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死神の奏でる幻想曲 第六話
わ〜の



「ふむ、そういう事か・・・・・・」
カッセルは、フィルの話を聞いて、そう漏らした。話とは、ローラの一件である。齢100を越えるという噂を持つ彼なら、何か知っているかも知れない。そう踏んで、フィルは彼の住む小屋へと足を運んだのだ。
「どうでしょう、そのような話を聞いた事はございませんか?」
彼は、真摯な瞳を彼に向ける。対して、カッセルは下を向いて黙り込んでしまった。別に体調が悪い、と言う訳ではない。彼は、昔の記憶を掘り起こす時、決まってそうする癖があるのだ。
それが分かっているので、フィルは静かに、彼の口が開くのを待った。・・・・・・しばらくの、沈黙。
「・・・・・・確かに、そのような噂は聞いた事がある・・・・・・」
フィルは、黙って先を待つ。
「儂が生まれる少し前、このエンフィールドに流行病が蔓延したそうじゃ・・・・・・当時、街一番の金持ちが、一人娘を、100年後の医療技術に賭け、魔法で眠りにつかせた・・・・・・そう聞いた事がある・・・・・・その家は、儂が物心付いた時には、何の変哲もない農家になっていてな・・・・・・子供の無い夫婦が、住んでおった・・・・・・人当たりが良く、近所の評判も良かった・・・・・・聞いた話によると、娘を助けるために、全財産をなげうってしまったそうじゃ・・・・・・」
「親の愛とは、美しいものですね・・・・・・」
彼の昔話を聞いて、フィルは微笑んだ。その笑顔は誰の目にも純粋なものに映っただろう。カッセル自身にも。
だが、フィルの過去の断片を知る彼には、その笑顔が作り物のようにしか見えなかった。
「面の皮の厚い奴じゃのう・・・・・・」
「悲しんでも、仕方がない・・・・・・そうではありませんか?」
ため息を吐きつつ言う彼に、フィルはやはり、笑顔を向ける。・・・・・・いつも通り、慈愛に満ちた笑みだ。
「・・・・・・御主はそう悟ったように振る舞っておるが・・・・・・本当は、癒されていない・・・・・・そう見えるのは、儂だけだろうか・・・・・・」
「どうでしょうかね・・・・・・?」
彼の瞳を真っ直ぐに見てくるカッセルに、彼は、やはり微笑んで返した。





 理由

朝。人々が、仕事に取りかかろうととする時間。フィルは、穏やかな瞳で空を見上げつつ、のんびりと歩いていた。端から見れば、危なっかしい光景だが、何かにぶつかるという事がないので、多分問題はないのだろう。
今日は非番。フィルは、のんびりと散歩をしていた。・・・・・・周りから見れば、そう映っただろう。だが、その実、深く考え込んでいた。何を考え込んでいるかというと・・・・・・ローラの『肉体』と、『魂』の件である。
彼は、それらを見つけるため、魔術で『探索』してみたのだが・・・・・・全く見つからなかった。
・・・・・・とは言っても、ローラの『肉体』と『魂』が滅びている、という事ではないだろう。前に言ったように、『魂』が無くして存在できないのだから。
それと、話を聞いて分かったのだが、彼女の家はかなりの金持ちだったらしい。・・・・・・それならば、その財力を使って、彼女の『肉体』と『魂』を、厳重に保管した可能性があるのだ。魔術で『検索』できない程に。
ならばどうやって探すか・・・・・・。聞き込みと言っても、事が100年前になると、唯一情報源として思いつくのは、カッセルくらいである。彼の年齢は定かではないが、100歳を越えている、と言う噂があるのだ。それが間違いであっても、少なくとも90は数えているだろう。それならば、100年の眠りについた少女の噂を、若い頃に聞いた事があるかも知れない。
そう思って話を聞きに行ってみたのだが・・・・・・話は聞いた事があるが、場所までは分からないらしい。そこで彼に、少しでも可能性のある場所を全て挙げてもらい、フィルはそれを、メモ用紙にしたためた。・・・・・・その数、100強。
気の遠くなるような数字だが、フィルは顔色一つ変える事はなかった。気長に探していけば、不可能な数字ではない。彼は、自警団という多忙な職業のせいで、あまり時間はないが、早速今日にでも探しに行ってみようと考えていた。
(まあ、一つ一つ当たってみますか・・・・・・)




