中央改札 交響曲 感想 説明

第十四話 紅の子猫、白銀の子犬
ティクス


ニャアオ。
なぜか、ジョートショップに子猫がいた。


その日、ジョートショップの手伝いに来たアレフたちを出迎えたのは、珍しい赤毛の子猫だった。
「どうしたんだ、その猫?」
「かわいい〜。レニス君抱いてもいい?」
「あっ、マリアにも抱かせて!」
その子猫は、愛くるしい瞳で一躍女性陣の人気者になったようである。
「可愛がるのはいいけど潰さないでくれよ」
「うん!」
こちらも見ずに返事を返し、そのまま子猫の所へ直行するマリア。
「大丈夫かな…」
「拾ってきたのか?あの猫」
「それは違うぞアレフ。……っと、お前もいたな、そう言えば」
そう言って自分の足元に屈み込み、何かを抱き上げる。
「クゥ〜ン」
「今度は子犬か……」
アレフの視界に飛び込んできたのは、見事な銀毛を持つ子犬であった。
「こっちの子も可愛いわね」
「なんなら抱くか?パティ」
「いいの?」
「本人が嫌がらなければな」
そのまま子犬を差し出す。パティは恐る恐ると言った感じで手を伸ばし―――
「へぇ…、大人しい子なのね」
子犬はパティの手の中にいた。特に暴れたりもせず、頭をパティの肩に預けている。
「ねえねえ!マリアにも抱かせて!」
「あんた、さっき子猫の方に行ってなかった?」
「いいじゃない。ねえ抱かせてよ〜」
「レニス、いい?」
「さっきも言った通り、本人が嫌がらなければいいぞ」
「やった〜☆」
喜び勇んだマリアは、そのまま子犬に手を伸ばし―――
「キャン!キャン!」
「キャ!な、なによ!?」
突然、子犬はマリアに吠え掛かり、拒絶の意を示す。
「ハハハ、残念だったな。マリア」
「ブ〜っ☆なんでマリアに抱かせてくれないのよ〜」
「そりゃあ、あれを見たら抱かれたい何て思わんだろう」
そう言って視線を横に向ける。
その先には、先程マリアに抱かれた赤毛の子猫が、ボロボロの状態でシーラの手の中にいた。
「え、えっと…、不幸中の事故よ☆」
「ぬぅ…、あの猫、何て羨ましい……」
「なんか言ったか?アレフ」
「い、いや、別に…」



「さてと、今日の仕事の分担だけど……」
「ちょっといいか?」
「なんだ?アレフ」
「その猫と犬、一体どうしたんだ?拾ってきたわけじゃ無さそうだし…」
その言葉を聞き、ああ、という顔をしたレニスは、二匹を持ち上げ、机の上に置いた。
「ちょっとした事情で大怪我してたんでね、この半年間ずっと精霊界で療養してたんだ。そう言えば皆には紹介してなかったな」
「せ、精霊界ですか?」
シェリルが少し驚きながらこちらを見ている
「うん。こいつらの怪我、治してくれるって言ってたから」
「名前は何て言うんだ?」
「こっちの赤い猫が『赤琥』(せきこ)。こっちの白い犬が『白狛』(しらこま)。はい、挨拶」
レニスの声に応えたのか、一声鳴く二匹。
「赤琥に…白狛?変わった名前を付けるんだな」
「いいんだよ。本人達も気に入ってるんだから」
そう言って微笑むと、レニスは今日の仕事の分担を始めた。




「と、言うわけで、俺達五人は誕生の森に薬草採取に向かっている」
「それはいいんだが…」
「どうした?アレフ」
何か言いたげなアレフの声に、きょとんとした顔をする。
「なんでその二匹も連れて来ているんだ……?」
レニスの足元には、先ほどの子猫と子犬が当然の如くそこにいた。
ちなみに、今いるメンバーはレニス、アレフ、クリス、シーラ、パティである。
「連れてきてるんじゃない。ついて来てるんだ」
「おいおい」
「ま、邪魔になる訳じゃないし、いいじゃないか」
そう言いつつ、赤琥を抱き上げ顎を撫で始める。
その様子を見てアレフも「まあ、いいか」と考えを改める。
「おいで白狛」
見ると、白狛の方もパティが抱き上げている。
「白狛の事、相当気に入ったんだな、パティ」
「まあね。アレフよりかは数十倍可愛いから」
「さいですか」
そうこうしている内に目的の場所に着く。周囲はちょっとした森になっているようだ。
「さて……、シーラ」
「何?レニスく…キャッ!」
突然赤琥を投げ渡され、思わず小さな悲鳴をあげる。
「ちょっと預かっといてくれ。トーヤからの依頼で、向こうにある薬草を取ってこなきゃならないんだ」
「それなら一緒に……」
「断崖絶壁を駆け上る事が出来るならついて来てもいいぞ」
『行ってらっしゃい』
多少顔を引きつらせながら答える一同。そんな事が出来るとすればリカルドぐらいのものだろう。…リカルドでも無理か?(笑)



