中央改札 交響曲 感想 説明

時の調べ 第二十六話 開放されし力(前編)
ティクス


それは、レニスが自警団事務所に居た時にやってきた。

「すまなかったレニス。感謝する」

「いや、気にするな。あの程度の呪術なら大した事ないし」

昨日頼まれた仕事を済ませ、事務所で出されたお茶を静かに飲むレニス。
そこへ―――

「ラピスッ! いるか!?」

「あ、アルベルト? 何かあったのか?」

「なっ!? 何故貴様がここにいる!?」

レニスの姿を認め、怒鳴り声を上げるアルベルトに対し、
静かな、それでいて有無を言わさぬ迫力を伴った声が制止する。

「アル・・・騒ぐのは報告を済ませてからにしろ」

「う・・・っと、そうだった! 盗賊の集団がこの町に向かって来ているらしい!」

「慌てるほどの相手なのか?」

横槍を入れるレニスに文句を言おうとするも、ラピスの眼光に何とか自制するアルベルト。

「数が半端じゃない。・・・軽く五百人以上はいるそうだ」

「・・・異常だな」

「ああ。もしこの町を落としたとしても、それだけの人数がいるのなら分け前などの問題があるから実行以前の問題なんだがな」

そう。さらに、この町には《剣聖》リカルド・フォスターがいるのだ。
いくらなんでも割に合わない。

「・・・ま、火傷する前に火の始末はしないとな」

「そうだな。アル、リカルド隊長とノイマン隊長は?」

「もう殆んどの団員が集まっている。たぶんそこにいるんだろう」

そのまま駆け足で飛び出すラピスと、あわててそれを追いかけるアルベルト。
そんな二人に苦笑しながら、レニスは明後日の方角を睨みつける。

「さて、火の始末は自警団に任せようか」

そう呟き、事務所を出ようとし足を止め―――

「・・・やっぱり三人ほど貸してもらおう」








三十分後、ジョートショップにて――――

「・・・と、言う訳で。リカルドとノイマン爺からお前等の指揮権貰ったから」

「なあんで俺達がお前の言う事を聞かにゃならんのだ!!」

「黙れ、アル。・・・レニス、説明を求めたいのだが?」

流石に不満げな顔のラピスとあからさまに不機嫌なアルベルト。
その後ろでは如月と毎度の事ながら旦那をほっぽり出してきた人妻とがせっせと戦闘準備をしている。
既にアリサや他のメンバーは教会や劇場等に非難していた。
・・・・自分の獲物はしっかりと握り締めていたが。

「ああ。フレア、頼む」

レニスの要請を受け、エンフィールドとその周辺の地図を広げるフレア。
その南の方を指差しながら、レニスは口を開いた。

「現在エンフィールドに向かって盗賊の軍勢が迫っているわけだが・・・」

「だから! こんな・・所・・・・で・・・・・」

怒鳴るアルベルト。だが、その場に居る全員から視線を向けられ、沈黙。

「・・・盗賊達はリカルドとノイマン爺に任せる。俺達が相手をするのは・・・」

指がゆっくりと動き――――町の北東を指す。

「ここに出現した大量の魔物達だ」

「なに・・・?」

「さっき精霊が教えてくれた。念の為、如月と睦月にも確認してもらったが・・・間違い無い。
ちなみに数は二百」

レニスから与えられた情報でようやく自分達が残された理由が解る。
しかし―――

「レニス・・・本気でこの人数でこの数を相手に出来ると思っているのか・・?」

そう、いくらなんでもこれは―――

「そっちこそ本気で言っているのか、『盟約者』≪スクラティス≫?」

「!!?」

ラピスの瞳が驚愕に染まり、ついで警戒の色がその全てを染める。

「そう睨むなよ。・・・炎帝などと言われる炎の力。世界で八体しかいない聖霊をすべて所持する者達。
・・・欲しがる奴がいなかった訳じゃあないんだな、これが」

・・・・・・・・・・

「・・・わかった。しかし――」

「隠しておきたいのは解るが・・・この際諦めてくれ」

レニスはそのまま説明を続けようとしてアルベルトに捕まり、その顔を辟易させている。
ラピスは警戒の色を消し、多少睨むようにレニスを見ていたが、
背後から肩を叩かれ、振り返る。

