中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲 第四話
わ〜の



「うおおおおおぁぁ!!」
全力で突進するアルベルト。だがしかし、目標はすい、と壁の中に消えた。
「うおあああぁぁ!!」
 べし!     ずるずるずる・・・・・・ばた。
慌てて止まろうとしたが、勢いを殺しきれず、そのまま壁に激突した。そのままずり落ちて、倒れる。
そこに再び、目標がすい、と壁から現れた。そしてぴくぴく痙攣する彼の横に、ちょこん、と屈んだ。何処からか枝を取り出し、つんつん、と・・・・・・。
「お〜い、大丈夫〜?」
この挑発的な行為に、アルベルトは怒りに駆られつつ、目標に手を伸ばした。だが・・・・・・。
 する・・・
目標を、すり抜けるだけ。
「ぐ・・・・・・」
「元々私には触れないんだからぁ・・・・・・いい加減、追いかけるの止めたら?イノシシおにーちゃん♪」
「・・・・・・うがあああぁぁぁ!!」
更に挑発を受け、それにあっさりと乗る。アルベルトという男、頭は結構良い。だが一方で挑発に乗りやすく、その頭はあまり役に立っていない、というのが現状。・・・・・・今回も、遊ばれているだけだと気付けばいいのに・・・・・・。
馬鹿正直に、目標を追う。
「きゃはははは!鬼さんこちら〜」
「むぅわてぇぇぇ!この幽霊ムスメぇぇぇぇ!」
そう叫び、再び全力で追いかけ始める。『幽霊』は、ふわふわと彼の手から逃れていく・・・・・・。