レニスを除いた一同は、あらかたの仕事を終え、現在、赤琥と白狛の二匹と戯れていた。
「ほ〜れほれ、ネコジャラシネコジャラシ」
パタパタパタ
「ミャッ!!」
サッ!バシ!
「ふっ、まだまだ甘いな。赤琥」
「ミュ〜……」
「アレフ君〜。ボクにもやらせてよ〜」
「あー、まてまて。もうちょっと」
「さっきもそんな事言ってたじゃないか〜」
せがむクリスを無視して再び赤琥をからかい始めるアレフ。
シーラとパティは、少し離れた場所からその様子を見ていた。ちなみに、白狛は現在シーラの腕の中でのんびりくつろいでいる。
「あ〜あ…、まだやってる」
「ふふ、赤琥君ガンバレ〜」
「それに比べて…、この子、すごく大人しい子よね」
「う〜ん…、ボール遊びならどうかな?」
「ボールなんて持ってるの?」
「……レニス君なら」
「そう言えば、いつも思うんだけど。レニスのボール。一体どこから出してるのかしら?」
今ではエンフィールドの不思議の一つである。
「ラピス君なら解るんじゃないかな?」
ちなみに、ラピスは自分の肩まである大きさのライフルを、どこからともなく取り出す。
「!……グルルル……」
「どうしたの、白狛?」
突如、シーラの腕の中にいた白狛が腕の中から抜け出し、森の奥のほうに向かって唸りだす。
赤琥の方も同様だ。
「なにか…いるの…?」
「わからない…二人ともこっちに来るんだ」
アレフの指示に従い、一箇所に集まる四人。赤琥はシーラが。白狛はパティが抱きかかえている。
「クリス…、念のために、何でもいいからいつでも攻撃魔法を撃てるようにしておいてくれ……」
「う、うん」
二匹は今だ森の奥へ向かって唸り続ける。
「まずいな…武器を持って来ていない。まともに戦えるのはシーラとクリスだけか」
「数にもよるけど……、ゴブリンやコボルトなら問題はないと思う」
「………じゃ、オーガは?」
「アレフ!余計な事言わない!」
つまり非常にまずい、ということだ。
ガサガサッ!!
「……!?」
「来る……!」
「グルルル……!」

ガアァァァァァァァァ!!!!

「オーガ!?」
「しかも…デカイ!」
パティとアレフの悲鳴じみた声に重なり、クリスの力ある言葉が放たれる!
「アイシクル・スピア!!」
ザシュウ!!
「つっ!?今のうちだ逃げろ!!」
「ダメ!後ろにも!!」
今度は正真正銘の悲鳴を上げ、パティが後ずさる。
そこには、前方にいるオーガに負けぬとも劣らない大きさを誇るオーガが、退路を塞ぐようにして立ちはだかっていた。
「…横からも。完全に囲まれたな」
続き、左右の茂みからも同じ大きさのオーガが出現する。
「ハハハ…、絶対絶命ってか?」
「なに諦めてんのよ!どうせ死ぬならもっと足掻いて死になさい!」
「…そうだな。せめてシーラとパティだけでも逃がさないとな…」
「アレフ君!?」
シーラが悲痛な叫びをあげた時、それは『目覚めた』。

ガギャアアアアアァァァァァァ!!!!!

「……え?」
突如、逃げ道を塞いでいたオーガの巨体が吹き飛んだ。
そして、

グギョアアアアアァァッァァァァ!!!!!

右側にいたオーガも同じく吹き飛ぶ。
「な、何が……?」
「ア、アレフ君…あれ……」
クリスが震えながら明後日の方向を指差す。そこには――――
「なに…?あれ…?」

ガァオオオオオオン!!

