中央改札 交響曲 感想 説明

ある冬の日の鎮魂歌(レクイエム)
とも


だから「僕」は走り続ける 先のわからぬこの道を

だから「僕」は歩き続ける いつか何かが見えるまで………





 冬の到来と共に、あたりの景色はドンドン寂しくなっていった。紅葉はほとんど落ち、
落葉樹は枯れ木のようになっている。針葉樹は対照的に青々とした葉をまとってはいるが、
それでも山々の所々にある程度で、虚しさをいっそうわきだたせている。





大人になるってどういう意味なの? 今の「僕」にはわからない

大人になるってすばらしいこと? 子供の「僕」にはわからない……





 ローズレイクの湖畔。座りながら紅蓮は、冬の表情を見せている山々を見つめながら歌
を口ずさんでいた。向こうの世界での親友。朋樹より付き合いは短いヤツだったが、いろ
いろと気はあった。一緒にバイクで走りまわったこともあったし、朋樹を交えた三人でケ
ンカに応じていたとき、背中を預けることのできる数少ないヤツでもあった。

 「建一……」

 「……また、あの人のことですか?」

 「ティナか……」

 『あたしもね……』

 「わかってる、ヴァナ。」

 沈んだ声が響き、紅蓮が振り向くとティナが立っていた。ヴァナは精神のそこから自分
の存在を主張し、聞こえてないはずの紅蓮だがそれに答える。

 「紅蓮さん、この時期になるとやっぱり辛いですか?」

 寄り添うようにして隣りに座ったティナが、か細い声で呟く。紅蓮はその肩に手を回し、
苦笑しながら答えた。

 「……まあ、吹っ切れたと思ってたんだけどな。いつもいると思ってたヤツがいきなり
いなくなっちまうと辛いってもんだ。」

 「………はい。」

 紅蓮のその顔に、哀しみの色はない。ただ、逝ってしまった親友を思いだし、彼からも
らった歌を鎮魂歌(レクイエム)として捧げているのだ。







社会のしがらみなんか要らない 「僕」には必要ないものだから

その全てをぶち壊す 「僕」ではない「俺」になりたい









 学園の屋上。雲一つない空は、どこまでも青く澄み切っていた。吸い込まれそうな空の
下、冬特有の乾燥した強風が吹き抜けていく。屋上に続く扉のあるペントハウスの上……
朋樹は、そこに寝転んでいた。

 授業はまだあるが、今日は何もやる気になれない。周りは、「いつものことだ」と気に
とめることはないだろう。朋樹の表情に気付いていなければ、の話だが。






いつか「僕」は大人になれる? それとも小さな子供のまま?

「僕」は大人になりたくない それは子供の「僕」のわがまま

「僕」は早く大人になりたい それは精一杯の「僕」の背伸び

どうして「僕」は大人になるの? 絶対ならきゃいけないの?

子供のままじゃいけないの? 誰かそれを教えてよ……………





 いつもの明るい表情を浮かべることなく、人形のように硬い表情でひたすら空を見上げ
ている。そのまま、囁くようにその歌を歌っていた。

 「お〜い、朋樹〜。いないのか〜?」

 「朋樹く〜ん、いないの〜?」

 と、扉を開ける音と共にラティンの声が聞こえた。続いて聞こえてきたのはクリスであ
ろう。しきりに朋樹を呼んでいるが、朋樹はあえて返事をしないことにしていた。歌は歌
っているが、強めの風に吹き飛ばされて声は届かないはず。何よりも、誰かに囁くような
小さな歌声だ。すぐさま、風にかき消されてしまう。

 「ダメだ、返事無いな……」

 「うん……朋樹くん、どこいっちゃったんだろう……」

 「あ、もしかしたら公園かも。行ってみようぜ、クリス。」

 「うん、…って、待ってよラティンくん!」

 下の方で問答が聞こえたが、朋樹はここにいないと結論付け、二人は去っていった。そ
の二人の会話を聞いた朋樹は、声を小さくして謝罪する。

 「ごめん、クリス、ラティン……」

 その呟いた声さえも、風にかき消されてしまう。今日の風は、いつになく強いらしい。
が、風邪を引いてしまうというような不安もなくしたのだろうか、朋樹は微動だにせず再
び歌を紡ぎだした。






