中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲 第二話
わ〜の


   誤認

 「すまんな、ゆっくり話が出来なくて」
「お忙しいところ時間を割いていただき、ありがとうございます」
フィラネスとノイマンは、町の北東部にある家の前にいた。小さな二階建てで、しっかりした造りの家である。住民登録などをすませた後、役所で管理していた空き家を買い取ったのだ。これもノイマンがいたからこそ、できたことだろう。しかし彼は、隊長であるからあまり事務所を留守にできない。
「非番の日には会いに来る」
「お待ちしています」
フィラネスは微笑み、手を軽くあげて去っていく老人の姿を、闇と光の色の瞳で眺めていたが、しばらくするとカギを開けて家の中に入った。中は以外ときれいだった。なかなか手入れが行き届いている。雰囲気もいい。当たり前だが何もない。一通り家の中を見て回った後、
「さて、荷を解くか」
腰に下げていた袋を開けた。


 その日さくら亭は、店の一角が煤で真っ黒になっていた。そこをマリアが、せっせと掃除をしている。カウンターには、アレフとパティがいた。
「う〜、なんでマリアがこんなこ「マリア」
パティの殺気を放ちながらの優しい声に、マリアの体がびくりと震える。
「誰のせいだと思ってんの?」
マリアはそれ以上何も言えず、掃除を再開した。
「ったく、魔法使うなら外でやってよね」
「マリアも良く飽きないよなー」
ブラックコーヒーを傾けながら、アレフがノンビリとした口調で言う。
カランカラン
「いらっしゃいませ!って、あら、トリーシャ」
どんなことがあっても、営業の時には不機嫌な声を出さないところが、パティのすごいところだ。だが、顔には不機嫌と書かれていたらしく、パティの顔を見て、トリーシャは少し首を傾げ、
「どうしたの?パティ、怖い顔して」
聞いたが、辺りを見回して、すぐに理解した。
「ああ、またか」
「ぶぅ〜☆またかってどういうことよ!」
「魔法失敗したんでしょう?」
トリーシャの指摘に、マリアが詰まる。
「今日はたまたま調子が悪かったのよ!」
「マリア、口より手を動かしなさい」
「ぶぅ〜☆」
パティにぴしゃりと言われ、再び掃除を再開する。
「ねえねえ、ボクさっきそこですごいこと聞いちゃったんだ!」
騒ぎが一段落して、トリーシャがしゃべり出した。
「すごいこと?」
「あのノイマンさんに、お孫さんがいるかも知れないんだって!」
「ちょっと、それホントなの?」
「聞き間違いじゃないのかい?」
トリーシャはみんなの懐疑的な視線に尚更うれしそうにする。
「ホントだよ、さっき自警団の人に聞いたんだから」
「へぇ、あのノイマンじいさんにか・・・それでその子って女?男?」
アレフが本能に従って聞く。トリーシャは苦笑しながら言った。
「女の子だって」
「っしゃあ!それで!?歳は!?どんな子!?誕生日は!?スリーサイズは・・・」
がっつん!!
「あれふ!その子ナンパするんじゃないわよ!?」
アレフの声をパティが、お盆の角攻撃と怒鳴り声で遮った。
「んで?結局どんな子なの?」
いつの間にか会話に参加していたマリアが聞いた。ちなみにアレフは、余程痛かったらしく、頭を抱えたままカウンターに突っ伏している。心配するものはここには居ない。
「ボク達と同じくらいの歳で、うす茶色の髪で、目の色がすごいんだよ!?」
「へぇ、何色だい?」
「わあ!!」
いつの間にか復活していたアレフが聞き、更に迫る。
「それで?それで?」
「う、うん、右目が薄黄色で、左目が黒い、かなりきれいな顔してたって」
「黄色と黒かぁ」
「きれ〜☆うらやまし〜☆」
そんな反応の女性陣に対し、アレフはさりげなく聞いた。
「トリーシャちゃん、その子どこ行ったか分かる?」
「エッ?ここに住むとか行ってたらしいから、役所じゃないかな?」
それを聞いたとたん、アレフはすごい勢いでさくら亭を飛び出していった。
「ちょっと、アレフ!」
「あ〜あ、行っちゃったね☆」
しばらくの沈黙。
「じゃ、ボクはもっとこの噂広げないと行けないから」
「マリアも行く〜☆」
トリーシャに便乗して逃げようとしたマリアの肩を、誰かが、がしぃ!と掴んだ。引きつった笑顔を浮かべながら振り向いた先にいたのは、鬼の微笑みを浮かべたパティだった。


