中央改札 交響曲 感想 説明

今日の予定は?
とも


 「よっしゃ、これで16人抜きィ!」

 おおぉぉぉぉ〜〜〜〜!!

 ゲーセンの片隅で紅蓮の勝ち鬨の声があがり、周りにいたギャラリーがどよめく。反対
側に座っていた学生はすごすごと後ろへ下がり、新しい学生がコインを入れた。

 『Here Come New Challenger!!』

 同時に軽快なミュージックが流れ、画面には聞こえた声と同じ文が現れる。

 「っしゃ、いくぜーーー!!!」

 気合いの入った紅蓮の声を合図に、ゲームは再び始まった……






 「気合い入ってるね〜♪」

 のんびりとした口調で、本日10個目のぬいぐるみをゲットした朋樹。ちなみに、相当
慣れているためか…時々一度に2つのぬいぐるみを取っていたりする。

 「本当、そうですわね。」

 「っていうか、紅蓮さんってゲーム好きだったんだ。」

 ほとんどゲーセンに来たことのないクレアは、見る物見る物珍しいのか、キョロキョロ
したりクレーンゲームのぬいぐるみをジッと見たりとウロウロしていた。トリーシャはそ
のクレアについていたりする。

 「うん。チームの仲間と、ゲーセン廻りよくしてたから。」

 「チ、チームッ?!」

 「あ、トリーシャの考えてるような迷惑考えてないチームじゃなくって…。ただ、いろ
 んなところに走りにいくっていうチームだよ。」

 暴走族を想像してしまったのか、思いっきりトリーシャは引いてしまう。クレアはよく
わからず、?マークを浮かべているが。

 「トリーシャ様、なんでそんなに驚いているんですか?」

 「ううん、なんでもないって。ちょっと勘違いしちゃっただけだよ。」

 「あはは。」

      おぉぉぉぉぉぉ!!!!

 「あ。紅蓮、また勝ったみたいだね。」

 見てみると、紅蓮が立ち上がってガッツポーズをとっている。そして座った途端にいく
度かめの挑戦者を相手に奮闘を始めた。

 「こりゃ、終わんないかもね。」

 「どうするの? もう、外も暗くなってきたけど……」

 一応、リカルドとの約束でトリーシャと朋樹は日が落ちるか落ちないかくらいで帰ると
いう約束をしている。夕飯の材料の買い出しもあるし、そろそろ切り上げたいところなの
だが……

 「紅蓮様、終わりませんね。」

 「う〜ん、紅蓮ってこうなったら止まらないから………」

 ちなみに、今日は紅蓮もリカルド家で食事することになっている。置いていってもかま
わないといえばかまわないのだが、そうもしていられない。

 「最終手段とるか……クレア、ちょっと耳貸して? …………」

 「……ええっ?! そんな、私には無理ですわ!」

 耳打ちされたクレアが、顔を真っ赤にして首を振った。いったい、朋樹は何を言ったの
だろう…?

 「…朋樹くん、クレアさんに何言ったの?」

 「え? ただ、紅蓮にちょっと掴みかかって…引きずってきてって…」

 ドスッ!!

 朋樹の言葉も終わらないうちに、トリーシャのチョップが肩口に食い込んだ。それ受け、
朋樹は床に倒れて悶絶してしまう。

 「そんなこと、クレアさんにできるわけないでしょっ!!」

 「じょ、冗談だよ…。あたた…トリーシャ、もう少し手加減してってば…」
 「あ、ごめん…ちょっと力入りすぎちゃった…てへへ。」

 失敗してしまった、といった感じでトリーシャはペロッと舌を出した。状況が違えば、
可愛くも思えただろうが…たった今、少年を悶絶させた少女にそう思えというのは少しば
かり酷というものだろう。

