悠久幻想曲 ティクス
第十八話 久方ぶりの邂逅
深い森の中。そこに佇む一つの影があった。
「…………………」
その人影は小さな溜め息を吐き、しばし、見えない空を見上げていたが
サァァァァァァ―――――――
「……!!」
一陣の風が過ぎ去った後、その人影はハッと何かに気付き、その面を上げた。
「これは…あの人の……」
「どうしたの?」
いつの間にか傍らに来ていた小さな影が訝しげに訊ねる。
「見つけたの…あの人を…。マスターを…見つけた……」
「!! 本当に!?」
「ええ、この力は…間違い無い!」
驚きと喜びを同時に表に出しながら訊ねる小さな影に、相手も喜びを隠そうともせずに答える。
「だったら早く行こうよ!ねえ、どっち?西?東?」
地面に置いていた荷物を慌しく背負うと、手を引っ張りながら相手を急かす。
連れのそんな様子に苦笑しながらも、自分も手早く荷物をまとめて立ち上がる。
「もうすぐ日が暮れますが……そんな事を言っていたらマスターを捕まえる事なんて夢のまた夢ですし……
それに、この辺りの魔物はそんなに脅威ではありませんしね。行きましょう、向かう先は……」
そう言って地図をしばし見つめ、目的地を告げた。
「……エンフィールドと言う町ですね」
所変わっていつものさくら亭―――
「ふぁ………」
「眠そうね、アンタ…」
店のカウンターで大欠伸をかますレニスに呆れた声を返すパティ。
「昨日の騒ぎを考えれば当然だと思うぞ…」
「まあね、結局徹夜で大騒ぎだったし」
「何でお前元気なんだよ……」
「アハハッ、店じゃあんな騒ぎは日常茶飯事よ」
笑いながら手にしていた皿を棚に戻し、レニスに向き直る。
「今日は仕事はいいの?」
「昨日が昨日だし、アリサさんが無理矢理休みにしたんだ。
……まあ、助かったかな」
カランカラン――――
「いらっしゃい…って、シーラにマリアじゃない」
「こんにちわレニス君、パティちゃん」
「パティ―。オレンジジュースちょうだい!」
「……異色の組み合わせだな」
店に入ってきた二人を見てそんな事を呟いたが、幸いにも誰にも聞かれなかったようだ。
「…レニス君、大丈夫? 疲れてるみたいだけど……」
「ん? へーきへーき。ちっとは疲れてるけど心配するほどでもない」
「なら、良いんだけど…」
心配そうにこちらを見るシーラの様子に「そんなに疲れてるように見えるかなあ」などと
思いながら、ブラックのコーヒーをすする。
「ねえねえレニス。マリアに魔ほ「教えない」
皆まで言わせずにマリアの言葉を遮る。
基本の魔術もろくに制御できない今のマリアには、レニスの使う魔術は高等すぎるのだ。
制御がしっかりしているシェリルやクリスなら多少は使えるかもしれないがこちらは魔力不足である。
「ぶ〜☆教えてく「そうだ、丁度良いから二人に約束の物を上げようか」
マリアの文句を無視し、キョトンとしているパティとシーラの二人の前に、それぞれ小さな小箱を置いた。
「……約束の物って?」
「しばらく前にアミュレット作ってやるって約束したろ? それが完成したんだよ」
「ホントに作ってくれたんだ……開けても良い?」
嬉しそうに訊ねる二人に黙って頷くレニス。
その後ろでは、マリアがこっそりすねていた。
「……うわぁ…」
「きれい…」
思わず感嘆の声を上げる二人。
シーラの手には純白の羽を象ったブローチが,
パティの手には吸い込まれるような深い漆黒の石で出来たペンダントがあった。
「…ホントにいいの?こんなの貰って」
「いいって。二人の為に作ったんだし。…ああ、それ、二人専用だから」
「専用?」
いきなりの奇妙な一言に首を傾げる。
「特に深い意味は無い。……強いて言うならマリア対策だ」
「ぶ〜〜〜☆どう言う意味よ!」
確かにマリアはマジックアイテムを集めるのが趣味だが……
信用されてないねえマリア。
「冗談だ。…本当に意味は無い。只の俺の趣味だ。
……まあその分強力な物になったが」
「ホントに身も蓋も無い理由ね……」
のほほんとコーヒーをすするレニスにマリアがしぶとく寄ってくる。
「ねーレニスー」
