中央改札 交響曲 感想 説明

「ただいま」を君に
ワカ


この日、門番を務めていたヤンは、定時通りに門を開けた。自分も門の前に立ち、態勢を整える。
ふと、塀に寄りかかって眠っている青年の姿が見えた。このままでは風邪を引いてしまう可能性もあるため、とりあえずその男を起こして中に入れてやる事にした。
「起きて下さい!門が開きましたよ!!」
そう言って、肩を揺する。顔がカクカクと動き、やがてゆっくりと目を開けた。
「・・・ん?もう朝か・・・?」
(あれ?この人の顔、どっかで見たような・・・?)
ヤンはその青年を見た瞬間、強烈な既視感に襲われた。中肉中背、中世的な顔立ち、目元まで伸びている茶髪、別に珍しくもないハードレザー。どこにでもいる旅人にしか見えないが、自分の感覚がそうではないと告げている。
「?・・・俺の顔に何かついてるか?」
「あ、いや、何でもありません・・・。」
青年は首をかしげたが、そばの木につないだ馬を連れて門をくぐろうと歩いてきた。
「あの、すいません。」
「何か用か?」
「あなた、どこかでお会いしませんでしたか?」
多少ためらいながらも、ヤンは青年に最も気になっていることを問い掛ける。
「さあ?会ってるかもしれないし、会った事ないかもしれない。」
これまたぶっきらぼうに答える青年。ヤンも少し頭に来たが、様子から見てこの青年は本気で言っているらしい。少し悩んだ末、質問を変える事にした。
「では、あなたのお名前は?」
「その質問には答えなきゃいけないのか?」
「いや、別にそういう訳ではありませんが・・・」
ヤンが戸惑って言葉を濁すと、青年はニヤリと口の端を緩めた。どうやら今のはヤンをおちょくるための演技だったらしい。
「冗談だよ、冗談。」
そこでようやく自分がおちょくられている事に気付いたヤンは、キツイ目でにらむ。
「分かった分かった、名乗るよ。名乗るから怖い目で睨むのはやめてくれ。俺の名前はカイト。カイト・ローティスだ。」
肩を竦めてそう言った青年―――カイトはそれだけ言うとまた街中へと歩きはじめた。しばらく後、先程の既視感が何だったのか理解した時には、カイトは蟻ほどの大きさになっていた。それでも、大きな声で彼は叫んだ。
「おかえりなさい、そして、ようこそ、エンフィールドへ!!」
その声に対してカイトは、振り向かず片腕を上げて答えた―――。


一方、ここは『何でも屋』、ジョートショップ。
「ご主人様、おはようございますッスーー!!」
何度かノックした後、金色のふさふさした毛を揺らしながら、テディがアリサの部屋のドアを開けた。
「おはよう、テディ。今日は早いのね。」
そういって微笑むアリサ。しかし彼女もすでに起きていたらしく、既に普段着だ。
「ハイッス!今日は何だかよく眠れたッス!!」
「そう、良かったわね。私も今日は何だか調子がいいみたい。」
「こういう日はきっといいことがあるッス!」
テディが元気よく喋っているのを聞いて、アリサは微笑み、台所へ向かって朝食の準備に取り掛かりはじめた。
目が悪いとはいえ、物の配置を覚えている自宅で日常生活するには1人でも出来る。そのため、テディはアリサの作る朝食の芳しい臭いを楽しんでいた。
ふいにドアから『トン、トン』というノック音が聞こえる。
奥で調理をしていたアリサには聞こえなかったらしい。
「どなたッスか〜〜〜?」
とりあえずドアに向かい、ジャンプして鍵を開ける。開かれたドアの向こうには、先程の青年―――カイトが立っていた。
「よっ。久しぶりだな、テディ。」

「・・・・・・・・・」

しばらくの間、沈黙が流れる。どうやら、状況を把握できていないらしい。しかも、テディは面白いほど驚いたまま固まっている。予想通りの反応を満喫し、思った事をそのまま口にするカイト。
「その顔、面白いぞ、テディ。」
「か・・・カイトさん、っすか?」
「おいおい、それが一緒に暮らしてた奴のセリフか?」
その一言で堰が切れたらしい。テディは一気にカイトの胸元に飛び掛かってきた。せいぜいカイトのすねほどしかないテディの身長を考えると驚異のジャンプ力だ。
「カイトさん、お帰りなさいッスーーーーーーー!!」
ジョートショップの玄関は、さながら再会を喜ぶペットと飼い主の図だった。

