中央改札 交響曲 感想 説明

宝石を求めて〜ヘキサの宝石GET作戦〜とも


 カララ〜ン♪

 さくら亭の来客を告げる音が今日も鳴る。そして、それは今回の騒動の発端となった。

 「いらっしゃい。」

 「あの、紅蓮さんはいらっしゃいますか?」

 小さな箱を持ち、オドオドした様子の青年はぼそぼそと呟いた。

 「あ? なんか用か?」

 それを聞き、紅蓮が厨房から顔を出す。彼は見覚えのある顔…長の助手を務めている者
だった。

 「長からの預かり物です。調査が終わったので、お届けにあがりました。」

 「そうか、ちょっと待っててくれ。こいつを終わさんと、ここの看板娘にどやされちま
 う。」

 手元の皿の量を青年に見せ、苦笑すると紅蓮は皿洗いを再開する。青年はただその仕事
の進み具合をジッと眺めていた。程なくして、一枚残らず拭き終えた紅蓮が厨房から出て
くる。

 「ほれ、コーヒー飲むか?」

 「あ、はい。ありがとうございます。」

 青年にコーヒーを勧め、彼が座っているカウンターの隣りに座る。軽く頭を下げると、
青年は紅蓮に小箱を手渡した。

 「んで、なんかあったのか?」

 「いえ、紅蓮さんの気にされてた呪術や、その他邪悪な魔力は感じられませんでした。
それで、それぞれの宝石には古の物理魔法が込められているとの結果が出されました。」

 言いながら青年は一枚の紙を取り出し、紅蓮に手渡す。

 「これが各宝石に込められているとされる魔法です。色は力を表す、と長はおっしゃっ
 てました。先ほども申し上げましたが、危険と判断される魔法は一切ありません。それ
 で、長がいくつかを研究対象として引き取りたいとおっしゃられまして…」

 「ん。じゃ、十二個の内…七個ばかり引き取ってもらおうかな。」

 「そうですか…。では、御礼は後ほど…」

 「そんなに多くなくていいからな。最近、レミットとの交信で厄介になりっぱなしだか
 らな。」

 「それはそれで、こちらとしては願ってもないことです。けど…」

 「いいから。間違ってもよけいに持ってくるなよ? 持ってきたら、ムーンリバーをす
 巻きで流れてもらうことになるからな。」

 少し脅し口調で青年をビビらせた紅蓮は、適当に五個抜き取ると有無を言わさず小箱を
持たせる。青年はただ呆然とするばかりで、ポカンと口を開けていた。

 「それに、んなもんたくさん持ってたら、マリアあたりに盗まれちまう。こんなもん、
 少し持ってりゃいいのさ。ほれ、俺も仕事戻るからお前も戻れ。気ィ付けねーと、さっ
 きの言葉が事実になりかねねーぜ?」

