中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲
わ〜の


ポイズンA

その日は、満月だった。

だが、厚い雲に阻まれて、月光はほんの一筋すら地上のモノに降り注いではいなかった。

風が、吹いた。

それに紛れた、鉄錆に似た香り。

その汚れた風に、雲が散った。

露わにされた月は、紅かった。

照らし出されたヒトだったモノ達の中に、ひとつ、命あるモノが居た。

光と闇の瞳を持つソレを、見た者はもうこの世には居なかった。

もう屍となった者達は、それをこう呼んだ。


  死神


と・・・




エンフィールド学園の雰囲気は重かった。当然である。
いつ襲撃が起こるかというこの状況で明るい雰囲気になれるはずがない。
そんな訳で、それぞれの部屋では、泣きわめく年少者とそれをあやす年長者、という構図ができあがっているのである。
フィル達の押し込まれた部屋も例外にあらず。


「あ〜、早くこの状況何とかなんないのかしら!?」
「パティ、大声出すなよ」
アレフの言葉にパティは口をつぐむ。フィルを筆頭に十人ほどの年長者で、同じくらいの人数の年少者を寝付かせたところなのだ。
全員慌てて辺りを見回が、どうやら泣き疲れた事もあってかなり深い眠りについているらしく、起きる気配もない。
「皆さんよく眠っていますね〜」
「何であんたはそんなに元気なのよ・・・」
「いえいえ、なかなか疲れていますよ」
パティの問いに疲労の欠片も見せないでフィルはそう答えたが、周りからはジト目が返ってくるだけだった。
ちなみにクリス達学園組は、あやし疲れて眠ってしまっている。
「しっかしお前、結構体力あるんだな」
壁にもたれかかりながらのアレフの言葉に、フィルは苦笑しただけだった。現に一番働いた彼が平然としている、という異様な風景が広がっている。
そこに一人の老人が姿を現した。部屋の中で見張りをしていた自警団員が敬礼をする。
「ノイマンさん?どうしたのですか?」
一番にその存在に気がついたフィルが聞いた。
「フィル、すまんが少しついてきてくれ」
「・・・?かまいませんが・・・」
「ノイマンじいさん、こいつに何か用なのか?」
「ア、アレフさん・・・」
アレフの口の利き方に不満を感じて声を上げたが、それ以上は言わなかった。このアレフという男は女性以外に礼儀を正す男ではない。言っても無駄である。
「なんだ?フィル」
「・・・何でもないです・・・」
「?」
そんな彼の態度へアレフは不審がり、更に追求しようとしたが、ノイマンがそれを遮ってしまった。
「向こうで話す、なに、長くはならん」
「分かりました」


 「それで、話とは?」
所変わって学園の一室、そこにはフィルとノイマンの二人しか姿がない。ノイマンは言いにくそうに黙していたが、意を決したように口を開いた。
「率直に言おう、フィル、今回の件で囮になってくれ」
「・・・この誘拐騒ぎの事ですか」
「うむ・・・」
確認の色の濃い問いかけにノイマンが頷いた。そして更に語る。
「知っているとは思うが今回の件の相手はかなりのマジックアイテムを所有し、巧みに扱い我々の捜査を誤魔 化している。長期戦に持ち込めば何とかなるが、捕らえられた子供達の事を考えるとそんな悠長な事は言っ ていて居られん」
「それで囮捜査ですか」
「うむ、本来なら我々で何とかするべきなのだが、囮に使える年齢の者は、見習い団員にしか居ない、見習に そんな危険で重要な事を任せる訳にはいかんのだ」
その提案ににフィルは正直驚いていた。もちろん自分はそれなりに信頼されている、という自信はあった。だが、あくまで『それなり』であってここまで重大な事を任せられるほどの信頼だとは思っても見なかったのだ。
そんな彼の考えを読みとったようにノイマンは笑った。
「魔法の使えるお前なら、いざというときに武器が無くとも何とかなるだろう?」
「ですが・・・いえ、分かりました、お引き受けいたしましょう」
「すまない・・・そうだ、この件が片づいたら正式に自警団に入団しないかね?もちろん最初は見習いという形  になるが」
「自警団へですか?」
目を丸くする、思ってもいない申し出だったからだ。暫し黙していたが彼はこう答えた。
「この件が終わったら・・・」
「うむ」
ノイマンにはその答えで充分だった。
「それで、具体的にはどういたしますか?」
その問いに、ノイマンは歳に似合わない悪戯っぽい笑みを浮かべた。



