中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲 第五話
わ〜の


昔、遙か昔。世界が生まれた。
そこには、正の種族、負の種族、中立の種族が住んでいた。
世界は、彼らは、天によって創られたのだ。・・・・・・すなわち、『創造者ソル』、『幽体の天女ルナ』、『智者メルクリウリウス』、『美の天女ウェヌス』、『闘争者マルス』、『幸運の王者ユピテル』『試練の老賢者サトゥルヌス』、『追放者ウラヌス』、『幻想の王者ネプチューン』、『破壊と再生の主プルート』・・・に因ってである。
天は、世界を、彼らを・・・・・・創っただけだった。何も干渉せず、ただ、見守るだけだった。
しかし、世界は、平和だった。正の種族が、自分たちで新しい世界を創ろう、と、言い出すまでは。
彼らには、天ほどではないが、自分たちで世界を創る程の力を持っていたのだ。
種族の間で、意見が分かれた。正の種族は、『生み出してもらった天に近づこうとするのは、当然のコトだ』と主張した。負の種族は、『天に近づこうとするなど、愚かな行為である』と主張した。中立の種族は・・・・・・『我々は、どちらにも付かない』と主張した。
正の種族と、負の種族は、彼らを自分たちの味方にしようと説得したが、結局、彼らはどちらにも付かなかった。彼らが望んだのは、平穏だったのである。
対立は、中立の種族を無視した形で進んでいった。正の種族と、負の種族は、彼らを味方にする事をあきらめたのだ。
意見が、平行線をたどる内に、正の種族は、負の種族を無視して、自分たちだけで世界を創った。その中で、生命も生まれた。色々な、生命が。その中には、彼らと似たような姿をしたものも現れた・・・・・・しかしコレらは、想像以上にちっぽけだった。
これに怒り狂ったのは、負の種族である。『勝手に世界を創った挙げ句、こんな出来損ないを創るとは、天への冒涜か』・・・・・・そう言って、正の種族の創った世界を壊し始めた。
これに怒り狂ったのは、正の種族である。『出来損ないとはいえ、せっかく自分たちが創った世界を壊すとは』・・・・・・そう言って、負の種族に、争いを仕掛けていった。彼らの世界は、戦場となった。
これに呆れ果てたのは、中立の種族だった。『自分たちは、平穏を望んでいる。我々は、自分たちだけの世界を創り、そこに移り住もう』・・・・・・そう言って、彼らは、戦場となった世界から、今まで住んでいた世界から、新しく創った世界に移り住んでいった。
争いは、長く、続いた。・・・・・・その中で、新しい世界が、幾度となく生まれ、幾度となく滅びていった。
これを見て、天は心を痛めた。世界が、生命が、その意志とは関係なく、滅びていく様を見て。
そして・・・・・・。
天は、正の種族に、これ以上世界を創らないように命じた。
天は、負の種族に、これ以上世界を破壊しないように命じた。
天は、中立の種族に・・・・・・何も、命じなかった。
世界は、少し、平和になった。