 「トリーシャ様、少しは加減しないと朋樹様が可哀想ですよ?」

 「うう、言われなくってもわかってるんだけどなぁ…」

 「でもさ…そろそろ買い物して帰らないとおじさん怒るんじゃ……」

 朋樹がぶっ倒されてしまったために時間を食いすぎて、日が結構傾いていた。その間、
紅蓮はまだ勝ちつづけている。

 「クレアに行ってもらうのが一番いいんだけど…あの人ごみじゃね…」

 紅蓮の周りには人ごみと言うか人垣と言うか…そんな集団が群がっていた。あれを突破
するには…女の子じゃちょっとキツイかもしれない。

 「…仕方ないか…」

 朋樹はそう呟くと、クレアの手を取った。いきなりのそれに、トリーシャとクレアは目
を白黒させてしまう。

 「朋樹くん、いきなりなにするの?!」

 「いや、僕がクレアを連れて行こうと思って。それに、あーゆー風に夢中になった紅蓮
 を…ボクじゃ止めるのは難しいからね。クレアの協力が必要なんだ、いい?」

 「わかりましたわ…。紅蓮様の説得、私にお任せ願いますっ!」

 意を決したのか、クレアも腹をくくったようだ。さっきの少し引き気味だった表情とは、
うって変わって真剣な顔になる。

 「じゃあ、行くよっ!」





 「っしゃ! また勝ちだっ!!」

 まるで自分の分身のようにキャラを操り、紅蓮は乱舞技をフィニッシュにまた勝った。
もはや破竹の勢いと化している。

 「紅蓮様?」

 「ちょっと黙ってろ、今良いとこなんだ…のっ! ったりゃぁ!」

 「紅蓮様……?」

 「いや、ちょ…ってめ、卑怯技…使うんじゃねぇっ! と、これで29勝!」

 「紅蓮様っ!!!」

 「はひっ!!」

 いいかげんキレたクレアの怒鳴り声に、紅蓮は直立不動で気を付けをした。向こう側の
台で対戦相手が固まっているが、クレアはそんなこと知ったこっちゃない。厳しい視線を
紅蓮に向け、腰に手を当てて…仁王立ちになって紅蓮の真横に立った。

 「紅蓮様! ゲームも良いですがいい加減になさってください! 朋樹様とトリーシャ
 様が帰れなくて困っておいでなんですよっ?!」

 「え゛? …今、何時だっけ?」

 「……時計です。」

 言われて固まった紅蓮は、差し出された時計を見て硬直した。約束時間からとうに1時
間が経とうとしているのだ。

 「……これって、かなりやばいよな…」

 「朋樹様とトリーシャ様も、待っておいでですよ?」

 「…やっと正気に戻ってくれたね…」

 紅蓮がふと見ると、クレアの隣に朋樹もいた。ため息交じりの言葉ではあるが、楽しそ
うに笑っている表情から見て…確信犯だろう。

 「しゃーねーな。んじゃ、とっとと買いもんして帰ろうぜ。」

 『You loose!!』

 結構なギャラリーをかき分け、紅蓮はクレアの手を引いてトリーシャのいるところへ歩
いていく。朋樹は、ゲームの筐体から発する負けの宣告を聞いて…小走りに3人のいると
ころへと向かっていった。






 商店街で買い物を終えた4人は、出口のほうへを歩いていた。

 「で、とも。今日の夕飯の予定はなんだ?」

 と、食べるだけなので荷物の大半(クレアの買い物も含む)を両手に持った紅蓮が尋ね
てきた。

 「そうだね…トリーシャ、どうしよう?」

 「う〜んと……野菜が特売だったし、ヘルシーな肉抜き野菜炒めかな。」

 そんなトリーシャの言葉で、紅蓮がものすごく悲しそうな顔をする。育ち盛りという点
と、なにより体育会系な男子高校生の食欲からすれば…ヘルシーという言葉は、かなりの
ショックになるだろう。

 「肉抜きかよ……。食い甲斐ないぞ、それじゃ……」

 「なら、紅蓮さんご飯食べていかないんだね?」

 実は、今日は…寮の食堂が使えなくなったため、寮生はみんな外で食べることになって
しまっている。寮生の紅蓮もそのことがあったからこそ、リカルドに招かれたのだ。

 「待てぃっ!! お前、ダイエットもいいけどバランスよく食えよなっ!! 肉も大事
 なんだぞ、肉も!!」

 「うう……紅蓮さん、女の子にそういうこと言う? ボク、これでも傷つきやすいんだ
 からね?! 紅蓮さん、今日は寮に帰りなよ。お夕飯、ボク作りたくなくなったから。」

