中央改札 交響曲 感想 説明

とらぶる・いん・ぺあれんと! No-3
とも


 「さて、俺は先に戻ってるわ。お前らはどうする?」(ゲシッ)

 やけにすっきりした顔をし、紅蓮は気絶した翔を簀巻きにして引きずりながら言う。時
折さり気無く蹴りを入れている事に関しては…紅蓮の威圧感のせいで何も言えないといっ
た方が正しいだろう。

 「う〜ん…僕はいいよ。二人とも、まだまだいるんだよね?」

 「ええ、予定だと十日はここにいれるはずだから。ディアーナちゃん、クリスちゃん、

 後でいろいろお話しましょう。前はそんなに話せなかったものね。」

 「「は、はい。」」

 前に一度会っているという事もあり、彩が真っ先に声をかけたのはディアーナとクリス
だった。それと一緒に、すでにトリーシャ達には名前を聞き出していたりもする。

 「それじゃ、また後でね。」(ギリィ…)

 朗らかな笑みを浮かべながら、彩は平然と翔の鳩尾に踵をめり込ませる。



 自分よりティナを選ぼうとした夫に対するやきもちの表れだろうか、単なるストレス発
散なのだろうか…どっちにしても、二人を今日初めて見た者達はみな一つの結論に達した。

 『紅蓮は、120%…間違う事無く翔と彩の息子だ』

 …と(笑)



 「ティナは後から来いよ、ガキ共の面倒見なきゃいけねェだろ?」

 「え、でも…」

 てっきり「一緒に来い」とか言ってくると思っていたティナは、紅蓮の予想を反した言
葉に言葉を濁した。

 「大丈夫だ、どーせ一緒に行っても馬鹿親父に付きまとわれるだけだからな。それに、
 久々に水入らずで話もしてェし。な?」

 ぐいとティナを抱き寄せ、紅蓮は意味ありげなウインクを見せた。それで何かがわかっ
たのか、ティナは笑って首を縦に振る。

 「……わかりました。こんなにいいお天気ですし、お言葉に甘えてもうちょっとここに
 居ますね。」

 その行動に、何人かは頭に?マークを浮かべた。もっとも、ティナ以外の周りでそれが
わかるのは…長い時間を共有していた朋樹や紅蓮に懐いていたレミットくらいだろうが。

 「ああ、すまねぇな。行くぞお袋。」

 「それじゃティナちゃん、またね。」

 未だ気絶している翔をずるずると引きずり、紅蓮は彩を促しながらその場を後にした。
彩も軽く手を振りながらその後についていき、姿が見えなくなった…




 「…朋樹、紅蓮さんのお父さんとお母さんっていつもああなのか?」

 「うん、そうだよ。でも…」

 そのテンションについていけなかったのか、ラティンは少し引き気味になりながら朋樹
に尋ねた。朋樹はあっさりとそれを肯定するが…何かに気付いたように手を顎にやる。何
か、違和感でも感じたように。

 「(あの蛇…おじさんとおばさんを狙うように、故意に召喚されたみたい…)…一応、
 何が来ても対処できるようにしておこうかな。」

 「え、何が?」

 朋樹の呟きに気付いたイリスが、ほとんど反射的に聞き返す。朋樹はちょっと戸惑いの
笑みを浮かべると、なんでもない、と首を横に振る。

 「ふ〜ん…ま、あたしは朋樹に危険が無ければそれでいいんだけど♪」

 「あ〜! イリス、どさくさに紛れて何してるんだよっ!」

 「イリスちゃんっ!!」

 と、朋樹の腕にしがみ付くイリス。それに目敏く気付いたトリーシャとディアーナが抗
議の声をあげるが…

 「朋樹はあたしのだもんね〜♪」

 「「……………(怒)」」

 聞く耳も持たず、さらに頬擦りまで始める始末だ…それに黙っているほど、トリーシャ
もディアーナも人間できてはいないらしい…青筋立てて体を小刻みに震えさせている。

 「「イリス(ちゃん)……………?」」

 「ひっ?! と、朋樹ぃ……二人が怖いよ〜〜〜(むぎゅ)」

 おっかない威圧感を放つ二人にワザと怯えたイリスが、さらに朋樹にしっかりとしがみ
付いた途端…………

 ブチッ

 何かが切れたような音が、青筋立てた二人から聞こえてきた(笑)

