中央改札 交響曲 感想 説明

放課後、街でとも


 ポカポカとした陽気の中。私立悠久学園屋上のペントハウスの上に、二人の少年の姿が
あった。一人は給水塔の脇に腰かけ、もう一人は寝転がり、ボ〜ッと空を見上げている。

 「い〜天気だね〜」

 「ああ、いい天気だよな〜」

 二人の少年は、夢見心地で呟き合う。…ンなコト言ってるが、実は授業中だったりする。
まあ、教科書に書いてあることをしゃべってるだけで、出ていようがいまいが大差ないと
いう教師の授業だ。実際、授業にもかかわらず皆おしゃべりに興じていることであろう。
そして、その授業が終わったら放課後である。

 「ねえ、今日はレナの新曲買いに行くんでしょ?」

 「あったり前じゃん! 今回は、予約特典でA2版サイズのパズル式パネルがもらえる
 んだぜ!? 休日中に仕上げてやるんだ!!」

 「…僕、手伝うことになるのかなぁ……」

 燃えるビセットを後目に、一人ため息をつく朋樹。A2版のパネルならまだしも、その
大きさのパズルなんぞそう簡単にできるものではない。もっとも、ピースの大きさにもよ
るが。

 「今回のシングルも最高なんだよな〜。朋樹、知ってるだろ?」

 「それ、一週間前から知ってるってば…。デモが流れてるじゃない。」

 今のビセットのテンションなら、終了のチャイムが鳴ったと同時に買いに走ってくれる
だろう。今彼が一番夢中になっているアイドル、それがレナなのだから。しかし、学校の
終了を待っているとは変に律儀である。

 「…また、HRは出ないつもりなんでしょ?」

 「もちろん! 朋樹も行くんだろ?」

 「まあね。今回のレナの歌は買うつもりだし、他にも二〜三枚くらい買いたいの出てる
 はずだから。」

 ビセットの問いに即答する朋樹。それを聞いたビセットは、興味津々といった表情で朋
樹に尋ねた。

 「そーいやさ、朋樹って好きなジャンル滅茶苦茶だよな? 統一すればいいのに。」

 「え? 別にいいんじゃない、滅茶苦茶でも。僕は気に入った曲を聴くだけだし、いろ
 んな人にはそれぞれ個性もあるしね。僕は聞きたいと思ったものを集めてるだけだよ。」

 そう言って、朋樹は笑いかけた。ビセットもこれ以上は言うつもりはないのだろう、た
だそれに対して頷いた。


 ちなみに朋樹の聴く音楽のジャンルは、POPから始まってアニソン、洋楽からR&B、
ユーロ、ジャズ、クラシック。さらにロックやテクノ系と聴くジャンルの幅が広すぎるく
らい広いのだ。そのため、朋樹の持っているMDの中にはいろんな曲がごちゃ混ぜで入っ
ている。周りの友人で、その中身を五割理解できた人間は一人もいなかった。


 「今度さ、ロックかユーロ系のCD貸してくれよ。ルシードとルーのライヴ聴いたら少
 しハマっちゃってさ。」

 「うん、いいよ。それなら…エイルズとかフュールトンあたりがお勧めかな。あれ、ト
 リーシャも気に入ったくらいだから。」

 「へ〜、流行を先取りってか?」

 「うん、言ってた言ってた。みんなに教えるんだって。」

 言い合って、二人で苦笑する。朋樹にとっては居候先の娘だし、ビセットにとっては野
球とソフトボールの因縁があり、隣の席だ。この共通の知り合い、トリーシャがいたから
こそ、この二人が今ここにこうしてしゃべっているのだから。



 と、談笑しているといつの間にか終了のチャイムが鳴り響く。ビセットはガバッと飛び
起き、朋樹ものびをひとつして立ち上がった。

 「ビセット、部活は?」

 「へへへ、実は、今日は休みなんだ。朋樹みたくサボりじゃないぜ?」

 「…はいはい。じゃ、行こう!!」

 すでに用意してあった肩掛け鞄をひっ掴むと、二人そろってペントハウスから飛び降り
た。着地の動作もそこそこに、二人はドアの中へと消えていった。





 「ううう………レナちゃんのCD………」

 「……………痛い……」

 「ほらっ、二人ともキリキリ働くッ!!」

 数分後。朋樹とビセットは、頭にでっかいタンコブこさえて、涙を流しつつ教室の掃除
に勤しんでいた。脇では、見張りのトリーシャがホウキを掃きつつ鋭い眼光で二人を見張
っている。他にも、数人の女子達が二人を見張りながら掃除をしていた。