 「う〜ん、トリーシャがそう言うなら仕方ないかもね。僕は居候の身だし、多くは言わ
 ないよ。」

 朋樹の口調からして、紅蓮の味方はしないということらしい。となると、紅蓮は結構不
利な状況だ。

 「それに、紅蓮にはクレアがいるじゃない。アルベルトさんは大食漢だし、紅蓮1人が
 増えても支障はないと思うけど?」

 「…バカ、俺がいたらアルベルトが黙ってるわけないだろ?」

 「………(照)」

 顔も赤くせず、朋樹はさらりと恥ずかしいことを言った。クレアは耳まで真っ赤にし、
紅蓮は義兄(予定)が黙っていないと反論する(笑)

 「アルベルトさん、クレアさんのことが絡むとすごいもんね……」

 そして、1人納得するトリーシャ。トリーシャは特にアルベルトと会うことも多いので、
そこら辺はよくわかっているようだ。

 「ああ、俺なんて帰り一緒になっただけなのに…しかも、そん時はシーラもいたんだぞ。
 それで、あの体力バカに追いかけられたんだ…死ぬぞ?」

 「アルベルトさん、体力有り余ってるからね。」

 「あ、アルベルトさん…そんなことしてたんだ…」

 その時の光景を思い浮かべたのだろう…朋樹は笑い、トリーシャはでっかい汗をかいて
いたりする。

 「兄さまは、少しうるさ過ぎるのですわ。そのくせ、化粧なんていうことを…!」

 「ストップ! キリねぇからやめとけ。それに、兄妹だからって干渉しすぎるっつーの
 もどうかと俺は思うぞ?」

 「それでは、紅蓮様は化粧を認めろというのですか?!」

 熱くなるとブレーキがきかなくなるのは…やはり兄妹というだけあって相変わらずそっ
くりだ。その勢いでクレアは紅蓮に詰め寄る…紅蓮にすれば、おいしいようなおっかない
ような…そんな微妙な心境だろう。

 「ちょっと待てって。そうじゃなくてだな…あの直情型のアルベルトが、何度も言って
 素直に言うこと聞くと思うのかよ?」

 「それは…」

 「それに、俺は他人のすることには反対もしないが肯定もしない主義なんだ…いき過ぎ
 るのや、俺が面白そうと思ったのは別としてな。アルベルトだってバカだけどガキじゃ
 ねぇんだ、信じるくらいしてやれよ。それが兄妹ってもんだろ?」

 紅蓮の言ったことは、正論でもあり異論でもあるだろう。これをどう取るかは個々人の
価値観とかによるが、クレアは紅蓮の言いたい事が少しわかったように…大人しくなった。

