中央改札 交響曲 感想 説明

時の調べ 第二十三話 パティ倒れる
ティクス


時の調べ 第二十三話 パティ倒れる




「はい、それでは朝のミーティングを始めます・・・って、元気ないなアレフ。それにマリアも今日は休みか」

「お前なぁ・・・あんなもん食わされて平気な顔でいられるとでも?」

「俺は平気だ」

「止めた方が良いよアレフ。昨日のクッキーだってレニス兄さんは手加減したんだから」

「・・・・あ、あれでかぁ?」

「あの時点でマリアより上じゃないか」

「ちょっと想像できない・・・」

アレフの呻き声に周りの人間も同調する。しかし、

「だって、食べ終わった後に精神汚染されなかったじゃない」

・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・

「・・・・・はい?」

「そのままの意味だよ?」

「で、でも魅樹斗君。昨日は、その、精神に異常は無いって・・・」

「食べてる間はね」

シェリルの問いはしごく真面目に返される。

「何なら、聞く? レニス兄さんが『本気』で『創った』『存在』を食した人達の末路」

ブルブルブルブル!!

皆さん一斉に首を振る。眼が必死だ。

「はいはい、駄弁るのはそこまで。今日はパティとリサが休みだからな。
午前中に終わるのが殆んどだから特に問題は無いけど・・・」

「ん? 二人とも休みなのか、珍しい」

「今日はソール夫妻の結婚記念日らしい。そのパーティーの準備だと」

いつも通りの無気力な顔で、片手になにやら紙切れをもってそう言うレニス。
・・・・・誰とは言わないが見逃すはずも無く。

「レニス君、それは?」

「招待状だそうだ。パティが無理矢理渡して来た。
皆も来て良いそうだぞ?」

シーラの音楽祭の招待状に対抗した結果である。
・・・陸見とセリカが(爆)

「へえぇぇぇぇ? で、行くのかレニス?」

レニス『だけ』に渡された招待状を見ながら訊ねるアレフ。

「気が向いたらな」

最も、招待状を受け取ってしまったのだから行かねば収まるまい。
・・・陸見とセリカが(連爆)










「仕事の後の一杯は最高だなあー」

「マスター、それ青汁です・・・」

「フィリア、美味い物はいつ飲んでも美味いんだ」

「はあ・・・?」

青汁をジョッキで飲み干しながら至福の表情を浮かべる。

「レニス〜お前が青汁好きなのはわかったから、俺にまで飲ませるのは止めてくれ〜」

隣りでうめく男はアレフ。
青汁のジョッキを片手に滝のような涙を流している。

「駄目だぞアレフ。青汁は身体に良いんだからな。さ、ググッと!」

素早く首のツボを押し口を開かせ、すかさず青汁を流し込む。

「!?&%#Ω=’%$!#μ(&%$%#!!!!」

別にレニスはいつも仕事後に青汁を飲んでいるわけではない。(美味しいとは思っているが)
これは仕事が簡単だからとそれをほっぽりだしてナンパに行った愚者に対するお仕置きである。
実際、シーラ等の他のメンバーが飲んでいるのはジュースだったりする。
・・・ま、昨日の「あれ」よりはマシだろう。