 「はっ…はい! では、失礼しますッ!」

 いくら何でもマリアが盗みまでするはずはないが…。一瞬にして表情を暗くした青年は、
小箱を懐にしまうと頭を下げて去っていった。



 「ブルージルコン、翡翠、スピネル、サードニクス、ルビー…か。結構なもんだ。」

 淡い青、深い緑、黒混じりの赤、赤と白の縞に彩られた色、燃えるような赤。それらを
カウンターの上に無造作に置き、紅蓮は値を確かめるように一つ一つを手に取っている。

 「色は力を表す、ねェ…。ルビーはわかるとして、他がいまいちだな。」

 ブツブツと独り言を言いながら、先ほど手渡された紙を見る。と…


 カララ〜ン♪

 「こんちわ〜!」

 あまり見ない来客、ヘキサが現れた。

 「おう、ヘキサ。またサボりか?」

 「へん、サボりじゃねーよ。だいたい、オレ様はフィドルの部下じゃねーもん。」

 「はは、違いねェ。待ってろ、ジュースくらいは出してやる。」

 もっともなヘキサの言い分に苦笑した紅蓮は、飲み物の用意にとりかかった。厨房に入
った隙に、ヘキサはめざとく紅蓮の宝石に目を付ける。

 「おい、紅蓮。これお前のか?」

 「ああ。ちなみに、盗んだら氷漬け。」

 「オレ様はそんなに落ちぶれちゃいねェッ!!」

 憤慨するヘキサを後目に、紅蓮は笑いながらジュースを出した。どっから取り出したの
か、ショートケーキも一緒に出てくる。

 「おっ、気が利いてるじゃねーか。いっただっきま〜すっ!!」

 「おいおい…そんなに食い物に困ってるのかよ…」

 ヘキサのケーキに対する異様な喜び方と食いッぷりを見て、紅蓮は冷や汗混じりに呟い
た。無言で目の前に出された紅蓮のケーキを、ヘキサはシュタッと手をあげて礼代わりと
し、むさぼるように食い散らかす。


 「ところでさ、紅蓮。」

 「あん?」

 満腹になってご満悦のヘキサは、ジュースを飲みつつ紅蓮に声をかけた。

 「そーゆー宝石ってさ、どっかに落ちてねーかな?」

 「あほ。んなもん落ちまくってたら、宝石の価値なんぞ無いも同然だろうが。」

 いかにもヘキサらしいというか…安直なセリフである。苦笑した紅蓮は、つっこみに指
を使って軽くつつき続けた。

 「そっか…って、オレ様をつついて遊んでんじゃねぇっ!!」

 ツンツンと頭をつつかれ続けたヘキサは、うっとうしそうに紅蓮の指をはじく。

 「なんだ、欲しいのか?」

 「あったりめーだ! それでオレ様の食生活が改善されるんだぜ?! そうだ、みっけ
 たらさくら亭全メニュー制覇っていうのもいいな…。いや、高級缶詰を一年分買いあさっ
 てから…」

 「そんなに困ってるのかよ…」

 すでに手に入れた気になってきたヘキサは、涎をだらだら流しながら妄想にふけってい
る。呆れながらも同情し、紅蓮は複雑な表情を浮かべた。

 「う〜む…。あいつに頼むか…」





 「うん、見つけられると思うよ。可能性は低いけど。」

 学園が終わり、遊びに来た朋樹が簡単に頷いた。

 「マジかっ?!」

 「大マジ。もっとも、雷鳴山の溶岩の温度と石質、地質が関わってくるけど…」

 『でも、可能性はあるんだろ(でしょ)?!』

 そこにいたヘキサを始めとしたトリーシャ、クリス、シェリル、マリア、ラティン達は
いっせいに聞き返す。

 「でもでも、ホントに宝石が手に入ったらステキだよね〜♪」

 「ほんと…手に入ったらどんなに綺麗かしら…」

 イってる女性陣約二名(ストッパー含む)

 「えへへ…媒体に使えそうね…」

 さらにイってる魔法少女一名(爆)

 「宝石かぁ…ねえ、ラティンくんはどう思う?」

 「そうだなぁ…。オレは、やっぱプレゼントするな。」

 話し合う男性陣二名…

 「ここかラ・ルナ貸し切りもいいなぁ…」

 手に入れた気の使い魔約一匹(爆)

 「紅蓮、みんなどうしよう…」

 「ほっとけ。そのうち気付くだろ。」

 正気のまま、茶をすすりつつ相談し合う男二人。さくら亭に、客がいないことがせめて
もの救いであろう。下手にいると、怪しい噂を流されかねない。



 「で、何を調べればいいんだ?」

 真っ先に正気に戻ったヘキサは、朋樹の前に座り込んで質問した。

 「色……かな。黄色みの強い、大きめの結晶を含んだ深成岩を見つけるのが重要だね。
 もっとも、雷鳴山の形は低いテント型だけど…。でも転がってる火山岩の色は黒だから、
 玄武岩である可能性は少し高いかな。それと……………」