 「一回くらいサボったっていいじゃんか…」

 「そうだよ、一回くらい…」

 「…二人とも、もう一回喰らいたい?」

 「「いえ、結構です。」」

 トリーシャがチョップの構えをとると、二人はしょんぼりしながら掃除に戻った。まあ、
これが初犯ならまだ弁解の余地もあったのだろうが…さすがに、五回も六回もサボられて
はたまったもんじゃない。従って、トリーシャ達は昇降口や階段、その他もろもろで待ち
伏せしていたのだ。

 「トリーシャッ!! これで初回特典が無くなったりでもしたらお前のせいだぞ!!」

 「…初回版予約特典でしょ? ボクだって、それくらい知ってるよ。無くなるわけない
 じゃないか。」

 「う゛っ……」

 涼しい顔でつっこみをいれられ、ビセットは顔を曇らせた。どうやら、情報収集能力は
トリーシャの方が一歩上手らしい。まあ、歩く流行水先案内人とまで言われているのだ。
当然といえば当然だろう。

 「ちきしょう…知ってたか…」

 「甘いね。そんなんじゃ、ボクにはまだまだ勝てないよ。」

 「勝ち負けは関係ないと思う…」

 …結局、開放されたのはそれから二十分後のことだった。




 「ありがとうございました〜」

 「やっとゲットしたぜ!」

 その後、CD店に直行したビセットはすぐさま購入を果たしていた。片手にCD、もう
片手に特典のパズル入りの袋を持って。

 「ビセット、感動するなら家帰ってからにしなよ…」

 「そうだよ、ボク恥ずかしいんだよ?」

 冷や汗たらしてつっこむ朋樹とトリーシャ。二人ともその後ろに並んでいて、まだ購入
はしていないのだが。

 「朋樹はともかく、なんでトリーシャまでいるんだよ。」

 「いいじゃない、ボクの勝手でしょ。それに、欲しいCDあったしね。」

 と、屋上で朋樹の言っていたエイルズのアルバムを見せるトリーシャ。どうやら、友人
に教える前にハマってしまったらしい。

 「あれ? それって、さっき朋樹が言ってた…」

 「うん。聴いてたら気に入っちゃって。結構ノリ良くていいよ。朋樹くんの選ぶ曲って、
 結構当たりが多いんだ。ボクも影響受けちゃってさ。」

 「ふ〜ん。」

 えへへ、と照れ笑いをして、トリーシャは会計のためにレジに行った。それを待ってい
る間、ビセットが朋樹の買おうとしているCDをのぞき込んでいた。

 「へぇ…って、これアニメじゃんか! …これはなんだ?」

 「うん。これは夜にたまたまやってた、ミュージック・ルームで聴いて気に入っちゃっ
 て。マイナーだけど、曲も詩もいいよ。」

 「…インディーズ……」

 インディーズ。いわゆる、自費制作のCDである。企業やプロダクションに入っていな
い無所属のアマチュアが出したもので、知っている人は知っているが興味のない人間はほ
とんど無知に等しい。しかし、プロに負けず劣らずの実力者がいることもまた事実である。

