と睦月の放った、光の帯と炎の渦であっさり消滅するスペクター。
「なんだ、この程度だったんだ…」
「もう少し、手応えのある悪霊だと思ったんだがな…」
この二人にはどうでもいい相手だったようだ。




「終わったか―――」
スペクターの消滅を確認し、安堵の息をつく。
「あんた…ラピスって言ったっけ、凄いじゃないか」
エルに賞賛の言葉を掛けられ、不思議そうな顔をするラピス。
「凄いのはあの二人だろう、他の連中のように、あいつ等の所に行ったらどうだ?」
向けた視線の先には、トリーシャに飛び付かれて困惑の表情を浮かべる如月と、それをからかう睦月達の姿があった。
「…さっき、如月がやばかった時に、カニの目を潰したのはあんただろ?」
そう言って、ラピスの右手に握られている44口径のリボルバー拳銃を見る。
「仲間を援護するのは当然の事だろう」
そう言って、小さな、よく見ていないと気付かないほどの、小さな笑みを浮かべる。
「如月に伝えてくれ、今日はもう非番だ、とな。
それと、明日でいいから相棒と一緒に自警団事務所に来るように言ってくれ、事後処理は俺がやる」
それだけ伝えると、さっさとその場を立ち去って行ってしまった。
「ほんと、無愛想な奴だ」
軽く苦笑しながら、小さく呟くエルであった。





その日の夜、さくら亭―――
「ねぇねぇ!マリアに魔法教えて!」
マリアの声が響き渡る。
「だ〜か〜ら〜…駄目だって言ってるだろう…」
「如月〜…この子なんとかして…」
二人して疲れきった声を上げる。今日のカニとの一戦以後、ずっとこの調子なのだ。
「あんまり無茶言っちゃ駄目だよ、マリア」
トリーシャがマリアをなだめる。ちなみに、現在この場に居るのはトリーシャとマリアだけである。パティは店の方が忙しい。
「ぶ〜☆いいじゃない!魔法の一つや二つ、教えてくれたって!」
如月は睦月と顔を見合わせ、そして、一つ溜め息をついた。
「…これ以上、五月蝿くされるのはかなわんしな…いいか?」
「今の状況が改善されるならオッケー」
相棒の許可を貰った如月が、マリアの方を向く。睦月の方は、未だにテーブルに突っ伏している。
「はぁ…、マリア」
「教えてくれるの!?」
眼をキラキラと輝かせながら身を乗り出してくる。
「結論から言えば…お前には使えん。以上だ」
「…なによそれ!!?マリアが子供だからって馬鹿にしてるの!?」
如月の言葉に激怒するマリア。手抜きの返事だったから無理もないが。
「マリア、失敗なんてしないもん!!だからあの魔法教えてよ!あの光や炎がバーッと出る奴!」
「だから、本当に無理なんだよ。マリアじゃなくても!たとえ、世界一の大魔術師だろうと!
俺と睦月以外の存在には、絶対使用不可能なんだ!!」
「マリアなら使えるかもしれないじゃない!!」
「無理!!」
あまりにも強く断言した如月に、トリーシャが質問する。
「えっと、それって如月さん達のオリジナル魔法って事?」
「違うよ、トリーシャ。俺達の使った魔法は……聖霊魔法なんだ」
聞き慣れない単語に、首を傾げる二人。
「聖霊魔法…?精霊魔法じゃなくて…?」
「ああ、これは上位の精霊魔法にも言える事なんだが、その聖霊と契約を交わした人間にしか使用できないんだ」
「えっと…ごめんなさい如月さん、聖霊と精霊って同じ物じゃないの?」
「ん〜、似てるけど全く別のものよ、トリーシャ」
いつの間にやら復活した睦月が、トリーシャの背後から答える。
「わっ!?お、脅かさないでよ、睦月さん。ビックリしたじゃないか〜」
「ははは、ゴメンゴメン。とりあえず、そこの女の子黙らせる為にも、聖霊と精霊の違いを説明しよっか」
「そうだな、と言っても、余り詳しく説明すると訳がわかんなくなるからな。簡単に説明するとしよう」
その言葉に『一応』マリアも大人しくなる。多少の興味はあるようだ。
「まず、聖霊と精霊の一番の違いは…その数だ」
「数?」