 「…すまんが、みんな頭抱えて固まってるぞ。」

 「へ?」

 見ると、朋樹の呟きを聞いていた者全て(辛うじてシェリルを除く)が頭を抱えてテー
ブルに突っ伏していた。ヘキサなんぞ、青い顔してのたうち回っている。

 「簡単な言葉使って呟いたはずだけど?」

 「物理&化学10が馬鹿ぬかすな。お前の基準で考えてたら、頭がどうにかなっちまう。」

 「それについてくる紅蓮も凄いよね?」

 「ま、苦手じゃなかったからな。」

 話を聞いて平然としているあたり、紅蓮も負けず劣らずなのだろう。変に偏りすぎた知
識を持つ二人だ。

 「そういや、人工宝石なんつーのもあったよな?」

 「あったあった。そう言えば、高校の先生が大金持ちを夢見てね。装置作ったのは良い
 んだけど…原料粉末を落とす振動装置の振動回数を失敗しちゃって…粉塵爆発一歩手前。
 危うく大惨事になるトコだったよ。」

 「ああ、竹キンだろ? 俺ん時は酸水素炎が大きくなりすぎて、炉が溶けちまってな…」

 「ばっかやろぉぉぉぉっ!! んな話、よそでヤリやがれェッ!!」

 わけのわからん話を始めた二人に、ヘキサの拳が頬に食い込んだ。拳ひとつ分まで食い
込んだそれに、紅蓮は涙をいっぱいにためて抗議する。

 「ヘキサっ! 食い込むまでやる必要ねぇだろうが!」

 「うるせぇ、オレ様は正当防衛しただけだ! それとも、こいつ喰らうかっ?!」

 言いながら、ヘキサは手に魔力を集中した。莫大な魔力が集まり、その手が揺らめくほ
どに空気を歪ませている。

 「やるか? おもしれぇ、どんだけ骨あるか見極め…」

 「……余所でやりなさいッ!!!!」

 二人が魔力を放つより早く。パティのフライパンがヘキサを叩き落とし、もう片方のフ
ライパンが紅蓮の頭の形にへこんだ。二人の集めた魔力はすぐに霧散し、チリと化す。

 「「うぐぐぅぅぅぅ………」」

 「あたしを本気で怒らせたい…?」

 ベキベキと指を鳴らしてにじり寄る恐怖に、頭を押さえていた二人は後ずさりながら首
を横に振りまくる。

 「…よろしい。」

 二人の表情を見てため息をついたパティは、そう呟くと厨房に消えていった。

 「と、とりあえず図書館に行った方がいいね。地質を調べられるかもしれないし。」

 「そ、そうそう。早く行こうよ。」

 我に返った被害無しメンバーは、紅蓮とヘキサを引きずりながら、そそくさとさくら亭
を後にした。



 二日後。過去の書籍を調べた結果、宝石発見の可能性十分と朋樹が判断を下したため、
ヘキサ率いる宝石発掘団が組織された。





 「こんなところがあったんだ…」

 おそらく地震、もしくは雨による地盤のゆるみが原因となったのであろう…。高さ10
mはあろうかという岩壁が、その存在感を周囲に知らしめしていた。

 「うん、あたしも最近知ったんだけどね。」

 雷鳴山付近案内役のイリスが、朋樹の呟きに答えながら共に岩壁を見上げた。宝石発掘
団メンバーのヘキサ、紅蓮、フィドルも同様に見上げている。

 「へへへ…ここならわんさかと宝石が…」

 「こら、ヘキサ。欲にまみれているようじゃ宝石の方から逃げていきますよ。」

 「うるせェッ! 元はといえば、フィドルの稼ぎが悪いから…!」

 「そんなこと言っていると、また封印しますよ!」

 「やかましい、二人とも。」

 言い合いに発展しそうな二人を、紅蓮が止める。フィドルもカチンとくるあたり、気に
しているのだろうが…。


 しばらく岩壁と地面が交わっている部分を調べていた朋樹が、皆を呼び集めた。そして、
一点を指さして説明を始める。

 「…地殻変動の跡…だよ。ほら、ここら辺に黄色みがかった岩があるでしょ? これが
 カンラン石の微少な結晶が集まった、カンラン岩って言うんだ。他にも、翡翠も見つか
 るかもしれないね。」

