中央改札 交響曲 感想 説明

きっかけとも


 さくら亭店内……

 紅蓮は無言で床のモップ掛けをし、朋樹は厨房内のオーブンの前でチラチラとオーブン
内を気にしながら本を読んでいた。

 「ともぉ…まだできねぇのかよ…」

 モップ掛けも終わり、カウンター席に座った紅蓮は腹を抱えて突っ伏した。力無く呟き、
もはや限界といったところか。

 「後少しだから。まったく、少しは料理くらい勉強したどうなの? ティナやパティが
いないってだけでお腹空かせて死にそうなんて…」

 オーブンの中では、程良く焦げ目のついてきた鶏肉が香ばしい匂いを漂わせていた。
 今日は、さっきあげた二人と数人の女性陣が隣町の秋市に出かけている。そのため、さ
くら亭はバイトの朋樹が手伝いとして夕方から入る予定だったのだが…。なぜか、紅蓮だ
けご飯を自分で作るように言われて放っておかれていたらしい。

 「ンなこと言ったってよ…。できねェもんはできねぇんだよ…」

 「ふぅ…先が思いやられるね…。とりあえず、できたよ。後、注文は?」

 ため息混じりに呟きながら、朋樹は鶏肉のオーブン焼きと大盛りのピラフ、コンソメス
ープを出した。出るや否や、紅蓮はそれにがっつき始める。

 「ふぁふぉ、ふぃーふほへははんふぁーふ!」

 「…それだけ?」

 「ふぉふ!」

 …………見事に会話が成立していた。これも、幼なじみだからできる芸当なのだろうか。





 カララ〜ン♪

 「こんにちわっ!」

 元気な声と共に飛び込んできたのはキャラット。紅蓮の姿を見つけると、すぐさまその
隣に腰かけた。

 「おう、キャラット。元気そうだな。」

 「うんっ!」

 「キャラット、こんにちわ。」

 「あ、朋樹くん。こんにちわ!」

 元気を分けるかのように、キャラットはにっこりと笑った。来ただけで、さくら亭が明
るくなったような感じになる。キャラットは、リラと共に由羅邸に客人として寝泊まりし
ていた。キャラットとメロディが意気投合し、二人そろってのおねだり攻撃にリラと由羅
が折れたからである。

 「今日も合成魔法見るのか?」

 「うん。ボク、大好きなんだもん。キラキラしてて、綺麗で。紅蓮さんって、やっぱり
凄いよね!」

 「…紅蓮も、キャラットやレミットには甘いみたいだね。ローラやリオが来たときも結
構やってあげるでしょ?」

 紅蓮の腕をとり、キャラットは自分のことのようにはしゃぐ。朋樹はケーキをキャラッ
トに出しながら笑い、呟いた。

 「うるせぇよ。こいつは、『雪風』や『桜風』の発案者なんだ。何より、俺に懐いてく
れてるしな。」

 「紅蓮さんっ! ボク、動物じゃないよっ!!」

 「へぇ、発案者かぁ…」

 むくれたキャラットの頭をがしがしとなでる紅蓮と、それによって少し機嫌を直し、目
を細めるキャラットを見て朋樹は微笑む。口で悪く言おうとも、結局好きなのだ…仲間を。

 「でもさ、どうやって考えたの?」

 「それがさ…。」

 「あ、ボク。ボクに言わせてよ紅蓮さん。」

 笑いながら話そうとする紅蓮の服を引っ張り、キャラットが止めた。

 「あはは、キャラットはそんなに話したいんだ。」

 「うんッ!!」






 …ティナさんとヴァナさんがさらわれた事件が終わって…。ボクとリラさんはレミット
のお城に戻ってきた。ボクの住んでるフォーウッドの村の村長さんに、改めて魔宝探しの
結果を伝えなきゃいけなかったから。その時はレミットのつけてくれた護衛の人達と馬車
があったから、そんなに時間がかからなかったけど…紅蓮さん達のお話聞いて、ボクは凄
くビックリしたんだ。



