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第十六話 汝炎を統べし者(前編)
ティクス


第十六話 汝炎を統べし者(前編)




9月27日。
レニス、如月、睦月の三人はジュートショップに集まっていた。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
三者三様に椅子に座り込み顔を伏せている。
「…………………」
「…………………」
「…………………」
フレア達三姉妹と赤琥、白狛の使い魔もいつもの元気が無く、ただ、レニスの傍でうなだれているだけである。
「…………………」
「…………………」
「………………ふ」
誰も口を開かない中レニスはゆっくりと口を開き――――
「ふぁ〜〜〜……むにゃ」
……大きな欠伸をした。
つまりこの三人+五は―――


だれていたりする……………



「たまにはこんな風に過ごすのも良いよねぇ〜……」
「ああ…、お日様が暖かい……」
「さいこ〜だねぇ……」
《ミャ〜…》
「こういう日は紅茶でも飲んでゆっくり過ごすのが良いんですよね……」
「ク〜……」
全員動く気配すら無く、秋の麗らかな日差しを楽しんでいた。
「……………はにゃ〜」
「はっはっはっ…、俺達ダメ人間だな〜…」
《今日の日差しは今までで一番ですな……》
「白狛までだれてる……珍しい」
《私とてこのように過ごしたくなる日もあります》
「だよねぇ〜…」
《そうです……ふぁ〜…》
そんなこんなでここにいる一同は、皆幸せそうな顔でだれていた…が、
そんな幸せの時間はあっさりと崩れ去る。たった一人の小さな乱入者によって……


「やあっと見つけた!!!」
「……ふへ?」
突如、ローラが凄まじい勢いでジョートショップに飛び込んできた。
「……どしたの、ローラ?」
「如月お兄ちゃんでしょ!トリーシャちゃんを泣かせたのは!!」
「………はへ?」
いまだにぼ〜っとしている一同は何の事だか分からない。
「だから、如月お兄ちゃんでしょ!!トリーシャちゃんを泣かせたのは!!!」
「…………ふも?」
いい加減目を覚ませお前等…………
「さて、だれるのもこれぐらいにして……何があった、ローラ?」
「切り替え早いぞレニス……」
今だにボーッとする頭を覚醒させながら如月がぼやく。
「トリーシャちゃんを泣かせたって……今日?」
こちらも覚醒しきっていない頭で訊ねる睦月。
「そうよ!!」
「だったら如月は無実だな。こいつは今日ずっと俺達と一緒にいたし」
「…そうなの?」
「そうなの」
「うーん、だったらアレフさんかな?」
「それも違うと思うぞ。あんな奴だがそういう所はしっかりしてるからな」
信用が無い悪友に一応のフォローを入れる
「で?トリーシャがどうかしたのか?」



「ふむ……」
ローラから一通りの事情を聞いたレニスは、しばらく考え込んでいたが不意に顔を上げ如月の方を向く。
「如月、今日リカルドはどうしてる?」
「リカルド隊長か? …確か魔物退治の任務についていたはずだが…?」
「それだ。行くぞ」
「そうね」
「おい。一体どう言う事だ?二人とも何か知っているのか?」
自分の返答で納得する二人を見て慌てて理由を尋ねる如月。
「ふむ…。まぁ今更隠しても仕方ないしな…」
「あのね如月。今日はトリーシャちゃんの誕生日なのよ」
「はあっ!?聞いてないぞ!!」
「当たり前だ。トリーシャから頼まれて秘密にしていたからな。今日は引きずってでもお前を連れて行く予定だったんだが……」
「んで、その誕生日にリカルドさんが仕事を優先していなかったら……トリーシャどうする?」
しばし黙考――――
「泣くな、確実に」
「と言う訳だ。ローラ、お前はさくら亭に行ってくれ、たぶん暇人が二、三人はいる筈だからな、手伝わせる。レミア、一緒に行け」
「うん、わかった!!」
「はい主様」
元気に返事をし、扉をすり抜けて行くローラと窓から飛び出すレミア。
「如月、リカルドがどこに行ったかわかるか?」
「スマン、部隊が違うからそこまでは」
「じゃあとっとと聴きに行け!!フレア、お前も行け」
「ハイ!」
勢いよく飛び出して行く二人。
「睦月、赤琥、白狛、情報が集まるまでは少し時間が掛かる。それまで念のために三人で町の中を探して来てくれないか?」
「りょーかい!レニスは?」
「裏門の方から外に出る。あいつの事だから直接文句を言いに行く可能性が高い。何かわかったら赤琥を通じて連絡する。イリス、来い!」
「うん!」
そのままの勢いで店を飛び出すレニスとイリス。少し遅れて睦月達が飛び出していった……。