 フィルは夜の道を独り、歩いていた。
こうするだけでいい、後の根回しは我々がやっておこう、奴らを捕らえたら直ぐにつれてきてくれ・・・
ノイマンはこう言っていた。詳細は聞かされていないが、動くには充分の情報である。
『当たり』が来るまでの間、ボンヤリと考え事をする。
(しかし・・・ノイマンさんも急な提案を・・・)
急な提案とは、自警団への勧誘の事である。
もっとも、この町でこのまま仕事もせずに生活するつもりなど毛頭無かったので、この提案は願ったり叶ったりだったのだが・・・。
(しかし、民間の子供にこんな事をやらせて・・・私は構いませんが、事後処理が大変なのでは?)
確かに自警団が民間の子供を囮にするなど非常識、以ての外だが、ノイマンの事である、うまく収拾するだろう。
(何にせよ期待に添った働きをしますか・・・)
彼は力を封印していて、今は普通の人間でいう『かなり強い』程度の能力しかない。それを言わずに引き受けたのは、封印といっても知識や経験までは無くならない、つまりは魔法、頭脳プレー等で翻弄する事ができるからだ。
そして何より・・・
(ノイマンさんの頼みを断る気なんてありませんでしたし・・・)
実はこれが一番の理由であったりする。
 
 しばらく取り留めのない思考に、当たりを警戒しつつ潜っていると二人の男が目と前に立ちはだかった。月すら出ていない夜である、男達は影のようだ。
「よう、お嬢ちゃん、夜道の一人歩きは危ないぜぇ」
「お兄さん達がパパとママの所へ連れてってやるよ」
ありきたりなセリフと共に近づいてくる、一方フィルは怯えたように後ずさる。
その実、自分に有利な間合いをとり、更に当たりの気配を探るためだった。こういう時に必ずいる『見届け役』を逃がさないためだ。彼らを捕まえてもあちらに情報が行ってしまったら囮作戦は無意味と化す。
それにまだ当たりとは断定できない、ただのチンピラという可能性もあるからだ。だが、ただのチンピラに見届け役がいるはずがない、つまりは気配を探った後に行動を起こすべきなのである。
(建物の影に気配がひとつ・・・)
様子から見て間違いないだろう、何をするでも無くこちらをじっと見ている。
攻撃の判断を下したフィルに、男達は足を止めて、
「そんなに怖がらなくてもいいんだぜぇ?」
「そうそう、俺たちは優しいお兄さんなんだから」
そう言いながら安心させるために優しく微笑ん・・・でいるつもりのようだが、ニタニタ不気味に笑っているようにしか見えない。普通の子供が見たら大音声で泣き出すか、又は全速で逃げるだろう。
フィルはそれに対し、うつむいてモゴモゴと言葉を紡ぐ。当然聞こえるはずがないが、内容はもちろん呪文である。
「ん?良く聞こえねぇなぁ?」
「もっと近くでしゃべりなよ」
そう言いながら男達は近づいた。フィルは近づいてきた分だけ下がる。その反応に一人の男が焦れて、すごみをきかせた声を上げた。
「いいから来いってんだよ」
男はフィルを捕らえようと手を伸ばした。それとフィルの術が放たれたのは同時だった。
 『メルクリウス・プリズン』
コポン
コミカルな音と共に男が、いや、見届け役も含め男達が、空中に浮き、正五面体の檻に取り込まれる。
そして・・・フィルは一番に言いたかった事を口にした。
「私は男です・・・」
誰の耳にも届かないその声は・・・誰もいない路地に虚しく響いた。