「……魔法は教えないしあれは二人の物だぞ?」
「ぶ〜☆そうじゃなくて!……マリアの分は無いの?」
少し寂しそうなその言葉にしばし視線を彷徨わせ―――
ポンッとその手を叩いた。
「ああ、そうだったそうだった。悪い、すっかり忘れてた。ほれ、マリアの分だ」
そう言って取り出したのは、所々に黒の装飾を施された金の鍵だった。
「鍵…?」
「まあ使い方としては…」
そのままゆっくりとマリアの前に鍵を持って行き……回す。
ガチャン
「え?え?」
いきなりそわそわしだしたマリアを置いて突如光球を生み出しそれを窓の外で固定する。
「マリア。あの火球に向かってルーン・バレット撃ってみろ」
「レ、レニス君?」
「ちょっとレニス!店を潰す気!?」
「どう言う意味よ、パティ!」
「そのままの意味よ」
散々な言われようである。
その様子を見たレニスは苦笑しながらマリアを促した。
「大丈夫だパティ。ルーン・バレットは火属性だから暴走しても俺が押さえられる。
……さ、やってみろ」
パティはまだ文句を言いたそうだが、シーラに押さえられ渋々と引き下がる。
「むー…それじゃ行くわよ!ルーン・バレット!!」
マリアの手から放たれた四つの火球は、暴走する事無く
互いに絡み合いながらレニスの生み出した光球へと一直線に跳んで行き―――
ドォォォーーーーン……
「…マリアが魔法を成功させた……!?」
「明日は嵐かねえ…」
「お、アレフにリサじゃないか。二人も昼飯か?」
いつの間にか後ろに居た二人に、特に驚いた様子も無く声をかけるレニス。
ちなみに、後ろの二人の顔は驚愕の色に染まっている。
「ふふん☆これがマリアの実力よ♪」
「あ、これは二人の分な」
得意になっているマリアを再び無視し、アレフとリサにこれまた綺麗な細工物を渡す。
「……? これは?」
「もしかして前に言ってたアミュレットか?」
首を傾げるリサとおぼろげに憶えていたらしいアレフ。
「ああ、とは言っても作ってる最中に気が変わってな。アミュレットと言うよりはマジックアイテムになってしまった。
んで、アレフに渡した「ちょっと!無視しないでよレニス!!」
いきなり台詞を遮られ、ちょっと機嫌の悪そうな顔で振り向くと………
負けず劣らず不機嫌そうな顔をしたマリアがいた。
「なんだ…?」
「あの、レニス君。マリアちゃんさっきからレニス君のこと呼んでたんだけど……」
「…そうなのか?」
「そうよ!!」
「それは悪かったな。ついでに言っておけばさっきのはお前の実力じゃないぞ」
いきなりな台詞に頬を膨らませるマリアだが、文句は
レニスの台詞に遮られる。
「マリアの魔法の失敗の原因に、制御力の無さは勿論だが魔力の過剰供給が上げられる」
「「「「「かじょうきょうきゅう?」」」」」
?顔の一同を見渡し一息つくと再び説明を始める。
「ああ。…例えばルーン・バレットに必要な魔力が5だとする。
しかしマリアの場合は――無意識の内にだろうが――5だけでなく
8だの10だの必要以上に魔力を注ぎ込む」
左手を右肘に当て、右手の人差し指を上に向けクルクル回しながら説明を続けるレニス。
「その結果、元々の制御力の無さも加わり暴走――――と言う訳だ。
……で、制御力は本人に頑張ってもらうとしても。せめて魔力の過剰供給だけは
何とかしようと思って作ったのがこの鍵だ」
「……これ?」
「ああ、一回『施錠』すれば一日につき二時間は最低限必要な魔力しか供給されなくなる。
いつもより制御しやすかっただろ?」
「う〜……」
ニヤリと笑うレニスに唸り声を返すしかないマリア。
実際、いつもより簡単に制御できたのだから反論も出来ない。
「その二時間をどう使うかはマリアの自由だ。『開錠』すればいつも通りに
魔力は供給されるようになるからな」
そう言って笑いながら再び鍵をかざし――――
カチャリ
「これでいつも通り。首に掛けれるようにしといたから持ち歩いとけ。
……さて、次はアレフとリサの―――?」
二人の方を向こうとするレニスの動きが止まる。
「…どうした?」
「いや…、ふむ…まさか…」
「レーーーーーニーーーーーースーーーーーーーー!!!