 「うん。貸す?」

 「ああ、後でな。」

 「お待たせっ、朋樹くんもお会計済ませちゃいなよ。」

 なんだかんだと話していると、会計を終えたトリーシャが二人の間に割って入ってきた。
朋樹はそれに頷いて答えると、レジに向かって歩いていく。

 「…ね、朋樹くんと何話してたの?」

 「え? 別に、普通だけど。…もしかして、気になるのか?」

 「うん。なんか、また新しいCD見つけてたのかな〜ってさ。」

 朋樹が会計に手間取っているとき、トリーシャがビセットに話しかけてきた。退屈しの
ぎというのもあるのだろうが、目的の大半はやはり朋樹が手を出したCDの話題だ。

 「朋樹、今度はインディーズにも手を出してたぜ。」

 「また? 朋樹くんも好きだな〜。」

 「また?!」

 「うん。朋樹くんの部屋の、1/4くらいがインディーズだよ。あれ、ビセット知らな
 かったの?」

 また、という言葉を聞いて驚いているビセットに、トリーシャは意外そうな表情をする。

 「知らなかった…。でも、朋樹っていろんな曲聴くよな。」

 「そうだよね〜。最初は、ボクもビックリしたもん。でも、聴き慣れてくるとこれが結
 構…」

 「いいって?」

 「うん。今じゃ、ボクの持ってるCDと朋樹くんのCDが少しずつ同じような趣味にな
 ってきてるしね。」

 頭をポリポリと掻きながらトリーシャは答えた…「ボク、影響受けやすいから」と付け
加えて。その分、紅蓮の友人であり、あまり面識のなかったシーラと話が合って仲良くな
ったという得もあったのだが。

 「お待たせ。ちょっと話し込んじゃった。」

 そんなことを話していると、頭をポリポリと掻きながら朋樹が戻ってくる。ビセット以
上にCDを買ったりしている朋樹は、店員と結構な仲がいいのだ。その分ポスターとかお
まけしてもらったり、早めに情報を仕入れたりもできるという得もある。




 「今日は何枚買ったの?」

 「三枚。一枚だけ、まだ入ってなかったからね。」

 店から出て、アーケードをぶらぶらしながら今日買ったCDを見せ合う。ビセットはレ
ナのCDのみで、トリーシャはエイルズのアルバム。朋樹はレナのCDと、FLOORという
グループのCDシングル(アニメ映画の主題歌)とインディーズでメイアー・ロータスの
アルバムだった。

 「……全然分かんない。」

 「あはは、メイアーって外国のアーティストだもん。洋楽知らないと分かんないよ。」

 「ふ〜ん…」

 これはこう、この歌は…と、朋樹は楽しそうに解説を始める。飽きない程度に短く、そ
して適切な解説をい二人はただ聞いているだけだった。それだけでなんとなく楽しいし、
自然と笑みが浮かんでくるのだ。

 「なんか、朋樹の話聞いてるとCD聞きたくなるな。」

 「そう? だったら貸そうか?」

 「ああ、後でな。」

 影響を受けた人間がまた一人増えたようだ(笑)。

 「ねえねえ、プリクラ取ろうよ。ちょうど空いてるしさ。」

 しゃべりながらゲームセンターの前にさしかかったとき、不意にトリーシャが二人の腕
を引っ張った。

 「えー、俺はいいよ。第一、そんなのつまんねーし。」 

 「え〜?! ねえ、朋樹くんは?」

 「え? 僕は別にかまわないけど。いいじゃない、ビセット。撮ろうよ。」

 少しイヤそうだったが、2対1となっては分も悪かったのだろう。渋々それに同意する。

 「わーったよ。でも、あんま変なフレームはイヤだぜ?」

 「了解ッ! じゃ、さっそく撮ろ!」

 喜々として、トリーシャは二人を引っ張ってプリクラ機に向かっていく。朋樹とビセッ
トは、苦笑しながら引っ張られていった。




 「これのフレームでいい?」

 「こんなの、女向けじゃんか。もっと何かないのか?」

 「それじゃ、これ。」

 「う〜ん…あ、これなんていいじゃん。」

 「え〜、ボクにだって選ぶ権利はあるよ。こんなのボク、ヤダなぁ…」

 あれやこれやと選ぶトリーシャとビセット。そんな二人を、朋樹は黙って後ろから見て
いた。ただ待っているよりは、二人のやりとりを見ていた方が退屈しのぎにはなるからだ。

 「なあ、朋樹。こっちの方がいいよな?」

 「え〜、こっちの方がいいよね、朋樹くん!」

 「…どっちも撮ればいいんじゃない?」

 「「却下!」」

 どうやら、両方を選ぶことはできないらしい。しかもどっちも隠しフレームで、お互い
トリーシャはビセットに、ビセットはトリーシャに合わせて選んだらしいが、どっちも気
にくわなかったようだ。