  『ゴメンナサイ』


事の始まりはつい先ほど。セントウィンザー教会に、幽霊が現れた、という通報を受けた事だった。今は夜。・・・・・・夜勤の団員の中に、自警団一の魔法の使い手、フィルがいたもので、彼が解決に向かったのだ。アルベルトは補助である。・・・・・・詰まるところこの仕事、彼が一番適任だったのだ。
まあ、教会に着いたのだが・・・・・・。
「うおおあぁぁ!」
 ずしゃああぁぁ・・・・・・
請求されるであろう、建物の修理代に思いを馳せ、彼はこめかみを押さえた。
取り敢えず、手分けをしてその幽霊を見つけようとした。・・・・・・そして、先にアルベルトが見つけた。そこまでは良い。いや、その地点で失敗だった。だがアルベルトの性格からして、フィルを待つ、などと言う事はできなかった。
「見つけたぞぉぉ!」
教会全体に響くように吼えると、幽霊に向かって突進していった。
・・・・・・後は冒頭の通り。幽霊・・・・・・例の『幽霊ギルド』の長を名乗った少女は、完璧にアルベルトで遊んでいる。・・・・・・とにかく、いつまでもボーっとしていられないので、フィルは時々する破壊音の方向に向かった。
『うがぁぁぁ!!泣かす!絶対泣かしてやる!!』
『きゃははは!・・・・・・えーんえーん。・・・・・・これでいい〜?』
『ぐおあおあぁぁぁ!!』
「・・・・・・」
遠く、暗闇から響いてくる声に、フィルは一筋の汗を流す。今日は特別に、遅くまでローソクをともしてもらっているが、それでもこの長い廊下を照らすには、あまりにも役不足だった。・・・・・・とにかく、通り道になるであろう廊下で、じっと待つ事にした。彼らはとにかく、ランダムに走り回っているので、下手に動くよりここで待っていた方が良いだろう。
しばらくして・・・・・・。
「イノシシさ〜ん。早く早くぅ〜♪」
「許さん!こんガキぃぃぃぃ!」
フィルの背後から、声が迫ってきた。
薄暗い中、アルベルトは彼の姿を認めると、
「フィル!後ろだ!捕まえろ!」
吼えて、更にスピードを増す。少女は、フィルに構わず突っ込んでくる。自分に触れる人間はいない、そう高を括っての行動だ。
迫る少女。・・・・・・静かに、振り向くフィル。
少女は、彼を見て、驚いた。いや、正確には、彼の、光と闇の瞳。薄暗い中で輝く、それを見て。
少女は、スピードを落とした。だが、アルベルトと同じく、勢いを殺しきれずに突っ込んでしまう。・・・・・・彼と違うのは、突っ込む対象が人間だ、という部分だ。
 ぼふ・・・・
優しく、受け止められた。彼は何故自分に触れるのか。その時、そんな疑問は浮かんでこなかった。彼女は、彼の美しさに、純粋にみとれていた。
・・・・・・キレイ・・・・・・
その時、雰囲気をぶちこわすように、
「よぉ〜し!よくやったフィルぅぅぅ!!」
アルベルトが突っ込んできた。スピードも殺さず。・・・・・・このままではぶつかる・・・・・・。
そんな思考がフィルにあったかどうか。それは分からないが、彼は、ふい・・・と身をひねった。
「うおおおぉぉぉ!!」
 ずべし!    ずるずるずる・・・・・・ばた。
冒頭と同じパターンでノビてしまった。
「あなたは・・・・・・」
回避した後で、彼はそう言って少女の顔をまじまじと見つめた。
そうされて、彼女は赤面する。まあ、フィルに抱きとめられて、更に顔をのぞき込まれるような事をされたら、大抵の者は動揺するだろう。
「えっと・・・・・・あの・・・・・・」
少女は、何と言っていいか分からない。そんな様子だった。
「くっくっく・・・・・・。もう逃げられんぞ、幽霊ムスメがぁぁぁぁ」
引きつる少女。突如、怨嗟に満ちた声に。彼の背後から聞こえた。・・・・・・アルベルトだ。地獄から這い上がってきた鬼。・・・・・・当然こんなアルベルトに、少女が怯えないはずがない。
彼女は、ぎゅっ・・・とフィルにしがみついた。・・・・・・彼女は、今までの会話の流れから、彼はアルベルトの仲間だ、という事は理解できていた。だが、何故か、彼なら信用できた。それは、この間、死神に助言を受けたからかも知れない。・・・・・・彼から伝わってくる優しさに由り、信用したのかも知れない。
フィルは、そんな少女を見つめ、アルベルトに視線を向けた。
「アルベルトさん、いけません」
「なにぃぃ?何がいけないと言うんだぁぁぁ・・・」
再び、怨嗟の声。少女は更に強く、フィルにしがみつく。
・・・・・・ふう・・・・・・
そんな二人を見て、彼はため息をついた。
「・・・こんな小さな子を、どうするつもりです?」
「うっ・・・・・・。それは・・・・・・」
アルベルトは、言葉に詰まり、毒気を抜かれた。・・・・・・実際どうするかなど、考えていなかったのだ。
「神父さんの所に行きましょう。彼と話がしたいので」
そう言って彼は、少女をひょい、と抱っこした。
「っ!?」
慌てて、更に顔を赤くする少女。抵抗する気は起きなかった。その腕の中は、居心地がよく・・・・・・、そのまま身を任せた。・・・・・・ワガママを言えば、『お姫様抱っこ』でない所が、不満といえば不満だが・・・・・・。
「・・・・・とにかく、許せないと言うのなら、話をしてから。・・・・・・気が変わらなかったらにして下さい」
そう言って、フィルは歩き出した。決まり悪そうに、アルベルトも後に続く。





