中央改札 交響曲 感想 説明

オテンバ王女の襲来!(笑) 2
とも


 「さて…どうしてくれようか…」

 行動を封じられたレミットとアイリスは、さらにロープでぐるぐる巻きにされて転がっ
ていた。縛られてなお暴れるレミットに、じっと自分を抑えるように動かないアイリス。
それを男たちが取り囲んでいる。

 「む〜! む〜!」

 「…………」

 「うるせえ! 静かにしねェか、ガキ!」

 「む〜………」

 レミットはただ声を上げて反発をするが、男に怒鳴られ渋々声を落とす。対して、アイ
リスは捕まってから一切声を上げなかったため、軽い猿ぐつわのみですんでいた。レミッ
トの顔は、マジックアイテムで口を押さえられ、さらに布で押さえつけられている。



 「うっわ〜、これ、盗賊団じゃねーか? わくわくするぜ〜!」

 「みゃぁ、おんなのひとがつかまってるのだ…」

 「え? レミットとアイリスさん?」

 草むらからのぞき見していた三人は、滅多にない出来事に遭遇したということもあって
少なからず興奮していた。そんな中、キャラットはかつてのパーティのメンバーを見つけ
る…。こんなところにいるはずは無いのだが、しかし…目の前の状況が現実なのだ。

 「キャラット、知ってんのか?」

 「うん、前に話したでしょ? 紅蓮さん達と一緒に旅してたって。その時、ボクが仲間
 に入ってたパーティのメンバーなんだ。」

 「と、いうことは、あのこは、おうじょさまのレミットちゃんですかぁ?」

 「うん。だから…………ボク行ってくる!」

 答えながら、キャラットは単身飛び出していった。止めようとしたが、うさぎの半獣人
族である彼女を止めることは難しく、ピートの手はむなしく宙を切る。

 「さっき止めてたヤツがいっちまった…。メロディ、オレ達もいこーぜ!」

 「わーい! 悪者退治・なのだ〜!」

 口調は呆れながらも、表情は喜々としているピートを筆頭に、二人も草むらから飛び出
していった…!




 「なんだ、このうさぎ…ぶはっ」

 ゲシィ!

 「うさぎじゃないよっ!!」

 飛び出してきたキャラットを見、男が思わず叫んだ。それを聞いて怒ったキャラットは、
駿足を誇る強靱な脚力で一撃のもとに蹴り倒す!

 「む〜!」

 「レミット、今助けるから!」

 「てめぇ!!」

 仲間をやられ、怒り狂った男達の一人がキャラット目がけ凶刃を振り下ろ…

 『ライトニング・ジャベリン!』

 バリバリバリィ!!

 「うぎゃぁぁぁぁ!!」

 が、その一歩手前に、男に荒れ狂う紫電が襲いかかった!

