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第十一話 たまにはこんな日も
ティクス


悠久幻想曲    ティクス

第十一話 たまにはこんな日も




コン
「はい」
トン
「そこに来るか…」
日曜の昼下がり、さくら亭の一角ではレニスとエルが真剣な表情でチェスに興じていた。
「はい、クイーンもらうよ」
「な…!?」
「そろそろ詰みだけど?」
「む〜…」
会話の内容からするとレニスが圧倒的に有利らしい。
「…エルが苦戦してるところなんて始めて見た」
エルがクイーンを取られた辺りで遊びに来たトリーシャが感心した声を上げる。
「ついでに言えば、今までの対戦成績は23:0でレニスの勝ち」
カウンターの上でジュースを飲んでいたイリスが耳打ちする。
「うそ!?あのエルが?」
トリーシャが驚くように、エルは決して弱くはない、むしろかなりの実力の持ち主と言えるだろう。
そのエルが、手も足も出ないというのだから、レニスの実力は推して知るべしというところだ。
「エルも半ばムキになっちゃってるからね、一勝ぐらいしないと気が済まないんじゃない?」
半ばふて腐れたような顔で言うイリス。どうやらエルにレニスを取られているのでご機嫌斜めらしい。
「ったく!エルもいい加減に諦めれば良いのに…」
「ハハハ、エルにだってプライドって物があるわよ。そう簡単にはレニスを手放さないんじゃない?」
「エーー!!だってさっきも如月に26連敗したのにまだやってんのよ!?勝てないのは分かり切った事じゃない」
パティが笑いながらエルを弁護(?)するも、イリスはさらに仏頂面に磨きをかけ、新たな事実を暴露する。
「き、如月さんにも…?そりゃあエルもムキになるよね…」
二人の様子を窺うと、レニスがチェックメイトした所であった。
「はい終わり。…さて昼飯を…」
「まだだ!こうなったらとことんまで付き合ってもらうよ…」
「エ、エルせめてご飯を…」
「さ、もう一回だ」
そのまま25回戦に突入する。
「もしかして…レニスさんって…」
「そ、ご飯食べに来たくせに、未だに食べられないでいるのよね」
「来たとき、丁度如月がほくほく顔で出て行ったからね〜…何があったと思いきや…」
「レニスさんかわいそう…あっ、ボクBランチね」
同情しつつもしっかり食事を注文するトリーシャ。向こうではレニスが恨めしそうに睨んでいる。
もっとも、余所見をしながらでもエルを追い詰めているのだから流石としか言いようが無い。
「レニスもとっとと負ければ良いのに…馬鹿正直に勝っちゃうんだから」
「手加減でもしようものならエルが黙っちゃいないでしょうね」
その時、さくら亭の戸が開き、銀髪の女性が店内に入ってきた。
カランカラン―――
「おや?エルの相手が変わってるね…」
「あ、おかえりリサ」
「もー!聞いてよリサ!エルったらね…」
勢いに任せて今の状況を説明する。
「アハハハハ…じゃ何かい?ボウヤは如月のとばっちりで、今だ昼飯にありつけないと?」
「そーなのよ。しかもエルったら勝てない相手に何度も挑んじゃってさ」
「諦めないって事は悪い事じゃないんだけど…ま、ボウヤの仕事は体が資本だからね」
そう言って小さく笑いながら二人に近づいていく。
「エル、いい加減にボウヤを開放してやったらどうだい?」
「しかし…」
「せめて食事の時間ぐらい与えてやっても良いだろう?」
「…わかった。少し大人気なかったかもな」
「(少しか!?)よし!やっと飯が食える。有難うリサ」
「いいから早く食べてきな。エル、そっちがよければチェスの相手ぐらいはしてやるよ」
「ああ、それじゃお願いしようか」