「それで、話とは何でしょう?」
彼らは、テーブルを挟んで、座っていた。簡単に自己紹介をすませた後の会話である。神父に『話がある』と持ちかけて、通された部屋で。
「・・・・・・」
フィルは暫し瞑目し・・・・・・、口を開いた。
「・・・・・・この子・・・・・・ローラさんの事、許してあげて頂けませんか?」
「ええ、構いませんよ」
神父は笑顔で、二つ返事で許した。
驚いたのはアルベルト。つい二日前、『幽霊ギルド』を名乗る連中が、ある意味人命に関わる騒ぎを起こし、さらには街を脅迫する、等と言う事が起こったばかり。その矢先のこの幽霊騒ぎ。普通、神経質になるものだが・・・・・・。いきなりその幽霊を、無条件で『許せ』という自警団員がいるだろうか?・・・・・・だいたい二つ返事で、それを受け入れる神父も神父である。
(こいつら状況、分かってんのか?)
アルベルトは呆れて、この二人の聖職者を眺めた。色々反論したいが、この二人には何を言っても無駄な気がする。方や、教会の神父。方や、シューキョー自警団員。双方とも、底抜けのお人好しである。
驚いたという点ではローラも同じらしく、二人の聖職者を、代わる代わる眺めている。
「しかし・・・・・・。私が許しても、街の人たちが許してくれるかどうか・・・・・・。それに、その子がこのまま彷徨する、というのは、その子の為になりませんよ?」
(お、こいつ等も結構現実的なんだな)
神父が、現実的な問題を聞いて、アルベルトは心中で感心する。
神父の言葉に、ローラは不安そうにフィルを見上げる。視線を感じて彼女に視線を移すと・・・・・・、その表情を見て、彼はクスッ、と微笑んだ。
「そんな不安そうな顔をしなくても、大丈夫ですよ。街の人たちは、私が何とか説得して見せますから。それと・・・・・・」
そこで、フィルは再び、神父に視線を移す。
「彼女は、まだ生きています」
「!」
「はぁ?」
「?、どういう事です?」
フィルの言葉に、ローラはピクリと反応し、アルベルトは、ゴブリンのような間抜けな顔をし、神父は眉をひそめた。
「・・・・・・ローラさんからは、精神の波動だけしか感じる事ができないのです」
「精神の・・・・・・って、やっぱり幽霊じゃねーか。幽霊って普通そう言うモンだろ?」
「アルベルトさん、この前、さくら亭で話した内容を思い出してください。・・・・・・存在は、『肉体』、『精神』、『魂』の3つで成り立っています。『肉体』は、物理世界への干渉のために。『精神』は精神世界への干渉のために。そして『魂』は、その二つを支える基盤の役割を果たしています。つまり、この基盤である『魂』が無ければ、どんなに高次の存在でも、在り続ける事はできないのです・・・・・・」
そこで、ワケが分からない、という顔をしているローラに、視線を移す。・・・・・・腕を伸ばし、優しく頭を撫でながら、再び口を開く。
「通常、幽霊と呼ばれる存在は、『肉体』が滅びて、『精神』と『魂』だけの状態になったものを言います。しかし、この子からは、本当に『精神』しか感じ取れない。と言う事は・・・・・・」
「どこかにまだ、『精神』と『魂』があるかも知れない、って事だな?」
「そう言う事です」
先を読んだアルベルトの台詞に、フィルは満足げに頷いた。・・・・・・『肉体』はもう滅びてしまっていて、『魂』のみになっている、という可能性もあるが、彼は敢えて、それを口に出さなかった。
「成る程・・・・・・。それが本当なら・・・・・・、いや、お前はそう言う嘘は付かんか。とにかく、その『肉体』と『魂』はどこにあるんだ?」
天井を見上げて、後ろ首を掻くアルベルト。そこには、ランプの灯が頼りなげに揺れている。
フィルは、三度ローラに視線を移した。
「ローラさん。あなたがそのような状態になった経緯を、説明してください。・・・・・・思い出す事は、辛いと思います。・・・・・・でも、あなたを本当に生き返らせるために、必要な事なのです」
思わず目を逸らすローラに、フィルが優しく語りかける。
「そうでしょう?」
更に優しく微笑むフィル。その優しさに、彼女には口を閉ざし続ける事ができなかった。俯き、ポツリポツリと語り始める。
「私ね、100年前の人間なの・・・・・・」
息をのむ声が・・・・・・、一つだけ。アルベルト以外、聖職者二人は、驚くことなく彼女の話を聞いていた。
この状況が面白くないアルベルト。なんだか、自分だけ人間が小さい気がしてならなかったからだ。・・・・・とりあえず、そのふまんはむねのうちにしまい、彼女の話に集中する。
「・・・・・・それでね、私が12歳の時、街に流行病が蔓延したの・・・・・・私も、それに罹っちゃって・・・・・・」
シン、と静まりかえった教会の一室で。少女の話が、異様な程響いて聞こえた。・・・・・・少女は続ける。
「パパもママも、私が治るようにって、ホントに色々してくれた・・・・・・でも、それは当時、不治の病って言われてて・・・・・・」
・・・・・・言葉が、途切れる。三人とも、静かに少女の話を聞いていた。フィルが優しい瞳で、続けなさい、と催促する。
