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時の調べ 第二十四話 彼の場所で見る夢は
ティクス


時の調べ 第二十四話 彼の場所で見る夢は






―――柔らかい日差しがあった―――


―――小枝の隙間から差し込む光が好きだった―――


―――やかましい子供達のはしゃぎ声が心地良かった―――


―――近くの老人の相手をするのがくすぐったかった―――


―――だから、天気のいい日はここで寝るのが一番だったんだ―――




「・・・!・・・・・ス!」

・・・・んあ・・!?

「ミ、ミリル!? なんでこんな所に!? 寝ていなくて良いのか?」

この場にいてはマズイと思われる少女がそこにいる。
流石に責任もてんぞ。俺は。

「えへへ〜☆ だいじょうぶ! おにいちゃんとせんせいがおそとにでてもいいって♪」

「なるほど・・・で? わざわざ安眠中の俺を起こした理由は何だ?」

遊び相手なら・・・・見える範囲でも陸見、ハルク、セリカ、レナ。
さらにはモーリスさんまでいるんだぞ? どうして俺を起こす?

「わたしがおこしたかったから!」

理由無しかい(苦笑)
まあいい。別に相手をするのが苦痛なわけじゃないしな。

「・・・おひるねちゅうだったの?」

「見れば解るだろ。・・・? どうした?」

なんだ? いきなり元気が無くなったような・・?
いや、迷ってるのか?

「あの・・・えっと・・・・」

・・・・・・そんなに縮こまらなくてもいいだろうに。

「アークってよんじゃ…ダメ?」

・・・・・は? いきなり何を聞いてくるんだこいつは(汗)

「……なんでそんな事を?」

「……ダメ?」

コラ。子犬みたいな眼を哀しげに曇らせるな。

「今まで通りでいいじゃないか」

「わたしはアークってよびたい」

いつになく頑固だ。
…こんな奴だったっけ?

「メリル。皆俺の事を『アーク』なんて呼んでないんだぞ?」

アーク・・・俺の名前ではあるんだが・・・・・ちょっと。

「でも、ルーファスクンはアークってよんでる」

「それは……そうなんだが…」

困った。非常に困った。
なんでこんなに『アーク』という名前にこだわるんだ?
いきなりこんな事を言い出すなんて……。

「なぜ、そう呼びたいんだ?」

表情はそのまま、しかし声に混じる困惑は隠しきれなかった。

「あのね、わたしね、その、あの…『とくべつ』になりたいの」

…………はい?

「りくみくんにきいたの。アークってよべるのは『とくべつ』なひとだけだって」

「ほう、陸見に…」

陸見…後で、いや、即殺す。

「『とくべつ』なひとになったら、ずーーーーーーーーーーっといっしょにいられるんだよね?」

……そういう事か。
メリルの命は長くない。恐らくは二十歳まで生きられないだろう。と、医者に言われた。
今、メリルは五歳。長くても十五年――――長いと取るか。短いと取るか―――――

「だからね、いっしょにいてほしいの。
あと、じゅうごねんしかいきられないけど、そのあいだずっと…おにいちゃんとさんにんでいたいの」

…どうしろと言うんだ? メリルにアークと呼ばせるか?

「……『特別』にならなくったって傍にいてやる。…それじゃ、ダメか?」

「アークってよびたい……」

頑固者。
上目遣いはやめてくれ。
ああっ、そんな眼で俺を見るな。
なんか凄まじい罪悪感に襲われているぞ。俺。

「そんな事言われてもな…」

「メリルじゃ・・・ダメなの?」

……そんな事は、ない。メリルはアークと呼ばせるのに必要な条件を満たしている。
しかし――――

「わからないんだ」

そう、わからない。『必要な条件』が自分でもわからない。
『特別』とするのに必要な条件が、全くわからないのだ。
ルーファスは確実に条件を満たしている。それは『解る』。
しかし、他の奴と比較してみても、条件がわからない。
傍にいても安心できる者? 違う。妹にはアークと呼ばれたくはない。
心の内をさらけ出せる者? 違う。ルーファスに隠している事なんて山程有る。
ではなんなのか…?
メリルが条件を満たしている事は『解る』。しかし――――

(なぜ、こんなにも苦しい?)

……………ちっ…

「どこにいくの……?」

「帰る」

俺はそのまま立ち上がり、足を―――――

「アーク!」

…………勝手に呼ぶなよ。

「…そう呼ぶことは許していない」

「…アーク」

「…やめろ」

「…アーク」

「メリル…!」

「…アーク!」

振り向くと、眼に涙を溜め、必死になってこちらを見つめてくるメリル。
悪役だな、俺…

「うるさい」

…ったく。鬱陶しい。

「アーク…」

はぁ………

「…俺にとって、『特別』と言う事がどういう事か、自分でもわからない。
もしかしたら、お前を不幸にしてしまうかもしれない。………それでも、いいのか?」

たのむから…拒絶してくれ…。

「うん、それでもいいよ!! アーク!!」

するわけねぇよなぁ………うおっ!?