 「間に合い…ましたね。」

 「アイリスさん!」

 雷の放たれた方向と、聞き慣れていた声の先は同時だった。間一髪、ピートが見張りを
殴り倒し、メロディの爪がロープと猿ぐつわを斬り裂いていたのだ。

 「うっみゃみゃ〜ん!」

 「いっくぜー!」

 続いてメロディがレミットのロープを切り、ピートは力任せに近くにいた男を殴り倒す。
突然の急襲者に、盗賊団の面々は慌てて陣を組みなおした。

 「ちっ、ガキどもに…やられてたまるかっ!」

 そう男は叫ぶと、懐にあった笛を取り出して思い切りふいた。すると、十数匹の狼がう
なり声をあげて出てくる。

 「…一時、逃げましょう。この人数では太刀打ちできません。」

 「え〜! こんなヤツら、オレらで十分…………ちぇ、わかったよー。」

 アイリスの言葉を聞き、暴れ足りないピートは文句を言う…が、アイリスの無言の表情
に大人しく首を縦に振った。

 「もしかしたら、まだ仲間がいるかも知れません。いいですね?」

 「む!(←まだマジックアイテムの効果が切れない)」

 グッ、とガッツポーズをアイリスに見せ、レミットは大丈夫であるところを見せた。キ
ャラットはメロディも大きく頷き、アイリスは微笑んで頷き返す。

 「じゃあ…今ですよ!」

 声を合図に、五人はばらけてエンフィールドへ走り出した。

 「ふん、街に着く前にとっ捕まえてやる! いけ!」

 男の声を合図に、狼と盗賊団達も別々に分かれて五人を追っていった。

 「あの女、どこかで見たような気が…まあいい。売れば高値が期待できそうだぜ。」





 その頃。紅蓮は弁当の配達で自警団に来ていた。

 「どーした、紅蓮。早く飯くれよー!」

 「ああ……」

 弁当を渡しながら、紅蓮はうわのそらのような感じで呟いた。ヘキサはお構いなしに弁
当を受け取って食べ始めている。気が晴れたのは少しだけで、まだまだ気になるらしい…

 「なあ、フィリー。紅蓮のヤツどうしちまったんだ?」

 「ほら、レミットって知ってるでしょ? あの娘、お城抜け出してここに来ようとして
 るらしいのよ。でも、今日着く予定なんだけど…」

 「ふ〜ん…。落ちつかねーとおもったらっそーゆーことか。」

 ちらりと紅蓮のほうを見ながら、フィリーはひそひそと答えた。紅蓮に聞こえないよう
に話すあたり、紅蓮の気持ちを察してのことだろう。そんな紅蓮を見て、ヘキサは意外そ
うに紅蓮を見る。

 「しっかし、紅蓮がなぁ。ティナとか朋樹がヤバイんならともかく、そんなにそいつが
 気になるのか?」

 「……まあ、いろいろとあったからね。」

 事情を知っているフィリーは、苦笑して言葉をはぐらかす。

 「フィリー、お前余計なこと言うなよ。…言ったら、例の仕置きだからな。」

 「え〜?! …わかった、絶対に言わない…」

 ボ〜ッとしていたはずの紅蓮から、フィリーに釘をさす言葉がかけられた。ビクッと縮
こまったフィリーは、それに素直に頷く。

 「んだよ、俺に教えてくれないのかよぉっ!!」

 「…ヘキサ、今の紅蓮刺激しない方がいいわよ?」

 紅蓮に睨まれたフィリーが、ひそひそとヘキサに耳打ちをした。その表情は…明らかに
恐怖の色に染まりきっている。

 「…なんだよ、お前がビビるなんて珍しいな。」

 「あんたは紅蓮がキレるとどうなるか知らないから、そんなこと言えるのよ…」

 「なんかしらねーけど、そうした方が良いみてーだな…」

 窓の外を見ている紅蓮を見て、ヘキサも納得したようだ。紅蓮が本気で切れ、消滅でも
されたらたまったもんじゃない。

 「フィリー、そろそろ行くか?」

 「え? そうね、そろそろ行きますか。」

 「じゃーな、紅蓮にフィリー。また出前頼むぜ〜」

 立ち上がった二人に、ヘキサは弁当箱を抱え込みながら手を振った。

 「OK! またね、ヘキサ。」

 思い出したように顔を上げ、紅蓮は時間を確かめたのだ。そんな紅蓮をおき、フィリー
は改めて飯にがっつき始めたヘキサに手を振った。

 「おう。暇なときな、また相手になってやるぜ〜………虫!」

 「…あんた、後で絶対シメてやる…!」

 一言多いヘキサをおもいっきり睨み付け、フィリーは紅蓮の頭を押しつつ事務所を後に
した。





 「グルル……」

 「もう少しなのに…」

 門に程近い、森の中の開けた場所。五人は意図せずそこで合流したのだが…先回りして
いた男達と数匹の狼によって、道を阻まれていた。後ろからは草を掻き分ける音が絶えず、
もう少しで敵の援軍が到着しそうだ。

