中央改札 交響曲 感想 説明

料理は愛情?!
とも


 「もう…勘弁してくれ…」

 「何言ってるのよ、全部食べてくれるって言ったじゃないの!」

 ぐったりとテーブルに突っ伏し、紅蓮は力無く呟く。その脇には、美味そうなにおいの漂
った料理がテーブルを埋め尽くさんと並んでいた。

 「見た目と匂いはいいのに…なんでこんなに不味いんだよ…」

 「だ〜か〜ら〜♪ 今度こそ美味しいからって♪ ほら、あ〜ん♪」

 満面の笑みを浮かべ、ティナ…もとい、今はヴァナが、料理を箸でつまんで待機している。
女の子(といっても、ヴァナは女性と言った方が正しいが)食べさせてくれるというのだか
ら、ここで躊躇しては男がすたるというものであろう。…が。それは46種類目の料理であ
り、それまでの料理は全て「味のみハズレ」だったりするのだ。

 「お前なぁ…いいかげん、味見くらいしろって。」

 「うう…だって、なんか恐いんだもん…」

 年甲斐もなく(爆)、目をうるうるとさせて両手を口の前にそろえ、いやいやと首を横に
振ってみせるヴァナ。しかし、それを見慣れている紅蓮は撃沈なんかされなかった。

 「かわいこぶったってダメだ。ったく、ティナを少しは見習えよ。」

 『そうよ、ヴァナ。お料理は、誰だって最初は失敗するんだから。わたしだってそうだっ
 たんだから。』

 「うう…頑張ってみる…」

 そういうと、すごすごとキッチンに向かっていく。ちなみに、ティナの声はヴァナにしか
聞こえていない。それを見送った紅蓮は、テーブルの上に並んでいる料理の数に一瞬ためら
いを見せるもののゆっくりと口に運んでいった。






 「おまたせ〜って…紅蓮ッ?!」

 「…おう、次のが来たか…」

 ヴァナがまた新しい料理を作ってきてみると、そこにあった料理は全て無くなっていた。
その代わり、紅蓮が少し青い顔をしてくたばりかけている。

 「ちょっと、まさか本当に全部食べちゃったわけ?!」

 「全部食うっていったからな…。ったく、味見もしてねぇのに目分量できるわけねぇだろ
 うがよ…。」

 顔を青くしながらも、紅蓮は憎まれ口を叩いていた。ここまで来ると、もはや表彰もんで
ある。

 「で、次のはなんだ?」

 「…これ。もう、材料なくって…これくらいしかできなかったの…」

 と、おずおずとヴァナが出したのは小さめの土鍋であった。中からはぐつぐつと何かが沸
騰する音が聞こえてくる。

 「…ナベか?」

 「…違うわよ!!」

 そう言って、ヴァナは紅蓮の前にそれを置くと、ふたを取る。それと同時に、もうもうと
した湯気があたりを包み込んだ。

 「ほう…おじやか。で、味見はしたのか?」

 「…したわよ。でも、あたしの料理だし、保証はしないからね。」

 「よしよし、味見はしたのか…。んじゃ、いただきます…っと。」

 未だぐつぐつと音を立てているそれを見て、紅蓮は少し微笑った。ヤケに時間がかかると
思っていたのだが、具は小さめに切られており、丁寧さがよくわかった。

 「見た目は良いけどな…いつも味が…な…」

 「だ・か・ら! 今度はちゃんと味見したってば!」

 ワザと意地悪く呟いた言葉を、ヴァナは聞き逃さなかった。顔を真っ赤にして怒り、プイ
ッとそっぽを向く。実は…ヴァナは肉体ティナと一緒では二十歳ちょいなのだが、…ティナ
に比べて精神&経験的に未熟なのだ。




 元々…ヴァナは自身を守るために生まれた、いわば守護者のような者(人格)であった。
よって、戦いに関する技量、才能、頭の回転は主人格であったティナのそれを大きく上回る。
だが、それ以外の面に置いてはあまりにも劣りすぎていたのだ。知識と記憶は、ティナのも
のでもヴァナは自身のものとできる。だが、経験に至っては自分自身で培っていかないと身
に付かなかったのである。






 「んぐ…………」

 「ね、ね! 今度はどう?!」

 一口食べた紅蓮の動きが止まった。いつもなら、ここで水を求めたり何らかの反応をする
のだが…今回は、ただ動きが止まっただけであった。その反応を見、ヴァナは今回の料理は
何かが違っているのだと確信して、紅蓮に喜々として尋ねた。

