中央改札 交響曲 感想 説明

第十九話   変わり続けし不変なるもの
ティクス


第十九話   変わり続けし不変なるもの



フィリア達がエンフィールドに来て数日が経ち、
彼女達はジョートショップに住み込んで(その時もちろん一騒動あったが)
共に働く事になった。


「アリサさん、マスター、お茶が入りました」
「ん」
「まあ、わざわざありがとう」
優雅な動作で静かにカップを置いた後、
フィリアはテディと(で)遊んでいる魅樹斗にも声をかける。
「た、助かったっス〜…」
「フィリア姉さん砂糖入れてくれた?」
「ええ、ちゃんと入れたわ」
嬉々としてテーブルにつく魅樹斗。
ちなみに、精霊と使い魔達は現在『お出掛け』している。
「…おや?誰か来たな…アレフか?」

カランカラン―――

「レニスー、居るかー?」
「目の前にな」
いつになく晴れやかな顔のアレフが入ってくる。…なんか不気味だ。
「機嫌が良いな…何かあったのか?」
「いやいや、さっきまで両手に花の状態だったからな。…と言っても、片方の花は毒花だかバギュ!?」
「……何か言ったかしら?」
後ろからアレフに一撃を加えながらパティが現れ、さらにシーラもやって来た。
「珍しい組み合わせだな。どうしたんだ?」
「マスターに何か御用ですか?」
首を傾げるレニスと頬に手を当てながら訪ねるフィリア。
確かに、珍しいと言えば珍しい組み合わせである。
「ああ、ちょっと特訓に付き合ってくれないか?」
「…………かなり久しぶりだな? お前の口からその台詞を聞くのも」
「まあな、この町の女の子って強い娘が多いからなあ、『守ってやる』位の事は言いたいし。
この間のような事もあるから…な」
暗に理由を問うたレニスに飄々とした顔と真剣な眼で答えるアレフ。
後ろの二人も黙って頷く。
「……ま、暇な時には付き合うって約束したしな。いいよ、行こうか」




そして、レニス達はローズレイクの辺にやって来た。
「……………のはいいんだけどな」
「……………この町の人達は仕事をしなくても良いのですか?」
「……………なんなんだろーね」
レニス、フィリア、魅樹斗の三人は、いきなり疲れていた。
理由は――――
「ほらほら、特訓するんだろう? いきなりそんな顔じゃせっかくのやる気が萎えちまうよ」
「俺の仕事が無いのは良い事さ♪」
「僕は如月さんに付いて来ただけ」
「んー、私は暇人なんだよね」
「リサ、如月、トリーシャ、睦月ぃぃぃぃぃ!!何でお前らまで来てるんだよ!?」
なぜか集まっていたギャラリーに向かって一声吠えるレニス。
最も、彼等だけならここまで怒鳴りはしない。
「はっはっはっ、レニス、怒るとのーみその血管が切れるぞ?」
「一番の原因はお前だぁっ!さくら亭ほっぽり出して何しやがる、陸見!!」
そう。そこにはお昼時の今、さくら亭の厨房に立っていなければならない男が存在していた。
「ま、気にせず始めろ。邪魔するつもりはさらさら無いから」
「そうさせてもらおう。…ちなみに、邪魔したら問答無用でセリカに突き出すからな?」
「ぐっ(汗)肝に銘じておこう」
「ねえレニスさん…なんでパティさんのお母さんの名前知ってるの?
しかも両親二人共呼び捨てだし…」
「さて!始めるぞ三人共…と、その前に」
トリーシャのツッコミを爽やかに無視したレニスは、
腰の後ろから長さ15cm程の棒、紅色のグローブ、半透明の刃の剣を取り出した。
ちなみに、解っているとは思うが、セリカはパティの母親の名前である。
「この棒はパティ、グローブがシーラで剣がアレフだ」
「レニス君これって……」
「言うまでも無いが勿論専用武器だ」
「やっぱり」
微妙に胸を張って宣言するレニスを見て苦笑するシーラ。
「この前パティの棒が燃やされたからな。新しい棒を作るついでに二人の武器も作ってみた。
基本攻撃力は今まで使っていた奴よりも上、勿論他にも弄くってるが」
「でも良いのか? この前アミュレット貰ったばかりなのに」
「あー、気にすんな。フィリア達が持ってきた俺の荷物の中に要らない武器がわんさか在ったからな。
それを鍛えなおして俺の『力』の欠片を封入しただけだから」
それを聞いた一部の人間は頬を引きつらせていたが、三人共気付いていないようで
嬉しそうに受け取っていた。
「まずはその武器のの能力を教えておこうか」
そう言って左手を右肘に当て、右手の人差し指を上に向けクルクル回しながら説明を始めるレニス。
最近わかった事だが、レニスは説明をするときはいつもこのポーズを取る癖があるようだ。
「まずパティの棒は最小で5cmに、最大で10mの長さに伸縮する。
この能力は無理の使う必要は無い。けど、持ち運びには便利だからな。
シーラのグローブは、両手の甲にある装甲を打ち鳴らす事によって指向性の超音波を放つ事が出来る。
上手く使えば超音波メスなんて懐かしい武器にもなるぞ。
最後にアレフの剣。これは剣よりも鞘の方が重要だな。
剣を鞘に収めた状態でナックルガードの内側にあるスイッチを入れると
マナドライブ式小型魔導砲になる。…簡単に言えば銃剣だな」
実際にその能力を使用しながら説明するレニス。
専用武器なのに何故レニスが使用できるのかは秘密だ(爆)
「と、言うわけで…説明も終わったし、始めるぞ」