「で、テディ。アリサさんはどうした?」
「そうだったッス!御主人様に知らせてくるッスーーー!」
と言って、奥の台所へと向かって行った。
「相変わらずそそっかしいな、テディは・・・。」
苦笑しながら辺りを見渡すと、記憶に寸分違わぬ部屋がそこにはあった。目の悪いアリサのため、家具は一切動かされていない。記憶の方が間違っていない限り、イメージとのギャップが出る事はないだろう。
ほどなくして、トタトタと足音が聞こえてきた。それほど広い家という訳でもないので、すぐに顔が見える位置にたどり着く。
「カイトくん・・・なの・・・?」
「・・・・・・アリサさん・・・お久しぶりです・・・。」
自分の目の前にいる青年の名を確かめるように呟くアリサに、照れたような笑みを浮かべるカイト。瞬間、カイトは2の句を継げない状況に陥った。要するに、アリサに抱き着かれたのだ。
「元気そうで、何よりです・・・。」
そう言って手を母の背中にまわす。この場にアルベルトがいたら激怒する事間違いないだろうが、幸い、この場にいるのはテディだけだ。問題はない。
「本当に・・・無事で良かった・・・・・・!!」
抱いている手の力が強くなる。心配と愛情の現れだ。
「連絡を入れられなくて、すみません・・・」
「いいのよ・・・無事だったんだから・・・・・・」
端から見れば恋人の再会にも見えかねないこの再会は、5分後、カイトの腹の虫で終焉を告げた―――。

約1年半ぶりに食べるアリサの料理は、格別に美味だった。
元々小食のアリサとテディの朝食を3人で分けたのだから、絶対的に量は少なくなるが、それは料理の味で十二分にカバーできた。
「それにしても、突然帰ってきて、ビックリしたッスよ。」
「悪ぃ悪ぃ。まぁ、それを狙ってた部分もあるんだけどな。」
たわいもない話を楽しむカイトとテディ。アリサは朝食の追加を作っているためこの場にはいない。
「それで、俺がいない間、何か珍しい事はあったか?」
「そうッスねぇ・・・色々あったッスよ。例えば・・・」
テディが今までにあった事を簡潔に、そして大量に伝える。
公安の設立、それによる第3部隊の解散の危機、クレアがやってきた事、アレフ達がシーラの様子を見にローレンシュタインに行った事、公安が事実上解散し、自警団がこの街の正式な治安部隊となった事などである。
「本当に色々あったんだなぁ・・・。」
「考えてみればそうッスね。」
「あらあら、楽しそうね。」
スープのお代わりを手にしたアリサがやって来た。スープをカイトの前に置き、そのまま席に座ろうとする。が、優しいカウベルの音によって、その行動は遮られた。
「こんにちわ〜〜、アリサおばさん、い・・・る・・・・・・?」
入ってきたのは、パティだった。右手の岡持ちを見ると、朝食を持ってきたらしい。語尾がおかしいのは、ただ単にいると思ってなかった人物がいたからだろう。
「よっ、久しぶりだな、パティ。」
軽い挨拶を返すカイト。呆然として固まっているパティ。
しばらくの間の後、表情は変えぬまま、つかつかとカイトに近寄り、そして・・・
ガコォォン!!
「ぐはっっ!!」
手に持っていた岡持ちの角で思いっきりカイトの頭を叩く。
「あらあら・・・。」
「わーっ!!大丈夫ッスか!?カイトさん!!」
突然のパティの奇行に慌ててカイトにに駆け寄るテディ。カイトの頭からは大量出血しているが、パティの表情は呆然としたまま変わらない。
「痛く・・・ない・・・」
「ど、どうしたッスか、パティさん?」
「殴ったのに・・・痛くない・・・何だ、夢か・・・。」
「・・・・・・・・・」
思わず絶句してしまうテディ。
なお、パティが現状を理解したのと、被害者が意識を取り戻すまで、1時間を要した事を記しておく・・・。