「いつもより表情豊かだな、ラピス」

「如月・・・それは皮肉か?」

「さあ? ああ、それから。今現在お前を狙う輩は居ない筈だ」

「・・・・?」

訳が分からず困惑するラピス。
そんな彼を苦笑しながら見ると、如月は最後にこう付け足した。

「『根元』から全て一掃したからな」











「とまあそう言う事だから、皆は北東の魔物どもの相手をして来てくれ」

「レニスは?」

「北西の方にも少数ながらいるらしい。俺とフィリアはそっちへ行く」

赤琥や白狛、精霊達はリカルド達の所へ向かわせたらしい。
それなら何故自分達を呼んだのか? とラピスが問うと、

「あいつら、多数対多数、もしくは単純な潰し合いならともかく。
少数対多数の戦いでの足止めには向いてないんだよ」

とのことだ。

「じゃあ任せた。指揮はラピスが執ってくれ」

「了解。そちらも気を付けて」

「ああ。行くぞ、フィリア!」

ラピス達と別れ、フィリアを連れ北東の森へと走り出す。
暫しの後、レニスは隣りを疾走するフィリアに話し掛けた。

「・・・フィリア」

「はい、マスター」

「後を頼む」

「はい、アレフさん達の暴走はきっちり押さえて見せます」

むん、と気合を入れている。
が、見た目が絶世の美少女なのでその仕草もとても可愛い物に見える。
・・・・いや、実際の所凄まじく可愛いのだが。

「まあ、町の防衛という大義名分もある。大丈夫だろうけど・・・」

「皆さん血の気が多いですから」

顔を見合わせ、苦笑する。

「それじゃ」

「お気を付けて、マスター」

会話を切り上げ、別方向へ走り出す二人。
フィリアは皆が非難しているであろう教会へ、
レニスは・・・己が敵の待つ戦場へと向かって。









銃声が轟き、数匹の魔物が地に伏せる。

「アル! 前に出すぎだ! 如月! 右に行ったぞ!!」

全員に指示を出しつつハンドメイドのカスタムリボルバー「グレイフォックス」を連射する。
非常に貫通力の高い特殊な弾丸を使用しているのと、敵の密度が高いのが幸いし、銃声×6ぐらいの成果を上げている。

「くそっ! おい如月! ほんとーに二百なんだろうな!?
もうかれこれ三百は殺したような気がするが!?」

「正確には三百と七十八匹だ」

がぅん!!