「しかし・・・ノイマン隊長、本当に平気なのですか?」
リカルドはノイマンに疑惑、困惑、咎めの入り交じった瞳を向けた。
学園の校庭、そこには第一、第三部隊と魔術師ギルドの者の混成部隊が作られていた。訓練がされていて、イライラしたり、ダラリとしたりする者はいない。
「平気だ、もうすぐ来る」
「その自信の根拠は?囮になったという事は、まだ年端もいかない子供と言う事でしょう?」
「来るものは来るのだ、君ももう少し落ち着いたらどうかね?」
少し意地悪く笑いながらの、この老体長の意見に何人賛同しただろう?彼とリカルドとは優に三十の齢の差がある。彼を基準にしたら世界の人間の過半数が『落ち着かないもの』になってしまうだろう。
それにリカルドは隊長という任に就くだけの威厳と風格を十二分に持っている。それに今回はリカルドの意見の方が理に適っていが・・・。
ノイマンは平然と彼が来るであろう方向を見ていた。リカルドは所詮ノイマンに口では勝てないと分かっていたので、仕方なく彼の向く方向を見た。
「来たようだ」
唐突にノイマンは呟いた。他の者がそれを知覚できたのは、たっぷり十秒は経ってからだった。
(イテ!イテ!そっと扱え!)     ずざざざざ・・・
(ギャ〜あててええぇぇ!!)     ずざざざざ・・・
(・・・・・・・)     ずざざざざ・・・
等という悲鳴?が聞こえてきた。ノイマン以外そこにいる全員が水玉型の冷や汗を流す。やがて暗闇の中に見えたのは・・・
「ノイマンさん!申し訳ありません、遅くなりました!」
三人の男をロープで縛って猛スピードで引っ張ってくるフィルの姿だった。余りに異様な光景にリカルド並び平団員達皆硬直。
・平団員視点  三人の男を片手で引っ張りながら美少女(笑)が猛ダッシュしてきた。
・リカルド視点  三人の男を『浮遊』の魔法で軽くして引っ張りながら子供が猛ダッシュしてきた。
                   更にノイマンの話からするとその子供は『少年』だ。信じられない(笑)。
「よく戻ってきた、だがあのように大声で騒がせながら行動するのは感心しないな、近所の睡眠妨害につながる」
「平気です、そこまでは消音結界を張って移動しましたから」
全身濡れネズミ泥まみれ擦り傷だらけの男共を無視して、100°ほどずれた会話をする二人に、更に硬直する他の方々。しかしソコは隊長、リカルドが全ての呪縛を断ち切って口を開いた。
「の、ノイマン隊長、かの・・・いや、彼が・・・」
「ああ、フィルだ」
ノイマンの明快な紹介のし方に苦笑しながら、フィルはリカルドへ向き直る。
「よろしくお願いします、リカルド・フォスターさん」
その台詞に彼は目を見開いた。
「君とは初めて会ったはずだが?」
「トリーシャさんと気配が似ていましたから」
なるほど・・・リカルドは納得した。トリーシャに彼の事は食卓で聞かされている。彼が娘の気配を知っているのは当然だろう。長く一緒にいるものは気配が似てくる。例え血の繋がらない者同士だとしても・・・
それと同時にリカルドは目の前の華奢な少年の力量を知る。
        
        かなりの強者だ・・・

「さて、ベースキャンプの場所、教えていただけますよね?」
話は一段落して、フィル男だと知って更に驚いている平団員は無視して尋問を始めた。
「へっ、簡単に吐くと思ってんのか?」
「もちろん思っていませんよ、でも簡単に吐いてもらえたら私はあなた達を校庭を十周も引っ張り回さなくて済みます」
フィルのエグイその台詞にうっと詰まる男達。
「わ、分かった、話す、話すからそれだけは勘弁してくれぇ」
「おい、何のつもりだ!」
情けない声を上げたのは先ほどまで気絶していた男(進行上男@)。それに慌てて声をかけるもう一人の男(男A)。その慌てた声に男@はキッと振り返った。
「これ以上引っ張り回されたらマジで死ぬぞ!俺は生きる可能性がある方を選ぶ」
この台詞がこの男から出ても全く説得力がない、だがその一言で他の男達は皆、黙した。よっぽど引きずり回しの刑が嫌なのだろう。そして男@が話し始めた。
「べ、ベースキャンプの場所は・・・」




あとがき

どうも、わ〜のです。自分でかいたとは言え、全然話が進みませんねぇ・・・(汗)

ちなみに作中に出てきた魔法の紹介

  メルクリウス・プリズン
     正五面体の水玉の檻に目標を閉じこめて溺死させる。
      複数同時に発現可能。
      ちなみに今回は気絶ぐらいで解放した。

・この魔法は死神達が使っていた一般的な系統の魔法。
・精霊の力を借りた物とは完璧に別の力から来ています。
・威力は精霊のそれよりかなり高い。
・かなり資質に左右される、つまり死神の血を引いていないと修得は不可能に限りなく近い。

 ・・・と、こんな所です。
後はそのうち作中で紹介します。

 このような内容ですが、感想を戴けたら幸いです。

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