どがしぃ!!
「ぐふぉっ!?」
突如、30cm程の大きさの影がレニスに突撃。
レニスはものの見事に崩れ落ちた。
「ふっ、イリス……見事な…天空×字…拳…だ……
…もう、俺が教える事は…何も……無い…がくっ」
「こんな所で寝るなぁーーーーー!!早く起きてよレニス!!!」
影―――イリスはレニスの胸の上に座り、襟を掴んでがくがく揺らし始める。
「あうっ、あうっ、あうっ、イ、イリス、ちょ、ちょ、ま、ま、て」
「起きろーーーーー!!!」
ガンッ!ガンッ!ゴンッ!グチャッ!ゴスッ!
何気にヤバ気な音がしたが、まあレニスなら大丈夫だろう。
「はいはい。これでも飲んで落ち着きなさいイリス」
「え?あ、う、うん、ありがとパティ」
「レ、レニス君…? 大丈夫?」
心配そうに声をかけるシーラだが、赤い花畑の中にいるレニスは
小さく手を振ることしか出来なかった。
「んくっ、んくっ、んくっ………はぁ〜おいしい」
「落ち着いた? で、一体何があったのよ?」
「ハッ、そーだった!!」
当初の目的を思い出したイリスは再びレニスの元へと飛んで行く。
「レニスッ…て、どうしたの?」
「…いや、なんでもない。…何があったんだ?」
川向こうから帰還したレニスは、多少フラフラしていたがシーラに肩を貸してもらい何とか立ち上がっていた。
「あのね、あの二人がこの町に来たの!」
「……!? 二人って、あの二人か!?」
「それ以外にいないでしょ? 今は姉さんがジョートショップに連れて行ってるはずよ。
……早く行かないとここに来るよ?」
「よっし!そう言う事なら…悪い、アミュレットの説明はまた今度な!」
そのまま謝罪の言葉を残し、さくら亭を飛び出すレニスとイリス。
そして―――
「…………わざわざ来なくてもいいのに」
「いやぁ〜、なんか凄く気になってさあ」
溜め息交じりのレニスの言葉に爽やかな笑顔で答えるアレフ。
他にも、先程さくら亭に居た面々は全員付いて来ている。
既にジョートショップは目の前だ。
「で?あの二人ってどんな奴なんだ?」
「ん?…俺がここに来るまでずっと一緒に旅してたんだけど…連絡が取れなくてなあ……
エンフィールドにいるって伝えられなかったんだ。で、その二人が偶然この町に来たらしい。
どんな奴かは……目の前だし、会った方が早い」
アレフの質問に適当な答えを返しながら扉を開け、中に入る。
「アリサさーん、今帰りましたー」
「お邪魔します」
「あら、お帰りなさいレニスクン。
シーラちゃん達もよく来てくれたわね」
レニス達を出迎えたアリサの声と同時に、二階から誰かが降りてくる音がする。
「アリサおばさん、誰か来た…!」
そこには、腰まで届くであろう艶やかな朱金の髪をポニーテールにまとめ、
驚愕と歓喜の色に染めた世にも珍しいヘテロクロミア(金銀妖瞳)の瞳をこちらに向ける、
『美』と言う言葉が霞むほどの美しさを持つ12,3歳の少女が居た。
「へぇ〜…綺麗な子だな〜……」
「アリサさん。あの子は…?」
驚くアレフ達だが、一人だけ違った反応をする人間が居た。
「ミキ!」
「レニス兄さん!」
その顔に満面の笑みを浮かべ、凄まじい勢いでレニスに抱きつく少女。
「よかった…! 無事だと信じていたけど…心配したんだからね!!」
「スマン。連絡を取ろうにも自分が居た場所がどこかもわからなかったし…それに…」
「うん。わかってる。大体の事はフレア達から聞いたから。
……でも、フィリア姉さんにはちゃんと伝えた方が良いと思うよ?