「・・・これで八十一匹」

アルベルトの怒鳴り声に律儀に返すラピス。
怒鳴られた如月の方は睦月と一緒に渋い顔をしている。

「・・・たぶん、増えてる」

「はあ?」

「どんどん召喚されてるのよ。無尽蔵に。
元を何とかしないとジリ貧よ」

答えながらもきっちり仕事はこなしている。
その答えを聞いたラピスは暫し考え込んでいたが、やおら顔をあげ如月に問うた。

「召喚されている場所、もしくは人物の所在は解るのか?」

「・・・方角が解るぐらいだ。ジャミングがかかっているのかはっきりとしない」

「なら、お前達二人が探しに行くのと一人で探しに行くのとの時間の差は?」

グレイフォックスを収め、ショットガンを取り出しつつ問う。

「発見だけ、と言う条件なら・・・二人なら十分前後。一人なら四十分前後といったところか」

樹の聖霊術で敵を絞め殺しながら答える。
勿論動きの止まったやつらは睦月、アルベルトの二人の餌食だ。

「・・・解った。二人とも、行ってくれ」

「いいのか? ここを任せても?」

如月が何かを確認するかのように問う。しかし、

「その為に俺を呼んだのだろう?」

不敵な笑みを浮かべ、しっかりとした口調で返すラピス。

「・・・了解。これより敵召喚士、もしくはそれに類する物の探索・破壊任務に入る!」

「ああ、頼むぞ二人共」

「まっかせなさい! 行きましょ、如月」

「ここは俺たちに任せてさっさと行けえ!!」

二人は最後に広範囲に渡って光と炎の洗礼を加え、後方の森の奥へと消えていった。

「はあ、で? どうするんだ?」

ピンッ

「これを敵の密集地帯に投擲してくれ」

そういってラピスが手渡したのは『安全ピンの外れた手榴弾』だった。

「でぇっ!? おっ、とっ、はっ、どおりゃあああああああああああ!!!!」

ひゅーーーーーーーんーーーーー


どっかーーーーーーーん・・・・・・・


「もっと早く投げろ、アル。危険だぞ?」

「お前の方が危ないわ!!」











セント・ウィンザー教会。
非常事態宣言が発令され、多くの住民がここに非難する中、
逆にそこから抜け出ようとする人影があった。

「やっぱり止めようよアレフ君。盗賊の相手なんて無理だよ〜」

「何言ってんだクリス。俺達がいつも相手にしているのは魔物だぞ、ま・も・の!
盗賊程度に遅れを取るほど弱かないんだ。しかも相手の数は五百って話じゃないか。
おっさんやレニスがいくら強くてもこの数を完全に抑えるのは厳しいと思うぜ」

「そーそー! 行こうぜクリス!」

ジョートショップの男性メンバー。
アレフ、クリス、ピートの三人である。
どうやらレニスの懸念が当たったようだ。

「う〜、で、でも〜〜」

「ああ、もう! ここまできたら覚悟を決めろ。いいか、扉を開けたらすぐさま飛び出すんだ。
見つかったとしてもこの人込みの中なら簡単には追いついて来れないだろうからな」

