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レニス少年の「えぬおーえー」な日々 『豪雪注意報』
FOOL
「おにいちゃん、ゆきがふってるよーっ」
「なんだか冷えると思ったら……ほらアリサ。寒いから部屋の中に入りな」
「やーだっ」
「おいおい、仕方ないな」
楽しそうな笑顔を浮かべて雪の中を駆け回る妹に苦笑し、自らの上着を脱いでその小さな頭に被せてやる。
この家の中庭は家そのものの大きさと反比例してそれなりの広さがあり、小さな公園といっても過言ではない。
被せられたレニスの上着をキョトンと見詰めていたアリサは、すぐに『にぱーっ』と笑うとサイズの大きいそれを着込んで再び庭を走り回る。
「全く、お転婆な所は一体誰に似たんだか―――――って、母さんだよなぁ……」
「前々から聞きたかったんだけど、君たちの両親って…?」
「アリサの前でその話題出したら殺すぞルーファス」
レニスと一緒に縁側に座っていたルーファスが訊ねるが、レニスのどんよりとした表情に何も言えなくなる。
そのまま沈黙していたが、不意にレニスが口を開いた。
「しかし雪か……」
「寒くなるね……」
「……積もる、かな」
「う〜ん。積もって欲しいけど、なんか直ぐに止みそうだねこの雪」
「……ダメだ」
「はい?」
「そんな事は認めん!!」
両の拳を握り締め、勢い良く立ち上がるレニス。
そのまま拳を天に突き上げ
「今日のこの日の為に鍛え上げた我等がスキル! 活かさずして何とする!?」
「……また、今度は何をしでかす気だよレニス?」
「じゃ、ちょっと出かけてくる」
「行動早っ」
「アリサが風邪ひいたらお前は赤汁の刑だ」
「赤!? 青じゃなくて赤!?」
自分の部屋に飛び込んで別の上着を着込んで飛び出したレニスをルーファスは呆然とした面持ちで見送った。
「おお、ルーファス君。今日もアリサちゃんと一緒アルか?」
「あ、マーシャルさん。こんにちは、今日も闘技場通いですか?」
「こんにちは」
エルフェイム家の垣根越しに声をかけてきたマーシャルにルーファスとアリサは礼儀正しく挨拶をする。
この雪の中、鍛え上げられた上半身を惜しげもなく晒す青年は中庭の二人に親しげな笑みを向ける。
「そういえば、さっきレニス君を見たアルよ」
「レニスを?」
「うん。なんだか、陸見君とハルク君が一緒にいたから、またーなにかしでかすつもりアルよ」
楽しみアルー。とか言いながらマーシャルは去っていった。
なんであの人は風邪を引かないのだろうと真剣に悩みながら、ルーファスはいい加減寒さが厳しくなった中庭からアリサを連れ出すのだった。
翌日のさくら亭
「なんでいきなり積雪量50cm突破してるんだ!?」
ルーファスの絶叫が響いていた。
しかも今尚雪が降り注ぎ、数メートル先の視界も閉ざされている。
「おー凄い凄い。まさか昨日やった雪乞いの儀式が成功するとは」
「……なんですと?」
ギギギギギと首を回して隣りの三人を見ると、その顔には偉業をやり遂げた誇らしさが浮かんでいる。
そのまま首を回して今度はセリカとレナに視線を向けると、やれやれと肩を竦められた。
「よし! 陸見! ハルク! 町中で遭難する人たちを救助するぞ!!」
「応っ!! 今日のこの日の為に鍛え上げた我等がスキル!」
「ようやく人々の為に役立つ時が来たんだな!!」
「OKッ、逝くぞ!!」
三人で勝手に盛り上がって出て行こうとすると、いきなりさくら亭の扉が開け放たれ雪まみれの男たちが突入してくる。
「そこの悪ガキ三人待ちやがれ!!」
「今度という今度は流石に洒落にならんぞ!!」
「チイッ! 自警団? 見つかるのが早すぎる」
「誰かが情報をリークした? そうか、魔術師ギルドの長!」
「昨日邪魔だったから縛り上げて倉庫の隅に転がしたのを根にもって通報しやがったな!?」
それは犯罪だ。ルーファスがそう言う前に陸見とハルクが裏口へと駆けだした。
レニスは逆に自警団員の波の中を突っ切り、堂々と正面から外へと抜け出し勝利の高笑いと共に雪の中を泳いでいった。
自警団員が三人を追って出て行き、静寂が戻ったさくら亭。
少しして奥の厨房から出て来た聖哉がカウンター席に座り
「さて、セリカ、レナ、解ってるな? 悪ガキ三人が悪役になる」
「私達が温かい料理で恩を着せて救助された人達を懐柔する」
「パーフェクトだ」
本気で友人付き合いを考え直そうと思うルーファスだった。
ちなみに、彼がそう思ったのはこれで1934回目だった。
2000の大台は近い。
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