中央改札 交響曲 感想 説明

ルーンの逆襲−No3
とも


 「お、ぼんぼんの雰囲気は消えてんのか……。ちったぁマシになったか?」

 「ええ、貴方には感謝してますよ……僕の甘さを、全て消し去ってくれた方ですからね。」

 その姿を見た紅蓮は楽しそうに呟き、ルーンの方もニタリとした笑みを浮かべて言葉を
返す。言葉による挑発は効きそうにもないようだ。

 「ほう……紅蓮の言う通り、少しはマシになったみたいだな……」

 「「マシ」? ……ならば、その言葉を撤回させるとしましょうか!!」

 言って、ルーンはカイルに飛びかかってきた。手に得物はない、素手のまま。

 「はん、このオレ様もなめられたものだなっ!!!」

 かかってくるルーンを一振りで殺そうと、カイルはタイミングを合わせて大剣をかまえ
た。…………が、

 「これが、カイル……貴方の本気ですか? たわいもない。」

 眼にも止まらぬ斬撃であったにもかかわらず…手を斬ることすらできなかった。ルーン
は事も無げに剣を掴み、つまらなそうに言葉を紡ぐ。

 「貴方のような魔族は、魔族でない……死ね。『ヒート・ブレッド』」

 「ぐぁぁぁぁ?!」

 詠唱も無しに発したその魔法は、カイルの身を焦がすようにまとわりついた。紅きその
光は、徐々にカイルの体の中へと入り込んでいく。

 「どうです? 生きし者の身に流れる、血液を煮沸させる魔法は。痛いでしょう、苦し
 いでしょう? そのまま、苦しみ抜いて死になさい!」

 「うがぁぁぁぁぁぁっっっ!」

 「さて、足手まといはほおっておいて……」

 のたうち回って苦しむカイルを後目に、紅蓮はド外道なコトを口走る。それに驚いたの
か、ルーンですらも目を丸くした。

 「おっ…おい、紅蓮! いくら何でもそれはないんじゃないか!?」

 「ふっ…ま、まさかそこまで貴方が堕ちているとは…。人間にしておくにはもったいな
 いですよ………」

 「はあ? 何勘違いしてるんだよ二人とも。」

 引き気味のデュークをルーンに目を向け、紅蓮は刀をかまえながら呆れたように呟いた。

 「俺のライバルともあろうもんが、これくれぇの魔法でくたばるかってんだ。これ以上
 の死線を、俺らはかいくぐってきたんだからな。カイル〜、死んだら殺すからな〜♪」

 …………ハッキリ言って、無茶苦茶な言い草である。死んだ者を殺すことなぞできるは
ずが……いや、アンデッドとして蘇れば別か……(爆)

 「はっ……これくらいで死んでたまるか。オレ様は…紅蓮、貴様を倒すまで死なん!」

 「よっしゃ。そんだけ言えりゃァ上等だ。」

 無理をしているのは、目に見えて明らかである。しかし紅蓮は、カイルのその言葉を聞
いて微笑った。

 「さ〜て。ルーン、殺られたくなかったら、大人しく薬渡せや。それとも―お約束通り、
 倒さねェと渡してはくれねェってか?」

 「薬……? くっくっく……さて、なんのことですか?」

 「薬」と言う言葉を聞いた途端、ルーンは嘲笑うかのような含み笑いを漏らす。

 「はあ? 薬だよ、く・す・り! テメェ、とうとう耳までイカレちまったか?!」

 紅蓮が怒気をまき散らしながら怒鳴り散らすも、ルーンはただ含み笑いを続け…ひとつの言葉を呟いた。

 「無いですよ、そんなもの。」

 「なに?」

 「ですから、そんなものは存在しないんですよ。」

 「てめえ! 俺に、変な小瓶を見せたじゃねえか!!」

 「ああ、あれですか? 単なる演出ですよ。呪術が、薬で解けるわけないでしょう?」

 紅蓮とデュークを小馬鹿にした口調で、ルーンは再び卑下た笑みを浮かべた。苦労して
ここまで来た三人を嘲笑うかのように。




 「……こんな…ヤツに……?」

 「嘘だろ……!」

 大切な人を元に戻す、という意志のみで闘ってきた紅蓮とデュークにとって、それは聞
きたくない…認めたくない言葉であった。もう、あの笑顔を見ることができない。もう、
一緒にバカ騒ぎすることもできない。共に、同じ時間を歩むことはできない………!!