 「困りましたね…私、もう魔法を使うほど力が残っていないんですよ…」

 「…メロディ、大きい魔法使える…?」

 「ふみゅう…つかえません…」

 「むー!」

 困り果てる四人。しかし、ピートはやる気は十分らしい。拳と手をパンッと合わせ、目
の前にいる男たちを睨み付けている。

 「満月に近いから、力は十分だぞー! 戦るのか戦んねーのか、どーすんだー?!」

 「ピートちゃん、かっこいい〜! メロディもたたかう・のだ〜!」

 メロディも触発されたらしい。飛び跳ねながら笑っていて、戦闘中という緊張感の欠片
もなかった。

 「そうですね…ならば、手早く片付けてしまった方がいいですね。」

 「む!」

 そういって、アイリスはさっきの棍。レミットは腰にしていた二本の中型ナイフ(とい
っても、レミットにとっては大型に匹敵するが。刃は止めてあるし、さっきどさくさにま
ぎれて取り返したのだ)をそれぞれ逆手で持った。

 「おおっ?! レミット、それかっけーな!」

 「レミットちゃん、かっこいいのだ〜!」

 「む!」

 ピートとメロディの言葉を受け、Vサインするレミット。と、そのレミット目がけ二匹
の狼が襲いかかってきた!

 「む!」

 バシッ! ゲシッ! ザシュゥ!!

 舞うようにそれを避け、蹴りとナイフを駆使して一瞬で狼を倒す。そして、またVサイ
ン…結構余裕だ。

 「よっしゃ、オレも!」

 「みゅう、メロディだって!」

 「ボクも負けないよ!」

 前に出、真っ先にピートが狼に腕を咬まれるが、そのまま地面に打ち付けて気絶させる。
メロディは数匹の狼をもてあそび、隙をついて思い切り引っ掻く。キャラットは狼の後か
ら迫ってくる男達を蹴り飛ばしていた。

 「む〜、む!」

 「ええ、私達も…怪我なんてしていられませんからね…」

 互いに背中を合わせ、二人は飛びかかってくる狼を次々と気絶させていった。間合いに
入る前の敵をアイリスが打ち据え、間合いに入ってきた敵をレミットがねじ伏せていく…

 しかし、それも長くは続かなかった。

 『ヴォーテックス!!』

 ゴオォォォォ!!!

 「むぐ〜っ?!」

 「っ!!」

 「「うわぁぁぁ!」」

 「うにゃぁぁ!」

 どこからか聞こえてきた声と共に、五人全員が旋風の中に閉じこめられたからだ。風が
収まると同時に…五人全員が地に伏してしまう。

 「ったく、手こずらせやがって…」

 そう言って出てきたのは、盗賊団のリーダーだった。周りに三人ほどの男を引き連れて。

 ガッ!

 「うぐっ!」

 一番デカイダメージを受けたピートが、男に蹴っ飛ばされた。しかし、怪我が酷くうめ
くだけしかできない。

 「非道い…!」

 「うるせぇよ。こんなに街に近いところまできやがって…」

 まだ傷の浅かったキャラットが涙を流して睨み付けるも、リーダー格の男は一瞥をくれ
るだけでシカトして呟く。

 「てめぇら、とっととこいつら縛り上げろ。猿ぐつわも忘れんじゃねーぞ。」

 「へいっ!」








 男達は、手慣れた様子で次々と五人を縛り上げていく。そして、最後の一人を縛り上げ
たとき…

 ガササササ―――!!

 森の少し奥から、草を掻き分けて何かが走るような音がした。

 「…なんだ? おい、ちょっと行って見てこい!」

 「へいっ!」

 リーダーに言われ、一人の男が森の中へ入っていく。少し経って戻ってきたとき、手に
はウサギが一羽だけ掴まれていた。

 「さっきのはこいつみたいですぜ? 周りも見渡しましたが、人影はありませんでした。」

 「そうか。よし、引き上げるぞ!」

 「むぐ〜………」

 確認も取れ、一安心したのだろう。リーダー格の男は声を張り上げ、部下に撤収を言い
渡した。男たちがレミット達5人を抱え上げようとする……が。

 「むぐ〜!!」

 「あっ! 逃げんじゃねぇ、このクソガ…んげっ?!」

 ゲシッ!