「アハハハハ・・・何だ、そうならそうと早く言えばいいのに・・・」
バツが悪そうに乾いた笑いを浮かべるパティ、カイトの視線は先程から冷ややかだ。
「言う前に思いっきり殴ってきたんじゃねぇか・・・。」
「うっ・・・」
言葉を詰まらせてしまう。目の前に座っているカイトの頭には包帯が巻かれており、赤く染まっていて痛々しい。完全に自分のせいなので何も言えない。
「まあ、パティらしいといえばパティらしいし、別にいいけどな。」
「ありがと。そう言ってもらうと助かるわ。」
「へぇ、素直じゃないか。」
感心したようなカイトの声が響く。パティは軽く肩をすくめて、
「当たり前でしょ、アタシにだって良心はあるわよ。」
「意外だなぁ・・・。」
意地の悪い笑みを浮かべながらカイトが呟く。
アタシをなんだと思ってんのよ、と文句を言い、持ってきた朝食を口に入れる。
「それにしても、なんで連絡をいれなかったのよ。」
「いや、突然帰ってくる方がみんな驚くかな、なんて思ってたんだけど、まさかこんな事になるとは・・・」
包帯をさすりながら、苦笑するカイト。あからさまに彼女をおちょくっている。
「だからぁ、悪かったって言ってるでしょ!」
「冗談だよ。それより、頼みたい事があるんだ。聞いてくれないか?」
「え・・・別にいいけど、無茶は言わないでよね。」
その答えに満足したのか、軽く微笑んでからパティに何か耳打ちをする。

「なんだ、頼みたい事ってそんな事なの?」
「別にいいじゃないか、俺にとっては大事な事なんだから。それで、頼めるのか?」
「当たり前じゃない、大体、アンタが言わなくたってアタシがやってるわよ。」
そう言うと、パティは食べおわった食器を片付け、ジョートショップを出た。
その後、朝食の余韻に浸っていたカイトに、テディが不思議そうに話しかける。
「一体、何をひそひそ話してたッスか?さては・・・」
「・・・テディ、殴られたいのか?」
冷ややかな視線を浴びて、沈黙するテディ。パティがこの場にいないのが救いだ。
「大した事じゃないよ、ただ単に夜になったらみんながさくら亭に集まるようにしてくれって頼んだだけだ。もちろん、俺が来る事は内緒でな。」
「なんだ、そういう事ッスか。きっとみんな驚くッスよ〜〜。」
「ああ、そうだな。クリスなんか驚いて気絶するかもな。」
「・・・有り得るッスね。」
驚いたクリスが気絶するのを想像したテディが呟く。
カイトはそのテディの顔を見て苦笑せざるをえなかった・・・。


そして時間は過ぎ、場所は変わって、夕暮れのさくら亭。
いつもこの時間になれば仕事帰りの客が集まって騒がしいのだが、今日はさらに輪をかけて騒がしいものだった。何しろ、エンフィールドの中でも騒がしいメンバーが一堂に集まっているのだ、無理もない。
由羅は言うまでもなく、アルベルト、アレフ、ローラにトリーシャ、そしてマリア。このメンバーで宴会をして阿鼻叫喚の地獄にならない訳がない。
「しかし、何だって今日はこのメンバーをそろえたんだ、パティ。」
すでに後ろで狂乱している面々を一瞥して呟くエル。
「そういえば、皆が集まったのって久しぶりですね。」
由羅の魔の手から逃れてきたクリスが、周りを見渡しながら合いの手を入れる。
「そうだねぇ、ま、シーラはさすがにいないけどね。」
おどおどしているクリスに苦笑しながら、リサが続ける。
「それに・・・カイトさんもいませんね・・・・・・」
未成年用に用意されたハーブティーを含みながら、シェリルが誰ともなしに呟く。
「やっぱりカイトのことが気になるのかい、シェリル?」
リサがニヤニヤしてシェリルをからかう。
元々内向的な娘であるから、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「でも、僕も気になりますよ。カイトさん今何やってるんでしょうか?って。」
(本当はもうこの街にいるんだけど・・・言えないって辛いわ・・・)
「?・・・パティさん、どうしたんですか?」
「えっ!?あ、いや、何でもない何でもない!気にしないで。」
どうやらよほど変な表情をしていたらしい。
シェリルが心配そうな顔でこちらを見ている。
「ははーん、パティ。アンタも今ボウヤの事考えてたんだろう?」
「なっ!なんでアタシが!!」
「素直じゃないねぇ。せめてボウヤが帰ってきた時ぐらいは素直になりなよ。」
「・・・リサ、いい加減にしてよ・・・!!」
どうやらパティがキレたようだ。周りの空気が変わるのを感じたクリスとシェリルが2人を慌ててとめる。
こんな状態だったから、誰1人、ドアのカウベルの音に気が付かなかった。その人物が、現在話題の中心にある人物だということにも・・・。