 「お帰りなさいませ、ノイマン隊長、・・・お孫さんはどうしたのです?」
「あいつは私の孫じゃない、知り合いの孫だ」
「知り合いの孫?」
「この町に来た詳しい事情は知らんがな」
この手の会話は、事務所に帰ってきて九回目だった。誰かの流した、根拠の薄い噂話のせいだ。さすがの彼でもうんざりする。
「かわいい子ですね」
嬉しそうに笑う団員の顔を見て、ノイマンは意地悪そうに笑い、絶望の事実を知らせる。
「あいつは男だぞ」
この台詞は五回目だ。団員は何を言われたのか分からない、といった様子だったが、しばらくして引きつりながら聞・・・こうとしたときにはすでにノイマンはいなかった。

 「おやノイマン隊長、お孫さんはどうしましたか?」
団長が記念すべき十人目だった。


 「これでよしっと」
荷を解き終えたフィラネスは、いつも着ていた黒ずくめではなく、旅の途中で手に入れた、ラフなズボン、シャツ、靴に着替えていた。何もなかったはずの家の中には、タンスやテーブルといった家具が、何故か完璧に揃っている。だが、日用雑貨など、必要なものはまだある。彼は財布に適当にお金を放り込んで、残りを金庫へ放り込んだ。財布をポケットにねじ込んで、役所でもらった地図を確認。目的地は、夜鳴鳥雑貨店と、洋品店ローレライである。地図をベルトに挟み、家にカギをかけ、先に夜鳴鳥雑貨店へ出発。
「もうすぐ夕方ですね・・・」
空はまだ明るいが、景色がオレンジ色に染まり出すのは時間の問題だ。
(今日で両方は無理かも知れませんね・・・)
彼は歩きながらひとりごちた。道中彼一人でもかなり人目を惹いた。十人中十人が振り返る。彼は例によって気にせずに雑貨店へ向かった。