 「もう許さないよ…イリス、覚悟はいい…?」(ガシッ)

 「トリーシャちゃんと同意見です…丁度良いですし、新薬の実験台になってもらいます
 ねイリスちゃん…?」(ガシ)

 「…い、いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!(涙)」

 どこに持っていたのか、チョップ棒をいつの間にか持っているトリーシャに薬瓶を取り
出すディアーナ。両肩を掴まれ、連れて行かれるイリスの涙ながらの叫びを聞きつつも…
朋樹は何もできなかった。

 「ごめん、今の二人には僕は何もできないよ…(汗)」

 「ごめんっ、冗談だからっ、…………だから助けてぇぇぇぇっ!!!!!(涙)」

 危機も去り、ちらほらと湖に戻ってくる人々が慌てて振り返るほど…イリスの叫びは恐
怖に染まりきっていたとのちにその場にいたラティン達は語ったと言う…






 ドドドド…

 土煙を上げ、迫り来る何かから紅蓮と彩、翔の三人は逃げていた。魔法をブッ放すなり
そろって蹴散らすなりすれば事は済むのだが…いささか相手が嫌過ぎた。

 「みょぉぉぉん♪」

 そんな三人を追うように、、可愛げな鳴き声にふわふわの白い毛に包まれたハリネズミ
みたいな生き物が楽しげに疾走している。なぜ攻撃を仕掛けないかというと、この生き物
は魔法が効かない上に…

 「あ〜………ムカツクいらつく気に食わんッ!!!
  『集え深淵、集え混と…』」

 ベシィッ!

 「止めろクソ親父。」

 「〜〜〜〜〜〜〜っ?!」

 思い切り舌を噛むように、狙って紅蓮が翔の頭を叩いた。それによって思惑通り翔は舌
を噛み、詠唱は中断され言葉を話せなくなってしまう。

 「ったく、あの毛玉が魔力に反応したらどーしてくれんだよ。あれだけウヨウヨいっと、
 半径一キロくらいじゃ済まねェのわかってるだろーが。」

 「変なの喚んでくれたもんだわ…生きた魔力反応爆弾なんてモンスターなんてね。」

 このモンスターの正式名称はミョル…通称『マジックボム』と言う。自分目掛けて発動
した魔力に反応し、何故か自爆するという変わったモンスターなのだ。しかも、そいつは
自分に向けての物理攻撃にまで反応し自爆するというはた迷惑なモンスターなのである。
もちろん、しっかりと誘爆するようなやつらだ。紅蓮が孤児院に預けていた荷物を受け取
り、外に出た途端これがめちゃくちゃ現れたのだ。


 もっとも、別に爆発しても障壁で防げばさして問題は無い。あえて言うとなると、その
ドデカイ爆発音である。下手にデッカイ音なんぞ上げようモノならば、公安にイチャモン
つけられ周りから苦情が殺到し…と後々面倒なのだ。んな障害が無ければ、とっくの昔に
障壁張って爆発させている。


 「…親父、お袋……ヨルムンにミョルなんていったい何しやがってたんだよ?」

 「え〜と、こっちの世界で四十年よりちょっと前にね…」

 「〜〜〜っ。」

 こっちの世界で、と言っているあたり翔と彩もいっぺん飛ばされたクチらしい。そろっ
て同じ目に遭っているとは…とことん数奇な運命にぶち当たる親子だ。

 「…つーと、俺が生まれる少し前辺りかよ(汗)」

 「そーゆーこと♪ 楽しかったわよ? 戦争の真っ只中に放り込まれたのが一番嫌な事
 だったけど。」

 「…戦争体験したのかよ、あんたら……」

 戦争というか、それに近いものなら紅蓮も体験はしたこともあるが…さすがに戦争まで
発展した戦いには参加はしていない。

 「ま、いい体験だったわよ。相手軍にむかつく召喚術士がいたから思いっきりからかっ
 てあげたんだけど、これがまた陰険でね……って、あ。」

 そこまで言って、しまったと言う顔をする彩。この騒動の根源は自分だと言い切ってい
るような発言でしかないし、その楽しそうな表情がどこまでやったかを物語っている辺り
物凄く怖い。

