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第三十二話 折り紙
FOOL


今日も晴れ渡るエンフィールドの空。
この日、レニスは精霊達と如月・睦月と共に、教会へと向かっていた。

「しかし、神父さんとシスターが同時に倒れるとは・・・」

「風邪が流行っているらしいからな」

「最近、孤児院の経営が厳しくなっているって噂を聞いたから、心労もあるんだろうね」

「誰から聞いた? 睦月」

「もちトリーシャ」

Vサインを出しながらニッコリ笑顔の睦月さん。
この三人。本日ジョートショップで暇そうにしている所に
アリサさんから頼み事をされてここに来ている。
曰く「病気の神父様やシスターに代わって子供達の世話をしてくれ」との事だ。
二人の看病は、他のシスターや孤児院に住み込みで働いているセリーヌが行なうとの事。
ちなみに、他のメンバーは今日はジョートショップ自体が休みな為に居らず、
フィリアはエリザとキャッシーに誘われ遊びに出かけ、魅樹斗は新しい被写体を求めて雷鳴山を駆け回っている。

「それにしても・・・俺達だけであのガキどもの世話か・・・・」

「考えるだけで気が滅入る・・・」

「レミア〜。私おもちゃにされるのヤダ〜・・・」

「イリス姉様。それは姉様が子供達をからかうからでは?」

「はいはい、皆シャキッとしなさい! 子供と遊ぶの、好きでしょ?」

「ものには限度というものが在るんだがな。睦月」

子供と言うのは元気の塊なのだろうが、あそこの孤児院の子供達は当社比1,7倍は元気である。

「レニス様、そうは仰いますが、アリサ様からのお願いを無碍にする訳には・・・」

「愚痴らないの。ほら、見えて来たわよ。子供達の前でそんな顔しないでね」

「「はあ〜・・・・」」

今日これからの重労働を思い、深い溜め息をつく二人であった。









「・・・ここは『あの』孤児院だよな?」

「うん。間違い無いよレニス」

その光景をみて、思わず頭上のイリスに問い掛けるレニス。
イリス自身も、やや呆然とした面持ちでその場所を見つめている。

「く、暗い・・・」

「神父様が心配で仕方が無いのでしょうか?」

「でしょうね。全員が神父様達が寝ている部屋の方を向いてるし」

そう、今レニス達の視界にいる全ての子供達が、不安げな表情で孤児院の奥の方を見つめている。

「あ、お兄ちゃん達いらっしゃい」

「ローラ。ガキども今日はずっとこうなのか?」

「うん・・・皆元気なくて・・・それに、セリーヌさんみたいに出来る事なんて私達には殆ど無いし・・・」

「なら、出来る事をやろうか」

口元を緩めたレニスが優しく、そしてその場にいる子供達にも聞こえる様な大きな声を出した。

「『千羽鶴』って知ってるか?」










「なあ、レニスよ・・・」

「何だ如月」

「こう言う場合も千羽鶴って有効なのか・・・?」

「ようは気持ちだよ、気持ち。それに走り回る子供達を相手にするよりも楽だろう?」

「そうよ如月。愚痴らないで手を動かしなさい」

子供たちに折り紙を教え、自分達でも黙々と折鶴を折り続けるレニス達。
その出来栄えは素晴らいの一言。レニスだけでなく如月や睦月も同様である。
少し離れた場所では、人間サイズになったフレア達が、レニスたちと同様に子供達に折鶴を教えている。

「ねーねーフレアー。ここどうするの?」

「それはね、ここの折り目に沿ってこう・・・」

「レミア、そっちの折り紙余ってない?」

「どうぞ、イリス姉様。・・・あ、折り紙の数が足りなくなって来ました・・・」

「それじゃあ赤琥と白狛引っ張り出して行って来て貰おう。
どうせあの二匹じゃ折り紙折れないんだから」

この二匹。本日は休暇をとって優々自適な日向ぼっこを満喫していた。

・・・この時より数秒後。レニス経由のイリスの命令で、折り紙を買いに走らされる事になるが。

「しかし二人とも上手いよね〜。折り紙。レニスはお手玉やってたから
あまり意外とは感じないけど、如月もレニスと同レベルなんだね・・・」

「ん? 何を言ってる。子供の頃にお前が俺にせがみ倒してきたせいだろう。
そのせいで近所の連中からは『折り紙の魔術師』と言うありがたくない二つ名を貰ったんだぞ」

「あれ? そうだった・・・・・・・・・ね。そう言えば(汗)」

ハハハと乾いた笑いを上げる睦月。
そんな彼女を如月はジト眼で見つめる。

「ね、ねえ。レニスは折鶴一羽折るのにどれぐらいの時間が掛かるの?」

如月の視線に耐えられなくなった睦月は、クルリっとレニスの方を向き、問う。

「そうだな・・・最近は折ってなかったからハッキリとは言えないが・・・一秒に2・3羽程度じゃないのか?」

とんでもない数字をサラッと口にするレニス。
だが、その言葉を聞き、口元にちょっぴり優越感を滲ませる笑みを浮かべる者がいた。

「如月・・・何が可笑しい?」

「ふっ・・・別に?」

目が据わるレニスと、余裕の表情でその視線を跳ね返す如月。
ここに、男達の戦いの幕が切って落とされた。









【れでぃーす・えん・じぇんとるめん。これより、『第1回 主様・・・失礼しました。
これより『第1回 レニスVS如月 折鶴早折り対決』を開催いたします。実況は、不肖この私レミアが勤めさせていただきます】