 「き、君、持とうか?」
フィラネスが買い物をしていると、声をかけてきたやつがいた。アレフだ。ついに目的の彼女(笑)を見つけたのだ。声をかけない手はない。
「けっこうです、平気ですから」
フィラネスは平然と行ったが、アレフはにっこり笑っていった。
「平気って、無理はよくないよ。・・・それに、君のその美しい腕に、そんな大荷物を持たせていたくないんだ」
アレフはナンパな口調でこう言ったが、半分は本気で心配していた。なにせこれから必要な日用雑貨全てである。かなり重そうだ。フィラネスはアレフをジト目で見つめた。
「・・・もしかして、私をナンパしているんですか?」
「そう、君みたいなかわいい娘を見て放っておける訳がないだろう?」
「・・・私は男ですよ」
アレフも一瞬何を言われたのか分からなかったが、笑顔を作り直した。もっともそれが多いに引きつっていたが。
「嘘・・・」
「本当です。胸、触ってみます?」
「・・・」
その発言にアレフはがっくりと膝をついた。認めたのだ、男と。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「ああ・・・」
本当は全然大丈夫じゃない。だがアレフは気丈にも立ち上がり、どこか吹っ切れた顔で笑った。
「悪いな、勘違いして。おまえんちまでそれ運ぶの手伝ってやるよ」
一気にくだけた調子になっていった。
「いいですよ、本当にけっこう力はあるんです。」
一般に比べると、怪力の二文字では済まされないぐらいなのだが・・・。
「そう言う訳にはいかんだろ、お前、周りから見てると危なっかしいぞ」
「そうですか?じゃあお願いします。もう買い物は終わりましたから、これをレジまで運んでください」
そう言いながらフィラネスはひとつの籠を渡した。二人でレジまで運び、レジを済ませながら、彼は思いだしたようにいった。
「自己紹介がまだでしたね、私はフィラネス・ヴァルシェンクと申します。フィルと呼んでください」
「俺はアレフ・コールソンだ。アレフでいい。よろしくな」
「おい、会計済んだぞ」
ふたり自己紹介し、握手したところで、無愛想な店主が言った。
「あ、すいません。・・・いくらですか?」
「五千五百ゴールドだ」
「ごせんごひゃく!?」
「・・・・・・」
アレフは絶叫し、フィルは平然と払った。平然と財布から大金を出す彼にも驚く。
「お前、何買ったんだ!?」
「日用雑貨です。何個かマジックアイテムも混ざっていたからでしょうね」
二つに分けられたうちのひとつの袋をアレフに押しつけながら言いった。
「そんなもんか?」
「そんなものです」
そんな会話をしながら外に出ると、当たりは夕焼けに染まっていた。
「こっちです」
アレフはそれに黙って従った。
「なあ、きいていいか?」
「何ですか?アレフさん」
「お前、なんであんな大金持ってたんだ?ノイマンさんからもらったのか?」
その問いにフィルは僅かに険しい顔になる。薄暗いため、アレフはその表情の変化に気がつかない。
「フィルってノイマンさんの孫じゃないのか?」
「な、何故そうなるんですか?!」
思わず声を荒げるフィル。突然声を荒げたフィルに、アレフは目を丸くした。
「町中の噂だぜ、『ノイマンさんに孫がいる、薄茶色の髪で黒と黄色の目をした女の子だ』ってな。お前、女に間違えられてるぜ、黒と黄色の目をしたやつなんてそういないだろ」
「私はそんなに男に見えませんか?」
「見えない」
きっぱり即答されフィルは頭を抱えた。このまましゃがみ込んでしまいたいが、踏みとどまり、アレフを恨めしげに睨みながら言った。
「私のお祖父さんがノイマンさんと知り合いだったんです!このお金はこの町に来るまでに自分で稼いだんです!もう一度言いますけど私は男です!!」
「ははは・・・悪かったって、でもそう言う噂が流れてるのはホントだぜ」
「そうですか・・・まぁ、ゆっくりと払拭していきますよ」
「・・・以外とノンキだな」
「そうですか?」
「そうだ」
そんな話をしているうちに、フィルの家に着いた。アレフはきょろきょろすると、
「ここがお前の家か・・・」
「ええ、荷物運んでいただいて有り難うございます」
「いいってことよ、・・・っとそうだ、お前、明日お前暇か?暇だったら昼過ぎ頃さくら亭に来いよ、みんなに紹介するからさ」
「ええ、良いですよ」
「待ってるぜ」
そう言いながらアレフは帰っていった。フィルの家が見えなくなると、一人になったアレフは呟いた。
「まさか女だったなんて・・・」
実はまだ引きずってたらしい。

 「さて・・・出てきたらどうなんです?」
「気付いてたのかい、嬢ちゃん」
物陰から複数の男達が現れる。
「お嬢ちゃんに恨みなんてねぇんだけどよ・・・あのノイマンのくそじじいの孫らしいからな、死んでもら・・・」
ひゅう・・・・
突如不自然な風が夜の町に吹いた。その禍々しさに男達も気がつき、一所に集まる。
「な、何だ!?」
一人の男が不安そうな声を上げる。風はやがて男達にまとわりつき・・・
「<ウインド・サークル>」
フィルが呟く・・・
ごぉん!
風が爆発した・・・
悲鳴を上げて吹っ飛ぶ男達。フィルは素早く家の中にはいる。外が騒がしい。さっきの音で近所の人が出てきたのだろう。近くに自警団団員寮がある。
「すぐに自警団の方達が来るでしょう・・・っともう来られたようですね」
(何があった!?)
(き、急に爆発がして・・・)
(ん・・・?こいつら・・・、おい、こいつら事務所まで運ぶぞ!)
そんな声が聞こえてくる。フィルはさっとカーテンを引くと、買ってきたものを広げ、その中からボディーシャンプーなどを取り出した。
「さて、お風呂に入りますか・・・それより、私の噂は何時になったら消えるのでしょう・・・?」
彼の質問に答えられる者は、どこにもいない・・・。


  あとがき

ゴメンナサイ×∞・・・さて、過去のことは忘れて・・・(笑)。ちなみにこの話は悠久1が始まる約四年前です。フィラネスは2nd主人公。自分の中では彼の方が古株なんです(笑)。四年も前だからアレフやパティ達も、十代前半です。こんな設定でよろしく頼みます。
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