「ありがとう! アーク!!」

「しがみつくな! 大人しくしてろって!!」

許したとたんにこれかよ!? コラそこ! 何笑ってやがる!?
特に貴様だ、陸見。メリルが帰ったらぜってぇー殺す。

……? メリルが俺の背後に回った…?

座った。

ポンポン、と自分の膝を叩き、にこやかな笑みを向けてくる。

「さ、どうぞ」

「……お前が俺に何を求めているのかは解った。
だが、あえて聞かせてもらおう。何がしたい?」

「ひざまくら」

……………

「十年後ならOKだ」

「む〜……。りくみくんうそついた」

……奴のお仕置きはセリカにも協力してもらおう。

「ならメリルがアークにひざまくらしてもらう」

「…どうぞ」

断れると思うか……?
少し先には凄まじい視線で拒絶を許さぬセリカとレナの姿があるんだぞ……?

ぽふぅ♪

「あったかぁい………」

寝たままで腰にしがみつくのは「ひざまくら」とは言えないのでは?

「アーク…」

突然。メリルの声が小さくなる。

「ずっと…いっしょにいてくれるよね?」

小さな腕に力を込め、呟いた。

………………

……………

「ああ」

「ホント!?」

「約束だ」

「うん!ずっといっしょだよ、アーク!!」




そして、二年後――――――


俺は――――――


彼女の前から――――――


消えてしまった――――――















「・・・・・・そう、俺は消えたんだ・・・」

・・・夢だというのは解っていた。
しかし・・・最悪な目覚めだな。

「そう簡単には、吹っ切れるものでもない・・・か」

・・・・ふう・・・・・ん?
膝の上に・・・何かが・・・・・・

「・・・・・・・なぜにメロディがここで寝てるんだ?」

俺は日の当たる丘公園に生えている中で一番大きな木に寄りかかって寝ていたんだが・・・・
メロディはそんな俺の足を枕にしてぐっすりと熟睡していた。

・・・・俺の腰に両手を回して。

「・・・・・山々の泉出会い やがて一つの川になる・・・・」

静かに、囁くように歌い出す。
あの時、あいつにしてやったように・・・・

「・・・・・谷から谷へと下り 流れは速くまた強く・・・・」

そっと、彼女の髪を梳く。
くすぐったそうな声を出しながら、小さく体を振るわせる。

「・・・・ざわつき流れる波間から 昔の勇士の歌響く・・・」

あの時も・・・こんな気持ちの良い風が吹いていたな・・・・

「・・・・・『祖国の為、兄弟達腕を振れ』・・・・」

・・・・・・・・・

「赤琥か」

「・・・お邪魔してしまいましたか?」

影から滲み出るように現れる紅い虎。

「いや・・・そうじゃないが・・・・」

・・・・自分の心が荒れていくのがわかる。
ちっ、いかんな・・・・

「周りにいるゴミはなんだ?」

周囲に倒れている黒服の男達。
服に焦げ目がついてるからやったのは赤琥だな。

「はっ、主とメロディ様がお休みの間、メロディ様に危害を加えようとしていたので
私と白狛が排除いたしました。現在、白狛はこの男達の背後関係を洗っております」

・・・・鬱陶しい・・

「・・・目障りだ。ころ・・・」

・・・・・・・

「いや、遠くに捨てて来い」

「ハッ」

「・・・・静かにやれ、メロディが起きる」

夢見が悪かったせいか・・・?
殺せ等と・・・・確かに俺にとっては価値の無い命だがな。
まあいい。目障りなのに違いは無い。

「・・・・ふみぃ・・・」

「メロディに感謝するんだな・・・・こいつがいなかったら『消して』たぜ」

実際に・・・消していただろう。その存在そのものを。
正直に言えば、こいつらが関わってきた事象全てを含めて存在を消したかったんだが・・・
世界がどう変わるか解らん。代役を創れば問題は無いのだろうが。

ふう・・・・・・

「約束・・・・・か。できればもう破りたくは無いな・・・・・・」

俺の口から零れたそれは、抜けるような青空に吸い込まれていった・・・・











「そうそう赤琥」

「なにか?」

「ゴミの分別はしっかりとな」

「勿論です♪」

翌日、生ゴミ捨て場に素っ裸の男達が捨てられ、
彼らの物と思われる衣類や貴金属などが、しっかり分別されて捨てられていた事をここに記す。
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