 「ブッ殺してやらァァァァァァッ!!!!」

 まず、怒声と共に飛び出していったのはデュークだった。剣を突くようにして水平にか
まえ、全瞬発力をもってルーンを貫こうとする!

 「あああああああっ!!!!」

 「そんな攻撃っ!!」

 すんでのところでルーンは半身を引き、剣先がわずかにその身をかする。かまわず、ル
ーンは突っ込んでくるデュークを横に魔法をくり出す!

 「吹っ飛べ……バースト・スプレッド!!」

 赤い光がデュークをとらえ……触れた瞬間、爆発的に光が膨れ上がった!

 「まだまだァッ………!」

 膨れ上がった光が収縮すると、服を焦がし、フラフラになり…それでもなお剣をかまえ
続けるデュークの姿があった。虚勢を張ってはいるが、そこかしこから血を流している。

 「よく言った…オレ様も、まだ寝るわけにはいかんな……!」

 ブスブスと体から煙を出したカイルが、デュークの隣からヌッと現れた。

 「ほう、縛めから自力で抜き出てくるとはね……しかし、紅蓮はどうです?」

 見ると、どこかを見続けたまま動かない紅蓮が立ちすくんでいた。その眼に光はあるが、
動く気配は全くない。なぜか、何かを呟いているように口だけ動かしてはいるのだが…

 「おいっ、紅蓮!!」

 「紅蓮ッ!! どうしたっ?!」

 カイルとデュークの二人が紅蓮に呼びかけるが、反応は一切無かった。ルーンは、それ
を見ると満足そうに含み笑いを漏らす。

 「ふふ………どうやら、紅蓮は耐えきれずに壊れてしまったらしいですね。もはや、紅
 蓮は生ける屍と同様…………生きている資格はありません!」







 「(殺す……………)」

 口にも出さず、ただ紅蓮はその言葉を繰り返していた。周りでカイルやデューク、ルー
ンが何か口論を始めているが、もうどうでも良かった。言葉を繰り返しているうちに、激
しい憎悪…底知れぬ怒り…理性でそれを抑え込もうとしている自分…しかしそれを喜々と
して受け入れようとしている自分…そして、それら全てを埋めつくさんと肥大する「殺意」
がふつふつと中から生まれでていた。