 レミットが男の隙をついて駆け出した…足の結びが甘かったのだ。取り押さえようとし
た男のまたぐらを思い切り蹴り上げ、あまりの痛さに倒れ伏す男を飛び越した!

 「グァァァァァッ!!」

 が、数匹の狼が行く手を阻んだ。レミットの実力なら、数匹の狼なんぞ物の数にすらな
らない…が、それは最低でも腕を縛られていない状態でのこと。いくらなんでも足のみで
それを倒し尽くす事は不可能だ………

 「むぐぅ……」

 「ふん、逃げ切らせるかよ…テメェは大事な金蔓なんだからな…」

 面倒くさそうにリーダー格の男は言い放ち、レミットに一瞥をくれる。

 「今に………罰されますよ……!」

 「ふん…俺ほどの悪人なら、すでに殺されててもおかしくねぇんだよ…。この世に…神
 や正義があるんなら…な…?」

 何も怖いものはない、と言わんばかりにニタリと恐ろしい笑いを浮かべる男。その目は
狂気の色に染まっており、アイリスでさえもそれに恐怖を覚えた。

 「…ちきしょー……こんな事なら、もちっと真面目に習っておけばよかった…」

 「…ぐす………おねえちゃぁん……」

 沈むピートとメロディ。この2人はすでに動く事すらままならない状態だった。ロープ
でぐるぐる巻きにされていると言うこともあるが、怪我も多く体力も消耗しているのだ。
最も多く暴れていたので、攻撃の対象にされまくっていたということもあるのだが…

 「…………ぇ?」

 と、ピクリとキャラットの耳が動き、反応した。微かな音…いや、声。ウサギの特徴を
持つ、彼女ら森の民フォーウッドなければ聞き取れなかっただろう。

 「っ?! グルルルル………」

 そして、狼も見えない何かに反応を示す。森の中に感じるそれに、警戒のうなり声を上
げ………その場を取り囲む。

 「どうした?」

 ガサッ……ガサガサガサ………

 リーダー格の男も狼の反応に警戒心を抱いたのか、剣を抜きつつその方向を見た。耳を
すますと、がさがさと物音が聞こえてくる…

 ガサッ!

 「っと〜♪」

 「……………」

 「……………」

 男、狼共に、出てきて変な声をあげたそれに言葉を失った。単なる妖精…それも探せば
どこにでもいるような一般的な妖精が姿を現したのだから。

 「あっれ〜? ここ、違うみたい…じゃ、そういう事で〜♪」

 そんな事を言い残し、妖精はその場を去ろうとしていた。あっけにとられていた盗賊達、
狼、レミット達はそれをそのまま見送ろうとし…

 「ちょっと待てやコラァ!」

 「ん? な〜に?」

 「な〜に? じゃねぇっ! そのまま去ろうとするんじゃねぇよ……テメェも捕まえて
 やらぁっ!!!!」

 妖精は基本的に魔法は使えない。そして、すばしっこいが捕まえられないほどのスピー
ドではない…! 男は、それを頭に浮かべながら飛び掛った!

 「きゃ〜〜〜!!!」

 そして、妖精は逃げずにその場で身をかがめるように丸まった…その顔に、小悪魔のよ
うな笑みを浮かべて。

 「………なんてね♪」

 バリバリバリィ!!!

 迫りくる男の手をするりと逃げると、妖精はその体に合ったレイピアのようなものを一
振りした…途端、凄まじい電撃が男に襲い掛かる!