「クーッ! ワクワクするなあ! 盗賊ってどんな奴等かなあ、楽しみだなあ」

「・・・・よし、着いた。いいか、開けるぞ」

ハラハラしているクリスを尻目に、教会の扉を力一杯開く。

「よし! 今だ!」

「ちょっと、アレフ! 何してんのよ!?」

「見つかった! 急げ!!」

背後から聞こえるパティの制止の声を無視し、扉の開いた隙間から身を通し―――
騎槍(ランス)の先端が突きつけられた。

「どちらへ行かれるんですか? アレフさん?」

にこやかな笑みを浮かべ、騎槍を突きつけるフィリアの姿があった。







エンフィールド北西の森の中。
そのなかで蠢く無数の影。
日が差し込み、その影が照らされ姿を晒す。

「fyuuuuuu・・・・・・」

赤黒く染まる肌。硬質の筋肉で包まれる身体。頭部から突き出る角。
背からは千切れかけた白い翼。

その背に在る物を覗けば、それは『鬼』と呼ばれる物に酷似していた。

数匹の鬼が四つん這いで走りながらその眼をギラつかせる。
その後ろに続く、もはや数えるのも馬鹿らしくなるほどの数の鬼。

先行の鬼が、目に見えるエンフィールドの町並みに舌鼓を打つ。
その途端、我先と言わんばかりに鬼達が飛び出し――――爆散した。

「・・・!!??」

飛び出す傍から爆散していく鬼。
その数が百を越えた頃、ようやく鬼達は動きを止め、悔しさで顔を歪ませる。

「そこから先は通行止めでな」

「ナニモノダ・・・!」

「エンフィールドの何でも屋。『ジョートショップ』住み込み店員レニス・エルフェイム」

近くの木の陰からレニスが姿を現す。
その手には、以前トリーシャ達に見せた刃の無い美しい刀身を持つ剣が握られている。

「さて問題です。ここにある『壁』は俺が作りました。これを力ずく以外で解除する方法はなんでしょう?」

鬼達の殺気がレニスに集中していく。

「・・・正解だ」

その一言を最後に、レニスは鬼の波の中へと消えていった・・・・









森の中を疾走する二人に、突如、腹の底から響くような振動と爆音が届いた。

「ラピスの奴、始めたようだな」

「無茶苦茶ね・・・アルベルト君大丈夫かな?」

「あれぐらいで死ぬようじゃラピスの親友は務まらんだろ」

そう、親友だから・・・任せた。
ラピスの力は・・・ある意味、レニス以上に異質なものだから。

「さて、私達の御相手はどこかしら、っと!」

横合いから飛来した数本のナイフを、そのままの勢いで投げ返す。
ナイフはそこらの木に刺さる。が、先程の攻撃で――襲撃者の位置は掴めた。

「デートのお誘いにしては無粋ね」

「―――そうでもない」

森に響き渡る声。
その声を聞いた瞬間、二人の脳裏に『あの』映像がフラッシュバックする。


――――おやおや、こんなとこで寝てんの? 風邪ひくよ――――


――――きさらぎ・・・? だったらサラ君だね!――――


――――う〜、睦月〜〜〜。サラ君の好物教えてよ〜――――


――――カ〜イ〜ン〜・・・・打っ飛ばす!!――――


――――サラ君に、そんな顔は似合わないんだよ?――――


――――へ〜、睦月お嫁さんになるんだ〜――――


――――え? 次は私? やったっ! ありがとサラ君♪――――


――――ずっと・・・・大好きだよ――――


「・・・久しいな、聖月の皇子。月影の聖女よ」

刹那の一瞬。如月の心が、静かな狂気で塗りつぶされた。









レニスの姿が鬼の中に消え、それを見た頭領格の鬼がにいといやらしい笑みを浮かべる。
それが、その鬼の最後の表情となった。

「何がおかしいのかな?」

一閃。
刃の無い剣によるただの一振りで鬼の首が飛んだ。

「さて、死にたい奴はかかって来い! 火葬がお望みなら先に言え!!」

レニスの叫びと同時に、剣に炎の刃が絡みつき十m以上の長さまで伸び上がる。

「紅十五式! 焔狩り!!」

超大振りの一刀。
それだけで周囲の鬼達は殲滅される。

「さあ、どんどん行くぞ! 紅き閃光よ、貫け! スカーレット・レイ!!」

レニスの全身から光が溢れ、突如、数十条の真紅の光が周囲にばらまかれる。
その光が触れた鬼はその部分を完全に焼却され、更には光がその身体を浸食していく。

「おひ・・・数だけか? いくらなんでも手応えが無さ過ぎるぞ」

不満げな顔をしながら、周囲から絶え間なく襲ってくる鬼を細斬りにする。

「見た所地獄に堕ちた天使の慣れの果て・・・惨い事するねえ」

ぼやきながらも鬼を切り伏せ、焼き、消し去っていく。
そして、再び刀身に紅い輝きが灯った。

「紅七式・爆魔烈風!!」

レニスの周囲に散発的な爆発が起こり、その範囲の外にいた鬼達も超高温の熱風でその身を『灼かれ』る。
しかし、今だその数は減ったようには見えない。

「・・・・・・・だあもう、鬱陶しい! トリニティ・フレアァァァァァァァァッ!!!!!」

炎が燃え上がり、巨大な三匹ののたうつ炎の龍が生み出される。

「ノルマは一人四桁以上! 行けえ!!」

その声に雄雄しく応え、鬼の群れに飛び込む炎の龍。
その鱗に触れる物全てを焼き、爪で引き裂き、顎に捕らえられた物はあまりの熱量に原子の塵に返る。
龍達は縦横無尽に駆け巡り、鬼達に甚大な被害を与え去っていった。