「ちっ…世話の掛かる…!」
今まで見せた事も無いような真剣な表情とスピードで町を駆け抜けるレニス。
「レニス!姉様から連絡!私達がビンゴ!!しかももう裏門抜けちゃったって!!」
「マジか!? すぐにレミアに伝えろ…赤琥!俺達が当たりだ!すぐに来い!!」
迅速に指示を出しながらもそのスピードは衰えず、むしろ更に上がって行く。
「あの親子はぁ〜……今度絶対何か奢ってもらうぞ!!」
「当然!!」
真昼の通りを疾駆しながらそんな事を強く心に誓う二人であった。




《ここで匂いが途切れています》
「なに? …どういうことだ?」
レニス達は町の外に出た所で如月、睦月、そしてさくら亭にいたリサ、アレフ、パティ、エルの六人+四と合流し、その後白狛と赤琥の鼻(笑)を頼りに森の中を進んでいたのだが…………
《周囲にもそれらしい匂いは有りません》
ちなみに、今、二匹は本来の姿に戻っている。
「精霊にでも聞くか…?」
「無理ね。何があったのか知らないけど、皆逃げてるわ」
「んじゃ飛ばすか?」
レニス達の会話についていけない面々は、多少苛立たしげにしながらも黙っている。
《…? 主、奇妙な匂いがします》
「どんな感じだ?」
《よく分からないのですが…、空に立ち上っているような…!!》
《赤琥!これは…!!》
「どうした!?」
二匹のただならぬ様子に緊迫した声を上げる。
《何者かは分かりませんが……この奇妙な匂いの持ち主がトリーシャ殿をどこかに連れ去った模様です!》
「なに?」
《申し訳ありません。彼奴は空へと逃げた模様で…我らではこれ以上の追跡は不可能です》
「そんな!!」
白狛の宣言に悲痛な声を上げるパティ。
「落ち着いてくださいパティさん!」
「フレア…、でも!」
「手掛かりは有ります」
レミアの静かな声に皆が一斉にそちらを向く。
「先程、シルフィードが一人、私の所にやってきて教えてくれました。『フサに聞けば分かる』と」
「フサ?…確かこの近くに集落があったな…行ってみよう」
そのまま凄まじい勢いで走り出す如月。
残された面々もそれに続いた。



その後、フサの集落に着いたのはいいが、人間に対して不信感を持っているのか、なかなか中に入れてもらえなかったが、精霊であるフレア達の口添えにより、なんとか集落の長と話をする事が出来た。
「………つーわけで何か知ってたら教えて欲しいんだけど」
「その少女ならここに迷い込んできた。だが、その子のせいで近くの山に住むドラゴンが怒ってしまったのだ。生け贄を出さないとわれわれが滅ぼされてしまう」
「……で?」
嫌な予感を抱えながら続きを促すレニス。
「黒い服を着た男が来て、その子を生け贄に差し出せば、ドラゴンの怒りが収まると言ってきおった。だから、生け贄に差し出した」
「なんだって!!?」
「エル、落ち着け!」
長の非情な一言に激昂するエルと、それを片手で制すレニス。
そして、その後ろでは――――
「…………………クッ」
「如月……」
「……で?そのドラゴンのいる山はどこだ?」
感情を完全に押さえ込み、平静を保つレニス。が、その瞳は全ての物を焼き尽くすかのような怒りに満ちていた。
「そこに行ってどうするつもりじゃ? …教える事は出来んよ。これ以上ドラゴンの怒りに油を注ぎたくはないからの」
レニスの様子に気付いていない長はそんな事を言い放つ。
………自分が、今、相対している人物が、どのような存在か気付かずに…
「たぁすけてぇ〜!!」
突如響き渡った叫び声に全員が反応し、慌ててそちらの方を向くと…、
「ドラゴン!!」
フサの子供が一人、ドラゴンに捕まって連れ去られようとしていた。
「あの男、嘘を吐いたのか!?」
いきなりの事で狼狽する長を完全に無視し、レニスは行動に移る。
「好都合!あのドラゴンを追うぞ!!」
「おう!」
森の中を人間離れしたスピードで駆けるレニスと如月。
他のメンバーもそれに続き、残ったのは睦月だけであった。
「……なんと言う事…ん?お主は行かんのか?」
「貴方達に言っておかなければならない事があるから」
そう言って背中の剣を半ばまで抜き、勢いよく鞘に戻す。
その瞬間、周囲の空気が別の物に変わる。
「…!? 何をした!」
「この集落に結界を張ったわ。これで誰もここに進入する事は出来ない」
「……なに? ……何故我らを守るような事をする」
睦月の行動に納得がいかない長は訝しげに訪ねる。が、睦月から返ってきた言葉に凄まじい戦慄を覚えた。
「ふふっ、その代わり、ここから出る事も出来ないわ。 …もし、トリーシャちゃんに傷一つでもついていたら…ドラゴンに代わって私が貴方達を皆殺しに……いえ、滅ぼしてあげる」
死の天使を思わせる美しい微笑みを浮かべ、宣言する。
結界を張ったのは、誰一人逃がさない為―――
「な…!?」
「如月は私の大事な家族で…何物にも変えがたい私の半身。その彼の心の傷を、貴方達はえぐろうと……いえ、既にえぐってるわね。…そんな連中を生かしておくほど私は優しくないの」
「そ、そんな勝手な理由で…!」
「貴方に言われたくないわね。……今の自分達の生活を守る為に他人の命をあっさり捧げる事が出来るんだもの」
「しかし、ワシ等をどうこうした所で…」
「確かに何も戻って来ないんだろうけど……でも、私の気が済むわ」
「な、な……」
「…トリーシャちゃんが無事だったら結界は解除してあげる。…ふふ、祈るぐらいはしておきなさい」
最後に小さく微笑むと、先程のレニスや如月以上のスピードで去っていった……。