 「仕方ない、これ使うか…」

 互いに譲る気にならないようだった二人に肩をすくめた朋樹は、更なる隠しフレームを
出すコマンドを入力した。

 「え? こ、こんなのあったの?!」

 「すっげー、マジかよ…」

 出てきたフレームを見、感嘆の声を上げる二人。それにかまわず、朋樹は一つのフレー
ムを選び出す。

 「これ、結構珍しいし…これでいい?」

 と、出したのはフレーム部分に自由に書き込める種類だった。色も16色から選別でき、
書き込める幅の種類も結構多い。もちろん、全体に書き込めるものもある。

 「へえ〜。ボク、幅の選択できるやつなんて初めて見たよ。」

 「俺も…。朋樹、何でこんなの知ってるんだよ?」

 「あはは、メル友から教えてもらったんだ。一人、そーゆーの詳しい人がいてね。」

 ちょっと得意気に胸を張る朋樹。しかし、二人はすでに何を書き込むのかに夢中になっ
ていた。

 「あはは、こういうのはどうかな?」

 「鼻眼鏡? ちっちっち、甘いぜ。書くならこれだろ?」

 ちょうど顔に合うくらいの大きさの鼻眼鏡を書くトリーシャに、「喧嘩上等」と脇に書
くビセット。朋樹は、無難に年月日を入れていた。





 「結構面白かったね、また撮ろうよ。今度はシェリルも誘おうかな。」

 「いいんじゃねーの? 朋樹もまたやろうぜ。」

 「うん。じゃ、出し方教えておくね。」

 三分割したプリクラをそれぞれ持って、三人はアーケードの出口までしゃべりながら歩
いていた。と、出口の方から知った顔が三人歩いてくる。

 「あ、紅蓮〜!!」

 「よ、ともじゃねぇか。」

 「こんにちわ、トリーシャ様、朋樹様、ビセット様。」

 「こんにちわ。…あら? 三人とも、プリクラ撮ってたの?」

 知った顔は、紅蓮にクレア、シーラの三人だった。

 「うん、さっき撮ってきたんだ。見る?」

 「ありがとう、トリーシャちゃん。」

 他の人間に話したかったのか、トリーシャは真っ先にシーラにプリクラを見せた。その
後、いろいろと説明を始めてしまっている。

 「こんちわ。クレアさんとシーラさんって、最近紅蓮と仲いいよなー。やっぱ、同じク
 ラスだから?」

 「そうですわね。それに、席も隣ですし。」

 「部活に顔出したりもしてたしな。最近は少なくなってきたけど。」

 「そういえばそうでしたわ。また稽古をお願いできませんか?」

 紅蓮は、特定の部活に入ってはいない…朋樹もそうなのだが。基本的には帰宅部なのだ
が、頼まれたりすると臨時の助っ人として各部活に短期間入ることがあるのだ。その主な
内容は、急病人の穴埋めや特訓相手、武道系になってくると対戦相手というのもあった。