――――しめて総合撃墜数・6081匹也









「くっ・・・! もうこれ以上はもたねえぞ!!」

「・・・手榴弾は尽きた。ライフル、ショットガン、マグナム全て残弾ゼロ・・・」

如月と睦月が戦線を離脱して早三十分。
今まで二人だけで捌ききれたのが奇跡である。
魔物達は戦闘能力を持つ二人を無視し、町へ向かおうとする。
既にアルベルトのハルバードは折れ曲がり、使い物にはならない。

ふと、アルベルトは自分の親友の顔を覗いてみた。
すると、その顔には何かを実行しようとし、躊躇っているような、そんな顔であった。
そして、魔物が二人の横を通過した時、それは決心された。

「手加減しては・・・間に合わんか」

右目を覆うバンダナを無造作にむしり取る。
その下から、エメラルドの輝きが溢れたかと思うと、次の瞬間それは消えていた。

《『ラキュエル』解放。知覚範囲設定変更・・全周囲・・・距離・・高低・・・変更完了》

頭に響く静かな声。黒龍の鱗を宿す左眼。
そして・・・・深緑の右眼。
後方へ流れる十数匹の魔物へと左手をかざす。

「ターゲット、オールロック」

ラピスの声に反応し、その小さな体には分不相応な巨大な鋼の腕が現れ、それに覆われる。

「発射」

次の瞬間、その腕の至る所が『開き』、そこから十数条の光の糸が魔物の背へと伸びる。
光の糸は魔物の背に接触し―――その破壊の力を、遺憾無く発揮した。

ポシュッ

気の抜けるような音と共に、全ての魔物の体が半分以上消滅する。
左手をかざしてから、これまでの時間

―――1.2秒――――


それを確認する様子も見せず、すぐさま右手を――ダブルガトリング砲を魔物の群れに向け・・・

「これより、敵の掃討を開始する」

そして、殺戮が始まった。











「・・・まだ出てくるのか? いい加減しつこい」

肉体的と言うよりも、精神的に疲れた表情で鬼を蹴り殺すレニス。
もう既に倒し方も手抜きになっている。
・・・一撃で絶命しているが。

「う〜ん、ミキの訓練には丁度良いかもな。こいつ等」

あれから2,3回大量虐殺魔法を放ち、ほぼ殲滅させたのだが・・・

「どこかに『穴』があるんだろうけど・・・キリが無いぞ」

かなりの間、辺りを見渡しながら鬼を撲殺(斬ってすらいない)し続けていたレニスだが、
気を取り直し、『緑溢れる森の中』を歩き出す。
周囲の木には焦げ一つついていない。

