中央改札 交響曲 感想 説明

オテンバ王女の襲来!(笑)
とも


カララ〜ン♪


 「ちわ〜。郵便です〜。」

 昼のラッシュを過ぎたあたり、さくら亭に郵便配達員が現れた。一声挨拶をかけると、
厨房からパティがひょこっと顔を出してくる。

 「あ、ご苦労様! 悪いけど、そこのカウンターに置いておいてもらえる?」

 「わかりました…っと、これとこれ…あ、荷物もあるんで確認のサイン貰えますか?」

 「はいはい。ちょっと待っててね。」

 でっかい箱を出した配達員は、それをカウンターに置いてもう一声かける。しばらくす
ると、エプロンに引っかけたタオルで両手を拭きながらパティが出てきた。一応変なとこ
ろから送られてきたかどうかを確かめ、届け先のリサの代わりにサインをする。

 「えっ…と、これでいい?」

 「はい…確かに。では、失礼します。」

 「ええ、ご苦労様。」

 サインを確認すると、配達員はペコリと頭を下げてさくら亭を後にする。パティはとり
あえず、箱をそのままに厨房の仕事のラストスパートにかかった。




 「リサの荷物か…いったい何が入ってんだ?」

 「さあ? で、紅蓮は仕事はもういいわけ?」

 後片付けの終わった頃、私用で外に出ていた紅蓮が戻った。ここのウェイターだけでは
なく、ジョートショップのアリサからも時々仕事を受けているのだ。まあ、小遣い稼ぎと
いったところか。

 「ああ。建て付けの悪さなんてもん、一日もかかんねぇよ。」

 「あんた、ウェイターとかじゃなくって大工の仕事にでも就けば良かったんじゃない?
 そんなに簡単に直すんだし…」

 「いーんだよ、こっちの方がおもしれーし。それに、これはバイトしてたから出来るよ
 うになっただけだぞ?」

 ケラケラと笑う紅蓮を見、パティはため息混じりに呟いた。もっとも、紅蓮のおかげで
大した費用もかけず、喧嘩を始めた馬鹿共の壊したものを修理してもらえているのだが。

 「ま、この箱は後で持っていってもらうとして…あれ? なにこれ。」

 届いた手紙を見ていたパティは、ふと変な封筒が混じっていたことに気付いた。女性が
書いたように繊細な文字で「紅蓮様」と宛名書きされている。ここの住所はしっかりと書
かれているのだが、差出人の欄にはなにも書かれていなかった。不思議に思いながらも、
それを紅蓮に手渡した。

 「紅蓮、あんたに手紙届いてるわよ。」

 「手紙? 珍しいな、いったい誰から…お。アイリスさんじゃねェか。」

 文字を見るなり、懐かしそうにその名を呟く紅蓮。この世界で懐かしいとなると、例の
魔宝探索の時の友人だろう。そして、パティもその名に聞き覚えがあった。以前、ティナ
&ヴァナの父親の話を聞いていたからである。

 「例の王女の侍女って人?」

 「ああ。しかし懐かしいな〜。レミットとはギルドの通信使ってしゃべったりしてるけ
 ど、アイリスさんとはしゃべったりしてなかったからな。どれどれ…」

 しゃべりながら、紅蓮はナイフを具現化する。それで封を切ると、中から手紙をとりだ
した。

 「ふむふむ…………」

 頭の部分は機嫌良く手紙に目を通していた紅蓮。しかし、すぐに顔が強張り、いつの間
にか顔は引きつっていた。

 「…………何ィ?!」

 バァン!

 「きゃっ?! ぐれ…ん?」

 そして、叫び声と共にカウンターを両手で叩いた。いきなりの行動にパティは小さい悲
鳴を上げ、抗議するように紅蓮を睨み付けたはず…だった。しかし、そこに紅蓮の姿はす
でになく、カウンターにそのまま広げられた手紙があるだけだった…





 バン!