レニスがカウンターに座ると、イリスがすぐに頭上を占領する。
「…イリス、今はやめてくれ」
「やだ」
「レニスさん大変だったね〜。でも意外だな、レニスさんや如月さんがエルよりもチェスが強いなんて」
「昔はああいうのは、しょっちゅうやってたからな、自然と強くもなるさ」
そう言って注文したまま放っておいた(拉致された)Cランチに手を付けようとして怪訝な顔をする。
「どうしたのレニス?」
「いや、ご飯が冷めてない…食べる直前に拉致られたはずなのに」
「あ、それならさっきパティさんが暖めなおしてたよ」
「そーそー、『あいつには冷めたご飯で充分よ』とか言ってたくせに、冷めるたびに厨房に引っ込んで暖めなおして…」
「ちょ、ちょっとトリーシャ、イリス!」
二人の発言に慌てふためくパティ。
「そうなのか?すまんな、パティ」
「べ、別に大した事じゃないわよ、それに冷めたご飯をお客に出すなんてこと出来る訳無いじゃない」
少し怒った口調で早口でまくし立てる。ちょっぴり頬が赤かったりするが…。


数分後―――
「……んじゃお礼に、レニス君特製アミュレットを作ってあげよう」
あらかた食べ終えたレニスがそんな事を言ってくる。
「特製アミュレット?」
「もっと簡単に言えばアクセサリーか?たいした力は無いからな」
「あんたそんな物作れるの?」
「デザインは…言ってくれると助かるな。まあ、細かい細工は出来ないから多少大雑把になるけど」
そう言って食べ終えたCランチの容器をパティに渡す。
「んで?どんなのにする?」
「う〜ん……作ってくれるのは嬉しいんだけど、そういうのはシーラにあげたら?きっとあの子も喜ぶと思うけど」
「そこら辺は大丈夫。どっちにしろ皆の分も作るつもりだから」
「そうなの?」
「ああ、そのついでにお礼がてら、二人の分をちょっと特別な物で作ろうかなって」
「二人?」
「パティとシーラ。この前シーラに助けてもらってね」
「シーラさんに?」
意外な言葉に首を傾げるトリーシャ。シーラがレニスを助ける状況というのが思い付かない。
「この前教会に行った時に子供達に捕まってね、シーラという尊い犠牲を出してそこを突破したんだ」
「要するにオトリに使った挙句見捨てたわけだね」
「ぬう…まあ、そういう事だな。その後でシーラを見かけたんだがかなり…な……」
「つまり、お礼じゃなくてお詫びって事?」
「ハハハ…で、パティにあげる分だけど…無難なところでペンダントや指輪、ブレスレット…そんなところか」
「う〜ん…イヤリングっていう手もあるけど」
そのまま話を続けているうちに、誰かが声をかけて来た。
「レニス様ここにいらしたんですか」
「フレアか、どうしたんだ?」
困った顔でレニスの眼前に浮遊しているフレアは大きな溜め息をついた。
「『どうしたんだ?』じゃありません。もう仕事の時間はとっくに過ぎてるんですよ?」
その言葉にギョッとした顔で備え付けの時計を見ると、
「三時十分…」
「マジ…?」
呆然と時計を見つめるレニスとイリス。さらにフレアは言葉を続ける。
「イリスに何度呼びかけても返事は無いし……とりあえず今は、アレフさんとレミアが仕事をやってくれています。速く仕事に戻って下さい」
その言葉を最後まで聞かない内に立ち上がり、無言のまま凄まじい勢いで走り出す。
「ア、アタシも行くってば!ちょっと待ってよ!」
続いてイリスも飛び出して行き、
「お騒がせして申し訳ありません。それでは、私も仕事が有るのでこれで失礼します」
ぺこりとお辞儀をした後、フレアもさっさと出て行った。
「…………レニスさんって時々マヌケだよね」
「…………そうね」



「ボウヤも何やってんだか…」
コトン
「バカなやつ」
トン
「半分はあんたのせいだろう?」
苦笑交じりに言いながらもエルのビショップを盤上に倒す。
「そんな事もあったかな?」
こちらも小さく笑いながらお返しとばかりにナイトを取る。と―――

ドッカーーーーーーーン!!!!!!

「………あのお嬢さまか」
「……そっか、あれから一ヶ月か」
また騒がしくなるな、と思いながら複雑な表情を浮かべる。
どうやらエンフィールドの名物が復活を果たしたようだ。
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