  秘密


「・・・・・・ん・・・・・」
清々しい朝日を受け、身じろぎをし、ロ−ラは目を覚ました。・・・・・・まだ、目は開かない。
・・・・・・心地よい、目覚めだった。こんなに暖かい目覚めは、過ぎ去って久しい。だが、ほんの最近まで、普段からこんな風に目覚めていた気がする。
・・・・・・すぐに思い浮かぶのは、両親の顔。・・・・・・『おはよう、ローラ』・・・・・・そう声を掛けてもらった朝は、つい最近の事のように感じるが・・・・・・それから、もう100年も経っているという事実に行き着く。・・・・・・思わず、泣きたくなる。
「目が覚めましたか?」
優しい声が、彼女の思考を中断させた。 目を上げると・・・・・・光と闇の色、双方で色が違う瞳とぶつかった。未だに目が覚めきっていないせいもあって、彼女はボンヤリと、彼の顔を眺める。
美しい、と言うより、可愛らしい顔を立ち。ぱっちりと大きな瞳。彼女をのぞき込んでいるため、サラサラと音がしそうな髪が、白く、細い首筋を通り、顔に影を落としている。
「・・・・・・?どうかしましたか?」
「!っ・・・・・・な、何でもない、ちょっと起きがけで、ボーっとしちゃっただけ・・・・・・」
慌てて我に返り、自分でもイイワケ臭く聞こえるイイワケをする。
「・・・・・・おはようございます、ローラさん」
「・・・・・・おはよう、フィルさん・・・・・・」
深く追求せず、にっこり微笑んで挨拶をするフィル。その笑顔に、また見とれてしまいそうで、ローラは俯きながら、挨拶を返した。
そこで、初めて自分の置かれている状況を理解した。フィルは椅子に座っていたのだが、彼女はフィルの膝の上で、抱かれているような状態だったのだ。・・・・・・顔が、どんどんと熱くなる。
(わ、私、一晩中こうしてたの・・・・・・?で、でもフィルさんは・・・・・・女の人?・・・・・・いや、でも・・・・・・)
イロイロと考えている内に、更に、顔が熱くなっていく。フィルは、彼女の思いを知ってか知らずか、彼女を床に下ろした。
ローラは解放されて、ホッとすると同時に、どこか不満な思いに駆られた。・・・・・・恥ずかしい、という感情はあったが、それと同時に、彼の腕の中はとても暖かかったのだ。どこかに、もっとそうしていてもらいたい、という気持ちがあったのだ。
「さあ、行きましょう」
彼は、借りていた毛布を畳むと、彼女に声を掛けた。そう言われても、彼女には何のことだかさっぱり分からない。そんな様子を見て、彼は彼女の視線に合わせるように、かがみ込んだ。
「迷惑を掛けてしまった人たちの所に、謝りに行くのです」
「・・・・・・あ・・・・・・」
言われて、思い出した。昨日大泣きしたせいで、その前後に話した事が、頭から飛んでしまっていたのだ。思い出し、目に見えて心が萎えていくローラに、彼はやはり、優しく声を掛ける。
「あなた自身が、謝らなければいけませんよ。迷惑を掛けてしまったのですから。・・・・・・私だけで言っても、皆さんは許してくれるでしょう。この街は、優しい人たちばかりですから。・・・・・・でも、それでは、あなたの心は救われないのです。うやむやのままでこの街に住み始めても、心にわだかまりが残ります。それは、あなたの心を、苦しめ続けるのです・・・・・・」
うなだれる、彼女。
「・・・・・・強く生きなさい。・・・・・・それは、ただ力が強くなれ、と言う事ではありません。・・・・・・それは、常に現実を見据え続け、同時に夢や目標を見据え続ける事です。そして、それに向かって、希望と、強い意志を持って向かっていく。その日その日を、精一杯生きるという事です。・・・・・・顔を上げなさい・・・・・・」