 「高いのか?! それって高いのか?!」

 「大きめの結晶なら、ね。僕たちの世界なら、カンラン石は小指の第一関節あたりくら
 いまでの大きさで、1000〜1200G分くらいになると思うよ。」

 興奮するヘキサに、朋樹は自分の指を見せて説明する。ひと月のアルバイト分に等しい
それを、簡単に(そう簡単に見つかるモノではないが)稼げると知り、ヘキサはさらに興
奮した。

 「いい? 変にほじくりすぎないこと。いくら宝石見つけても、岩壁の下敷きになっち
 ゃったら元も子もないでしょ?」

 「わかってらい! フィドル、サクサク見つけるぞ!」

 「わかってますっ! ふっふっふ、これで借金しなくても……」

 途端に目の色変えた二人の、異様なオーラにイリスが引く。そのまま朋樹に飛びつき、
少し怯えた目をした。

 「朋樹ぃ…なんか、あの二人恐い…」

 「ま、いろいろ苦労してるんじゃない…? 特にフィドルさんは、ヘキサのせいで苦情
 が相次いでるらしいし…」

 「あ、それあたし知ってる。この前ヘキサが雑貨店の壺壊しちゃって、フィドルが謝り
 ながら弁償してた………」

 ヘキサの保護者は自警団ではなくフィドルとなっているので、そうしたツケが全てフィ
ドルに回ってくるらしい。一応、自警団の方でヘキサを呼び出した責任もあるので、一部
負担を軽くはしているらしいが。