【そして! 今回の解説のイリスでっす♪】

台詞棒読みのレミアに対し、滅茶苦茶ノッているイリス。
対峙した二人の周りでは、子供達が眼をキラキラさせながらその行方を見守っている。

【両者、対峙したままピクリとも動いておりません。尚、今大会のルールですが】

【えっと、さっき赤琥と白狛が買って来てくれた折り紙千枚を
先に全て折り尽くした方の勝ち。簡単でしょ? あ、それと分身等は反則だから気を付けてね二人とも】

【今、審判であるローラさんの両腕が上がりました】

二人の視線が交差し、火花が散るその場所で、
僅かに怯えた表情を浮かべたローラが両腕を上げ―――振り下ろした。

【GO!!】


ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュ――――――


『おおおっ! すっげーっ!!』

子供達から歓声が上がる。
この速さは正しく『神速』。
レニスは、先程言っていた一秒に2・3羽という言葉をあっさりと覆し、一秒に二桁以上の鶴を折っていた。
しかも、折り目などに乱れは無く、さらには整っているだけではない美しい造形美すら醸し出している。

【レニス選手、凄まじいスピードです。対する如月選手は・・・え!?】

【マジッ!?】

如月の折るスピードは、目測ではあるがレニスの約半分。
確実に差が開く・・・筈なのだ。筈なのだが、如月とレニスの差は全くといって良いほどに無い。
その理由は―――

【これは驚きです。如月選手、なんと手だけでなく足も使って折鶴を折っています】

【ふぁ〜・・・しかも手で作ったのと同じく、とてつもなく綺麗に仕上がってるわ】

【如月選手。折り紙に関してはレニス選手以上の化け物かも知れませんね】

レミアは相変わらずの棒読み台詞ではあったが、その声には僅かに驚愕が滲み出ている。

確かに如月が一羽を折るスピードはレニスの半分である。
しかし、同じスピードで二つ同時に折るのだから、トータルでレニスと同じスピードであると言えよう。

【互の技を見て、両者更にスピードを上げました】

【って言うか、二人とも手(足)の動きが光速一歩手前まで行ってるんじゃない?】

【勝負開始からまだ三十秒も経ってはいませんが、折り紙の残数は残り少なくなっています】

【両者のセコンドも白熱してきたーっ! もう大声張り上げるしかないでしょ!?】

「レニス様ーっ! ファイトォー!!」

「やれーっ! そこだーっ!! 負けるな如月!!」

セコンド――睦月とフレアも必死になって声援を上げる。

(やるな如月・・・それでこそ!!)

(流石はレニス。だが、負けん!!)

レニスの『神速』と如月の『神技』が真正面からぶつかり合う。
極められた技が、一枚の色紙を躍動感溢れる一羽の鶴へと生まれ変わらせて行く。
子供達や睦月等が見守る中、共に最後の一枚を手に取り―――

【そこまで。試合終了です】

【所要時間・・・43,753秒!?】

【如月選手の腕の筋肉は無事なのでしょうか? 現在、審判とセコンドの話し合いが行なわれています。
二人とも同時に鶴を折り終わったように見えたものですから、協議が難航している模様です】

舞台の中央では、審判のローラとセコンドの睦月、フレアの三人が言い争っている。
どうやらこの場にいた誰もが彼等の手の動きに付いて行けなかったらしい。

【・・・あ、どうやら結果が出たようです】

『協議の結果を発表します。今回の戦いは、我々審判員の未熟さにより、最後の判定を下せる状態ではありませんでした。
よって、この試合は引き分けとします!!』

子供たちの間からブーイングと歓声が上がる。
その中を如月は悠然と歩き出し、レニスの目の前で足を止めた。

「レニス、一つ聞きたい。何故本気を出さなかった?」

静まり返る歓声。
この男は、あれでもまだ手加減していたというのか・・・?

「ふっ・・・。お前が本気を出さなかったからさ」

「ふっ、なるほどな」

そのまま、互いにふてぶてしい笑みを浮かべる。
この二人の世界に入れるものは、この場には誰一人としていなかった。






次の日の朝。
神父様とシスターは、自分の枕元に置いてある少々形が歪な千羽鶴を見て、嬉しそうに口元を綻ばせたという。






余談だが、レニスと如月が折った折鶴は子供達の玩具になったそうだ。
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