 「お袋が原因かいっ!!!!!!」

 「そうだけど、何か文句でもあるの?」

 「別にねぇよ…つーか、いったいどんな事やりゃここまで恨まれるんだよ?」

 もっともな疑問である。普通、四十年もの間恨み続けた上…その個人を狙ってピンポイ
ントでモンスターを召喚して殺しにかかるなぞ常識では考えられない。

 「え〜っと、あいつがむかつく事ばかりやってきたから…トラウマに残るような出来事
 とかかなり尾を引くくらいのでっち上げた噂流したりとか…軽く四桁はいってるかも。」

 「…………………マテやそこの楽しそうに指数えてる馬鹿親。」

 「大丈夫、なんとかなるわよ☆」

 それだけで人なんか簡単に殺せそうな紅蓮の殺気立った視線を向けられ、彩は何故か満
面の笑みで答える。それくらいなんでもないようだ。それに懲りない母を見、紅蓮は深く
ため息をつく。

 「…いいや、とりあえずこのまま橋を渡りきって、川沿いに走り続けてくれ。コロシア
 ムが見えたら、その前を左に。」

 もう文句も言う気力のなくなった紅蓮は、両親に行き先を簡単に告げる。二人とも声に
出さず頷くだけで了解し、ミョルに追いつかれない程度のスピードに調整を始めた。

 「で、その先の門をくぐって開けたところに出ちまえばこっちのもんだ。遠慮せずに暴
 れてくれ…以上だ。」

 「「了解だ(よ)。」」

 そう言い合うと、目的地を常に把握しながら三人は駆けた。





 「みょぉぉぉっ!」

 「みょぉぉん♪」

 ズドムッ!!!!!!

 淡い青の障壁内にひとまとめにされたミョルは、障壁内に具現化されて降り注いでくる
ナイフの衝撃を受け、一気に殲滅された。爆発音もしたが、衝撃波等は一切なく被害も地
面がえぐれるだけの最小限度に抑える事ができた。

 「…ったく、面倒くせぇことになったな。。親父にお袋、今から二人が泊まる宿に連れ
 てってやるからついてきてくれ。」

 「もちろんお前のおごりだろうな?」

 「まぁな…どうせ、こっちの金すら持ってねぇだろうし。息子の気まぐれとでも思って
 くれや。」

 翔の言葉に、紅蓮は肩をすくめて答えた。元々そのつもりだったらしく、あっさりとそ
れを承諾する。

 「その代わり、絶対に文句は言うなよ。(パシッ!)んで、親父。」

 前触れのなく突き出されてきた翔の拳を普通に受け止め、紅蓮は受け止めた反対の腕で
翔を指さす。翔もあまりそのことに動揺していないのか、普通に答える。

 「あ? なんだ、馬鹿息子。」

 「ところ構わず手ェ出そうとするんじゃねえぞ。それが守れねェ時は…厳しい仕置きが
 待ってるからな。わかったか馬鹿親父。」

 バシィッ!

 「おう、わかった。」

 翔も紅蓮が突き出してきた正拳を受け止め、二人してお互いの拳を受け止めているとい
うよくわからない状況になる。

 「ほんじゃ、行くか…って。馬鹿親父、いい加減に手ェ離せよ。」(グググ…)

 「それじゃ、お前も離せよ馬鹿息子。」(グググ…)

 「いい加減にしなさい。」

 バシィッ!!

 「「んげっ?!」」

 均衡状態の二人を、怒った表情の彩が思い切りどついた。そら、案内するとか言われた
にもかかわらずいきなり喧嘩もどきがおっぱじめられちゃぁ…ムカツクのも頷ける。

 「ほら、早く案内してちょうだい。いろいろしなきゃいけないこともあるんですからね。」

 「「へ〜い。」」

 やっぱりと言うかなんと言うか…紅家はカカア天下らしい。彩の厳しい視線を浴びなが
ら、紅蓮は道案内のために門へ向けて…翔はこれ以上シバかれないように少し大人しく、
それぞれ先へ歩いていった。
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