 「あ〜ッ! 出てこねぇぞっ!! どうなってんだよっ!!!」

 二時間ほど経って、とうとうヘキサがキレた。細かい粒みたいなものは見つかるものの、
めぼしいものが一切出てこないのだ。短気なヘキサにしてはよくもった方だろう。

 「朋樹ッ!! てめェ、嘘つきやがったなっ?!」

 「ついてないよ。僕は、あくまでも可能性があるって言ったんだよ? そう簡単に見つ
 かったら、宝石の価値なんて無いってば。」

 ヘキサの怒声を受け流しつつ、ピックとハンマーで少しずつ岩を削る朋樹。時折興味深
そうに破片をルーペで眺めては、腰の袋に詰めている。

 「だったら、袋に詰めてるのは何なんだよ?!」

 「これ? ぬいぐるみの目とか、アクセサリーに使えそうなクズ石だよ。ジョートショ
 ップで、頼まれたんだ。」

 「ちっ…オレ様は上を探してやる!」

 舌打ちすると、ヘキサは崖の中腹ほどへ飛んでいった。それを見て、朋樹はため息をつ
く。

 「紅蓮、フィドルさん。ヘキサが上行っちゃったから、もう少しこっちの方がいいよ。」

 「あ? …おお。ヘキサのヤツ、よくもまぁあんなトコで…」

 「私も負けていられないですね…! ふふふふふ……」

 のんびりと見上げる紅蓮と朋樹。しかし、それを余所にフィドルは、闘志を新たにどこ
かへ行ってしまう。怪しい笑い声と共に…

 「…こっちもヤバげだわな。」

 「……ホントだね…」

 正気を保っている二人は、ため息混じりに交互に見比べる。そして、顔を見合わせると
再び深いため息をついた。




 日も傾いてきた頃、あたりに響いていた音がひとつ止んだ。周囲は赤く染まり、夕闇が
刻一刻と迫って言うことを物語っている。

 「お〜い。そろそろ切り上げようよ〜。」

 「…とも、あいつら全然止める気ねェぞ…」

 声をかけるが、二人とも止める気を微塵も見せず宝石探しに没頭していた。

 「ふふふふふ…」

 地面にしゃがみ込み、乾いた音を響かせているのはフィドルだ。

 「これ、これ、これぇ〜! このでっかいのをぉ〜!!」

 ガツガツと音を立て、すでにイっちゃってるのはヘキサ。目をランランと輝かせて岩壁
の一部を削り続けていた。

 「…危険……」

 「ん?」

 「ヘキサッ! そこ、危ないよっ!」

 「ああ?! もう少しでこのでっかいヤツが掘れるんだぜ?! それをみすみす…」

 ヘキサが振り返った直後。ミシミシという音と共に塊が壁面からずれ始めた。

 「おっ? てめーら、今そこに落ちるから離れてやがれッ!」

 自分では支えきれないと判断したヘキサは、すぐに5mほど間隔をとった。イっちゃっ
てたフィドルも、パラパラと落ちてくる小石や砂で正気に戻ったのか掘りだした石を持っ
てその場を離れた。

 「……朋樹、ヤバいよっ!」

 「え?」

 「ここ、危険すぎる! 今すぐ走ってッ!」

 突如、恐怖にかられたかのようにイリスが叫ぶ。朋樹はワケも分からずオロオロするが、
とっさに走った紅蓮とフィドルに手をもたれ、辛うじてその場を離れた。直後、ヘキサの
掘っていた塊が落ちると同時に…

 「う…嘘だろ…?」

 宙を舞うヘキサの目の前で、岩壁は轟音を轟かせながら崩れ去っていった。イリスの声
で走っていた二人(+引きずられている者一名)はギリギリのところで被害を免れ、事な
きを得た。



 「ちきしょ〜! オレ様の宝石ィィィィィッ!!」

 哀れヘキサ、滝のような涙を流しながら崩れた土砂を掘り続けていた。

 「…ヘキサ、もう無理だよ。それに、このままじゃいつ崩れるかわかったもんじゃない。
 もう諦めた方がいいって…」

 「うるせェッ!! アレさえあれば、さくら亭全メニュー制覇を毎日できたんだッ!!
 それを…クソッ!!」

 「…随分と安い野望だね…」

 しかし、ヘキサにとっては死活問題と悲願である。もっとも、ヘキサが素直に働いて給
料なりなんなり得ていれば解決するはずなのだが…。自警団は、使い魔は雇ってくれない
のだろうか?

 「…ったく。ほれ、ヘキサ。今回はかなり真剣にやってたからな、これをやろう。」

 そういって、紅蓮はポケットからルビーを取り出すとヘキサの手に持たせた。

 「おい、これ…?」

 「これもって長んとこ行きゃ、そこそこの金になるはずだ。なんせ魔力こもってやがる
 からな、喜んで買ってもらえるぜ。」

 流れる涙もそのままに、ヘキサは狐に抓まれたようにポカンと紅蓮を見上げている。

 「紅蓮さん…」

 「そんかわり、フィドル。ヘキサのことを自警団でこき使ってやれ。いい加減、こいつ
 を自警団で雇ってやれよ。ヘキサも第三部隊のメンバーなんだろ?」

 面倒くさそうに話し、紅蓮は大あくびをかみ殺した。

 「そうはしたいんですが、団長の承認が…」

 「ったくよ…。お前、隊長だろ? ヘキサが失敗した後始末を、自分の責任を持って片
 付けるとか何とか言えねーのかよ、え?」

 「(…あ、そうか…たしか、あの時)」

 フィドルのしどろもどろした言葉に答えた紅蓮の顔は、苦笑いしていた。…紅蓮自身、
フィリーをさくら亭で雇うに当たっての責任を全てこなしてきたのだ。そうでなければ、
いくらウェイターをしている紅蓮の紹介でも、それも妖精をほいほい雇ってもらえるはず
がない。朋樹は、パティの父親に頭を下げている紅蓮の姿を見ていたため、その気持ちが
よくわかったのだろう。