 「えっ? …じゃ、紅蓮さんとティナさんとヴァナさんは公認の仲なんだねっ!」

 「…キャラット、アンタどうしてそういう恥ずかしいことをさらっと言えるわけ…?」

 お話聞いたボクの第一声に、リラさんは顔を赤くして頭を小突いてきたんだ。ボク、そ
んなに恥ずかしいこと言った記憶はないんだけどね。そうすると、紅蓮さんは笑ってこう
言ったんだ。

 「いいじゃねぇか、リラ。お前はいつもそうやって意地張るからな。だから男の一人も
できねーし、胸もちっちゃい。」

 「…紅蓮…コロスッ!!」

 そう叫ぶと、リラさんはナイフを持って紅蓮さんに飛びかかって行っちゃった。紅蓮さ
ん、いつも一言多いんだもん。ボクだって言われたらうさぎキック(ボクはうさぎじゃな
いけどね)しちゃうしね。いつもレミットは悪口言われて言い合いになってたよ。

 「そういえば紅蓮さん。合成魔法ってどういう魔法?」

 リラさんをまいて戻ってきた紅蓮さんに、ボクは尋ねた。話では聞いていたけど、この
目で見たことはなかったから。

 「あ? 別にかまわねェけど…。怖がるなよ?」

 「えっ?! それって、恐いものなの?!」

 それを聞いて、ボクの耳が自然と垂れちゃった。恐いものは苦手だし、その時の紅蓮さ
んの顔が哀しそうだったから…

 「まあ、別の意味でな。『…………』」

 「……」

 少し寂しそうな微笑みを浮かべると、紅蓮さんは両手を上に上げて変わった詠唱を始め
たんだ。両手に違う魔法の光が浮かんで、それはふわふわと儚げに揺らめいてた…

 『…………ひとつとなれっ!!』

 そう叫ぶと同時に二つの光が同時に消えて、次の瞬間にはひとつの光が紅蓮さんの目の
前に出てきたんだ。その時ボクは、恐さと綺麗さと…儚さを一緒に感じた。

 「わぁ…」

 「な? …恐いだろ。俺はもう何も気にしねぇが、未だに気味悪がるヤツは多い。」

 ただ一言しか言葉が出なかったボクに、紅蓮さんは寂しそうに笑いかけてくれた。でも、
ボクは一番感じた印象は「綺麗」。本当に綺麗と思ったんだ。それで、ボクは自然とこん
なことを言ったんだ。

 「雪…」

 「は?」

 「ねえ、紅蓮さん。この魔法って雪みたいだね。」

 「はぁ?」

 紅蓮さんは、最初はわけが分からなくってポカンと口を開けっぱなしにしてたっけ。言
ってたボクも、意味も分からず言ってたんだけどね。

 「冷たさで覆い尽くしちゃう「恐さ」、それでも目を釘付けにする「綺麗さ」、すぐ消
えちゃいそうな「儚さ」。んっと…自分で言っててよくわからないけど…ボクは、この魔
法大好きだよっ!」

 「…そうか。そういや、レミットのヤツもんなこと言ってたっけなぁ…。そうか、綺麗
か…。キャラット、ありがと…な。」

 そういって、紅蓮さんはボクの頭をなでてくれた。なんでか知らないけど、ボクはそう
して頭をなでてもらえるのがすっごく大好きなんだ。でも、その時はいつも以上になでら
れるのが気持ちよかった…

 「…雪、か。うん、いいかもな。」

 そう呟いた紅蓮さんの顔にはもう、さっきの寂しそうな表情はなかった。代わりに、い
つも何かを探しているような…そんな、いつもの紅蓮さんに戻ってた。

 『…………集いし光よ、散って全てを魅了する光の雪となれッ!!』

 詠唱を終えて、紅蓮さんが片手をあげた瞬間。周りを光が、雪が舞ってた。驚きながら
紅蓮さんを見ると、にこりと笑い返してきたんだ。

 「あとがとな、キャラット。これができたのはお前のおかげだぜ。」

 「ボクのおかげ?」

 「ああ。実はこれ、攻撃魔法同士を合成したヤツなんだ。でも、痛くもかゆくもない。
でも、雪が触れると感触はある。すぐに弾けるように消えちまう。こんな使い方もあるっ
てわけだ。傷つける魔法でも、こうして生かすことができるんだぜ?」