「レニスはいるかい!?」

突如、リサが血相変えて飛び込んで来た。

「リサ? 何かあったのか?」

「パティが馬車に引っ掛けられたんだ!」

「パティちゃんが!?」

次の瞬間、その顔が真剣な物へと変わる。

「それで? パティの容体は!?」

「ああ、怪我自体は大した事は無いんだ。2、3日休めば問題無いって」

それを聞いたレニスの眉がピクッと反応する。

「おい・・・あの孝行娘が今日という日に大人しくするはずが無いだろう」

「そうなんだよ・・・それでパティが大人しくしてくれなくてね・・・」

同時に溜め息をつく。そして、

「わかった。手伝おう」

「助かるよ、流石に一人じゃ厳しかったからね」

「お供します、マスター」

そしてレニスはその場に残っていた数名と共にさくら亭へ向かった。






「なんとまあ・・・・」

さくら亭に入ってすぐ、その光景を見たレニスは大いに呆れた。

「なんで大人しく寝れないかね? この孝行娘は」

パーティーの準備の途中だったのだろう。
テーブルに突っ伏すように倒れているパティを抱き抱えながら

「とりあえずパティを寝かせてくる。リサ、こいつの部屋何処だ?」

「ああ、案内するよ。ついでにパティの面倒も見てくれないかい」

「俺が? なんで? フィリアやシーラでも・・・」

「この中で医学の知識を持ってて、尚且つパティが素直に言うことを聞くのはあんたしかいないからさ」

「・・・? まあいいけど。だったら準備の方頼むな」

「まかせな」







窓から差し込む強い日差しに、パティはその目を開いた。

「よ、起きたか」

「レニス・・・?」

「全く、親孝行なのはいいが自分の体も大事にしろ。
・・・二人を泣かせる気か?」

前半は呆れながら、後半は心底心配している様子にパティは何も言い返せない。

「ま、安心しろ。準備は下で皆がやってくれてる。
お前の怪我もパーティーが始まるまでには治るさ・・・大人しく寝てればな」

「え・・? なんで?」

「エーテルバーストの力を全て自然治癒能力上昇に当てた。
それにこの店に住み着いてる奴らが一生懸命頑張ってるからな、すぐ治るさ」

「奴らって・・・精霊?」

「そうさ。精霊はあらゆる物に宿っている。
そうだな・・・シーラには音の精霊。シェリルには本の精霊。
由良には酒の精霊ってね。そして今、この店の精霊がパティの思いをかなえようと
一生懸命頑張っている・・・皆、パティの事が好きなんだよ。陸見よりもね?」

さくら亭の店主たる陸見よりも好かれていると言われ、多少複雑そうな顔をするパティ。
レニスはその様子を面白そうに見ている。

「・・・前から聞きたい事があったんだけど・・・いい?」

「答えられる事なら」

一瞬の逡巡の後、パティが聞いてきた事は
レニスがいつか聞かれるだろうと思っていた事だった。

「レニス・・父さん達と知り合いなの?」

「・・・・なぜ、そう思う?」

その問いには答えず、質問を質問で返す。

「・・・最初の頃は、初対面だと思ってた。
でも、少し前から仲良くなって・・・なんて言うのかな、『友人になった』んじゃなくて
『友人だった』って感じて・・・」

「正解」

「え?」

至極あっさりと返ってきた答えに思わず面食らう。

「俺は昔この町にいた。その時に知り合ったんだ」

「・・・・なんで黙ってたの?」

「俺の旅の目的はこの町に住む妹の会う為だった。だけど・・・」

「・・・・」

「なかなか言い出せなくてな。・・・うじうじしている内にこの盗難騒ぎだ。言えなくなった」

「でも・・・! それはレニスがやったわけじゃないんでしょ? 
それに家族が再会するのにそんな事関係無いじゃない!?」

「・・・ああ。それはただの建前だ。本当は・・・・・・・怖いんだよ」

「・・・え?」

レニスから帰ってきた思わぬ反応に、パティは、一瞬反応が遅れた。

「事情があったとはいえ俺は妹に、何も言わずにこの町を去った。
・・・・その間、あいつは一人だったんだ。陸見やセリカや、皆がいてくれたとはいえ、一人だったんだ・・・」

「妹が愛した男・・・俺がいない間にあいつを支えてくれたあいつも死んでしまっていた・・・
傍にいてやらなければならない時に、俺は、そこにいなかった・・・!」

あまりに悲痛な表情でなんとか言葉を捻り出す。

「その間俺は何をしていた? フレアやフィリア達と出会い安らぎを手に入れ、
如月達と馬鹿やってのほほんと旅を続けて・・・」

「だから、自業自得とは言え妹に拒絶されるのが怖い。
妹は出来た奴だ。俺なんかよりずっと・・・。
たぶん、こんな俺でも受け入れてくれるんだろう、でも・・・・」

「・・・・・・・・」

「俺は、自分で自分が許せない」

その瞳を彩る窓からの日差しはレニスにとってはありがたく
パティの視線からその眼を隠すカーテンの役割を果たした。

以前、陸見にも話した事。自虐の鎖。
それは今尚レニスの心を縛りつけ、緩む気配も見せず、更にその心をきつく縛り上げていた。

「・・・それでもあんたは・・・間違ってる」

聞こえた声に振り返る。
強い、自分など及びもつかない力強さを秘めた、その声に。

「パティ・・・?」

「そんなの、あんたが逃げてるだけじゃない! その妹さんはまだ生きてるんでしょう?
生きて、あんたの帰りを待ってるんでしょう? それなのに・・・・」

「落ち着けパティ、傷に触る」

「うるさい! こうなったら無理やりにでも対面させてやるわ!」

「おいおい・・・・」

「住んでいるのはどこ!? 歳は!? 顔立ちは!? 
あんたの妹の名前はなんていうの!?」

レニスの困惑を無視し、ますますヒートアップして行くパティ。
だが、流石にこのままではパティの具合も自分の都合も悪くなる。

「・・・スマン、パティ。気持ちは嬉しい。
しかし、それでも俺は、今回の再審請求が終わるまでは、黙っていようと思っている」

「・・・どうしても?」

「今再会しても・・・きっと、逃げ出すことしかできん。
だから、俺に時間をくれないか? それまでに・・・自分の心と、けりをつけるから」

「・・・あんたがそう言うんなら、もう言うことなんて無いわよ。
でもね、絶対に逃げちゃ駄目だからね? 再審請求終わったら
私が・・・私達が力尽くでも妹さんの所まで引きずって行くからね? いい!?」

