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死神の奏でる交響曲 第三話
わ〜の



  友達

 フィルが目を覚ましたのは、昼前と言うところだった。昨日の夜は腕輪を作っていたのだ。自分の魔力を普通の人間並みまで押さえ込む、マジックアイテム。昨日雑貨店で買ってきた、簡素な木製の腕輪。それにわざわざナイフで呪文を刻んでいたのだ。ついつい凝って浮き彫りにしてしまった。我ながらよくできた、フィルはそう思った。そんな訳で作り終わったのは殆ど明け方と言っていい時間だったのだ。まだ寝足りないが、ふらふらと起きあがる。アレフと昼過ぎ頃に、さくら亭で待ち合わせをしているので、何時までも寝ている訳に行かない。昨日と同じラフな服装に着替え、台所へ行き水を一杯飲む。
(お昼過ぎまでまだ時間がありますね・・・)
フィルは例によって適当に財布に金を入れ、ポケットにねじ込み、家の外に出た。起きたばかりの頭に日差しが強く照りつける。
「・・・」
しばらくボンヤリとしていたが、大量の水の魔力を感じる方へ歩き出す。今は地図を持っていないが、確かローズレイクという大きな湖があったはずだ。
(そこでノンビリしよう)
フィルはふらふらと湖の方へ歩いていった。


 「大きい・・・」
フィルの眠気が覚めていく。こんなに大きい湖を見たことがなかった。しばらく湖面に見入っていたが、眠気が覚めて、改めて周りを見渡す。湖のほとりには、何組か家族連れが昼ご飯を並べていた。落ち着きなく走り回る男の子、それを叱りつける女の子、何があったのか大笑いする両親・・・
「少し、うらやましいですね・・・」
呟き、腰を下ろし、湖を再び眺める。光でよく見えないが、うっすらと島が見える。
(マリオン島・・・)
確か遺跡がごろごろしているという島だ。だが、それを調べようとしても、いろいろな要因が絡み、調査が進んでいないのが現状だ。
「きれいな湖じゃろう?」
「ええ、こんなに大きくてきれいな湖は初めて見ました」
フィルは急に声をかけられたにも関わらず、落ち着いて相手を見た。声をかけてきたのは老人だった。歳は九十、いや、百を超えているかも知れない。むしろ驚いたのは老人だった。フィルの光と闇に輝く瞳を見て・・・。
「・・・死神・・・?」
呟いた老人の言葉に、フィルも少し驚いた。
「知っているのですか?」
「自分で言うのも何だが、わしは長生きでね・・・何故、死神がここに?」
「ここに住むからです」
その言葉に、老人の顔に困惑が浮かぶ。
「個人的な意見を言えば、今すぐにでも出ていってもらいたいのだが・・・」
「神の怒りが恐ろしいですか?」
「当たり前じゃ、お前さんのように巨大な力など持っておらん」
「心配いりませんよ・・・」
フィルは微笑んだ。
「彼らは私を殺そうとなどしません」
「何故言い切れる?」
老人が問う。
「もう、興味がないからです。それに私は死神ではありません。死神の力を持たされた・・・『人間』です」
二人の視線が絡む。長い、長い沈黙の後、老人は長い、長いため息をついた。
「嘘をついているようにはみえんな、そう言うことなら問題ないだろう」
「信用して良いのですか?」
「人を見る目はあるつもりじゃ」
悪戯っぽく問うフィルに苦笑する老人。
「そういえ名前もしらなんだな、儂はカッセル・ジークフリードじゃ。ほれ、あそこの小屋に住んでおる」
目をやると確かに小屋がある。フィルは微笑み、
「私はフィラネス・ヴァルシェンクです。フィルでいいです」
“右手”を差し出す。カッセルは少し驚いたが、同じように微笑み、握り返した。というところで・・・
「・・・あ・・・」
「どうした?」
「済みませんカッセルさん、私、お友達と待ち合わせをしているんです。すぐに行かないと・・・」
「お友達?」
「お友達です」
目を丸くして問うカッセルにフィルはうなずく。
「この町はとてもいいところじゃ、お主もすぐに溶け込めるだろう、後暇なときは来い、お茶ぐらいは出せる」
「有り難うございます、それでは」
カッセルは早足で去っていくフィルを眺め、呟いた。
「ま、大丈夫じゃろ」


 フィルはさくら亭の前に到着した。中から声が聞こえる。
(ねえアレフ、その子ホントに来るの?)
(アレフさん、フラれたんじゃない?)
(そんなことはない!もうすぐ来る!)
(キャハハ☆その台詞もう三回目☆)
「・・・遅れたようですね」
フィルは苦笑して、ドアを開ける。