「・・・一体、何やってんだ?」
それがカイトの第一声だった。とりあえず、近くにいるクリスに話しかける。
「おい、クリス。パティ達は一体何やってんだ?」
その声に応じ、クリスがこちらに振り返る。そのまま、クリスの顔は止まった。
「・・・・・・・・・カイトさん!!?どうしてここに!?」
仲裁の途中だからか、比較的早く我に帰ったクリスが異形のものを見るような目で見すえている。シェリルもその言葉に驚いてこちらに向き直すが、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そのまま固まって動かない。おそらくこのままだと新記録が出るだろう。
「な・・・!!お前、帰ってきたのか!?」
「ボウヤじゃないか!一体いつ帰ってきたんだい!?」
「カイト、遅いわよ!もうみんな出来上がっちゃって気付いてないじゃない!!」
順にエル、リサ、パティである。
なお、後ろで騒いでいる連中はカイトの登場にまだ気付いていない。
「悪ぃ悪ぃ。『長旅の疲れ』で寝てたんだよ。ちなみに、帰ってきたのは今朝だ。」
『長旅の疲れ』を軽く強調して返事を返し、カウンターにそのまま腰掛ける。
「パティ、なんか軽いモン頼む。寝起きであんまり食欲がない。」
はいはい、と言って厨房に駆け込んで行くパティを見送る。
最初の方こそ質問攻めがあったのだが、それも一時のものですぐに話題はからかう為のネタに変わっていった。
「にしても、あの様子じゃパティはボウヤが帰ってきてる事知ってたみたいだね・・・。」
「えぇっ!? そ、そうなんですか!?」
肩をすくめておちょくりを入れるリサに、心底驚いた様子のシェリル。当然、
「・・・なぁ、シェリル。なんでアンタが驚くんだい?」
というエルからの突っ込みが入る。もちろん、真意を分かっている分タチが悪い。
「え・・・えっと、それは、その・・・」
「俺が帰ってきた直後にちょうどパティが朝飯届けにきたんだよ。」
どもっているシェリルを尻目にカイトが何の気もなしに答えを返す。
「ふ〜ん。ま、そういう事にしといてあげるよ。」
「しといてあげるよ、ってのはどういう意味だ?リサ。」
多少怒気を込めてリサに反論する。ちなみに、それが恋愛関係でおちょくられていることのに本人は気付いていない。
「あら〜〜、カイト君じゃな〜〜い。いつ帰ってきたのよ〜〜〜?」
「よお由羅・・・ってお前、その手に持ってるものは何だ?」
いつの間にかいた由羅に多少驚きながらも振り向くと、由羅が死体を・・・いや、酔いつぶれているクリスを抱えていた。
「ん?クリスくんの事〜?だぁって〜、クリスくんってば全然楽しそうじゃないんだも〜ん。」
「で、未成年のクリスに無理矢理酒を飲ませた、と。」
「カイトくんもジャンジャン飲みなさいよ〜〜!!」
「おいおい・・・クリスの二の舞いはゴメンだぜ・・・。」
呆れたように答えるカイトだが、それで由羅を押さえ切れる訳がない。
「お、おい由羅!何すんだよ!?」
「もっちろん、飲むに決まってんじゃな〜い。」
「ちょっと待て!!俺は酒は・・・!!」
カイトの反論など聞く耳持たず引っ張って行く由羅を見届けて、リサが苦笑する。
「あれじゃあ明日は仕事になんないね。ボウヤも災難だ。」
「それにしてもあいつらはカイトが帰ってきたの分かってるのか?」
「分かってないんじゃないか?もう全員出来上がってるし。」
そんなリサとエルの会話を聞いて、シェリルが心配そうに後ろを振り向く。
そこでは酔っているマリアが魔法を唱えようとして、同じく酔っているトリーシャに手加減無しのチョップをくらっている。
この様子では誰1人カイトがいる事に疑問を持っていないのだろう。
「はい、サンドイッチでいいわね、ってアレ?カイトは?」
サンドイッチをのせたトレイを持ってパティが厨房からやってきた。
それに対してリサとエルが親指で後ろを振り向かずに指差す。
「・・・あの様子じゃ運んでも無駄そうね・・・。」
「その前に運びに行ったら捕まって無理矢理飲まされるぞ。」
「ま、尊い犠牲だったよ。」
順にパティ、エル、リサ。シェリルはもはや苦笑するしかない、といった表情だ。
「まぁ、涙涙のご対面、ってのも趣味じゃないしね。」
「そうかもしれませんけど、こういうのもどうかと思います・・・。」
「半分ぐらいしかカイトが帰ってきてる事に気付いてないしね・・・。」
なお、気付いていないのはアルベルト、アレフ、ピート、ローラ、マリアとトリーシャの6名。
ちなみに全員酔っていて気付いていないだけだ。(未成年含む)
「また明日から騒がしくなりそうね・・・店のもん壊さなきゃいいけど・・・。」
「心配してる割には嬉しそうじゃないか、パティ。」
「リサ〜!!いい加減にしないと怒るわよ!!」
こちらでも騒ぎが大きくなりそうだ、とシェリルは思わざるをえなかった・・・。