数時間後―――――
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…………」
「だらしないぞ、アレフ」
雑草の上にへたりこんだアレフを見下ろしながら呆れた声を出すレニス。
「き、聞いてないぞっ…魅樹斗が……リサ並に強いって…!」
「うーん、そのぐらい解ってくれると思ったんだけどな?
俺相手じゃ特訓にならないし、必然的に魅樹斗がお前の相手になるんだよ」
「第一、なんだってあんなに強いんだ?異常だぞ」
大分息が整ってきたアレフが身体を起こしながら愚痴る。
12歳の子供に完膚なきまでに叩きのめされては、流石に愚痴の一つも言いたくなるらしい。
ちなみに、パティとシーラは向こうの方でフィリアと模擬戦をしており、
魅樹斗はリサと一進一退の攻防を繰り広げている。
「うーん、フィリアの奴遊んでないか? 魅樹斗の方は…もう少しスピードが欲しいかな。
シーラとパティはそろそろ限界か。如月と睦月は……あ、向こうでトリーシャと駄弁ってる。
…自警団の方はいいのかね? って、それよりも陸見は…あ、パティに野次飛ばしてやがる。
約束を忘れているようだな……」
全体の様子を見回すレニスにアレフが声をかけてくる。
「なあ…、今の俺って、どのくらい強いんだ?」
「気になるか?」
「当たり前だろう。訓練しても特訓しても完膚なきまでに
やられるんじゃ、どの位強くなったかなんてわかりゃしない」
憮然とした表情で吐き出すように台詞を紡ぐアレフに
レニスは苦笑した。
「じゃあ、解りやすく言えば…お前の今の実力はアルベルトより
一回り…いや、二回りくらい弱い。と言った所だな」
「げ」

ゴスッ

その答えに呻き声を上げたアレフの脳天に柄頭の一撃が加えられる。
「…あれでもアルベルトはリカルドを除けば自警団内で1,2を争う猛者だぞ?
それよりも二回り弱いだけなんだから、一般人から見れば十分強い」
「わざわざ一撃入れなくても良いじゃないか…」
「今のお前なら相手の実力を見定めるくらいの事は出来るはずだ。
それでも尚アルベルトの強さが解らないんじゃ修行が足りんと言う事か…」
「…へ?」
むんずっとアレフの襟を掴んで引きずり出すレニス。
「ちょっ、あの、レニス〜?」
「俺が相手をしてやろう。ちょうど暇だったしな」
「勘弁してくれーーーーー!!」
静かな湖畔に、哀れな男の声が響き渡った。



パティ達が休憩をしようとレニスの傍に来たとき、
彼の足元に真っ白に燃え尽きた人間が奇妙な呻き声をあげていた。
「みゃ…か…ちょ……ぱぴゅー…」
「ね、ねえ、アレフどうしたの、レニス」
「いやー、修行不足だったらしいからな、俺が相手したんだ」
ちなみに、こうなるまでに掛かった時間は3分である。
一体何をしたレニス………






休憩を終えた後、その場に居た全員と一通り手合わせした後(全勝)再び休憩に戻ったレニスに
陸見が近づいてきた。
「ごくろうさん」
「ああ、…それにしても、ホントに仕事に行かなくて良いのか?陸見」
「はっはっはっ、行かなくちゃ駄目に決まってるじゃないか」
「…………………」
「…………………」
「…変わってないな、お前」
「お前程じゃないさ」

レニスは自問する。

何も変わっていない。何も変わらない。

自分も。彼も。そして、恐らくは彼女も変わっていない。



…………違うな……



変わっている。

自分も。彼も。彼女も。

自分の知っている彼はこんな顔はしない。できない。そんな奴だった。

自分が気付かない振りをしていただけ。

あの頃とは違う。

彼が居ない。

彼女も居ない。

唯一変わらないと思えるローズレイクの風。

それが、とても、痛い―――

「……………」
ローズレイクから吹いてくる冷たい風が、二人の間を走り抜ける。
黙り込んだレニスを、陸見はただ見ているだけ。
「……………」
「……………」
「……………」
「………レニスよぉ」
「……………」
「………俺は一応40歳だ」
「………ああ」
「………お前の倍は人生を歩んできた」
「………そうだな」
「………少しぐらいは…頼ってくれても良いんだぜ?」
「……………なんかヤだな。それは」
「………人の好意は素直に受けるもんだぞ。人として」
「……………おれ人じゃねーもん」
その一言に、陸見は一瞬肩を震わせるが
「…………なんか、納得」
「…………うぁ、ひでぇ…」
レニスは苦笑した。今の自分には、それが精一杯だと解っていたから…………



こうして、この一日は終わった―――。
























最後に。
その後、さくら亭に帰った陸見は、妻のセリカによって何処かへと連れて行かれ――――
次の日、先日のアレフ以上に真っ白に燃え尽きていたそうだ。
中央改札 交響曲 感想 説明