「そう、精霊の数なんて物は…数えるだけ無駄だ。星の数ほどいるんだからな」
「え?確か学校で精霊の数は六体だって…」
「トリーシャ達が使っている精霊魔法に使われているのが六体って事。
土の精霊を例にとれば…石・泥・沼・砂…と、いった具合に、細かい物にまで存在している」
「へぇ〜…全然知らなかった…」
「それで、聖霊の方はどうなの?」
早く教えて欲しいのか、マリアが急かす。
「はいはい。で、聖霊の方だけど、こっちは八体しかいないんだ」
「八体!?たったそれだけしかいないの?」
「ああ、光・闇・樹・月・土・風・水・火の八体だ。んで、力の大小だけど…これがはっきりしないんだ」
「はっきりしないって?」
「どうやら、術者の力量と精神状態に左右されるらしい。時には精霊王をも凌駕する力を発揮するけど、
ルーンバレット並の威力しか出せない時も有る。…とは言え、俺達は結構使い慣れてるから威力の変動はそこまで極端じゃない」
軽く笑って、コーヒーを一口飲む。続いて睦月が話し出す。
「で、こっちの方が重要なんだけど…聖霊は、精霊の力の源なの」
凄まじい勢いでジュースを吹き出す二人。
「で、でも、精霊は……」
「っと、ゴメン、言い方がまずかったわ。正確に言えば、精霊の力をさらに高める事が出来るの」
焦るトリーシャだったが、睦月の言葉に冷静さを取り戻す。しかし、それでも驚くべき事だ。
「この事は私達にもよく解らない。世界の構造が――以下中略――で、聖霊達も教えてくれないのよ…」
「まっ、どうしても知りたいって訳じゃないから、別にいいんだけどね」
呆然とするトリーシャ。マリアは世界の構造〜の下りで頭を抱え込んでいる。
「最初に言ったと思うけど、聖霊魔法を使いたかったら、聖霊と契約を結ばなくちゃならない」
「て事は、契約を結べばマリアにも使えるのね!?」
「結べればね」
その言葉に、俄然張り切りだすマリア
「ふっふっふっ…それならまだマリアにもチャンスはあるんじゃない☆」
「えっと、如月さんは樹の魔法と、光の魔法を使ってたから、その二つは如月さん」
「睦月が使ってたのが火…って事は後五つ!!」
トリーシャも加わり、盛り上る二人。しかし―――
「盛り上がっている最中に悪いが…もう、契約できる聖霊は残っていないぞ」
『へ?』
いきなりそんな事を言われ、呆然とする二人。
「もう全ての聖霊が契約を交わしているんだ」
「えー!?」
「誰が契約を交わしたの?」
大声を上げるマリアと素朴な疑問を口にするトリーシャ。反応が全然違うな。
「俺と睦月」
「へ…?」
「俺が光・樹・土・水の四大聖霊と」
「私が闇・月・風・火の四大聖霊と契約を交わしているの。ごめんねー、期待させちゃったみたいで」
そう言って頭を下げる睦月。如月はあさっての方を向き、ポリポリ頭を掻いている。
「な、なによそれ!?それじゃ、最初からマリアには使えないって事!?」
「だから最初に言ったじゃないか。『お前には使えん』って」
「そんな〜…」
「ははは、残念だったねマリア」
突き付けられた事実に、あからさまに落胆するマリア。
「お詫びに夕飯ぐらいは奢ろうか?」
「ご飯はいいから魔法教えて!!」
「残念ながら、聖霊魔法以外では皆と同じような魔法しか使えない」
「ぶ〜☆」
マリアは、しばらくぶーたれてはいたが、料理が運ばれてくると表情を一転させ、嬉々として食べ始めた。
如月達も、食事を開始する。と――
「やっぱりいたか、睦月」
その声に顔を上げると、目の前――つまり、マリアの後ろにレニスが立っていた。今日のお供はレミアである。
「レニスじゃない!久しぶりねー」
「旦那ほっといて何やってんだよ」
「……人妻の自覚…ある?」
いきなりの突っ込みにテンションダウンする睦月。その様子に周囲の人間からも、笑い声が上がる。
結局、この日は三人の思い出話に花が咲き、夜遅くまでさくら亭の灯が消える事はなかった。
中央改札 交響曲 感想 説明