「・・・なんか、『兵どもが夢の跡』って感じね・・・・」
さくら亭と主役であるはずの男が無残な状況に陥っているのを見て、思わず呟く。
あれから、アレフらがカイトが帰ってきた事を理解したため、カイトはトリーシャに絡まれ、マリアが魔法を唱えようとしたのを止め、由羅に一升瓶を一気飲みさせられ、とどめに「決着を付けてやる!!」と言い出して暴れたアルベルトとともにパティに殴り倒されたのだ。
「え〜っと、後残ってるのは・・・リサにアレフにカイトね。」
クリスとシェリルはエルと共に門限で、マリアは執事に、アルベルトとトリーシャはリカルドに、ピートは団長にそれぞれ連れられ、由羅は平然とメロディを連れ帰った。ちなみに、残っている連中は全員酔いつぶれている。
「まったく、これじゃ後片付け徹夜になりそうだわ・・・。」
口ではそう言うが、表情は笑っている。
意地を張っても、やはり本心ではカイトの帰りが嬉しいのは否めない。
「なんなら、手伝うか?」
「か、カイト!?アンタ起きてたの!?」
見ると、先程まで突っ伏していたはずのカイトが顔だけを上げてこちらを見ている。
「お前の一撃で酔いはもうさめてるからな。」
「アンタ、性格悪くなったわね・・・。」
「別に暴れてもないのに殴ってくる誰かさんよりはマシだよ。」
いやみたっぷりな言葉にむっときたが、反論するだけ無駄なのを悟って黙殺する。
「・・・・・・パティ。」
たっぷりと間を置いて、先程とは違う、優しい声でカイトがパティを呼ぶ。
「何よ? 忙しいからできれば後にして欲しいんだけど?」
「・・・ただいま。」
「はぁ?」
何を言い出すかと思えば、と思い振り返ると、カイトは再び眠りこけていた。
どうやら、殴ったぐらいでは酔いはさめなかったようだ。
「一体何を言いたかったんだか・・・」
「誰よりもまずアンタに言いたかったんだろ、そのセリフ。」
再び振り返ると今度はリサが起きていた。こちらは完全に酔いが覚めている。
「アレ、気付かなかったのかい? ボウヤ、さくら亭に来てから誰にも『ただいま』って言ってないんだよ。あの様子じゃアリサさんにも言ってないね。」
「えっ?」
「ま、ボウヤだからね。言うタイミングでも計ってたんじゃないの?」
あまりにも些細な事で真剣に悩んでいるカイトを想像して、リサは苦笑する。
「ま、私には関係ないけどね。もう寝させてもらうよ。おやすみ。」
そう言って2階への階段を上る。パティは全く反応も返事もしていない。
(とりあえず、これから騒がしくなる事だけは確かだね・・・)
結局、食器の片付けが終わったのは、開店時間ギリギリの事だった―――
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