「・・・・・・それでね、パパが、魔法使いを連れてきたの。・・・・・・100年後の世界の医療技術に賭けて、私を眠らせるって・・・・・・そう説明してくれた・・・・・・。・・・・・・こう言ってた・・・・・・・・・・・・『お前の目が覚めたら、パパもママもいないだろうけれど。私たちは、お前を永遠に愛しているよ』って・・・・・・」
更に深く俯く、少女。小さな、華奢な身体が、痛ましい程に震えていた。
「目が覚めたら、ホントに、パパもママもいなかった・・・・・・気が付いたら町にいて、目に付いた人に声をかけたら・・・・・・悲鳴を上げて逃げていったの・・・・・・・・・・・・何でかな、って思ったら・・・・・・私、幽霊になってた・・・・・・誰も、相手にしてくれなかった・・・・・・」
嗚咽が、混じる・・・・・。
「それで、同じ幽霊のみんなを集めて・・・・・・その中には、強力な人もいて・・・・・・あんなに大事になっちゃって・・・・・・」
もう、続けていられなかった・・・・・・。少女は、その小さな手に顔を埋めて、泣きじゃくる。
「ゴメンナサイ・・・・・・。・・・・・・ご、ゴメン、ナサイ・・・・・・」
「もう良い、もう良いのですよ・・・・・・」
もはや、言葉をつなげる事もままならなくなった少女を・・・・・・彼は、暖かく、抱きしめる。・・・・・・優しく、頭を撫でる。・・・・・・慈愛に満ちた声で、語りかける。
「・・・・・・寂しかったでしょうに・・・・・・」
・・・・・・もう、限界だった。
「・・・ふ、・・・ふえええぇぇぇぇん!!」
声を上げて、泣き出す少女。幼い心に、溜まりに溜まった孤独感が、堰を切ってあふれ出したのであった。・・・・・・周りをはばかる暇もなく、フィルにしがみつき、ただただ泣き続ける。
アルベルトが、誰にもわからないように、こっそりと目頭を押さえる。
(いかん・・・)
このままでは、どうにも誤魔化し切れそうにない。
アルベルトは、どかどかと足音を立てつつ出口に向かう。
「フォスター隊長に、この事を伝えておく。・・・・・・ついでに、お前の仕事・・・・・・、ノイマン隊長への報告も、俺がしておいてやる。明日、お前非番だろ?その子を連れて、あちこち謝りにいけ。・・・・・・言っておくが、俺は行かないぜ」
道すがら、早口でまくし立てる。ドアを開け放ち・・・・・・
「アルベルトさん・・・・・・」
フィルに声を掛けられ、足を止める。彼は、泣き続けるローラを、あやし続けている。
「・・・・・・何だよ」
「・・・・・・涙は、魂を浄化します・・・・・・恥じたり、我慢したりするものでは、ないのですよ・・・・・・」
「・・・う、うるさい!この『シューキョージン』!」
 ばたん!!
アルベルトは、乱暴にドアを閉め、再び、どかどかと足音を立てつつ、去っていく。その様子を見て、フィルと神父、二人の『シューキョージン』は、顔を見合わせ、苦笑する。
「・・・・・・所でフィルさん、これから、どうしますか?」
少し落ち着いて、嗚咽を漏らすだけとなったローラを見やり、フィルに聞いた。彼も、彼女を見やり、
「・・・・・・厚かましいようですが、一晩泊めていただけますか?」
(この子が眠ってしまい、目を覚ました時に・・・・・・傍にいてあげたいので・・・・・・)
再び神父に視線を移し、そう言った。・・・・・・心の中で、言葉を付け足しながら・・・・・・。この神父が断るはずもなく、あっさりと快諾する。部屋を提供しよう、と神父は申し出たが、彼はそれを断り、代わりに毛布を持ってきてもらった。
抱きしめた状態のまま、その毛布を、ふわり、とローラに掛けた。なぜ精神体であるローラを通り抜けないのか・・・・・・。多分、『精神』力を操っているのだろうが。お休みなさい、と言って立ち去る神父。
二人きりになったその部屋には、未だに少女の嗚咽が響いていた・・・・・・。




















暗い部屋で。













しかし、月の輝きが射し込む、明るい部屋で。













少女の、安らかな寝息が聞こえる。













少女を抱いた、死神は。















少女に、慈愛に満ちた声で、こう、ささやいた。














『汝の魂に、祝福のあらん事を・・・・・・』

















 あとがき

どうも、わ〜のです。ん〜・・・・・・。とにかくフィルさん、ローラファンに肉切り包丁でもって後ろから殺られそうな勢いです(オイ)。
でも、いいんです。彼はもう、『物理的欲求』に付いては、もう既に悟ってますから。彼は、私の中では、『あらまほしき聖職者』という設定なので。・・・・・・あくまで、『私の中の聖職者像』ですが。
・・・・・・それに、まだ完全に、『あらまほしき聖職者』には成り切れていないので。まあ、話が本格的に始まる前から、完全な聖職者だったら・・・・・・それじゃ、なんか・・・・・・ねぇ?
それではこの辺で。・・・・・・ご意見ご感想を頂けたら、わ〜のが枕を濡らします(笑)。
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