少し強い口調で言われ、恐る恐る顔を上げる。・・・・・・そこには、優しい、慈愛に満ちた彼。微笑み、彼女の頭に手を乗せた。思わず、見とれてしまう。・・・・・・彼を見ていると、彼女は、微笑む聖者の絵でも見ているような気分になる。
「先ほども言った通り、この街は優しい人たちばかりです。絶対に、許してくれますよ。・・・・・・大丈夫、私も一緒に付いていきますから・・・ね?・・・」
「・・・・・・うん・・・・・・」
小さいが、はっきりと、彼女はそう言った。それに、彼は満面の笑顔を浮かべ、立ち上がった。
「その調子です、さて、行きましょうか」
そう言って、ローラの小さな手を取って、部屋を出た。そこで会ったシスターに、お礼を言って毛布を返す。ローラは、教会を出て、歩き始めても、終始無言だった。
(・・・・・・もう少し、言い方を変えた方が良かったのでしょうか・・・・・・)
彼は、内心そう思っていた。優しく接するのと、甘やかすのとはワケが違う。今回も、けじめを着けるべきだと思って言ったのだが・・・・・・。
(やはり、この子には急すぎたでしょうか?)
彼は心配そうに、横を歩く少女を見た。その時、目が合い・・・・・・、
「フィルさん・・・・・・」
ローラが、口を開いた。その顔は、真剣だ。・・・・・・彼は、次の言葉を待つ。
「・・・・・・フィルさんって、男の人だよね?」
「・・・・・・ふぇ?」
意外な質問に、彼にしては、かなり間の抜けた顔をした。それに対し、ローラは全く表情を緩めずに迫る。
「男の人だよね?」
「そ、そうですよ・・・・・・?」
ここで、ローラの表情は緩み、本当に楽しそうに笑った。
「やっぱり!胸ペッタンコだったから、そうなのかなぁ?って思ったんだ」
この台詞に・・・・・・さすがの彼も硬直した。初対面の人間は、必ず彼に『美少女』と判断を下す。仕方がない。彼はそれ程女性的な顔立ちなのだから。その辺りは、彼はもう割り切っているのだが・・・・・・こんな形で気づかれたのは初めてである。
「は、はは、ははは、はっはは・・・・・・」
「あははは・・・・・・」
もう笑うしかない、返す言葉が見つからない。フィルは、乾いた笑い声を。ローラは、心底楽しそうな笑い声を上げた。
通行人が、この奇妙な二人振りを返ったが、二人とも気にしなかった。フィルは、気にできなかったのだが。
暫く笑った後、しばらくの沈黙。麗らかな日差し。青い空、白い雲。そよ風が駆け、木々が踊る。・・・・・・本当に、心地よい朝である。
「フィルさん・・・・・・」
「何です?」
また妙な質問が来るんではないか、と内心不安に駆られつつも、彼は平静を装って言葉を返す。ローラは再び、真摯な顔で見返す。・・・・・・少し、顔が赤い。
「あの・・・・・・『お兄ちゃん』って・・・・・・呼んでいい・・・・・・?」
そう言い終わった時には、彼女は更に赤く染まっていた。・・・・・・無表情な、彼の返事を待つ。・・・・・・再び、しばらくの沈黙。
すがるような目で、自分を見る少女。
(やはり、私は甘いのでしょうか・・・・・・?)
そう思いつつ、彼は、ふっ・・・と、優しく笑った。
「いいですよ」
その瞬間、ローラの顔が、パァ・・・と明るくなった。ふわり、と浮かび、彼の首に抱きつく。
「・・・・・・ありがとう、お兄ちゃん・・・・・・」
通行人が、今度は穏やかな表情を向ける。・・・・・・彼らに、この二人が兄妹と映ったか、姉妹と映ったか・・・・・・それは想像に任せる。
(やはり、私は甘いのでしょうか・・・・・・?)
抱きついてくるロ−ラに、くすぐったさを感じつつ、フィルは内心つぶやいた。空を、見上げる。
(自分自身にも・・・・・・)
・・・・・・悲しげに揺らめくその瞳は、虚ろで、空よりも遠くを見つめているようだった。・・・・・・本当に、良い天気だ。