「わかった、約束だ。もし、俺が逃げそうになったら・・・力尽くでも引き摺って行ってくれ」

「もちろん。・・・で、どこに引き摺って行けばいいのよ?」

「ふっ・・・今教える訳にはいかないな。その時になったら陸見かセリカに聞け」

かまかけをかわされたパティは、少しムッとした顔をしたが、
長時間の会話が傷に触ったのか、突如苦悶の表情を浮かべた。

「大丈夫か? すまない、無理をさせた」

いくら精霊達が癒しているとはいえ、怪我人である事に違いは無い。

「一旦寝ろ。パーティーの準備は俺達がしっかりやっておく」

「うん・・・」

そのまましばらくして、静かな寝息が聞こえてくる。
彼女の顔を見つめながら、レニスは一言呟いた。

「ありがとな。パティ」






数分後

「・・・・で、いつまで覗いているつもりだ馬鹿親父」

「ハッハッハッ、馬鹿は無いだろう馬鹿は」

静かに扉を開きながらさくら亭店主、陸見・ソールが顔を出す。

「ったく、相変わらずの良いご趣味で」

「そりゃどうも。・・・パティは?」

「傷自体大した事は無いし、今は精霊が治療してくれてる。
パーティーが始まるまでには全快してるさ」

「そうか・・・」

「以外と子煩悩だったんだな」

「お前にも娘が出来ればわかるさ」

「息子だったら?」

「徹底的にしばく」

その返事に呆れたような様子を見せると、再び扉に声をかける。

「セリカ。パティの事頼む。俺はこのパパさん連れて下の手伝いに行くから」

開いた隙間から一人の女性が顔を出す。
陸見の妻。セリカ・ソールだ。

「あら、わかっちゃった? でも下には行かなくていいわ。私たちが行くから」

「おい・・・」

「じゃ、行きましょう陸見」

「おう、パティの事頼んだぞ、レニス」

そのまま文句を言う間も無く部屋を出て行く二人。

「なんだったんだよ、一体」

眉間に手を当て、溜め息をつくレニスが残された。







「あ、もう準備できたんだ・・・」

夕方になり、パーティーの準備がほぼ終わった所にパティが降りてくる。
あの後、レニスはパティの事をフレアに任せて準備を手伝っていた。
その際、小さく舌打ちをした人物が三名いた事は秘密である。
ついでに言えば、その内の二名は彼の手によりジョートショップに追い立てられていたりする。

「パティちゃんもう大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫よシーラ。逆に朝よりも体調がいいわ」

「よかった・・・」

その後ろでは、追い出した二人を呼び戻すようレニスがイリスに伝えている。

「さて、準備も終わったし、リサ、レミアと赤琥と白狛連れて常連の皆さんを呼んできてくれ。
こっちは仕上げておくから」

「あいよ」

その後、追い出された主役が帰宅。
ジョートショップの面々や呼ばれた常連達も参加して賑やかなパーティーが開かれた。

レニスが三十五個のお手玉(自己新記録)で場を賑わせ、
"クッキー"を使用したロシアンルーレットや、如月が樹の聖霊術でピアノを製作。
シーラ、レニス演奏でフィリアが美しい歌声を披露し、精霊の輝きで場が満たされる。
そして、パーティーは異様な盛り上がりを見せた。

・・・・ちなみに、ロシアンルーレットの"被害者"は十二名に及んだ事をここに報告する。




パーティーが一段落した頃、賑やかな場所から離れて
一人佇んでいるレニスの所に、パティがやってきた。

「レニス、今日はありがと」

「パティ? 俺は何もしていないと思うが」

「してるわよ。全く・・・こっちが素直にお礼言ってるんだからそっちも素直に受けなさいよ」

「・・・そうだな、ありがたく受け取っておこう」

苦笑気味にそう言うとパティは顔を綻ばせた。

「よろしい。それと、約束は守りなさいよ」

「ああ、努力するさ」

すると、どこから嗅ぎ付けて来たのか近くにいた
トリーシャが興味津々という感じに目を輝かせていた。

「ねえねえ、約束って何?」

「トリーシャか・・・秘密だ」

「そ、秘密なのよ」

「え〜!? 教えてよ〜」

「だ〜め」



その様子を見ていたとある三人が、ビッ! と親指を立てていたのは余談である。
中央改札 交響曲 感想 説明