僕の前では平気そうな顔してたけど、僕よりも…辛かったと思うから」
「…ああ、わかってる」
少女の頭を撫でながら優しく答えるレニス。
いつの間にかレニスの傍らに居たイリスは姿を消し、
アレフ達は「レニスの妹か?」などと考えながら抱擁を続ける二人を
静かに見守っていた。
「……で、フィリアはどこだ? お前と一緒にここにいると聞いたんだが…?」
「クスクス…それはね、…レニス兄さんの後ろだよ」
「え?」
そう言われて慌てて振り返ると、アレフ達の後ろ―――
ジョートショップの開いたドアの向こう側に、足元まで伸びた蒼銀の髪を風になびかせながら
朱金の少女に勝るとも劣らぬ美貌を歓喜に染め、静かに佇む年の頃17,8の少女。
「………フィリア」
「………」
「えっと……元気…だったか?」
「………はい」
「あーっと………」
まるで数年ぶりに再開した不器用な恋人達のようなやりとりを
数回繰り返した後、
「…心配かけてすまなかった、フィリア…」
「……!!」
次の瞬間、蒼銀の少女はレニスの胸の中にいた。
「心配…したんです!…目の前で、消えられて…私も、ミキも…!」
「…すまない」
レニスの腕の中で子供のように泣きじゃくる蒼銀の少女。
その様子を嬉しそうに見つめる朱金の少女。
そして、蒼銀の少女が泣き止むまでに30分の時間を要した――――
「すみません、お見苦しい所をお見せして……」
「そんな事はありませんよ、お嬢さん。さ、これで涙を拭いて…」
ゴスッ、メキョッ
「…フィリア姉さん、こいつには近寄らない方が良いよ?」
「そうねミキ、気をつけるわ」
「何気に過激ね……」
血の海に沈むアレフを視界に入れないようにしつつ、
それを実行した朱金と蒼銀の少女――ミキとフィリアを呆れた目で見るパティ。
「とりあえず自己紹介か…? 二人ともアリサさんは知ってるよな?
だったらこっちの皆からだな」
そう言ってジョートショップのメンバーの紹介を始めるレニス。
……アレフがレニスの親友(悪友とも言う)と知ったときは
ちょっと怯えた眼をレニスに向けたが、彼が一言
「ゆるす」
と言った瞬間、元に戻っていた。
レニスはレニスでシーラ、パティ、マリアの機嫌がなぜか悪いので
アレフの事に構っている暇は無かったのだが。
「あ、自己紹介は自分でやるよ、レニス兄さん」
勢いよく立ち上がったミキは、元気な声で自己紹介を始める。
「僕の名前は魅樹斗(みきと)・エルフェイム、12歳!
趣味は絵を描くこと、特技は家事全般です!」
「レニスの妹か? 兄貴に似ずに可愛い娘だな♪」
復活していたアレフがそう言った瞬間―――
ビキッ
ミキ――魅樹斗が持っていたカップにヒビが入った。
「………へ?」
「…だ…れが……」
背中に仁王を背負った魅樹斗が、ゆっくりとアレフに近づいてゆく。
あまりに自然な為、アレフが気付いた時、彼の目の前には既に、朱金の輝きがあった。
「……妹だってぇぇぇぇぇぇええええええっ!!?」
ドスッ
「ごはあっ!?」
再び血の池に沈むアレフ。
殴る力を100%衝撃に転化する素晴らしい一撃だ。
「……一応言っときますけど。僕『男』ですから。
あ、それとレニス兄さんへの暴言も許しません」
「あらあら、ダメよ魅樹斗クン。暴力はいけないわ」
「……ごめんなさいアリサおばさん」
とりあえずもう一撃、と呟きこっそり迅速に実行する魅樹斗。
「へ、へえ…そ、そうなんだ…」
この子をこのネタでからかうのは止めよう。
残った女性陣はその事を深く心に刻んだ。
「次は私の番ですね」
穏やかな微笑みを浮かべながらフィリアが立ち上がる。
アレフの事は既に異次元の彼方である。
「私の名前はフィリア・エルフェイム、17歳です。
趣味は料理。特技は…歌…でしょうか」
最後は少し自信が無さそうだったが、これでそれぞれの紹介は終わった。
はずなのだが―――
「ねえねえ!フィリアと魅樹斗ってレニスの兄妹なんでしょう?