 「別にいいけど…そろそろクセ直したか? あれ知られちまうと、攻撃も何もできなく
 なっちまうぞ?」

 「それをわかって立ち回れるのは、お師匠様と紅蓮様、朋樹様くらいですわ…」

 「いーや。全国出りゃ、それくらいのは大勢いる。バーシアも言ってたろ?」

 「う…。ええ、言われましたわ…」

 しゅんとなってしまうクレア。そこまで言えるほど、紅蓮とクレアとの差は大きいのだ
ろう。

 「すげえ…」

 「なら、俺をさん付けで呼んでいいぞ?」

 「それはヤダ。」

 「なんだと〜? なら、こうだっ!」

 「あだだだだっ! いだいいだいいだい〜〜!!」

 あっさりとさん付けで呼ぶことを却下したビセットに、紅蓮は軽くヘッドロックをかま
す。ビセットは暴れて抜け出そうとするが、ガッチリ固められて抜けられない。

 「はあ…紅蓮ッたらいつまでもこうなんだからなぁ…」

 「そ、それが紅蓮様のいいところではないですか?」

 「それは、俺がいつまでもガキッてことか?」

 いつの間にかビセットを解放した紅蓮が、今度は朋樹とクレアの前に現れた。クレアは
ビクッとして後ずさるが、朋樹は大きく頷く。

 「クレアは許す。…が、とも。お前は許さんッ!!」

 「甘いよっ!」

 叫びながら飛びかかる紅蓮。しかし、朋樹はそれを紙一重でかわす。

 「…シメる…!」

 学校での喧嘩にもほとんど使わない、得意の蹴りを放つ紅蓮だが…それを朋樹に軽く受
け流され、足払いを受けて盛大にコケた。

 「のわっ?!」

 「ふっふっふ、武術で僕に勝とうなんて十年早いね。」

 にこりと笑い、朋樹は紅蓮に向かって呟く。紅蓮はふてくされたように口をとがらせると、
膝の砂を払った。

 「ったく、とも。少しは加減しろよな? いい恥さらしだぜ。」

 「何言ってるの。僕にそこまでできるの、僕の知ってる中では紅蓮くらいだよ。」

 紅蓮の蹴りですら、武道をたしなむクレアの目には霞んで見えたというのに…末恐ろしい
高校生である。

 「そういや、なんで紅蓮もいるの?」

 「…俺がいるのがそんなに珍しいか? …秘密だ。」

 「私とシーラ様の荷物持ち、ですわ。」

 ぷいと向こうを向いて知らん顔した紅蓮だが、その真相をクレアがあっさりと答えてしま
う。

 「ク、クレア! 俺が秘密って言ってるのに、普通いきなりバラすか?!」

 「いいではありませんか。楽しいですし。」

 「そーゆー時と場合と問題じゃねぇっ!!」

 「では、どういう時がよろしいんですか?」

 「あ〜っとだな…って、それは今ここで答えられん!」

 「はいはい、夫婦漫才はいいから。よーするに、掃除サボった時の代償として荷物持ちさ
せられてる、と。」

 呆れた朋樹が、仲裁に入って漫才を止めた。夫婦という言葉を聞いてクレアが顔を真っ赤
にしているが、それは愛嬌というものであろう。

 「なぜわかった?!」

 「だって、いつも掃除サボってたじゃない。紅蓮の過去の言い訳と傾向からいって、「買
い物に付き合う」か「何かを手伝う」のどっちかを使うからね。違う?」

 「……すまん、俺の負けだ。その通りだよ。」

 なぜか謝り、紅蓮は素直に負けを認める。別に勝ち負けが主体ではないのだが…

 「恥ずかしいからって、照れちゃって…。」

 「…シバく…!」

 やれやれと肩をすくめた朋樹に怒り、紅蓮は再度攻撃を仕掛けた。腰を落とした素早い動
きで朋樹の前に現れ、無数の拳が見えるようなラッシュを仕掛ける。

 「…だから、甘いってば。」

 そう呟き、朋樹は全て紙一重で避ける。いくつかかすってはいるものの、決定的なダメー
ジを与えることはできていない。

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ちきしょう、いつかぜってーシバく…!」

 「だ、大丈夫ですか?」

 「あはは、紅蓮ってば。ここんトコ体鍛えてないからね…ダメだよ、体力無くなっちゃう
から。」

 少し息の乱れがあるが、朋樹はカラカラと笑って紅蓮を見た。当の紅蓮はラッシュに息を
切らせたのか、ぜぇぜぇと息も荒く座り込んでいる。

 「そういえば、三人とも買い物の途中だったんだっけ? ビセット、トリーシャ。そろそ
ろ帰ろうよ。」

 「あ、うん。」

 「ああ。」

 シーラと話していた二人に声をかけ、朋樹は家路につくことにした。そろそろ日も傾きか
けており、結構な時間話していたことがわかる。

 「じゃ、紅蓮。無駄な動きは控えるようにね〜♪」

 「…とも、お前秘密を握られてることを忘れたか?」

 「うぐっ…」

 疲れながらもしたり顔で笑う紅蓮に、朋樹はうめき声を上げた。

 「あと、借金もあったよな。それと、あれも貸しッ放しだしあれの貸しもあったし。今、
 ここで暴露してやろうか?(悪微笑)」

 「紅蓮〜…。それって卑怯…」

 「何を言う。俺を好きな女の前で思いっきり恥じかかせ…………………はっ?!」

 ボフッと音がするくらい、そばにいたクレアの顔が耳まで真っ赤になる。まわりで聞いて
いたシーラ、トリーシャ、ビセットも同様の反応をし、トリーシャなんかさっそくメモの用
意なんぞをしていた。