 「……………まず……」

 「え゛? あっちゃ〜…また失敗か…」

 『元気出して、ヴァナ。また、挑戦すればいいのよ。』

 「…………くない。」

 ……イヤなフェイントである。もっとも、ヴァナであったからこんなコトをしたまでで、
他の人間相手であったらこんなイタズラなんかしないだろう。

 「ちょ、ちょっと! それはどういう反応なのよっ!!」

 「だから、不味くない。けどよ、味が薄過ぎだぞ? おおかた、今まで調味料入れ過ぎて
 たと思ってたんだろ。で、味が濃くなったから水で薄めたりした。違うか?」

 「……何でわかるの?」

 意外、といった感じでヴァナは紅蓮を凝視した。ハッキリ言って、ヴァナから見た紅蓮は
男の料理(要するに、手間を作らず大雑把に料理を作ること)しかできず。味も「美味い」
か「不味い」の二言しかないと思っていたからである。…すごい偏見であるが。

 「まあ、食い過ぎだったから薄めの味付けは大目に見よう。それに、前の料理から比べた
 ら、ちったぁマシになってるからな。それに、今度こそ味見もするように。言葉で、やっ
 てないのがバレバレだったぞ?」

 「もうっ! なんで紅蓮はそういう言葉しか出てこないのよっ!」

 怒り口調にもかかわらず、ヴァナは言葉に反して笑っていた。そして、思い出していた。



 …ティナの記憶の中で、「男もそれくらいは…」とか言いながら料理に苦戦する紅蓮を。
自分と同じく、味見をしなかった紅蓮の料理はとんでもなく酷い料理だったが、パーティ全
員が文句たらたら言いながらしっかり食べていたことを。そして、やはり自分と同じように
味見をするようになり、紅蓮の料理がまともなものになっていったことを。




 「…まあ、64点だな。」

 「…なんでそんな中途半端な点数なのよ…(汗)」

 「60点は料理の評価。4点は努力賞。」

 料理を食べ終わり、二人並んで食器を洗っていた紅蓮がいきなり点数を下した。ヴァナは、
それに少し文句でもあるのか口をとがらせている。

 「しょっぱなでこれなんだ、文句言うなよ。俺なんか、3点しかもらえなかったんだから
 な。」

 「…ぷっ…」

 「今の笑いで、お前の評価2.5点。」

 「だから、なんで中途半端なのよっ!!」

 「2点は料理の評価。0.5点は努力賞。」

 「んもうっ!! 魔法ぶっ放すわよっ!?」

 「ば〜か、これが終わってからだ。そしたら、いくらでも相手してやるよ。」

 会話を聞いていたティナは、娘を持ったらこんな感じになるのだろうか…とふと思ってい
た。しかし、そんな考えにヴァナはおもいっきりつっこみを入れてくる。

 『ティナ、あんた娘がほしいの?』

 『うん。一緒にお料理できるし、服のこととかいろいろ話が合うでしょ?』

 『そうかな〜。あたしは、息子がほしいわね。戦い方教えたり…目標は武闘大会で優勝す
 るくらい強い子よ!』

 『まあ、それはともかくお料理頑張ってね、ヴァナ。そうじゃないと、いくら息子ができ
 てもお料理の苦手な母親じゃ…ね。私達ふたりが母親になるんだから。』

 『ティナ…なんか、あたし達って今すっごい恥ずかしいこと話してるような気がする…』

 『…私も今、同じこと考えちゃった…』




 その後、紅蓮という貴い犠牲もあったが…(爆) 無事、ヴァナは料理をマスターできる
ようになった。…そして。






 「ほら、葵! お料理くらいできないと! あたしだって苦労したんだから、キリキリ練
 習するわよ!!」

 「あ〜ん、ヴァナお母さんの意地悪〜〜!! ティナお母さん、助けて〜!!」

 「葵、これも試練だ。俺も味見がかりとして食えるだけ食ってやる。」

 『葵、頑張ってね♪』

 「ティナお母さん、「頑張ってね♪」じゃなくって助けてってばぁ〜〜!!!」










 後書き。

 あははははは〜(汗)
 なんとなしに書いてみた、ヴァナのお話です。ヴァナが苦労して料理を会得し、さらに娘
の葵に料理の作り方をスパルタで仕込むという…葵、すまん(爆)
 ちなみに、このときの二人はまだ結婚してません。まだまだ、障害があるんですよ。
それがどんな障害かは、また別ですが。

ではでは。
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