 直後、ふと声が聞こえた。

 <殺せ>

 「(…あ?)」

 <お前の大事な者が命を落としたのだろう?>

 「(テメェ、誰だ?)」

 <誰でも良いだろう。お前は、あの魔族を殺したくはないのか?>

 「(……………)」

 <憎いだろう?>

 「(……………)」

 <怒りに満ちているだろう?>

 「(……………)」

 <憎悪の、殺意の、お前の本能の望むまま、あの魔族を殺せ>

 「(……………)」

 <沈黙は肯定と受け取って良いのか?>

 「(……………だ?)」

 <なに?>

 「(テメェは、何様のつもりだ?)」

 <そんなことなぞ、どうでもいい。お前は、あの魔族を殺せばいい>

 「(…確かに、俺はルーンを殺したい)」

 <ならば、なぜ我が声に耳を傾けない?>

 「(俺は、テメェに指図される覚えはねェ。たとえ、テメェが神であろうとも)」

 <神の存在を拒否するか……?>

 「(そうじゃねぇよ、俺は俺のやりたいようにやりたいだけだ。それを邪魔するヤツは、
 たとえ神だろうが………ぶっ潰す)」

 <ならば、ひとつ問う。所詮人間ごときのお前が、神に勝てると思っているのか?>

 「(知らねぇ。けどな……んなもん、戦ってみなきゃわかんねェだろ?)」

 <くくっ……>

 「(何が可笑しい?)」

 <お前のような者は久しぶりだ、紅蓮。生身の人間が、神に勝とうなどとは笑い話にも
 ならんぞ>

 「(だからなんだ? 俺は、神だろうが悪魔だろうが――関係ねェ。あいつらを守るた
 めになら、鬼神だろうが何にだろうがなって………それを潰すだけだ)」

 <強いな、お前は……我が娘も、このように強い男を選べたのは幸運だ>

 「(て、てめっ……ヴァルム?! 何考えてんだよ、あんたはっ!!)」

 <気にするな、お前を試してみただけだ。―紅蓮、最後にひとつだけ質問させてくれ>

 「(ったく、試しただけってよ……。で、質問?)」

 <ああ。ルーンは、ティナや朋樹、シーラに美月は元には戻らないと言った。紅蓮よ、
 お前はこれからどうする?>

 「(決まってる。ルーンをシバいた後、どこまでも足掻いてやる)」

 <そうか……。娘の目に、狂いはなかったようだな>

 「(もういいだろ? とっととあいつシバきてぇんだよ)」

 <紅蓮>

 「(なんだ?)」

 <お前は、良い仲間を持っているな。たまには、私のところにも遊びに来てくれ。早く
 孫の顔を見てみたいぞ>

 「(なっ……。フザけたコトぬかしやがって……いっぺんシバいたろか、バカ親父)」

 <ほほう、私をすでに父と呼んでくれるのか。楽しみにしているぞ、息子よ>

 「(へいへい。ルーンシバいて、ティナとヴァナのこと治したらな…)」

 そして気がつくと、すでにヴァルムの気配は消えていた。さらに、あれほど殺意に満ち
ていた心の中が、掃除でもしたかのようにすっきりとしている。

 「(もう一人の親父、か……ありがとよ……)」





 紅蓮が意志を取り戻し、現実へと戻っていった後……

 <安心しろ、紅蓮…息子よ。我が娘とお前の親友、友人達は皆無事だ>

 ヴァルムの呟きが、何もない空間に響いていた。






 目を開け、最初に入ってきた光景は――ズタボロになったカイルとデュークの姿だった。
しかし、二人も奮闘していたのであろう……ルーンにも深めの痕が見える。

 「やっと起きたか…何をやっていた?」

 「あ? ああ、ちょいと奇特なカミサマに勧誘うけてた。」

 紅蓮が気がついたのに気付いたカイルが、視線をチラリと向けて声をかけてきた。それ
に対し、紅蓮は肩をすくめて場違いなジョークをかます。

 「勧誘? ったく、俺達が必死になって戦ってたっつーのに。バツとして紅蓮、後なん
 か奢れよな。」

 「おう、とびっきりの美味いもんを喰わせてやるよ。」

 呆れ、ため息混じりのデュークの言葉に、紅蓮はいつものようにカラカラと笑って返す。
戦闘中の緊張感が、音を立てて崩れ去っていくようだ。

 「………のんきなものですね。死を前に、諦めましたか?」

 「んなもんじゃねぇよ…いつだって俺は俺のままだ。カイルにデューク、こいつの始末
 は俺につけさせてくれ。」

 「なにぃ?! 紅蓮、貴様何を考えている?!」

 「………頼むわ。それに二人とも、結構ズタボロのくせにまだ戦えるのかよ?」

 紅蓮の言うことももっともだが、それでもカイルは紅蓮にくってかかってくる。カイル
だって、目の前の敵を「はい、そーですね」みたいなノリで簡単に渡せない。

 「当たり前だっ!! 貴様、オレ様を誰だと思っている?!」

 「実は寂しがり屋の意地っ張り。」

 「ぐっ………何を根拠に……!」

 「バレバレなんだよ、お前は。俺が意識失ってる間、お前らずっと戦ってたんだろ?
 不公平じゃねェか、俺にも戦わせろよ。」

 微笑い、紅蓮は蒼と闇の化身たる双刀をかまえた。ルーンも、それに応じて黒槍をかま
える。

 「いいでしょう。そんなに死にたければ、今すぐ殺してあげますッ!!」

 「へぇ、お前って槍使いだったのか。なら、こう言葉は知ってるか?」

 そう言い残し、紅蓮の姿が掻き消えた。

 「ど、どこへ……?!」

 「『剣道三倍段』と、『槍術をうち負かすには三倍段』ってな。」

 紅蓮の姿が消え、うろたえたルーンを嘲笑うかのように……紅蓮は背後からルーンの肩
をポンと叩いた。

 「つまり……俺がお前に勝てば、俺の腕はお前の三倍以上ってコトだ。」




 「そんな話、聞いたこともない……ハッ!!!」

 背後にいた紅蓮目がけ、ルーンが柄で突いてきた。しかし、それも簡単に避けられてし
まう。

 「遅ェな。突きって言うのは、こうすんだよっ!」

 また、紅蓮の姿が霧散したように消え去る。直後………

 「は、速い………」

 ルーンの耳元を、紅蓮の持つ黒い刀が通り抜けていった。刃は髪に届いていなかったが、
風圧で簡単に髪と皮膚が斬れる。

 「所詮、お前はその程度なんだよ。………所詮な。(ちっ……そろそろ限界か…)」

 「あの動きが見切れない……?」

 先ほどまでその動き全てを見切れていたルーンは、急に見切れなくなった紅蓮の動きに
翻弄されていた。「見えない。消えてしまう。……負ける?」そんな言葉が、ルーンの脳
裏に浮かび上がってきた。そして、忘れていたもの……恐怖というものが、ルーンの中を
蠢き始めた。そのせいか、紅蓮の微妙な表情の変化に気付くことがなかったが…