 「長ッ!!」

 けたたましい音と共に、魔術師ギルド長の部屋のドアが開く。驚いて振り向いた長の見
たものは、息を荒立て、青筋浮かせた紅蓮の姿だった。

 「なんじゃ、紅蓮。騒々しいのぉ…何用じゃ、血相を変えて。」

 「説明は後だ、マリエーナのじっちゃん呼んでくれ!」

 「わかったわかった、ちょっとまっとれ。」

 懐から水晶玉を取り出すと、ギルド長同士のラインでつなぎ、マリエーナの長の水晶玉
につないだ。ヴン、という虫の羽音のような音が少し続いた後、水晶玉にはマリーナの長
が現れる。

 『どうした、エンフィールドの。』

 「じっちゃん!」

 『お、おお、紅蓮か。ど、どうしたんじゃ、そんなに血相を変えて。』

 マリエーナの長が現れた直後、紅蓮は水晶玉を両手で掴んで叫ぶ。マリエーナの長はそ
れに驚いたのか、冷や汗混じりに少々ドモりながら話した。しかし、紅蓮はそれを見、目
を怪しく輝かせる。

 「…知ってたな?」

 『な、何のことじゃ? 紅蓮よ、わしも年なんじゃぞ。いきなり強く出てこられたら舌
 も回らなくなるわい。』

 「だったら、俺を見た瞬間の苦笑いはなんだ?」

 『じゃから、何のことかと聞いておろうに。』

 今度は、エンフィールドの長からも怪しく見てとれた。挙動不審で怪しく、目をまとも
に合わせようとはしていないからである。

 「お諦め下され、私からも怪しく見えますぞ…。何事か、隠しておいでですな?」

 「じっちゃん、俺に隠し事はしねェッて言ったろ?」

 『むう…やはりわかってしまうか…。うむ、紅蓮の思っておるとおりじゃよ。』

 二人に問いつめられたマリエーナの長は、諦めたように肩をすくめるとようやく真実を
話し始めた。

 『レミット様が、そっちに向かっておる。』

 「「……………………」」

 マリエーナの長の一言で、紅蓮と長の二人は口を開けたまま固まった。紅蓮は以前振り
回された記憶を…長は以前話に出た「マリアvsレミット 魔法大決戦」(爆)によって
半壊しているであろうエンフィールドを考えての結果だろう。

 『すまん、わしには止められなんだ……』

 「…………じっちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!! レミットだけは外に出しちゃいけねェッ
 つっといただろォォォォォォッ!?」

 『すまんすまん、わしも孫がおらんでなぁ…レミット様をみるとどうしても、な。』

 マリエーナの長は、どこか寂しそうに呟いた。無理もない、彼は……

 「あ…すまねぇ、じっちゃん。で、あいつがここに着くのっていつ頃なんだ?」

 『うむ、馬車に乗って行かれたからの…明日くらいじゃな。』

 「そうか、明日か……って、んだとぉぉぉぉ?!!」

 それから考えると、アイリスが手紙を出したのは途中の街からだったのだろう。めちゃ
くちゃ急なオテンバ王女の来訪に、紅蓮は思わず叫んでいた。

 「だぁぁぁぁぁったく、世話の焼けるっ!! じっちゃん、素直にしゃべってくれてあ
 りがとな。病気すんなよ、んじゃ!!」

 それだけ言い残すと、紅蓮は窓から外に飛び出ていった。たしか、ここは二階だったは
ずなのだが……ま、それくらいは関係ないだろう。

 『まったく、相変わらず騒がしいヤツじゃ…のぉ、エンフィールドの。』

 「まったくです。しかし、紅蓮もなんだかんだと言いながら長殿を心配して…羨ましい
 ですな。」

 『こんな老いぼれを気にかけてくれるんじゃ、これほど有り難いことはない。』

 マリエーナの長はそう言って微笑った。が、向こうから誰かの声が微かに聞こえ、途端
に表情が険しくなる。

 『ふむ…出ておくか。すまんな、エンフィールドの。急用では仕方ない…紅蓮らによろ
 しくな。』

 「わかりました、それでは。」

 マリエーナの長はすまなそうに笑いかけ、通信を切った。長はそれを確認すると、もの
すごく疲れたようにため息をつく。そのまま倒れるようにイスに腰かけると、もう一度た
め息をついた。

