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死神の奏でる幻想曲 第二話
わ〜の




二人の人間が、対峙していた。小さな橋の上で。
方や老齢の男。真っ黒なフードを被り、あちこちに曰くありげなアクセサリーを着けている。・・・・・・いかにもな魔導師スタイルだ。
方や10歳くらいの少女。白いひらひらのドレスに、頭に結んだリボン、大きな瞳と長い髪。・・・・・・服は時代錯誤の感があるが、普通の少女だ。
祖父と孫、という構図に・・・・・・は見えない。互いの間に流れる気配は・・・・・・敵意。
他の者たちが遠巻きに見守る中、老齢の男が、長い年月を感じさせる口を開いた。
「・・・・・・お前が、『幽霊ギルド』とやらの長か・・・・・・」
「ええ、そうよ。・・・・・・あなたが『魔術師ギルド』の長ね、ヨポヨポのおじいちゃん」
『魔術師ギルド』の長に対し、『幽霊ギルド』の長は悪戯っぽく笑った。その仕草は、幼い容貌にしっくりと似合っていて、可愛らしかった。だが・・・・・・。
「まず聞こう。お前たち『幽霊ギルド』の手によって捕らえられた者たちは、無事なのだろうな?」
「もちろん無事よ。私たちのお願いを聞いてくれたら、ね」
沈黙が、流れる。・・・・・・再び口を開いたのは、『魔術師ギルド』の長だった。
「・・・・・・お前たちの要求とは何だ?・・・・・・」
「『マリオン島の所有権』、『幽霊ギルドの正式な承認』・・・・・・この二つだけよ」
「・・・・・・『幽霊ギルド』の活動理念は?・・・・・・」
「秘密、よ」
『幽霊ギルド』の長は再び、悪戯っぽく笑った。・・・・・・本当に悪戯のつもりなのかも知れない。
「・・・・・・正式な承認となると、この街の議会を通さなくてはならないのでな・・・・・・」
「ふぅ〜ん。・・・・・・じゃあ期限は三日。それまでによぉ〜く話し合っておくのね。・・・・・・人質がいるって事を忘れずに」
「・・・・・・っ!待て!」
制止の声を上げたが、それを聞き入れるはずもなく。『幽霊ギルド』の長は、蒸発するように消えていった。




  『マリオン島』


『幽霊ギルド』。そう名乗る連中から脅迫状が届いたのは、つい先ほどだった。彼らは捕らえたエンフィールド学園の生徒と教師、そして船員たちの命を盾に、先ほどの要求を突きつけたのだ。当然ながら、役所、災害対策センター、そして自警団はそれぞれ対策に乗り出した。だが・・・・・・。
「相手の正体がわからなきゃ、手出しもできないよな・・・」
「そうですよね・・・・・・ロビンさん」
待機命令がでている中、フィルとロビンの会話である。ここは第三部隊の事務所、彼らの他にも待機命令を受けた第三部隊隊員が集まっている。
「それより、気になる事があるのです」
「あのとき出てきた女の子が、本当に『幽霊ギルド』の長なのか、ってことか?」
ロビンの台詞に、フィルは頷いた。
「そうだよな、あんな小さな娘が本当に長だなんて、怪しいよな・・・・・・」
「私は直接見た訳ではありませんが・・・信憑性に欠けます」
「何を言ってんだよおまえ達。幽霊に見た目なんて関係ないだろ?」
そう聞いてきたのは、彼らの会話を聞いていた仲間の一人だった。
彼の言う事はもっともである。幽霊とは、大抵『死んだ』時の外見のままでさまよっているからだ。早い話、外見と中身は一致しない、という訳だ。もしかしたらあの少女も、自分たちより年上かも知れないのだ。
ロビンは静かに仲間を見た。
「なあ、俺達って、大体同じ年頃だろ?」
「ああ」
「もしも俺に、あれこれ鼻で扱われたら、お前はどう思う?」
「そりゃ・・・・・・むかつく」
「そうだろう、幽霊達にも同じ事が言えるだろう、元々奴らも人間なんだからな。仮に奴らに、『あの女の子が自分たちより年上だ』、と頭では分かっていたとしても、従うのに抵抗を覚えるはずだ。しかも外見が自分たちより年下じゃあ・・・・・・」
『おお〜〜』
話を聞いていた全員が納得する。照れるロビン。
「つまり、奴らが本当にその女の子の幽霊に従っているとしたら、奴らにはそれなりのメリットがある、という事ですね・・・・・・そんなものありそうにありませんが」
フィルに視線が集まる中、ロビンが頷く。
「フィルの言う通りだ。やはり、『幽霊ギルド』とやらの長は別に居る、と考える方が自然だろう」
「なるほど・・・」
「しかし何を言っても、今私たちにできるのは、第二部隊の偵察が戻ってくるまで、待機している事しかありません・・・・・・ふ、ふわぁ〜〜ぁ・・・」
大あくびをするフィル。
「・・・・・・そういえばフィル、お前昨日は夜勤だったっけ」
ロビンに聞かれ、彼は眠そうに目をこすりつつ、立ち上がった。
「・・・・・・仮眠室で少し眠っています。・・・・・・何かあったら起こしてください・・・・・・あふ・・・」
「ああ、わかった」
ばたん、と音を立ててドアが閉まり、足音が遠のいていく。
「オイ、いいのか?俺たち待機任務中なのに」
「ま、あいつは寝起きが良いし。構わないだろ」
「そういう問題かよ・・・」
呆れて天井を見上げる同僚。それに対しロビンは、ただ苦笑しただけだった。




その頃マリオン島。『幽霊ギルド』の本部とも言える洋館。その玄関ホールに、沢山の幽霊達が集まっていた。老若男女、様々である。
ホールの踊り場に、一人の男が居た。黒い服に黒いマント。20代後半、といった年で、かなり整った顔立ちをしている。しかし顔色が、病的なまでに白く、目玉が、血のように赤かった。
「皆の者、よく聞け!」
男が口を開く。朗々とした、カリスマのある声だ。・・・・・・無駄に渋い声だが。皆、シンとなり、男に注目する。
「我々『幽霊ギルド』が結成されて、未だ2週間!だが既に、我々は『生きる者』達を脅かすまでになった!」
わっ、という歓声と、拍手がわき起こる。
ここでいったん言葉を切る。
「ここにいるローラが『生きる者』共と会見を行ってきた!彼女は三日間の猶予を奴らに与えた!偵察の者によると、奴らは、慌てふためいているそうだ!」
再び、歓声が上がる。
「皆の者、『生きる者』達が我々に屈するときは近い!!」
今までで、一番大きな歓声が、ホールを包んだ。
踊り場で演説を行っていた男。歓喜する幽霊達を見つつ、その情熱的な仮面の下で、悪意に満ちた笑みを浮かべた。
(馬鹿共が・・・・・)
胸の中で、そうつぶやきながら。





 あとがき

どうも、もう一個送るんで読んで下さい。
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