 楽しそうに、本当に楽しそうに紅蓮さんは笑いかけてくれた。





 「その後、桜とかいろいろ考えてたんだ。レミットなんか、すっごく無茶言ってね、「星
空を再現しろ」って言い出すんだよ。」

 「へぇ…。レミットも面白いこと言い出すね。」

 「でしょ? …でもね。紅蓮さん、再現はできなかったけど星空は作ってくれたんだ。
昼間でも真っ暗な部屋の中で、天井いっぱいに広がる星空を見せてくれたんだよっ!」

 両手をいっぱいに広げ、キャラットは嬉しそうにはしゃいでいた。朋樹はただ頷きなが
ら話に耳を傾け、紅蓮は照れたのかそっぽを向きながら話を聞いている。

 「紅蓮、星空できるんならなんでやらないの?」

 「ここじゃ、あまり意味もねェよ。所詮は偽物の星。空に輝く本物にゃかなわねぇさ。」

 「詩人だねえ。そうやってティナ口説いたの?」

 そういった朋樹の頭に、どこからか取り出したフライパンが、小気味のいい音をたてて
ヒットする。

 「わ、凄い音…」

 でっかい音にビックリし、キャラットはとっさに耳を押さえつけた。横では、朋樹が頭
を押さえてカウンターに突っ伏している。

 「紅蓮…痛い…」

 「自業自得だ。それとも、もう一発喰らうか? 頭に刺激を与えると、よくなるって聞
くしな。」

 「え、ホント? よ〜っし、ボクも…!」

 よくわかっていないキャラットは、紅蓮の言葉を鵜呑みにする。終いには、カウンター
に頭をぶつけようとしていた。

 「待て、嘘を鵜呑みにすんなッ! んなこと知れたら、リラに殺されかねねぇっ!!」

 「…誰が、誰を殺すですって…?」

 突然、怒りを押し殺した声が背後から聞こえる。紅蓮がギギギッと首を後ろに向けると、
憤怒の形相のリラが睨み付けていた。

 「あ、そうだ。僕、仕込み始めなきゃ…」

 「ボクも手伝っていい?」

 「うん。そうしてくれると助かるよ。」

 朋樹はさっさと厨房に入り、キャラットは手伝いを申し出た。紅蓮を見て見ぬ振りをし
ているのは、やはり巻き添えを食うのが恐いからであろう。

 「とっ、とも! キャラット! 可哀想な俺を見捨てる気かっ!?」

 「…誰が可哀想ですって…?」

 首をガッチリと掴まれ、じたばたと足掻くものの…紅蓮はさくら亭からリラに引きずり
出された。直後、紅蓮の断末魔が響きわたり、厨房内の二人はどちらとも無く顔を合わせ
てため息をつく。

 「紅蓮も、一言多いんだよね…」

 「リラさんも、いつもは優しいんだけど…」

 仕込みをしながら呟き合う二人の耳に、しばらくの間リラの怒声と紅蓮の悲鳴が届いて
いた。その日のさくら亭には、紅蓮の代わりにウェイトレスとして働くリラとキャラット
の姿があったいう。





 後書き

 「学園を取り戻せ!」で出てきた、キャラットの話です。紅蓮の合成魔法のさくら亭用
の魔法。それのできたきっかけ、ですね。
 前々から考えてはいたんですが、キャラットをどう出そうかというコトでいろいろと悩
んでまして…。気がついたら、彼女を出してたんですよ。それで、いい機会なので。
 紅蓮の落ち込んでいるときの話で、ティナやヴァナは紅蓮を立ち直らせる時に活躍して
ます。この後も、アルザや他の仲間の力で元に戻り、デュークにあって……と続いていき
ます。今回の話の紅蓮は、その後の話になるんです。って、文中でキャラットが思いっき
り言ってますけどね(苦笑)

 では。
 ともでした。
中央改札 交響曲 感想 説明