レニスの子供の頃ってどんな感じだったの?」
マリアの放ったこの一言により、この場に嵐が吹き荒れる。
「いえ、私達と『マスター』の間に血の繋がりはありません」
「「「「は?」」」」
「ですから、私達とマスターの間には…」
「そ、そうじゃなくて!い、いや、それもあるんだけど………マ、マスターって…誰?」
慌てながらも真剣な表情でフィリアに問い詰めるパティ。
その様子をレニスと魅樹斗。そしてアリサがのんびりと眺めている。
…………のんびり出来るのは今のうちだけだろうから…
「えっと…? マスターはマスターですよ?」
「………………レニス君の、事?」
「はい」
シーラが搾り出すようにして出した台詞にあっさり首肯するフィリアさん。
「……レニス…?」
「はいはい、聞きたい事はなんだ?フィリアが俺の事を『マスター』と呼ぶ事か?
それとも俺達の血が繋がってないのに全員の名前が『エルフェイム』と言う事か?」
毎度の事なのか、かなり疲れた口調の答えが帰って来る。
冷静に返されたせいか言葉に詰まる一同だが、
とりあえず答えてはくれそうなので名前の方を先に聞く事にした。
「じゃ、まずはミキの方から。
ミキは記憶喪失でな、名前は覚えているんだが姓名の方はダメだった。
で、無いよりはマシと判断して俺の姓名をやった」
意外な事実を知らされ、少し申し訳無さそうな顔をするリサ。
しかし同時に、こんな大事な事を簡単に教えるレニスに多少の怒りも感じていた。
「フィリアに関しては元々姓名が無かったからな。
そのままじゃ不便なんで俺の姓名をやった。……これが、俺達の名前が同じ理由だよ」
「姓名が無い?」
いつの間にやら再び復活したアレフが疑問の声を上げるが
レニスはそれを片手で制し言葉を続ける。
「ミキの記憶喪失については本人の許可を貰って話している。
…で、フィリアの姓名が無い、と言う事だが、これはもう一つの質問に関係するから―――」
そこで言葉を切る。
しばし考え込む素振りを見せるとフィリアに視線を向ける。
「…いいと思うか?」
「マスターの御心のままに…」
躊躇い無く頷くフィリア。
その行動が絶対的な信頼から出た物か、それとも
ただひたすらレニスを盲信し、依存しきっている為に出た行動かは
一見しただけでは判断できなかった。
「…なら話そう。フィリアが俺の事をマスターと呼ぶ理由だが……」
「レニスの趣味だったりして☆」
ガンッ
「………」
「フィリアは天使だ」
マリアを黙らせたレニスが、あっさりとした口調でそれを告げた。
『!!!』
「正確にいえば堕天使だな。なんせ神を裏切って俺について来てるんだから。
これがフィリアが俺を『マスター』と呼ぶ理由だ。納得したか?」
「いや、納得って…」
「これでも妥協点なんだ、初めの頃なんか『ご主人様』だぞ?
…それに比べれば、マスターと呼ばれる事なぞ児戯に等しい」
大して変わっていないと思うのは気のせいだろうか?
「なんなら証拠をお見せしましょうか?」
「「「「「え?」」」」」
フィリアの声に反応し、皆が彼女の方を振り向くと
そこには一対の純白の羽を背負い、神々しく輝く蒼銀の天使がいた。
「堕天したのになぜか羽が白いままなんだよなー。
ま、綺麗だからいいんだけどさ」
レニスの台詞に顔を赤くするフィリアとむっとする三人娘。
アレフとリサは面白そうにその様子を見ている。
「修羅場だな」
「これから面白くなりそうだねえ」
9月28日 晴天
新たな騒動の種を内に秘めつつも
エンフィールドは今日も平和であった。