 「紅蓮、そうサラッと言っちゃダメだよ。」

 「わわ、紅蓮さんってクレアさんのことが好きだったんだ?!」

 「………二人とも、お幸せにね♪」

 「何おいきなり自爆しとるんだ、俺はぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」

 素直に友人のことを祝福するシーラ、いろいろ聞き出そうとしているトリーシャ、肩をす
くめる朋樹。ビセットに至っては声すら出ていない。紅蓮は、頭を抱えて己のした言動に凄
まじく後悔していた。

 「………………(ぽっ)」

 「クレア、お幸せにね♪ 紅蓮ってああ見えても結構優しいトコあるから、良い旦那にな
 ると思うよ。よし、記念にそこの喫茶店で何か食べよう!! 紅蓮のオゴリで♪」

 『お〜〜!!!』

 「くぉらぁ!! ちょっと待てぃ!! なんで俺がオゴらにゃいけねぇんだ?!」

 「……明日、ガッコでこのコト話しちゃうけどいいの?」

 「…………わかった。で、とも。ディアーナの件はどうなった?(悪微笑)」

 もう逃げられないことを悟ったのか、紅蓮はあっさりとオゴることを了承する。…が、
紅蓮も負けてはいられなかった。仕返しとばかりに朋樹の秘密をあっさり暴露する。

 「え゛…? 紅蓮、何でそれお?!」

 「バ〜カ。お前、あれで隠してたつもりか? お前ッつー人間知ってるヤツだったら、
すぐにわかるぞ。わかってねェのは、その対象のディアーナ本人くらいじゃねぇのか?」

 いや、もはや秘密というほどのもんでもないらしい。ビセットやトリーシャなんぞうんう
んと同意するように頷いている。

 「…もしかして、みんな知ってたの?」

 『うん。』

 「…僕っていったい…(汗)」

 バレていることに気付いてなかったことにショックを感じ、朋樹はがっくりと肩を落とす。
が、すぐに復活するといきなり空を見上げた。

 「よし、それなら堂々と頑張ってみる! そのためにも、まず。紅蓮、ごちそうさま。」

 と、言うと朋樹は喫茶店の中へと消え去った。

 「おい、朋樹! オレも行くってば〜!」

 「待ってよ、ボクも〜!」

 後を追うようにビセットとトリーシャも消えていく。

 「ふふ、紅蓮くん、ごちそうさま。クレアちゃん、私達も行きましょ。」

 「ええ。…紅蓮様、ありがとうございます。私、紅蓮様に恥じないような女性になるよう、
 精進いたします。ふつつかではございますが、以後よろしくお願い申し上げます。」

 にっこりと笑って深々とお辞儀をするあたり、クレアもまんざらでもなさそうだ。そして、
紅蓮のみ後に残って立ちつくしている。

 「……これは喜んで良いのか? それとも、悲しんだ方がいいのか? 複雑だ…(汗)」

 「紅蓮〜! 早く来ないとみんな待ってるよ〜!」

 「わかってらっ!! ったく、しゃーねぇな…」

 朋樹の呼ぶ声に反応した紅蓮は、頭を一掻きすると観念したように喫茶店の中へと姿を消
した。「まあ、こんな日もいいかな…」と思いつつ………




 「んなわけあるかっ!!」

 …さいですか…(苦笑)








 後書き

 ども、ともです。

 組曲のSS一作目です。う〜む…紅蓮がクレアと引っ付いてしまった。ちなみに、ティ
ナやその他のエタメロキャラは、組曲SSでは出てきません(って、当たり前か…)
今まで書いてきた悠久SSと組曲SSは、主人公キャラである紅蓮や朋樹、デュークなど
は出でますけどエタメロが絡んでいるか否かでわかれさせてますので。

 組曲のSSは、ちまちま書いていくつもりです。一応、メインはもう一つの悠久SS
なので。


 では。ともでした。
中央改札 交響曲 感想 説明