「俺の炎、敵味方の識別が可能なんだ。威力は落ちるしかなり力を使うけどな」

お忙しい中でのご説明。誠にありがとうございます。

「・・・見つけた」

そう呟くレニスの視線の先には、中空に浮かぶ黒い球体が在り、そこから鬼が出てきている。
そして、一対の白い翼を背負った男――天使がその前に陣取る姿があった。

「なるほど、『神』の差し金か」

「!! 誰だ!!」

「お前にも解る様に言えば・・・『世界の猛毒』」

一瞬の驚愕の後、その端正な顔に憎悪と侮蔑の表情が浮かぶ。

「そうか、貴様がこの世界を滅ぼそうとする邪まなる者か」

「・・・別に滅ぼすつもりは無いんだけどなあ・・・」

天使の怒りのこもった声に、困ったような顔で答える。

「貴様は、その存在自体が罪なのだ!!」

「・・・・それはお前達にも当てはまるだろうに」

「我等は選ばれし者。貴様のような醜悪な存在とは違うのだ」

「自分が善人だと思ったことは無いが・・・」

剣を構え、戦闘に入ろうとしたその時―――

「――――!! 結界が・・・解けた!?」

驚きと共にエンフィールドの方角を見つめる。
しかし、それを見た天使は無視をされた怒りで身を振るわせた。

「滅びろ! 神に逆らいし逆賊め!!」

天使の剣が肩口に食い込み・・・止まった。

「なっ、くそっ、ぬけろ!」

「邪魔だ」

冷めた眼で天使を見、左手で頭を掴み――


ぐしゃ


天使だった物を捨て、刺さった剣を無理矢理引き抜くと
すぐさま呪文を詠唱。再び炎の龍を生み出した。

「周辺にいる鬼の掃討。打ち漏らしは許さん」

龍に絶対の指示を与えると、レニスはすぐさまエンフィールドへ向けて駆け出した。









「全く、アレフ達も何考えてんだか」

パティがジト眼でアレフたちを睨む。
フィリアに捕まった三人は現在簀巻きにされている。

「皆さんが弱い訳ではないのですが・・・今日行われるのは、小規模とは言え戦争と呼べるものです。
いくらなんでもあそこに立つには経験も覚悟も足りないと判断させていただきました」

「ああ、気にすることは無いよフィリア。あたしもその判断は正しいと思うからね」

申し訳無さそうに告げるフィリアにリサが同意する。

「全員がここにいるわけではないんですね・・・」

「ええ、ここにいるのは私とパティちゃん。リサさんにメロディちゃん由良さん、それと――」

「あそこにいる馬鹿三人よ」

シーラの言葉をパティが続けた。
しかし―――

「と言う事は・・・マリアさんとエルさんは同じ避難場所ですか・・・?」

「たぶん。シェリルとトリーシャもそこだと思う」

二人にとっては災難である。

「まあエルさんがいるならマリアさんが外に飛び出す事も無いでしょう。
喧嘩したとしても今日はマリアさんの魔力を強制封印してますし、
エルさんのほうはトリーシャさんが止めてくれるでしょうから」

いつ封印したおまいは。

「でも、レニスの奴大丈夫なの? 一人で行ったんでしょ?」

「心配要りませんよパティさん。マスターはお強い方ですから、あの程度ならすぐに終ります」

そう言って微笑むフィリア。
その耳元で小さく輝く物があった。

「あら? フィリアさん、ピアスなんてしてたっけ?」

シーラの言う通り、フィリアの耳には剣を象ったピアスがあった。
白い柄に黒い刀身を持つ西洋剣。

「あ、はい。マスターから貰った物なんです」

ニッコリ

「へえ、そうなんだ」

ニコニコニコニコニコ・・・・

「ちょっと、怖いから笑うの止めなさいよ」

「そう言うパティだって十分怖いんだけどねえ?」

リサに突っ込みに顔を赤くするパティ。
フィリアとシーラの無言の微笑みは依然続いている。

「ふーん、剣を象ったピアスかい。
・・・ん? これって・・・パティやシーラのと同じ物かい?」

「フフフ・・・はっ、え、えっと、はい。
柄の部分はシーラさんと同じ物で、刀身はパティさんと同じ物が使われています」

そう言われ、レニスに貰ったブローチ、ペンダントを取り出し、それと見比べる。
確かに同質の物が使われているようだ。

「マスターが言うには失敗作らしいんですが・・・でも、初めてマスターから頂いた大切な物ですから」

愛しそうにピアスを撫でるフィリア。
その顔は本当に嬉しそうで、幸せそうで、綺麗だった。

「・・・これは、マスターの絶対の信頼の証です」

表情を引き締め、二人に真剣な眼差しを向ける。

「だから・・・・」

ふっ・・・・

周囲から光が消えた。

「え!?」

「ど、どうなってんの?」

闇に閉ざされたはずの空間で、なぜかお互いの姿を認識できるこの状況に、
シーラ立ちは混乱する。しかも―――

「俺達・・・だけ?」

「他の人の姿が無いわ!」

なぜか、ジョートショップ関係者のみがこの空間に取り込まれているようだ。

「ヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!! ようこそ、俺の世界へ」

彼らの目の前に、見覚えのある眼帯黒ずくめが現れた。

――その男の名はシャドウと言った。
中央改札 交響曲 感想 説明