第十七,五話 汝炎を統べし者(おまけ)
「如月君、聴きたい事があるのだが?」
「はい、なんでしょう?」
フォスター家に帰る道すがら、リカルドが話し掛けてきた。
ちなみに、睦月は「行く所が有る」と言って森の方へ向かい、
レニス達は、各々誕生パーティーの準備やプレゼントの用意の為、一時帰宅している。
「私が鎧竜を斬った時に睦月君が私に掛けた魔法……あれは一体?禁呪の類ではないようだが…」
「…禁呪じゃないのは間違いないですがね。…聖霊の力ですよ」
「…?」
如月の答えに訳が分からないといった顔をするリカルドとアルベルト。
同じく分かっていないトリーシャが代表して訊ねる。
「え〜と、どう言う意味?如月さん」
「トリーシャには前にも話しただろう? 聖霊は精霊の力を高める事が出来るって」
「あ、そういえば」
「ほー、便利なもんだな。どのぐらい強く出来るんだ?」
興味津々といった感じで首を突っ込んでくるアルベルト。
「え〜っと、まず普通の『ブースト』で数倍の威力だな。大抵の奴はこれで十分だ。
で、今回睦月が使った『オーバーブースト』は十数倍。調子の良い時では数十倍だな」
「「数十倍!!!??」」
思わず大声を上げる二人。
後ろの方でリカルドも呆気に取られたような顔をしている。
「調子の良い時は、だよ。それに身体に掛かる負担も相当の物だからな、乱発は出来ないんだ」
「は〜…、まあ、そうそう都合の言い物は無いって事か」
「そーゆーこと…ん?あいつは…」
こちらに向かって歩く人影に気付いた如月がその人物に声をかける。
「おーい、ラピスー!」
「如月…?トリーシャや隊長達も一緒か。どうした?」
「ああ、今からトリーシャの誕生パーティーをするんだが、お前も来ないか?」
「うん!ラピスさんも来てよ!」
しかし、誘われたラピスは少々困った顔をして首を横に振った。
「すまない。まだ仕事が終わっていないんだ」
そう言って一礼し、自警団事務所の方へ去っていくラピス。
「仕事か……それじゃあ仕方ないね。って、如月さんにアルベルトさんどうしたの?」
トリーシャが振り返るとそこには目を点にした二人がラピスの背中を見つめていた。
「あ…あのラピスが…?」
「まだ、仕事が終わってない…?」
「「明日は嵐か……」」
「珍しい事もあるものだな…」
見るとリカルドまで驚いた顔になっている。
「もー、皆一体どうしたっていうの?」
「…ラピスはな、入団以来ずっと勤務時間内に仕事を終わらせていたんだ」
「しかも終業の一時間前にはきっちりその日の仕事を終わらせてる」
「へ〜、ラピスさんって凄いんだ。…あ、そういえば…」
何かを思い出したトリーシャが、でっかい汗を垂らしながら動きを止めた。
「どうした、トリーシャ?」
「えっと…その…家……ぐちゃぐちゃ」
「「「は?」」」
「お父さんが来ないって聞いたときに、その………ごめんなさい!」
「はあ……まあ、仕方ないか。それなら速めに行って準備し直さないとな。
ほら、俺も手伝うからそんな顔すんなって」
「うん、ありがとう如月さん!」
嬉しそうに笑い如月の腕に飛びつくトリーシャ。
その光景を見てリカルドは優しい父親の微笑みを浮かべていた。
(ふむ、要注意人物はレニス君ではなく如月君だったか…。
そうそう簡単にトリーシャを任せることは出来ん。さて、どうするか…)
……頭の中は完全に親馬鹿していたが。
フォスター家についた一同は、扉を開けようとして鍵がかかっていない事に気付いた。
「…中から人の気配がするぜ…空き巣か?」
「さてね、リカルド隊長の家に空き巣の入るような命知らずがこのエンフィールドに居るとは思えんが」
「入れば分かるさ、…気配からして空き巣の類では無さそうだ」
そのまま慎重に扉を開き―――
パン!パパン!パーーーーン!!!!
『トリーシャ(ちゃん、さん)誕生日おめでとう!!!!』
「…………へ?」
完全に不意を突かれ思考が停止するトリーシャ。
「皆どうしたんだ?それに、この飾りつけは…」
一同を代表して如月が疑問を口にすると…
「ラピスさんです」
「ラピス?」
シェリルの口から以外な人物の名前が飛び出す。
「はい。ラピスさん『トリーシャの事だから家の中は滅茶苦茶だろう』って言って
皆を集めてここでパーティーの準備をしてたんです」
「そうよ〜。あのラピス君が町中を走り回って皆を集めて、
…何事かと思ったら『パーティーの準備を手伝ってくれ』だもんね〜♪」
シェリルに続いて、由羅がコロコロと笑いながら告げる。
「なるほど……って、どうしたトリーシャ?」
リカルドの隣で、トリーシャはボロボロと大粒の涙を流していた。
いきなりの事で戸惑う一同が心配そうに見つめる中、トリーシャはゆっくりと口を開いた。
「…うれしいんだよ…みんな、ボクの為にわざわざ…」
「トリーシャ……」
しばらく泣いていたトリーシャだが、涙を拭い顔を上げた。
「みんなありがとう!ボク、とっても嬉しいよ!!」
そこには、パーティー会場の輝きが霞むほどの、まばゆいばかりの笑顔があった。
その後、家に帰っていたレニス達も合流。
仕事が終わったラピスと、知られざる影の功労者ロビンもやって来て(強制連行とも言う)
フォスター家の灯火は、夜遅くまで輝き続けていた。