 「ぐあぁぁぁ! ………がっ…妖精は魔法は使えねぇはず……」

 「残念でした♪ 使えるのもいるのよ、あたしは姿変えるしかできないけど♪」

 ピクピクと痙攣しながらうめく男を見下ろしながら、妖精は楽しげに話す。と、その口
調と声に気付いた者がいた…

 「その声…フィリー?!」

 ぽむっ♪

 キャラットである。それを合図としたように、妖精が軽い爆発音と共に煙に包まれた。

 「そのと〜りっ♪」

 白い煙を撒き散らせ、いつもの姿に戻るフィリー。レイピアはそのままだが、にこっと
笑いながら軽くポーズを決めるところはフィリーらしい。

 「むぐ〜♪」

 「ちょっと待っててね〜♪ すぐ助けるから♪」

 喜ぶレミットにウィンクひとつ。が……

 「てめぇ!」

 「頭をよくも……!!」

 凄まじい形相の男たちがフィリーを取り囲んでいた。そりゃそうだ…小さい妖精に頭が
やられちゃ洒落にならないし、プライドにも傷がついただろう。

 「よぉ、俺も混ぜてくれよ。」

 そこへ、少年の声が響いた。声が聞こえてきた方向を見ると、木の上から黒髪の少年が
ケラケラと笑いながら盗賊を見下ろしている。

 「ああ?! なんなんだ、テメェはよ!」

 「ん〜? 気にすんな。女子供を平気で売りさばくよーなクソ野郎にむかついてる、た
 だの近くの街のもんだ。」

 「「「紅蓮(さん)!」」」

 それを見て、キャラット達獣人族トリオが思わず名前を叫んでいた。盗賊達はというと、
見知らぬ少年にんなこと言われて頭にでっかい青筋立てている(笑)

 「おいっ、あそこのクソガキ落とすぞ!」

 「おお、ぶっ殺してやる!!」

 弓矢を構える者や呪文を唱える者など、むかつくクソガキ…紅蓮にぶち当てようと男た
ちは躍起になった。そんな男たちを見、紅蓮は何もしようとはせずケラケラと笑いつづけ
ている。

 「死ねやおらぁ!!」

 「カーマイン・スプレッド!!!」

 「アイシクル・スピア!!」

 男たちの放った攻撃が紅蓮へと襲い繰るが…紅蓮は微動だにしない。そして…

 「ん〜。ま、こんな程度か…」

 シュパァン!

 紅蓮の呟きと共に、まるで存在自体がなくなったかのように魔法と矢全てが消え失せた。
紅蓮自身は変わらずケラケラと笑い、そして両手をゆっくりと突き出す。

 『集え爆炎…つーかあれ全部焼き尽くせ!
  クリムゾン・ナパーム!!!』

 ゴオオオォォォ!!!!

 『うっぎゃぁぁぁっ?!』

 そんなふざけた詠唱とともに、盗賊たちが降り注ぐ炎に包まれた! レミット達を取り
囲んでいた狼たちはすでに逃げ出していたが、その広大な攻撃範囲と火力の前に次々と倒
れていく…が、盗賊たちはまだ倒れていなかった。