カラン、カラン・・・

「いらっしゃい・・・いらっしゃいませ!」
パティは入ってきたフィルに一瞬見とれ、慌てて言い直す。フィルは店内を見回し、アレフを見つけて近づいていった。
「申し訳ありません、遅れてしまいまして」
「いいって、気にすんなよ・・・それと、お前の噂のことは何もいってないから」
謝罪するフィルは、アレフの台詞を聞いてジト目になった。
「説明しておいてくれても良かったのではないですか・・・」
「こいつらの驚く顔が見たかったんだ♪」
「見たかったんだ♪って・・・自分で説明しろと言うのですか?」
「そっ♪」
ジト目で不機嫌そうなフィルと、♪が付くほど楽しそうなアレフ。
「ほら、お前に見とれてるみんなに自己紹介しろ」
そう、ここに集まったアレフの友達、パティ、シェリル、クリス、トリーシャ、マリアは彼に完全に見とれていたのだ。ため息をついて説明開始。


 「あんた、本当に男なの?」
「とても信じられません」
「男らしくな〜い☆」
「こんなに可愛い男の子っているもんなんだ・・・」
「道理で怖くないと思った・・・」
フィルの説明の後、みんな好き勝手に言った。ちなみにアレフは、彼が男だと知ったときのみんなの反応を見て大笑いしたため、パティに天誅された。またカウンターに突っ伏している。
「好き勝手に言わないでください。私だって好きで女性らしい顔をしている訳ではないのですから・・・」
「だって一人称だって『私』なんだもん」
「顔だって女の子にしか見えないし」
パティとトリーシャの言葉にフィルは頭を抱える。そんな反応を見てパティは笑った。
「それよりフィル、何か注文しなさいよ」
「では紅茶をお願いします」
「オッケー」
パティが厨房に引っ込んでいくと、マリアが口を開いた。
「フィルってさ、目、綺麗だよね」
「そうですか?」
「そうですよ、そんな綺麗な瞳見たことありません」
瞳の話題に入ってから、フィルの表情が変化した。もっとも周りが感じ取れないほどの変化ではあったが。
「なんでそんな瞳の色してるの?遺伝か何か?」
トリーシャが聞く。
「医者が言うには突然変異だそうです」
「ホントに?」
「本当です」
フィルの顔を覗き込みながら聞くトリーシャに、彼は苦笑しながら答えた。嘘はついていない。彼の瞳を見たとき、もちろん彼の両親も驚き、医者に見せたのだ。そのときの診断は、『突然変異』だったのだ。
「国はどこ?」
「秘密」
今度の質問には、彼は答えなかった。
「ぶ〜☆なんでよ〜☆」
「何となくです」
「けち〜☆」
「マ、マリアちゃんそんなに無理に聞かなくても・・・」
「ぶ〜☆」
そんな会話をしているとパティが戻ってきた。
「はい、紅茶お待たせ」
「有り難うございます・・・ところでアレフさん、起きませんね・・・」
フィルが話題を逸らす。それにトリーシャとパティが乗ってきた。
「大丈夫だよ、アレフさんだから」
「そーそー、アレフだもんねぇ」
「・・・」
しかしフィルはアレフの頭を軽く叩いてみた。その瞬間顔を上げ、
「・・・花畑が見えた・・・」
「あ、起きた」
「起きた、ってパティ、なんか最近かなり強くやってないか?」
「あはは、気のせいよ」
「・・・ブツブツ・・・」
何やらブツブツ言うアレフ。それを無視してトリーシャが聞いた。
「ねえ、フィルさん、その服どこで買ったの?」
「これですか?ここに来るまでに適当に見繕った物です」
「ジミね〜☆」
「ラフって言ってください」
遠慮のないマリアの感想に、さすがに抗議するフィル。
「旅をするときは、あまりかさばる物は持ちたくなかったんです」
「でもジミ〜☆」
「・・・」
少しむくれて紅茶を飲みはじめる彼に、トリーシャがフォローを入れた。
「まあまあフィルさん、てことは服ってあんまり持ってないんだよね」
「ええ、これと同じくラフな物が一着あるだけです」
ラフ、の部分を強調して言う。
「じゃあ、一緒に選んであげるよ、アレフさん、いこ!」
「おお、まかせとけ!」
やっと相手にしてもらえて、気合いの入るアレフ。トリーシャがフィルの腕を掴むとさくら亭のドアへと引っ張っていった。
「え、ちょっと・・」
「あ、待ってくれよ〜」
慌てて後を追うアレフ。
「ちょっとアレフく〜ん」
アレフの後を追うクリス。

カラン、カラン・・・

「あ〜!お勘定!」
今さらパティが気づく。



あとがき

全然話が進んでませんねぇ・・・(笑)。次辺りから動き出すと思います。




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