 「あのマリアと同じ………か。せめて、紅蓮が未然に防いでくれればいいが…」






 「ただいまっ!!」

 「……なに、そんなに慌ててるわけ?」

 息を切らしてさくら亭に戻った紅蓮だが、逆に怪しまれてパティの冷ややかな視線を浴
びる。しかし、今の紅蓮にそんなこと気にしてる暇なんて無い。

 「うっせえっ!! 今それどころじゃねぇんだ!!」

 「うるさいとは何よ、か弱い女の子に向かって!」

 「か弱い女の子? ……暴力女の間違いじゃねェか?」

 それを聞いたパティの頭にでっかい青筋が浮かぶ。今の一言、そうとう頭に来たらしい。

 「聞き捨てならないわね…。ま〜た張り倒されたいわけ?!」

 「それが女の言う言葉かよ………って、パティなんかにかまってる暇はねぇんだよ!!
 早くしねェと、レミットのヤツが来ちまうっ!!」

 「えええ?! ちょっと待ちなさい、レミット王女様が来るの?!」

 さすがにこれには驚いたようだ。さっきまで好戦的だったパティも、急に冷静さを取り
戻す…いや、余計に慌てはじめた。

 「ば〜か、「王女様」なんてがらじゃねェよ。お前、俺が前に話したこと忘れたのか?」

 「う〜〜〜〜んと…………あ゛。」

 そこまで言われ、やっと思い出したらしい。レミットがマリアに勝るとも劣らない「魔
法至上主義者&オテンバその他(爆)」だということを…

 「考えてもみろ、仮にここに泊まるっつーコトになったとしてだ……。被害が無いにこ
 したことはねェだろ?」

 「…納得。って、だとしたら大変じゃないの! いつ頃来るの?!」

 「………言いにくいが、明日にはここに着くらしい。」

 「……うそ。」

 「嘘だったら、俺がこんなに慌てる理由がねェだろうが!!! とにかく、俺は被害を
 抑えるためにいろいろやらなきゃいけねェ。んじゃな!」

 とりあえずそう言い残し、紅蓮は二階の自室へと消える。あとに残されたパティは、た
だ呆然と立ちつくすしかできなかった。






 翌日の、昼のラッシュを過ぎたあたり…さくら亭。

 「………遅ェな。」

 「あはは、紅蓮ってば意外と心配性なんだね。昨日はあんなに怒ってたくせに。」

 「…聞くなっての。とも、お前は俺の性格知ってんだろ……?」

 もう、とっくに着いてもいい時間帯なのだが…一向に来る気配がない。フィドルにも、
念のためこのことを告げてはおいたので、さくら亭に真っ直ぐ来れるはずだ。

 「紅蓮、ちょっと自警団に出前頼まれてくれない?」

 「あ? なんで俺なんだよ。」

 イライラと不機嫌そうに、紅蓮は朋樹を睨みつけた。が、それもあまり気にしない様子
で料理を紅蓮の前に置いていく朋樹。

 「門のところに、様子見ついで。フィリーも退屈なら行ってくれば?」

 「え、いいの?」

 さっきからそこらへんをふよふよと彷徨っていたフィリーが、喜びの声を上げる。かな
り退屈だったようだ。

 「うん。新しい料理を考えたいし、僕は留守番してるから。」

 「わかったよ。んで、どこに届けりゃいんだ?」

 「第三部隊。ヘキサと、フィドルさんの分だって。」





 「そういえば、キャラット達が街の外にいるんだってさ。」

 自警団へ続く道で、フィリーがポソリともらす。

 「ああ、また山菜取りか。」

 「うん。それに、ピートも一緒らしいわよ? 女二人じゃ心配だからって、由羅がボディ
 ガード代わりに呼んだんだって。」

 「『依頼料は飯』って?」

 「そうらしいわよ。」

 最近、メロディとキャラット(←リラはおらず、彼女のみ由羅の家に世話になっている)
がよく山菜取りと称して森の奥に遊びに行くことが多くなってきていたのだ。元冒険者で
あるキャラットが一緒だし、二人とも危険の匂いには敏感なのだが…女の子のみでは不安、
と由羅がピートに一緒にいるように頼んだのだ。

 「んじゃ、様子見ついでにあいつらを迎えにでも行くか。フィリー、頼むな。」

 「任せなさいって!」

 歩く事で少しはイライラもなくなったのだろう、紅蓮は半獣人三人組も迎えにいこうと
言う。森ではフィリーの天下…小さな胸をドンと叩き、フィリーは自身満々に頷いた。










 「はあっ、はあっ、はあっ…!」

 少女は駆けていた。息も絶え絶えになりながらも必死に走り、一路エンフィールドを目
指していた。一緒に走っている女性は自分に使える侍女であり、親友であり…何よりも、
実の姉との交流が少なかった少女にとって、肉親以上に信頼できる「姉」であった。その
女性も、少女と同じくすでに疲労が見え隠れしている。