 「げ、まだくたばってねぇのかよ…まあいいや。これくらいでくたばられちゃ、あいつ
 ら捕まえたっつー俺の怒りが消えねぇもんな。」

 「ちきしょう…テメェら、そこの女連れてこい! こいつが手出しできねえようにする
 んだっ!」

 「きゃぁっ!」

 紅蓮がのんびりと呟く中、盗賊の一人がアイリスを無理矢理に立たせた。大方アイリス
を盾に逃げようって魂胆だろうが…

 「ついでにこのガキもだ! へへっ…これでお前も手出しできねぇだろ…」

 「うわぁっ!」

 そして、キャラットも襟首を掴まれて前に突き出された。その盗賊の行動を見た紅蓮は、
視線だけで人を殺せるくらいに盗賊たちを睨みつける…

 「ほ〜…で、俺はどうすればいい?」

 「まず降りてきやがれ! そしたら、なぶり殺しにしてやるよ…!」

 「へいへい。」

 睨みを利かせたまま、紅蓮は言われた通りに木から降りた。その周りを黒焦げ作ってる
盗賊たちが取り囲み、ニヤニヤと卑下た笑いを浮かべながらじりじりと輪を縮めてくる。

 「へへ…万倍にして返してやるぜ…!」

 「…ったく、俺のむかつくような事ばかりしやがって…」

 そうため息をつくと、鋭くしていたその視線を地面に下ろした。そして、盗賊たちは紅
蓮が諦めたとでも勘違いしたのだろう…押し寄せるように襲いかかる! …が。

 『汝、我に従うべし… 古の…時の彼方から風と大気を統べし舞姫…
  汝が翼は全てを斬り裂き…汝が怒りは全てを滅す…!』

 紅蓮は諦めたわけではなく、詠唱を唱えていたのだった。盗賊たちが間近に迫ったとき、
ガバッと顔を上げてニヤリと笑う。

 「黒コゲになりやがれっ!!『サンダートルネード!』」

 紅蓮の言葉が終わると同時に純白の翼と衣をまとう女性が現れ、その手を振りかざす。
途端、紫電をまとう旋風が盗賊団のみを包み込こんだ!

 バリバリバリィ!!!!

 「「「ぐぎゃぁぁぁぁ!!」」」

 「あいつらに手ェ出しやがった罰だ…しばらくそん中で反省してやがれ、馬鹿野郎どもが。」

 間を置かず、盗賊達の叫び声が響きわたる。そして、紅蓮はギロリと冷気をまとったか
のような視線を一度盗賊団全員に向けると、ロープを一生懸命ほどこうとしているフィリ
ーを手伝うためにナイフを具現化させた。

 「ほれ、フィリー。お前の力でほどけるわけねーだろうが。」

 「んしょ…っと。あ、ありがと。」

 そりゃ…頑強な男が縛ったロープを、身の丈30pほどの妖精が簡単にほどいたら驚異
的だ。そんな妖精がいるなら見てみたいし、普通の妖精には…ハッキリ言って無理だろう。

 「よし、これでみんな大丈夫だな?」

 「む〜!」

 ロープを切り、一安心と思いきや。レミットのマジックアイテムの効果は未だ切れてお
らず、ジタバタと紅蓮の腕を引っ張っている。

 「わかったわかった。ちょっとまってろ……『デストラクト・マジック』」

 手早く魔法を合成し、解き放つ。黒い魔力がレミットを包み込み、それが晴れるとアイ
テムはすでに消え去っていた。レミットは大きく深呼吸すると、はぁっとため息をつく。

 「ぷはっ…。はあ、やっとしゃべれるわ…。」

 「さて。どういうことか説明してもらおうか? このオテンババカ娘が。」

 少し睨み付けながら、紅蓮はレミットの服の襟を持って宙づりにする。レミットはじた
ばたと手足を振り回して怒鳴りつけてきた。

 「何すんのよ、このバカ紅蓮!」

 「うるせぇ、バカはねェだろ! そもそも、お前が城を抜け出さなきゃこんなことにゃ
 ならなかったんだろーがっ!!」

 「ふんだ、今は少しだけ後悔してるわよ! この凶暴男!」

 「ほう…このまま、城まで吹っ飛ばしてやろうか?」

 「その前に、ドデカイの一発喰らいたいのっ?!」

 顔をつきあわせ、二人は一触即発な雰囲気のまま言い争いを始めた。慌ててキャラット
がレミットを、フィリーとメロディが紅蓮を抑えようとするが言い争いは続いたまま…。
そして、ピートだけ気付いていた…紅蓮とレミットの手に魔力の光が輝いていたのを。

 「レミット、もう止めなよっ!」

 「紅蓮、いい加減にしなさいよ!」

 「みゃあっ! 紅蓮ちゃん、レミットちゃんと仲良くしなきゃダメなのぉ!!」







 …結局、二人の言い争いが終わったのはそれから数十分後のことだった。
中央改札 交響曲 感想 説明