 「そうですね。私もまだまだ、と言ったところですか。」

 「へん、フィドルはいつもどこか抜けてるんだよ。さて、帰ろーぜ!」

 「…ヘキサ。あなた、また小遣いを減らされたいんですか?」

 「すまん、オレが悪かった。」

 にこやかなフィドルの脅しに、ヘキサは簡単に屈した。しかし、そんなことを言いつつ
もすぐに笑い合っている。

 「よっしゃ〜っ!! 帰ったら、さくら亭で食いまくってやる〜〜〜〜!!」

 「…その前に、金に換えてこいやっ!!」

 喜々としてさくら亭へ向かおうとするヘキサを掴み、紅蓮は力任せに魔術師ギルドの方
へとブン投げた。




 「うっ…ううう…」

 「……パティ、もう一杯下さい…」

 一週間後、さくら亭内……

 「…紅蓮、なんでヘキサとフィドルさん泣いてるの?」

 「…ああ。なんでも、昨日空き巣が入ったらしい。」

 「空き巣ッ?! …モガモガ……」

 トリーシャの突拍子な声に、紅蓮は慌てて口をふさいだ。

 「いいか、これをヘキサの前で話すなよ。話したら…」


 「……殺す……絶対に殺してやる……殺せなくても、オレ様の金を盗んだことを一生…
 後悔させてやる……!!」

 ヘキサは真っ赤な目をさらに赤くし、すでに泣きすぎでかすれてしまった声を絞り出し
て呟いていた。

 「ふっふっふ……空き巣、許すまじ……。自警団第三部隊隊長の名にかけて、絶対に探
 し出してやりますよ………ふっふっふ……」

 フィドルはフィドルで、酒をあおりながらブツブツと同じことを呟いていた。


 「…空き巣に入った人が、なんかかわいそうですね…」

 一緒にいたクリスが、怯えた表情で呟いた。シェリルに至っては声すら出ないでいる。

 「…いったい、いくら盗られたの?」

 「五千だと。」

 「うわ…そんなに……」

 実質、フィドルの給料約二ヶ月分である。そりゃ、落ち込みもするだろう。

 「宝石としての価値と、内部許容魔力で判断してこの値段だったんだと。災難だわな。」

 あっさりと言ってのける紅蓮は、実は二万弱ほどもらっていたりする。数に対して金額
が低いのは、やはり価値と魔力の差、あと紅蓮の言葉のせいであろうが。

 カランッ!

 いつもより短い鐘の音が鳴り、ドアが勢いよく開き…

 「フィドル、ヘキサッ!!」

 と、開いたドアからアルベルトが顔を出した。

 「連続空き巣犯のアジトが判明した! 複数人数みたいだから、応援頼む!」

 「よしっ! ぶっ殺してやる!!」

 「行きますよっ! アル、案内頼みますッ! …ふっふっふ…一人たりとも、逃がした
 りなんぞ絶対にしませんからね……!」

 二人そろってなにやら物騒なことを言うと、アルベルトを追い立てるように走り去って
いった。あとに残った者達は、みんなそろってため息をつく。

 「俺…今、心底空き巣集団に同情した…」

 「……僕も…」

 「…うん、ボクもだよ。」

 「…僕、あんなに恐い二人みたの初めてです…」

 「…………」

 「ホント、あたしだって恐かったもんね…」




 後日。
 空き巣集団全員を逮捕できた功績として、ヘキサが正式に第三部隊のメンバーとして配
属されたが…。その事件で起こったことは全て闇の中に葬り去られたという。ただひとつ。
犯人グループの主犯格とある下っぱが、そろって「赤い目が襲ってくる」としばらくの間
怯えきっていたらしい。






 後書き。

 ども。ともです。

 …ヘキサ、ここまで恐くする必要なかったような気が…(汗)
でも、ヘキサの食い物の恨みってかなり恐ろしそうですし。なんせいっつも食い物のこと
ばかり考えてますからね(あくまでわて本人の見解ですが)

 このSSは、ある人の言葉によって作られました。といっても、その時言われた言葉か
ら、このSSのキーワード「宝石」との結びつきを見つけることは困難ですが(爆)
ちょっとこじつけも入ってますしね。

 では。ともでした。
中央改札 交響曲 感想 説明