中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲 第五話
わ〜の



同じ匂い

「あっけ無かったですね〜」
本当にあっけなかった。ベースキャンプ全体を魔力弱体化の陣で囲まれた『ポイズン』は、自警団を前に烏合の衆と化したのだ。
ものの十分で片づいたと言えば良く分かるだろう。
「フィル君、ご苦労だった」
「どういたしまして」
リカルドの労いの言葉にフィルは澄まして応えた。そんな彼の顔をリカルドが複雑そうに眺める。
「・・・」
「・・・?なにか?」
「君の事はノイマン隊長に聞いた」
フィルはその台詞の意味を理解したらしく、顔を強ばらせた。
ちなみにノイマンはエンフィールド学園で待機している。実力はリカルドに引けを取らないとは言え、もう第一線で指揮を執る年齢ではないのだ。
「本当に、エンフィールドが被害を被ると言う事はないのだね?」
「ありません」
きっぱりと、答える。
「もしあったとしたら・・・」
そこで意味ありげに言葉を切り、微笑んだ。それは色々な感情を孕ませた笑み・・・悲しみ、侮蔑、憎悪、絶望・・・。
「どんな手段を講じてでも、ノイマンさんの愛する街を傷つけさせたりしません」
「・・・・・・」
それは一体どういう事か・・・彼の表情から読みとることはできなかった。
詳しく問い質そうとリカルドは口を開きかけた・・・所で一人の自警団員が近づいてきた。口を噤む。
「フォスター隊長!」
「なんだね?」
「あちらのテントで空間転移の魔法陣が発見されました!」
「空間転移だと・・・?」
リカルドは険しい顔をした。空間転移の魔法は厄介だからだ。そのほとんどが二つで一つ、つまり空間を越えた扉のようなものである。逃げた後の出口の魔法陣を破壊されてしまうと扉の役目が無くなり、追跡は不可能になってしまうからだ。
「はい、詳しくはそのテントの中で・・・」
「分かった、案内してくれ」
「は!」
リカルドは団員の案内に従った。その後をフィルが付いていく。
彼はこの少年をどうするか迷っていた。自分の立場からすると街に送り返したいのが本音である。が、先ほどの戦闘で彼の立ち回りを見たのだが、目を見張るものがあった。自分には及ばないものの平の自警団員が大勢で掛かってこようと掠り傷一つ負わないであろう。それほどの実力なので彼は『足手まといだから帰れ』とも言えない。困ったモンである。
程なくしてそのテントに着いた。中では魔法陣の周りで数名の魔術師ギルドの者が解析している。
「!」
フィルの動きが止まった。その瞳は魔法陣に注がれている。
「フォスター隊長、これです」
「ふむ・・・」
リカルドは彼の異変に気づかずに、隊長補佐らしき人物と会話を始める。
「扉の魔法陣で、この魔法陣と対となる魔法陣に繋がってるそうっす」
「多分この先に・・・」
「子供達がいるのだな?」
「はい、ひっ捕らえた賊共がそう言ってたかんな、あの様子じゃ嘘は言ってねぇっすよ」
ケケッと嗤う隊長補佐。
その賊は情けないことに、へたり込んで泣きながら証言したのだ。だが彼は直ぐに表情を引き締めて口を開いた。
「だが・・・」
「解放させる方法が分からない」
「・・・その通りっす、内容が空間転移と言う事は分かったんだが、この型の魔法陣知ってる奴が居ねぇんすよ」
(当然です・・・その魔法陣を知っている方がおかしいです・・・)
フィルが心の中で呟く。この魔法陣はキーワードを唱えるのではなく、力に反応して解放されるのだ。
すなわち・・・死神の力に・・・。
だがいつまでも固まっていたところで事態は進展しない。彼は決意を固め口を開いた。
「口を挟むようで申し訳ございませんが」
「その魔法陣、解放できます」
「!?君がかね!?」
「ええ、本を読み漁っているとき偶然・・・記憶が朧気ですから確実にとはいきませんが」
彼は驚くリカルドの問いを適当に誤魔化してから魔法陣にふれた。
(本当は何かに力を込めてカギにしていたのでしょうけれど・・・)
死神の力を持った彼が居たことで、障害は無意味と化した。そして程なく魔法陣のそばから離れながら、
「解けました」
その声と、それが解放された音が重なった。
ゥゥウヴヴゥゥン・・・
「うっ・・・!」
「これは・・・」
それと同時に魔法陣の向こうから溢れ出てくる異常な空気・・・それは・・・
「邪気・・・?」
・・・ざわ・・・
誰かの絞り出したようなセリフに、団員達がどよめいた。実はフィルも驚いた。邪気とは人間に有害で、人間がもろに当てられると吐き気、頭痛、目眩などの症状が出る。だが一方で、ある程度氣の高まった者ならば、邪気の影響を受けないのだ。幾ら訓練されているとは言え、平の自警団員の全員が平然としているというのはハッキリ言って異常である。
(やはり指導者が良いからなのでしょうか?)
確かに五十年前の大戦の、英雄ノイマン並びにその部下達や、世界にその名を轟かせる勇名リカルド・フォスター等といった人物が首を揃えているのである。優秀な指導者は、優秀な部下を生む。その指導者の心が、善か悪かでその集団の末路も決まるのだが・・・。
そんな考えを巡らせながら再び魔法陣に近付く。そんな行為を咎めたのが、名称不明の隊長補佐。
「オイオイ、嬢・・・いや、ボウズ、あんまり近寄るな」
「平気です・・・」
彼の咎めを受け流し、魔法陣の光に手を差し伸べる。
「平気ってオイ・・・確かに平気そうだがよ、間違って飛んじまったらマズイだろ。ってーか何で平気なんだよ」
彼の突っ込みを無視して、魔法陣の先に精神の触手を伸ばす。それと同時に頭に浮かぶイメージ。街、城、地下室・・・。
「・・・・・・魔界ではありません、どこかの街にある城の地下室のようです」
「遠視をしたのかね!?」
「はい」
驚いてばかりのリカルドにフィルは平然と答える。魔法陣を介して遠視するなど、前代未聞である。
「ボウズ、お前何モンだ?」
そこにいる全員の心のセリフを代弁した隊長補佐だが、フィルは苦笑しただけで何も答えなかった。リカルドは彼のその仕草が同僚の老人の姿と重なったため追求を打ち切り、肝心なことを聞いた。
「子供達は?」
「そこまでは向こうへ行きませんと何とも・・・」
「そうか・・・よし、ボラン君、このことを団長に報告してくれ、我々はこの先へ行く、もしもの為に自警団員五名と魔術師ギルドの方三名残ってもらう、この場の指揮はゼナン君、君に任せる」
『は!!』
「へ〜い」
規律の行き届いた敬礼と、第一部隊隊長補佐、改めゼナンの気の抜けた声が重なった。
「ところで」
いいながらノイマンはフィルを見た。
「何か?」
「君はいつまで同行するつもりかな?」
「最後までです」
サラリと返され、一瞬の間を置いて再び口を開く。
「幾らノイマン隊長のお墨付きとは言え、民間人を余り危険地帯へ連れて行くことはできないのだよ」
「気になる事があるので」
「気になる事?」
「気になる事です」
ふぅ・・・。リカルドは溜息を漏らした。押しても引いても無駄な性格。本当に・・・
「君は何処かノイマン隊長に似ているな」
「そうですか?」
リカルドの皮肉に、彼は嬉しそうに笑うだけだった。
「ああ、好きにしたまえ、その代わり、我々の指示に従うように」
「承知いたしました」
「では行くぞ」



