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死神の奏でる幻想曲 第四話
わ〜の


  ポイズン@
 目が覚めた。ベッドから起きあがり辺りを見回す。カーテンを引いていない窓から見えるのは、漆黒の夜空。月も、星もない。隣で眠っている両親の寝息が聞こえるだけである。釈然としない何かを感じつつ、再び横に・・・なることはできなかった。何かが鼻に押しつけられた。それが何か理解できぬまま・・・意識が遠のいていった。


この日、自警団事務所は、朝っぱらから慌ただしかった。朝起きたら子供がいない、どこをどう探してもいない。という朝早くから届けられた十数件の捜索願である。
「・・・という状況から、犯罪集団『ポイズン』による犯行だと確定します」
今事務所の会議室では団長、各部隊長が隊員の報告を聞いていた。
「全く、第四部隊は何をしていたのやら」
理知的で鋭い印象を受ける老人、第二部隊隊長バイロンが皮肉っぽく言った。それに対し、決まり悪そうに頭を掻くこちらは、五十代前半の、無精ひげをぼうぼうに伸ばした男、第四部隊隊長オーウェル。
「そう言うなよバイロン、俺だって少し反省してんだから」
「少し?」
「いや、もの凄く」
「二人とも、今は責任云々を言い合っている場合ではありません」
「ほっほっほ、そうですよ二人とも落ち着いて」
第一部隊隊長リカルド・フォスターと、いつも飄々とした団長に窘められて、口を閉じる二人。それを期に第三部隊隊長ノイマンが口を開く。
「まあ何にせよ、『ポイズン』とか言う輩共を甘くみられないことは事実だ。この辺りで一番警備体制の整っているバシルムまで出し抜かれたのだからな」
「そーそー、その上この俺まで出し抜いたんだからな、かなりできる連中だぜ」
「わかったわかった、団長、この後の方針は?」
「・・・そんな冷たくしなくたっていいぢゃねえか・・・」
軽く流され落ち込むオーウェル。
「まずシーヴズギルドと魔術師ギルドに協力を要請しましょう、そしてそうですね・・・エンフィールド学園に協力を要請し、そこに子供達を避難させましょう、第一部隊は学園の警備、第二に部隊は犯人グループの拠点の発見、発見次第精鋭部隊で彼らを捕縛します、もちろん捕らわれた子供達の安全が優先です、第三部隊はエンフィールド住民の誘導、第四部隊は市街警備とします。異議や質問は?」
異議はないようだった。


 『ポイズン』とは北方の小国を中心に活動する、特に固定された拠点を持たない犯罪グループである。組織と言うにはかなり小さく、今までは小さな犯罪にしか手を出さなかったのだが・・・最近は、かなり派手に子供をさらっていくようになった。具体的に言うとその町の治安組織に『犯行声明』と取れる文章を送りつけたり、それを送りつけた後にも昼夜問わず犯行に及び、一都市で数十という数の子供をさらっていくのである。小さなグループがこれだけ急に成長を遂げたのには理由があるのだろう。可能性は二つ、一つは優秀な人材が集まった、ひとつは強力なバックが付いた。これだけの短期間に、これだけ大きな犯罪を可能にするほどの人材を集めるのは不可能だろう。考えられるのは後者。追いつめた犯人グループに、マジックアイテムらしき物を使われて逃げられたという話をいくつも聞いている。マジックアイテムとは値段が高いというのが相場である、それにこれだけたくさんの子供を売り払うとなると、高価すぎる美術品と同様足が付きやすくなる。売り払うにはそれなりのツテがないといけない。この事態を中央政府も重く受け止め、やっと重い腰を上げた。とは言ってもエンフィールドは『ポイズン』の活動範囲に入っていなかったため、中央からの援助や指示、警戒を受けなかったのである。そのため政府の影響の少ない、このエンフィールドに活動範囲を変えたらしい。


「へぇ・・・ずいぶん詳しいのね」
「短い間でしたけど旅をしていましたからね、必然的にこのような情報は入ってきましたから」
フィルの説明を聞いた後、感心した口調で言うパティに、彼はくすぐったそうに笑った。
自警団の動きは早かった。エンフィールド学園の一室に、いつものメンツが集まっていた。子供を決まった人数ずつ教室に詰めていく自警団、この様子だと昼前には避難が完了しそうである。
「でも・・・大丈夫でしょうか?」
「もしも捕まっちゃったら・・・!」
「おい、ヤな事言うなよ二人とも」
暗い想像に捕らわれるクリスとシェリルに、アレフは情けないことを言う。そこにマリアが口を挟が、
「ま、平気よ、もしも犯人が来たらマリアの魔法でぇ・・・」
『それはやめろ』
「ぶ〜☆」
語尾に多少の違いがあれど、全員に口を揃えて拒否される。そんなみんなを見渡しながらフィルは微笑み、
「まあ、何とかなるでしょう」
ずいぶん達観していた。


 「いいかぁ、テメェら!!一組三人で移動しろ!もしも怪しいやつを見つけても、持ち場に一人は必ず残れ!犯罪者共の手に乗るなぁ!一応政府の奴らを出し抜いた奴らだ!分かったら持ち場へ行けぇ!!」
『はっ!!』
オーウェルの決して上品とは言えない口調の指示に隊員は、声を揃えて敬礼し持ち場に着いた。意外とこの性格を慕っている者も多いのである。ちなみに三人組の中で一人は魔術師ギルドの者である。相手が魔法がらみの物を使ったときに、対応するためである。隊員がそれぞれ散っていった後、オーウェルは鋭く呟いた。
「二度は出し抜かれねぇ・・・見てろよ・・・!」


 一方こちらは捜査を任された第二部隊被害にあった家の現場検証が行われていた。そこではバイロンがあれこれと指示を出していた。犯人は消音の魔法を使い家屋に侵入、子供を麻酔で眠らせ、さらう。巡回中の自警団に見つかった場合、閃光の魔法などを使い逃走。そのパターンが殆どである。オーウェルも同じ手口にやられた。ギルドの者によると、これら全ての魔法はマジックアイテムによる物だという。だが、それが分かったところでどうしようもない。彼らのベースキャンプを見つける手がかりにはならない。仕方なくバイロンは現場検証による手がかりの入手をあきらめ、誕生の森、雷鳴山等のベースキャンプがありそうな場所の捜索、現地の猟師達への聞き込みに切り替えた。バイロンはチーフ達に指示を出しながら心の中で呟いた。
(このまま返す訳にはいかん、我々をなめるな・・・)


そんなこんなで時間が過ぎていった。市街地では、侵入してきた『ポイズン』との争いがたまにあったが、第四部隊の努力のお陰でここまでは来ないようだ。まあ、オーウェルは『捕まえなきゃ意味ねえ!』とイラついていた。そしてここにいる『ポイズン』の首領もイラついていた。政府の援助も受けていない、田舎町その一の、自警団無勢にここまで邪魔されるとは思ってもいなかったのだ。本当はこんな場合撤退するか、夜襲をかけるかするのが普通なのだ。元々昼間から正面から行く方がおかしいのだが、強力なスポンサーが付き、マジックアイテムで固めただけで自分たちに敵うものは居ないと思いこむ御仁にはこの常識は通じない。もしかしたら、犯罪者の意地かも知れない。
「こうなりゃ意地でも・・・、で無いと俺たちの信用に関わる・・・」
今までの行動が信頼以前の問題であることに気づかずに、そう呟いた。



あとがき

 緊急報告です。前回した宣言『次辺りから本筋に入る』は延期になりました(笑)。ご了承ください。
 


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