 「認めない……僕は……断じて認めないっ!」

 『はあ? 何言ってんだよ。ま、いいや。』

 なぜか、紅蓮の声がハモって聞こえた。当然だ、なぜなら……

 「?!」

 それを見たルーンは、言葉を口にできなかった。目の前に、四人の紅蓮がいたのだから。

 『テメェは、俺の女と弟……ましてや、関係ねェシーラや美月まで手にかけやがった。
 テメェを狩るのに、それ以上理由はいらねェ………くたばれっ!!!!』

 暗闇に等しいこの中で、それでもなお闇色に光り輝く八の刀身が……闇色の尾を引き、
ルーンを取り囲むようにして襲いかかる!!

 『『『『式流が裏奥義・重獄轟斬!!!!!!!』』』』

 ズゥンッ!!!!!!!!

 カイルとデュークの目から見て、瞬間的にルーンが歪んだように見え…否、本当に歪ん
でいた。八ヶ所からくり出される超重力の斬撃に、ルーンの存在自体が歪んでしまってい
たのだ。が、それもつかの間。鈍い音と振動を響かせ、ルーンは欠片すら残さず潰されて
いた。

 「ジ・エンドだ。…永劫の闇に眠れ………」

 立ち上った土煙が振り払われた後、死者への簡単な祈りを捧げる紅蓮の姿が見えた。

 「ふん、そんなヤツに手向けの言葉なぞ………」

 『ルァァアアアアァァァアアアアッ!!!』

 カイルが紅蓮に言葉をかけた直後、怨霊となったのだろうルーンの魂が紅蓮に襲いかか
ってくる!

 「チッ…示せ、汝が邪悪なる顎(あぎと)……『霊喰(たまぐらい)』!」

 が、紅蓮が反撃するより速く、カイルの黒剣がルーンの悪霊を貫いていた。重獄轟斬と
は違った禍々しい邪気を纏うその黒剣に、ルーンの霊は音もなく吸い込まれ…いや、喰わ
れていく。

 「下衆が……未練がましく、暴れるな……」

 魂が消滅した後…まるで血を払うように黒剣を一振りすると、カイルはいつものように
背中に納めた。

 「へえ、おもしれぇ剣持ってんな。俺にも貸してくれよ。」

 玩具を扱うような感じで話しかけてきた紅蓮に、カイルは視線を厳しくして忠告してき
た。

 「貴様のような人間には扱えん。それとも、魂を喰われて死ぬか?」

 「…遠慮しとく。」

 サラリと言われたおっかない言葉に、紅蓮は肩をすくめて大人しく身を引く。戦い直後
の会話とは、とうてい考えられないような会話だ。

 「おいおい、それよりもとっととここを出ようぜ。街に戻って石化を解除する方法見付
 けないと………!」

 「そうだな……!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………!!!

 突如、会話を中断するように遺跡全体が揺れだした。揺れで上手く歩けず、それでも戻
ろうとした行く手を巨石が塞いでいく。

 「お、おいっ! これって、もしかして紅蓮のせいじゃないのか?!」

 「んなワケあるか、俺はこれでも手加減してだな……!」

 ズンッ!!

 抗議してくるデュークに言い返そうと紅蓮が歩こうとした鼻先に、またも巨石が降って
きた。額にたらりと冷や汗が浮かび、ようやく二人は冷静になった。

 「文句と揚げ足取りはここを出てからだ、とにかく走るぞ!」

 「わかってる!」

 「〜〜〜〜ったく、結局これかよっ!!!」






 出口まであと少しで、そこから外が見えるはずなのだが……出入り口はすでに潰れてし
まったのだろう、前に見えるのは巨石による壁だけだった。

 「んなろ、重獄轟………!」

 「やめろっ、オレ達まで潰れちまうぞ!」

 紅蓮が壁を技でぶち壊そうとするが、すんでの所で二人に羽交い締めにされる。

 「オレ達を心中させる気かッ?! 死ぬなら、貴様一人で死ねっ!!!」

 「んでも、こいつさえ取っ払えば……!」

 ………ズンッ…! ……ズンッ!! …ズンッ!!!