「明かりを」
『ライト』
リカルドの指示でそこかしこで魔法の光が灯る。そして辺りの光景が明らかになった。
そこはフィルの言った通り地下室といった雰囲気の場所だった。石畳の床、壁、天井。向かい側に扉が一つ。それだけ見れば平凡な地下室である。
「樹の根・・・?」
「!!それに触れるな!」
リカルドの叱責にそれに触ろうとした平団員は竦み上がった。そう、石畳を破って地下室に樹の根が侵入してきているのだ。
「ゲェ!コレ悪魔草じゃねえか!」
誰が上げた声だったか。
それは確かに悪魔草と呼ばれるモノだった。かなり有名な植物である。いや、『植物』という表現は正しくない。存在に寄生し、邪気を振りまく『モノ』を『植物』と表現する事などできない。だが、宿主がソレに養分を吸収され尽くされて死亡するパターンが多く、悪魔草自体長く存在でるモノではない。せいぜいが一戸建ての家くらいの大きさまで成長するのが限界である。更にコレに触れると、コレの意思、すなわち宿主に情報が伝わることになる。
「邪気の原因はコレだったのか・・・」
「とにかく進もう、こうしていても仕方がない・・・絶対にコレに触れてはならんぞ」
リカルドが先頭を切って扉を開けた。そこには平凡な通路が続いていて、点々と扉がある。やはり悪魔草の根が所々に目に付く。隊列を組み、扉に付いている覗き窓から中の様子を探る。そんな作業を続けていると一つ階段があった。それを上っていくと一つの扉。リカルドは扉の向こうの気配を充分に探り、扉を開けた。それと同時に鼻を突く異臭、何かのうなり声。そこは少し開けた空間で、右手に更に階段、正面に通路があり左に折れている。どうやらその通路の向こうに原因があるようだ。
「これは・・・」
「遠視してみます」
一方的に宣言して目を閉じる。頭の中に浮かぶイメージ・・・。倒れた子供達、檻、魔獣・・・。
「何があった?」
「魔獣がいます。その側の檻の中に子供達が・・・」
「!魔獣とは?」
「マンイーターです」
「ふむ・・・」
マンイーター・・・その名の通りヒトを喰らう魔獣である。小さな小屋ほどの大きさで、俊敏、知能も高く、火炎の息すら吐く。
「間違いなく敵に気付かれてしまう」
一撃の王者リカルドに係れば、マンイーターなど敵ではない、しかし相手も魔獣である。瞬殺する、などと言う芸当はできない。更に悪魔草に触れれば宿主に気づかれてしまう、という危険と隣り合わせである。
考え込むリカルドにフィルは声をかける。
「私が『タイムズ・ウィスパー』の呪文で抑えている間に何とかすることはできませんか?」
「使えるのかね?」
「ええ」
今度は驚かなかった、驚き尽くしたと言える。もうこの少年が何をしようが驚かない、そんな無き持ちに支配されていたのだ。それに彼は、無条件で信頼できる何かを持っていた。それはここにいる全員が感じている思いだろう。
「どれくらい抑えられる?」
「・・・十秒ほど・・・」
「十秒あれば充分だ、協力してくれ」
「・・・ええ」
フィルはここ数年味わっていなかった暖かい何かを感じた・・・それは・・・


あとがき

 話しがぁ〜進まないぃ〜
ほんきですすんでませんねぇ(他人事口調)・・・とにかく長い目で見てやって下さい。
オリジナル設定

 悪魔草・・・本文参照、紅く毒々しい花も付けます。

 マンイーター・・・本文参照、姿は二足歩行の熊、っと言った感じです。爪が異様に長い。

                                            っとこんな所です。ご意見、ご感想戴けたら幸いです。
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