悠久幻想曲 ティクス
第九話 誰が為に――
ここは―――どこだ――――?
サァァァ……
草の揺れる音―――?
パチャン……
水―――?
寝ている子供…?
ああ――ここは―――――
「…ク!アーク!!」
「うるさいな…」
目を開けると逆さまの顔が見えた。ったく、昼寝ぐらいさせてくれ。
「今日は絶好の昼寝日和なんだ…お前も寝たらどうだ?」
「ボクは君を呼んでくるように言われてるんだ。だから一緒に昼寝は出来ない」
そんな事言って…七割方俺の言う通りになるんだよな。
「アーク、今日の掃除当番サボっただろ」
「いいじゃないか、今日は皆の機嫌が良いんだ。…なにか良い事でもあったのかな?」
「…精霊達の事かい?相変わらず仲が良いんだな」
そう言って、俺の顔から目をそらし、美しい湖畔―――ローズレイクを眺めた。
「……ちょっと羨ましいな…」
「何が?」
「精霊達の事さ。ボクには見えないけど―――今だってキミの傍に居るんだろ?」
こいつの言う通りだ。現在、俺の肩、胸、左足にシルフィード。頭、右手にイシュタル。腹、首、腰にウンディーネと、ゴチャゴチャたくさんまとわりついている。当然の事ながら、ここにはイフリートはいない。水の属性が強すぎるからだ。
「うむ。シルフィードとウンディーネが涼しい風を送ってくれるからな、昼寝には絶好の場所だ。と言う訳で、一緒に寝よう」
「ダメ。今日が何の日か、忘れたわけじゃないんだろ?」
残念。今日は三割の方へ傾いたようだ。ま、今日ばっかりは起きねばなるまい。
「なんたって今日は、俺の大事な妹にしてお前の将来の妻の七歳の誕生日だからな『義弟』よ」
「なーーーーーーっっっっ!?」
一瞬にして真っ赤だ。面白い奴だな。
「照れるな照れるな、そんなの周知の事実だぜ」
「なーーー!なーーーー!なーーーーー!?」
「妹も最近、お前の事ばかり話してるんだ。俺の妹は将来美人になるからな、絶対逃がすなよ?お前以外に、任せられる奴がいないんだか らな。あ、分かってると思うけど、泣かせたら…………コロすよ?マジで」
ま、こいつならそんな心配も必要無いけどな。
「あぁぁぁ……、いいから!早く行くよ!もう皆、さくら亭で準備を始めてるんだから…」
「分かってるって!じゃ、行くぞルーファス!!」
「あっ!待てよアーク!」
望んだんだ…
ただ、一人の幸せを…
でも、もう一人の幸せも守りたくて…
だから…決めたんだ……
あいつが、守ってくれるなら…
俺は………
眼が覚める。
いつもと変わらぬ天井。
変わらぬ部屋。
そして―――――
「――――おはよう、レニスクン」
「――――おはようございます、アリサさん」
いつもと変わらぬ挨拶を交わす。