 言い合っている最中だが、奥の方から遺跡が崩れ、巨石の下りる音が響いてきた。もは
や、一刻の猶予もない。

 「ちっきしょぉ……!」

 「カイル、お前魔法でも何でも使って何とかしろ!」

 「できるか!!」

 デュークがあれこれと策を講じる中、紅蓮とカイルは口喧嘩を始めてしまった。

 「お前ら、ケンカばっかしてないで少しはここからの脱出方法を考えろよっ!!!」

 「「じゃあかしいわっ!!!!!」」

 デュークが怒鳴りつけるも、紅蓮とカイルはお構いなしに口論を続けている。その間も、
落石はドンドン迫ってくるというのに…

 「はん、貴様の技なんぞぶち壊すしかのうがないのだろう?! 貴様と組んだのが、そ
 もそもの間違いだったわっ!!!」

 「うるせェッ! カイルこそ、何かできねぇのかよっ?! そうだよな、どうせお前は
 どっかのガキンチョに『バカイル』とかバカにされてた能無しだもんなぁ?!」

 「「……………」」

 「おい、お前らいいかげんに……」

 二人が黙ったのをチャンスとばかりに、デュークが咎めるように声をかけ…

 「「上等だっ!!!!!!!!!!!!!」」

 ……ようとしたが、二人が発した怒鳴り声と共に吹っ飛ばされた(爆)

 「どっちがここから速く脱出できるか、勝負だ!」

 「望むところだ、紅蓮ッ!!」

 言い合いながら、カイルは落石によってできた壁の前に。紅蓮は天井高が低めの場所に、
それぞれ移動した。そして、各々何かを準備し始める。



 「震・巽・離・坤(しん・せん・り・こん)…兌・乾・坎・艮(だ・けん・かん・ごん)
 …………!」

 片手で奇妙な印を結び、紅蓮は宙に文字を描き始める。その文字は光を纏いながら紅蓮
の周りを回り始め……

 「……これで仕上げだ……破ッ!!!!」

 気合と共に上げた声を合図に、その八の文字は紅蓮を包み、体の中に吸収されていった。



 「ЭЯцъюШЖξ・бже・ёыяπξζ………ΨΥ・ξρЬЭξριζ……」

 もう一方……カイルは印を切りながら、奇妙な発音の呪文らしき詠唱を開始した。その
詠唱が先へ進むたびに、カイルの足下には六忙星を中心とした複雑な魔法陣が現れてくる。

 「ШЖξ・бже・Эξριζ!!!」

 魔法陣がほぼ形作られ、最後の節であろう詠唱が終わった直後。魔法陣はカイルを己が
発する光で包み込んだ。








 一方、別働隊……

 「隊長、モンスターの駆除はあらかた終了しました。いつでも潜れます。」

 「わかった。アル、第一、第二隊に出発準備の命令を。第三、第四隊は万一に備えて周
 囲を警護。第五、第六隊は第三、第四隊と交代で警護に就くように伝えてくれ。」

 「わかりました。」

 キャンプの中、アルベルトはリカルドの指示を受けてその場を後にする。リカルドの目
の前には、ジッと水晶玉を見続け…首を横に振って肩を落とした揚雲の姿があった。

 「………ダメです……やはり、何も見えません。しかし、先ほどの地震は…紅蓮さん達
 が関与していることは間違いないですね。」

 いつの間にかタロットカードのような小さな札を手に取った揚雲が、それを順に並べな
がら断言した。直接に見ることはできないものの、間接的な占いによって紅蓮達の動向を
調べることは可能らしい。

 ゴゴゴゴゴゴ…………

 「そうか、急がねばならんな………っ?!」

 「…っ?! これは……」

 と、突発的な地震が再び起こった。今度は揺れが小さいが、断続的に揺れが続いている。

 「隊長、大変ですッ!」

 次に、アルベルトが慌ただしくキャンプの中に入ってきた。その慌て様から、リカルド
も厳しい顔をする。

 「どうした、アル。」

 「遺跡周辺にいた団員の報告ですが……遺跡の入り口が、崩壊したようです……!」

 「それで、怪我人は?」

 「大丈夫です。陥没などの恐れがあるため、団員を一時撤退させましたが…」

 「うむ……わかった。出発は延期、距離を置いて遺跡の監視をおこたらないように。こ
 の揺れがおさまり次第、岩石の撤去に当たる!」

 「わかりました、伝えてきます……」

 一礼し、アルベルトは少し気落ちしたような顔でキャンプを後にした。

 「………」

 「大丈夫です。三人とも、無事ですよ……」

 リカルドも中の三人が気にかかるのか、アルベルトほどではないがやや表情が曇る。が、
揚雲は何かを確信しているように……ただ、静かに微笑った。
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