その後、片っ端から謝って回った。北は魔術師ギルドから、シーヴズギルド、役所、北はエンフィールド学園、船会社。最後に自警団事務所へと。
フィルは、エンフィールドで善人として知れ渡っており、職業柄もあってか顔も広いし、信頼も厚い。彼が付いていったのと、ローラの心からの反省もあり、ほとんどの人々と10分もかからずに、和解できた。
逆に、手こずったのは魔術師ギルドである。ギルド長は、ローラが、『ヨポヨポのおじーちゃん』と言った事をまだ根に持っていたのだ。問答無用で呪文を唱え出し、かなりの大騒ぎになった。・・・・・・フィルの説得もあり、何とか和解できたが。・・・・・・一時間くらい掛けて。
・・・・・・それともう一カ所。エンフィールド学園で、違う意味で手こずった。まず校長室へ赴き、彼に頭を下げる。その後フィルが、考古学の生徒たちはどこかと聞くと、いま丁度授業中だから、と言って、校長自身が案内してくれた。
フィルは仕事で、何度かこの学園に来た事があったので、場所を教えてくれれば十分だったのだが・・・・・・その辺りは、校長の配慮だろう。フィル自身も、この学園の考古学の教授は、変わり者だと聞いていたので、とても感謝していた。その教授が渋っても、校長がいてくれれば問題ないだろう。
(ここは早く話が着きそうですね・・・)
フィルはそう思っていた。・・・・・・まあ、幽霊騒ぎに関しては、すぐに話が着いた。
「・・・・・・そう言う理由があったのです」
「・・・ゴメンナサイ・・・・・・」
フィルの説明が終わり、ローラが頭を下げた。
しばらくの沈黙・・・・・・。
教室を見渡すと、当たり前だがクリスやシェリルの顔も見える。全員、もう根に持っているようではなかったが、誰から言い出したらいいか分からないようだった。
「もうそんな事はいい!」
力強く言ったのは、変わり者の・・・・・・ハモンド教授だった。注目を浴びる中、彼は生徒たちに向かって更に言う。
「構わないな?諸君、こうしてしっかりと謝っているのだから!」
勢いに押され、彼らは全員コクコクと頷いた。彼を知るほとんどの者が、耳を疑った。彼の事だから、逆に渋ると思ったのだ。フィルには、ハモンド教授が、ローラを庇っているのではなく、早く話を終わらせたい、という風に映った。
だが、許してくれると言うのだから、彼らとしては文句はない。フィルは、ハモンド教授と生徒たちにニッコリと笑いかけた。
「ありがとうございます、皆さん」
・・・・・・大半の人が、その笑みを見て、顔を赤く染める。無事だったのは、年が行って落ち着いた校長、生徒の方を向いていてその笑みを見ずに済んだローラ、免疫ができているクリスとシェリルである。・・・・・・後はハモンド教授。
「いやぁ、お礼なんて良いのだよ。・・・・・・それより、君に聞きたい事があるのだよ」
「私に、ですか?」
訝しげな顔をするフィル。内心、嫌な予感を抱きながら。
「そう・・・・・・。諸君!教科書の口絵9番を見たまえ!!」
生徒たちは唐突に指示を出され、慌てて教科書を開く。教授自身は、手元にある資料の中から、一枚の絵を取り出し、黒板に貼り付けた。・・・・・・フィル以外、全員が、はっと息をのんだ。
「これを見たまえ!これは、マリオン島の遺跡で見つかった壁画のコピーだ!ここから解るように、あの島の遺跡で見つかった絵。それに描かれた人々は、全員、このように描かれていたのだよ!・・・・・・そう!光と闇の瞳にな!」
ここで、ビシィ!!とフィルを指さした。
教授の言う通り描かれた人々は、光と闇の瞳を持ち、天に向かって祈りを捧げていた。天にあたる場所には、何かの獣、何かの道具、色々な人々が描かれている。
全員が、フィルに注目する。彼は困ったようにハモンド教授を見返す。
「くっくっく・・・。私が教えてもらいたいのは、他でもない。その瞳の事だ!」
据わった目で彼を見る。一般人だったら一発で怯えるその瞳。・・・・・・現に、矛先とは無関係の筈のローラも、怯えてフィルにしがみつく有様だ。・・・・・・それに対し彼は、依然困ったように教授を見る。
「これは・・・・・・医者からは、突然変異と言われたのですが・・・・・・」
「ふん!突然変異で、そんな瞳になるか!」
教授は、スッパリと一蹴する。
「そう言われましても・・・・・・そうとしか言われていませんし・・・・・・」
あくまで、困ったなあ、といった調子のフィル。
「では、出身地は?」
「秘密です」
キッパリと。自分の質問に答えない彼に、教授は深い笑みを浮かべる。
「くっくっく・・・。言えないというのなら、やはり何か関わりがあるな?・・・・・・ますます気になってきたな・・・」
ざっ・・・、という効果音でも付きそうに。彼は一歩、フィルの方に踏み出した。教授の纏うその雰囲気に、生徒たちは身じろぎをし、ローラは不安そうに、彼にしがみつく。校長は、『とめた方がいいかなぁ』といった顔をしている。肝心のフィルは、肝が太いのか、全く怖じ気づきもしないで、やはり困ったように、
「申し訳ありません。他にも廻らなければならない所があるので・・・・・・誠に勝手ながら、おいとまさせて頂きます」
一方的にそう宣言すると、ローラの手を取り、教授に背を向ける。だが・・・・・・。
「そうはいかぁ〜ん!!・・・はぁ!!」
掛け声と共に、教授が高く飛び上がる。
 ダンッ!!    すたっ
『おお〜!!』
生徒たちがドヨめく。教授は、高く飛び上がったその勢いで、天井を蹴り、ドアの前に着地するなどという離れ業をやってのけたのだ。・・・・・・なぜ考古学の教授が、そんな事ができるか・・・・・・それは、永遠の謎である。皆がドヨめく中、彼は得意気な顔でニンマリと笑った。
「いやぁ、やはり人は見かけに由らないものですねぇ」
フィルは、アルベルト辺りがいたら、『そう言う問題かよ!』と100%ツッコミを入れるであろう感想を漏らす。教授は余裕の笑みを浮かべたまま、二人に迫る。
「でも、その話は不毛になりそうなので、やはりおいとまさせて頂きます」
再び、一方的に宣言すると、ローラをひょい、と抱き上げた。事の成り行きに呆然としていたローラは、突然の事に慌てたが、反射的に彼の服をつかんだ。
そして彼は、後方に跳び、開いていた窓から外へと飛び出した。
『おお〜!!』
再び、生徒たちがドヨめく。言うだけなら簡単だが、かなりの離れ業である。しかも、『後方へ跳んだ』と言っても、3から4メートルの距離を一気に跳んだのだ。ちょっと見る事のない光景である。
慌てて教授は窓に駆け寄ったが、既に彼らは、見えなくなっていた。
「くっくっく・・・。やられたよ・・・・・・だが、必ず君の秘密を暴いてみせる・・・・・・く・・・くっくっくっく・・・・・・」
一人、不気味な笑みを浮かべる教授。生徒と校長は、彼を奇異の目で見つめていた・・・・・・。一人、シェリルが何かを考え込んでいるようだが・・・・・・。







「・・・・・・ねぇ、お兄ちゃん」





「何です?」





「・・・・・・お兄ちゃんの出身地って、どこなの?」





「ふふっ・・・秘密です」







 あとがき


どうも、わ〜のです。掲示板を見ていただければ分かると思いますが、何とか後一個。近い内に送ります。(テンション低っ)
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