「僕」はいつ頃大人になるの? それは「僕」にもわからない

「僕」はどうして大人になるの? それは誰にもわからない

先も見えない暗闇の中 何もわからぬこの道を

手探りのまま「僕」は進む わからぬ答えを探し求めて







 向こうの世界で、仲間であり親友でもあった「建一」。彼が詩を書き、曲を作った歌。

 朋樹や紅蓮、レン達はこの歌が好きだった。中途半端に「子供」で、「大人」にもなり
きれていない自分たち。周りの大人達は自分を「大人」と呼んだり、時には「子供」と蔑
んだ。この中途半端さが嫌いであり、そのしがらみから抜け出たい。それから、バイクで
いろいろなところへ行くようになった。走っているときは自由でいられる。「大人」でも
「子供」でもない、「自分自身」でいることができる。

 しかしそれは、まだ「子供」である彼ら自身のわがままでしかない。いつか必ず、「子
供」は「大人」へと成長する。大切なのは、「抗う」のではなく「忘れない」ことなのだ
から。







心を忘れてしまうのならば 「僕」は「俺」にはなりたくない

何かを忘れてしまうのならば 「僕」は「僕」のままでいい







 「朋樹くん、やっぱりここだったんだ。」

 「……え?」

 と、嬉しそうな声が聞こえ、視界に影が差す。真っ白い白衣に真白いズボン、緑の髪を
黒いバンダナで止めている少女――ディアーナだった。

 「ディアーナ……。よく、ここがわかったね。」

 「ううん、なんとなくでわかったんです。」

 照れ笑いをし、ディアーナは朋樹の隣に腰を下ろした。バンダナからはみ出している緑
の髪が、その動作でふわりとなびく。朋樹は微笑いながら、寝ていた体を起きあがらせた。

 「さっきの歌、向こうの世界の歌?」

 「うん。向こうの世界の、親友の作った歌だよ。」

 「ホント?! それって、すごいことですよ!」

 素直に驚いているディアーナに、朋樹はコクリと頷く。

 「ほら、話したでしょ? 僕と紅蓮が「ツイン・オブ・デビル」って言われてた理由。」

 「あ……」

 ディアーナは以前、向こうの世界に飛ばされていたときにそのことを聞いていたのだ。
紅蓮と朋樹が恐れられていた理由…何があったのかを。
(話したのはレミアと由香の二人であるが)




 その歌を作った親友・建一は、一人の先輩にあこがれていた。暴走族で、街を自由に走
りまわり、全てにおいて強かったその人に。

 しかし、彼を追って暴走族に入った建一は、ひとつの壁に直面する。

 「勇気試しに万引きをしろ」

 それが、建一に言い渡されたことだった。

 建一はそれに激しく反発し、そのグループを抜け出ようとする。………しかし、そんな
建一を襲った出来事は、「粛正」であった。「仲間となるものは歓迎する」、しかし「背く
ものは排除する」という極めて安直なルールの元………建一は、その短い命を失った。

 その後。「親友の死」の原因を知った紅蓮と朋樹が、片っ端から「親友の死」に関係し
たグループを次々と壊滅させていった。その圧倒的な強さと、常に二人で行動するという
ことから、「ツイン・オブ・デビル(双頭の悪魔)」と呼ばれ、いつしか恐れられるよう
になっていた…………



 「今日は、建一の死んだ日。だから、建一の作った………歌を、ね。」

 「………その歌、聴かせてくれませんか?」

 朋樹は、その申し出に少し戸惑った。が、それも一瞬のこと。頷くと、自分の好きな詩
を歌い始めた。隣にいる、自分にとって一番の少女のために。







しがらみなんてどうでもいい 「僕」が「僕」であるならば

「僕」が「僕」でいられるような 何かを忘れぬ「俺」になりたい

子供の心を持つ「僕」が 消えてしまわぬ「俺」になりたい

だから「僕」は走り続ける 先のわからぬこの道を

だから「僕」は歩き続ける いつか何かが見えるまで

だから「僕」は歩き続ける わからぬ答えを探し求めて












 後書き

 ども、ともです。

 うむむ、こういうのは初めての試みです。ハッキリ言って難しいです………むぅ。
詩を入れながらSSっていうのは、キツイものですね。
つーか、全部自分で考えたのがいけなかったんでしょうか(苦笑)

 今回は、死んでしまった、紅蓮と朋樹の親友の話です。彼は歌が好きで、ひとつの歌を
親友である紅蓮達に残しています。社会のしがらみから抜け出たい、大人にならず自由で
ありたい……そんな願いとメッセージの込められた歌を。

 それと、これは紅蓮と朋樹が向こうの世界で恐怖された原因となりうる出来事ですね。
これを機に二人は、周囲のその道の人間から畏怖の意味をこめて「ツイン・オブ・デビル」
と呼ばれるわけです。彼の死は、いろいろな意味で紅蓮と朋樹の人生の分岐点だったわけ
ですね。
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