「……何がしたいんだお前等」
突然襲い掛かってきた所をあっさり撃退されたアルベルトと自警団員二人を呆れた顔で見つめるレニス。
「お前等もトリーシャを助けに来たんだろ?だったら邪魔だけはするな」
「素人は引っ込んでろ!トリーシャちゃんは俺達自警団が助け出す!!」
レニス達にトリーシャを助け出されると自警団の面子にかかわると思ったのか、それともただレニスが気に入らないからなのか引く気配を見せないアルベルト。が、
「…いい加減にしろアルベルト!!そんな事を言ってる場合か!?」
「如月!? …だ、だが」
「こんな所でガキの喧嘩やってる場合じゃないんだよ!そんな事も分からないのか!?」
滅多に見ない友人の激情に、いつもなら反発するアルベルトも毒気を抜かれる。
「ちっ、わぁーったよ!…如月に免じてここは協力してやる」
《……世話の掛かる人だ》
白狛の呟きに一瞬苦笑するが、すぐに顔を引き締める。そんな暇は無いのだから。







程なく山の頂に辿り着く。そこはかなりの広さがあり、中央には大きな岩が鎮座している。
が、その場にドラゴンの姿は無い―――
「何もいない…?」
「レニス!あそこ!」
イリスの指差す方向には縛られ、猿轡を噛まされたトリーシャとフサの子供の姿があった。
二人とも石牢に入れられてはいるものの、特に何かされたと言う気配は無い。
「トリ…っ誰だ!!」
すぐさま駆け寄ろうとした如月だが、異質な気配を感じ、周囲を警戒する。
他のメンバーもそれに習い各々の武器を構えた。
「…人間ごときが何の用だ」
その声に空を振り仰ぐ。
そこには漆黒の鱗を輝かせる禍々しい姿を持つドラゴンがその背の翼を羽ばたかせていた。
「魔竜…!?こんなバケモノがこんな近くにいたなんて…!?」
「そんなに凄いのか…?」
フレアの驚く様を見たアレフが、そっとリサに耳打ちする。
「凄いなんてもんじゃない…こりゃあヤバイよ」
訊ねられたリサは何時に無くマジである。
「まだいる!!」
レニスの言葉に答えるようにトリーシャのいる石牢の横――つまりレニス達の真正面に――赤い鱗を持つドラゴン、火竜が現れる。
「まだいるの…?」
「ぼやくなパティ。 …それにまだいるみたいだ」
レニスのその言葉に、パティだけでなくアレフや自警団員二人も嫌そうな顔をする。
「しかも…鎧竜…『アーマードラゴン』かよ」
広場の中央に鎮座していた大きな岩の表面にひびが入り、あっさりと崩れ落ちる。
「Gurrrrrrrr!!」
その下から現れたのは、全身を強固な鎧で武装したかのような姿を持つドラゴンであった。
「なんか…ドラゴンって言うよりも動物のサイみたいだな」
「ええ、他のと違って空は飛ばないブレスは吐かない知能は低い動きは遅い、代わりに防御力は、ほぼ『絶対』よ」
アレフの呟きに、嫌そうな声で早口にその竜の説明を簡単にするイリス。敵に回ればとことん厄介な相手である。
「『絶対』って…どうすんだよ」
「……見た所、成体じゃない、まだ子供の鎧竜…なら、何とかなる」
冷静に相手を観察するレミア。その間に魔竜は地上に降り立ち、火竜と一緒に鎧竜を挟むように並ぶ。
「トリーシャを返してくれ……って言っても聞かないよな?」
「この娘は我らに捧げられし贄だ……返して欲しければ、力ずくで奪い返すが良い!!」
「じゃあそうさせて貰う!!」
そのまま魔竜の方へと突撃する如月。それと同時にレニスは全員に指示を出す。
「睦月は如月と一緒に魔竜を頼む!俺とパティとエルは火竜を!残りは鎧竜の相手を頼む!」
「「「おう!!」」」
「アルベルト達には鎧竜の相手を頼みたいんだが…?」
「貴様に指示されるのは気に食わんが…そんな事言ってる場合じゃないな、いいぜ!」
「頼む!」
そして、戦いの幕は切って落とされた。
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