 「…王女、もう少しでエンフィールドですよ。」

 街道を外れた森の中で、一時の休憩をとっていた時。地図を見ていた女性が、安堵の表
情を浮かべて話しかけてきた。少女は深く頷くと、深い木々の向こうにあるであろう……
エンフィールドの方向を向いた。

 「うん、わかった。もう少しで着くのね…。」

 「ええ。…追っ手ももういないようですし、そろそろ行きましょう。」

 「アイリス、ごめんね。こんなことに付き合わせちゃって。」

 手慣れたように周囲を伺う女性…アイリスに、少女はアイリスの服を掴みながら呟く。

 「いいんですよ。王女…レミット様のワガママはいつものことですから。」

 少女…レミットを安心させるように髪をなでると、アイリスは微笑みながら答えた。

 「うん。…ありがと。」

 「いえ、その言葉で十分ですよ。」

 もう不安は薄れたのか、レミットはいつもの笑顔へ戻った。アイリスもそれを見て微笑
み返す。が、その気がゆるんだ時。数人の男達が姿を現した。

 「ちきしょうめ、やっと見つけたぜ…」

 「女にしては妙に慣れてやがったが、ここまでだ!」

 「ゲッ! あんた達、ここまで追ってきたの?!」

 「ったりめーだ! こんな上玉、そう簡単に逃してたまるか! それに、てめェにカリ
 もあるしな!」

 そういった盗賊団のリーダーであろう男は、目の回りの青いあざを押さえつつ怒鳴りつ
けた。アイリスが気まずそうにしているところを見ると、彼女の仕業であろう。

 「うるさいわね…あんた達なんか、また黒こげにしてやるんだからっ!!」

 レミットは一笑すると、早口で魔法の詠唱を始める。しかし、盗賊団は臆することなく
ただニヤニヤと笑っていた。

 「…もう一度吹っ飛びなさいッ!!『クリムゾン・ナパー…』」

 「甘ェな。俺達に、二度は通じないッ!!」

 お約束なセリフを吐き、リーダー格の男がひとつの球を投げつけた。それは力ある言葉
を言い終わる前のレミットに当たり、瞬間的に口を封じた。それはマスクのように、口全
体を覆い尽くしている。

 「ん〜!! (何するのよ、バカァッ!)」

 「…許しませんよッ!!」

 「へん、そっちもだ!」

 結合式の棍を取り出し、アイリスはそれを一瞬で組むと力一杯に殴りつける。しかし、
その攻撃が届く前に似た玉の餌食となって地面に転がってしまった。今度は手と足にまと
わりつき、動きを封じるもののようだった。





 「なんだ、あれ? やっかましいなぁ…」

 「うん、ボクも聞こえた。…でも、どこかで聞いた声なんだけど…」

 時を同じくして、そこから少し離れた場所。そこにいたピートはその騒ぎを耳にしてい
た。一緒に山菜取りをしていたキャラットも警戒するように耳をせわしく動かしている。

 「ふみぃ? メロディには、なんとなくかいだことのあるにおいみたいなのですよぉ?」

 「なあ、もしかして何かあるんじゃねーか? いこーぜ、いこーぜ!」

 「うっわ〜い! メロディもいくのだ〜!」

 本能的に何かを察したピートは、好奇心に駆られ行く気満々。メロディはすでに走り出
しそうだ。唯一、自粛という行動を知っているキャラットは、なんとか二人を止めようと
試みる。

 「ねえ、ボク達だけじゃ危険だよ。一回、自警団へ…」

 「何言ってんだよ、んなことしたら間にあわねーかもしんねーだろー! 女の声もした
 んだぜ? キャラットには聞こえなかったのかよ!」

 「みゅぅ…メロディ、いっきま〜すっ!! なのだ〜!!」

 ピートとキャラットが口論している中、メロディは危険をわかっているのかいないのか、
先走って行ってしまった。一人で行かせるわけにもいかず、ピーとも慌てて駆け出す。

 「おい、待てよメロディ! 俺も行くー!」

 「うう…ボクって…。あ、待ってよ〜!」

 そんなピートを追いかけ、キャラットは沈みながら呟いていた。
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