 「ならさ、アルベルトさんがクレアが居るということにありがたみを覚えるように…今
 日はクレアも一緒にご飯食べない? トリーシャ、いいでしょ?」

 「うん、いいよ。」

 あっさりと言い切った朋樹に、簡単に同意するトリーシャ。まあ、この2人にかかれば
1人くらい増えてもどうってことないだろう。

 「それじゃ、家の留守電にメッセージ入れとけよ。」

 「ええ、わかりましたわ。くすっ…兄さま、いったいどうなさるんでしょうね。」

 初めてするイタズラにワクワクしている子供のように…クレアは笑った。紅蓮はそんな
表情をするクレアを見て、同じように笑う。

 「多分、乗り込んでくるか後でグチグチ言うんじゃねぇの? ま、気にすんな。」

 「じゃあ、決まりだね。朋樹くん、帰って準備急ぐよっ!」

 「オッケー! じゃあ紅蓮、荷物急いで持っていこう!」

 「うっしゃ、そんじゃ飯前にひとっ走りいくぞ!」

 「「「おー(ですわ)!」」」

 そう頷きあうと、四人は腕を振り上げ…そろって駆けていった。


 ……大切なことを忘れたまま。









 ガチャ

 「おーい、クレア。いないのか〜?」

 部活から帰ったアルベルトは、部屋に電気がついていないこととドアに鍵がかかってい
ることに疑問を抱きつつも奥に声をかけた。

 「……あいつ、いったい何してるんだ?」


 ・
 ・
 ・
 ・


 が、台所を見てもクレアの部屋をのぞいてみても…クレアの姿を見ることがなかった。

 「クレアの奴…まさかっ?!」

 いないとなると、まだ帰ってないということ。…アルベルトの中に、暴漢に襲われてい
るクレアの図や事故に遭って意識を失っているクレアの図が浮かび上がってくる。そして、
焦りが頂点に達しようというとき……電話の留守電のランプが目に止まった。アルベルト
は無我夢中で電話に駆け寄ると、そのボタンを押した。

 『用件は一件です。』

 シャーーー

 少し巻き戻した音が響き、カチッという音と共に再生が始まった。

 『もしもし、クレアです。』

 「クレア……」

 留守録から聞こえてきたのは、心配していた妹の声だった。これにメッセージを入れる
ということは、多分遅くなるということだろう…とアルベルトは勝手に解釈し、メッセー
ジを聞くことにした。……自分の想像より一歩先のことになると知らずに。

 『今夜は、ご学友のご自宅でお夕飯をよばれる事になりました。兄さま、ご面倒とは思
 いますが、お夕飯はお一人でお作りになってください。帰りは…どうなるかわかりませ
 んわ。明日は休日ですし、そのまま泊まるかもしれません。夜に出歩くようなことはし
 ませんし、危険なこともありませんからご心配なさらないでください。』

 「なっ…」

 留守録のメッセージを聞き、アルベルトは言葉も少なく固まった。アルベルトからすれ
ば、クレアのこの行動自体がものすごく珍しいことだったからだ。そんな固まる兄をよそ
に、妹のメッセージはまだ続く。

 『そうですわ。くれぐれも、偏ったお夕飯をお食べにならないでくださいね。栄養のバ
 ランスに気をつけ、よく考えて下さい。それでは。』

 「ったく…心配かけた上に友達の家に行きます、か…。クレアの奴も少しは頭やわらか
 くなったんかな……」

 おそらく、帰りにでも急に誘われたのだろう。クレアのメッセージには多少驚いたが、
それでも兄に対する気遣いを忘れない妹に…アルベルトは少し感謝していた。

 「さて…久々に飯作るか……」

 そう呟きながらアルベルトは冷蔵庫を開けた。クレアが来る前は、多少の失敗はあった
が自炊もしていたのだ。が……

 「……材料がねぇ…」

 ちなみにあったのは…キャベツとハム、牛乳、まだ炊かれていない米。…それ以外は空
に近かった。アルベルトはドアをパタンと閉めると、肩を落としながらコンビニへと向か
うのであった……


 そう、クレアは冷蔵庫の中身の事をすっかりと忘れてフォスター家に行ってしまったの
だ。中身がないために買った食料は…紅蓮の腹の中へとおさまってしまうだろう……合掌。









 一方フォスター家では

 「トリーシャ様、このお料理あとでレシピお教え願えませんか?」

 「うん、いいよ。そうだ、朋樹くんもいくつか教えてあげれば?」

 「そうだね…いい機会だから、明日は紅蓮に料理を仕込もうよ。紅蓮、休みの日は店屋
 物だったりコンビニでご飯買ってるんでしょ? それじゃ体壊すかもしれないよ?」

 「賛成〜! お父さん、そういうことで明日はやかましくなっちゃうかもしれないけど
 …いいかな?」

 「かまわんよ。どうせ明日は、早くから出かけねばならん。無茶だけはせんようにな、
 トリーシャ。朋樹君、クレアさん、紅蓮君。君たちも十分注意したまえ。」

 「はい。」

 「ええ、わかりましたわ。」

 「ああ。……んじゃ、三人の先生方…明日はよろしくな。」

 和気藹々と…明日の予定話に華をさかせていた。



 次の日、朋樹&トリーシャ&クレアの三人の料理の教師に囲まれ…紅蓮はなれない料理
を血を吐く思いでマスターしたという……(それでも、覚えたレシピは教えられたレシピ
の1/3だったりする)
中央改札 交響曲 感想 説明