そこには、紅の毛皮を持ち、美しく輝く金色の瞳をこちらに向ける燃え盛る尾を持った虎の姿があり―――

ウオーーーーーーーーーーーーーン―――・・・・

そして、その隣では、白銀の毛皮を持ち、決して溶けぬ柔らかい氷の尾を持つ狼が、透き通った空色の瞳を天に向け、遠吠えを上げていた……
「きれい……」
「俺達を…助けてくれるのか…?」
呆然とする一同に紅の虎が歩み寄ってくる。
《下がっていろ》
突然、頭の中に声が響いてくる。
「え!?な、なに?」
慌てる一同を尻目に、虎は前方と左側のオーガに、狼の方は先程吹き飛ばされたオーガ達に踊りかかった―――――



「す、すげえ…」
あれから数秒後。虎は一瞬で前方の一匹を噛殺し、狼は二匹のオーガを瞬殺する。残ったオーガも虎により大きなダメージを負っていた。
「…でも、なんなんだろう?あの二匹」
「…わかんねえよ。でも、助けてくれた事に違いはない」
二匹は四人を守るようにその場にたたずんでいた。
《去れ!魔物よ!この方達は貴様ごときが傷つけてもいい方達ではない!》
再び、あの頭に直接響いてくる声が聞こえる。
「これはやっぱり…?」
「…うん。この虎の声なんだろうね」
「なんか…私達VIP待遇みたいね」
「うん……」
虎の声に同調するかのように、狼も唸り声を上げオーガを威嚇する。
しかし、オーガは何も感じていないかのように再び襲い掛かってくる。
《無駄な事を…》
呆れたような声(?)を出し、あっさりオーガに止めを刺す。
「……あ、ありが…!?」
お礼を言いかけたシーラは、何かを思い出したのか、顔が見る見るうちに青くなっていく。
「せ、赤琥君と白狛君は!?」
「えっ?…あれ?たしかとっさに抱きかかえて…オーガに囲まれて…え…?」
「ちょっ、ちょっとまてよ。それじゃあ…!!」
「大変!!探しに行かなきゃ!」
「で、でも、またさっきみたいな魔物が―――」
「そんな事言ってる場合!?」
言い争う内に、紅毛の虎が寄ってくる。
《それならば心配は無い》
「へ?」
「二匹の事知ってるのか!?」
《うむ。それはだな……むっ》
何かに気付いたかのように茂みの方を睨みつける。
「ど、どうしたんだ?また、オーガか?」
多少うろたえるアレフ。だが、二匹の獣は黙って茂みに近づき…………頭を垂れた。
「二人ともご苦労様。助かったよ」
『レニス(君)!!』
茂みから出てきたのは、四人を置いて薬草を取りに行ったレニスであった。
「スマン。もっと早く来るつもりだったんだけど…こっちの方にもオーガが来てな」
「ご、ごめんなさいレニス君!せ、赤琥君と白狛君が…!」
「ほへ?」
今にも泣き出しそうなシーラを見て、レニスはなぜかマヌケな声を出す。
「…もしかして、気付いてないのか?」
「気付いてないって……何にだよ?」
アレフの問いを聞きながらレニスはチラと獣達の方を見る。
「…それじゃあ、改めて自己紹介。はい、挨拶」
促されるままに二匹の獣は前に出てくると己の名を名乗った。
《我はレニス・エルフェイム様を主とする者。名を赤琥》
《我はレニス・エルフェイム殿を仮初の主とする者。名を白狛。以後、お見知りおきを》
『…………………は?』
今度は、レニス以外の面々がマヌケな声を上げる。
「うーん。派手に変身するから気付いてたと思ったんだがな」
《レニス殿。あの状況で気付けと言うのは酷ではありませぬか?》
「そんなにヤバかった?」
《はい。正直、力が戻るのがもう少し遅ければ怪我で済んだかどうか…》
「それはすまなかった。今日はフレア達も出払ってたから…」
ほのぼのした会話を繰り広げる三人(一人と二匹)と言葉も出ない四人。
「とりあえず、聴きたいことがあるんなら帰りながらにしよう。またオーガが出たらめんどいし」
一同はレニスの提案を受け入れ帰路についた。




「つまり、この二匹は俺のファミリア(使い魔)なんだ」
さくら亭の一角。レニス達は採取した薬草を依頼主へと手渡し、自警団に先程遭遇したオーガの事を報告した後この場所に集まり、レニスから赤琥と白狛についての説明を聞いていた。先程のメンバーに加え、他の仕事に回っていた面々も集まっている。
「ちなみに、いつもは二匹ともこんな感じだ」
そう言って、自分の足元に座り込む、赤毛の子猫と銀毛の子犬を指差す。
「はぁ〜……化けるもんだねぇ」
感心した声を上げるリサ。その足元に赤琥がじゃれつく。
「ついでに言えば、赤琥の方はその姿の時には、仕草や言動はまるっきり猫そのものになる」
白狛の方は性格に変化は無いらしい。
「すごく納得」
「へぇ〜…だからこんなに大人しいんだ」
パティは再び白狛を抱き上げ、なんとはなしに笑みを浮かべる。
「あの、レニス君…いいかな?」
「ん?なんだクリス」
先程から黙っていたクリスが、急に声をかけてきたので多少驚いたものの、すぐに聴く体制に入る。
「白狛君って……もしかしてレニス君の使い魔じゃないの?」
「…よくわかったな」
意外な事を指摘され驚くレニス。
「うん。だって白狛君が自己紹介した時に『仮初の主』って言ってたから」
「その通り。白狛は俺の友人の使い魔だ。今は俺が預かってるけどな」
《ああ。それにレニス殿に、我のような氷の化身を生み出す事は、至難の業だからな》
白狛の言葉に首を傾げる一同。赤琥が生み出せるのなら、白狛のような使い魔も生み出せるのではないだろうか?
《ふっ、属性の問題だ。レニス殿は『炎滅の帝王』と呼ばれるほどの火炎魔法の使い手。反面、氷結魔法は苦手としているからな》

ドガァッ!!

「……………………………ピクピク」
レニスが机に突っ伏していた。
《ミャ?どうしたのニャ主》
赤琥が頭をペシペシ叩くと、ようやっとレニスが顔を上げる。
「……白狛。なんだその二つ名は?」
《レニス殿のことですが》
《今更何をいってるのニャ》
レニスの抗議は使い魔二匹にあっさりと切り捨てられる。
《一年前は『爆炎の支配者』でしたか?そちらの方が宜しかったので?》
「いや、そうじゃなくて。…だれがつけたんだそんなの?」
《ふむ。言い出しっぺは睦月殿ですね。その後は如月殿、我主様、レイリア殿にガイエン殿でしょうか。……ああ、イリス殿もいましたね。そういえば》
次々と自分の知り合いの名前が挙げられてゆき、ついにはイリスの名前さえも出てきた時、レニスは再び机に突っ伏していた。
「ほう…、レニスがあの『爆炎の支配者』かい。とてもそんな風には見えないけどねえ」
傭兵をやっていたリサは噂話を聞いた事があるのか、なにか知っているようである。
「なにか知ってるの?リサ」
「聞きたいかい?」
ニヤリと笑いながらリサが問い掛けると、当然とばかりに全員が頷く。
「まあ、知っていると言っても、噂しか聞いたことは無いんだけどね。やれ砦を一人で焼き尽くしたとか、やれ水平線が出来るほどの大きさの湖の水を一瞬で蒸発させただの眉唾なものばかりさ」
「ほう……」
「やめろリサ。白狛も余計な事を言うな」
「ふふっ、照れてるのレニス君?」
「シ〜ラ〜……」
しかし、その二つ名は一同にとって納得できるものであった。なぜなら、レニスが少し前から使い出した魔法のほとんどは、火炎・爆裂系の魔法だったからである。
「…………ん?」
袖を引っ張られる。なんだろうと思いレニスが顔を向けると―――――
「へへへ……☆」
満面の笑みを浮かべるマリアがいた。
考えてみれば当然である。火炎・爆裂系の魔法は威力、見た目、共に派手なものが多い。そして、マリアは派手な魔法を好む。結果。
「マリアにま「却下」
台詞の途中で返事をし席を立つ。
「ぶ〜☆なんでよ〜。少しくらい教えてくれても!」
「お前には絶対に教えん!!」
そして、レニスとマリアの口論が始まる。
「やっぱりこうなるのか」
「マリアだしね」
「もしかして、エルとの喧嘩よりも発生頻度が高くなるかもな」


その後、一同の予想は的中し、レニスにまとわりついているマリアの姿が頻繁に目撃されるようになった。
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