からんからん・・・
「いらっしゃーい・・・あら、フィルじゃない」
「こんにちは、皆さん」
パティの元気な声に迎えられ、フィルはさくら亭へと入った。そこにはパティの他に、シーラと、混雑を避けて、朝食を遅めに取っているリサがいた。
「お久しぶりですね、シーラさん」
彼女とは、久しく顔を合わせていなかったので、そう微笑み掛けた。彼女は、男性に免疫がないのだが、フィルに取っては素直に喜べない事ではあるが、その外見からか、割とすぐに話せるようになった。・・・・・・彼が微笑むと、その可愛らしさに、少し赤面してしまうが。
「こんにちわ、フィルさん・・・」
今回も、微笑みかけられ、少し赤く染まりながらも、割としっかりとした調子で返事をした。
「今日は、どうしたの?」
席に座った彼に、パティは紅茶を出しつつ聞いた。彼はこういう時、必ず紅茶を注文するのだ。対して彼は、辺りを見回しつつ、
「こちらにローラさんがいると伺ったのですが・・・・・・いないようですね・・・」
「ああ、あのお嬢ちゃんならさっき、『友達と遊ぶ約束がある』って言って、出ていったよ」
リサの答えに、彼は、本当に嬉しそうに笑った。シーラが、またも顔を赤く染める。リサとパティは、彼の微笑みには慣れているため、平気である。代わりにリサは、呆れたように彼を見る。
「あんたホントに、ある意味アレフ以上の女の敵だよね」
「そうそう、あんた、女の子たちの間で目をつけられてるしね」
リサの台詞に、パティが付け加える。
・・・・・・ちなみに、『女の敵』というのは、彼の場合、その容姿のために、女性たちの『女のプライド』を、著しく傷つける事が多い事である。事情を知らない男性に対し、マリアが、フィルと並んで、『どっちが可愛い?』と聞いた事があるのだが・・・・・・結果として、その男性は、マリアの魔法でボロ雑巾となった、と言っておこう。
・・・・・・『目を付けられている』と言っても、アレフのように色恋沙汰ではない。『その美しい肌や髪は、どのようにして保たれているか』という点で、である。彼の家をガサ入れするのは、トリーシャくらいだが。
だが、本人は、その辺をもう割り切っているため、あまり気にしない『ように』しているようだ。今回も、軽く笑って受け流すに留める。
「しかし、ホッとしましたよ」
「ローラの事?」
改めて言う彼に、パティが聞いた。彼は小さく頷く。
「街に馴染めるか・・・・・・正直、不安だったのですが・・・・・・友達がいるという話を聞いて、安心しました・・・・・・」
彼は、本当に穏やかな表情を浮かべる。誰かのために、本当に喜んでいる顔だ。それ以外、他にない・・・・・・そんな顔。リサは、それを見てため息を吐いた。
「フィル、あんたって・・・・・・改めて思うけど、心の底から、お人好しだね・・・・・・」
「ありがとうございます」
「ははは・・・。あんた程人がいいと、ホント、サッパリするよ」
少し皮肉を込めて言ったつもりが、笑顔で感謝されてしまい、思わず彼女は苦笑した。リサは最初の内、彼のその性格にイライラしたものだが。パティも、リサに賛同して笑う。
「あの、フィルさん・・・」
「?、何です?」
その時、シーラが彼の名を呼んだ。これはかなり珍しい事で、パティとリサは少し驚いたが、フィルは別段そういった様子もなく、彼女に顔を向ける。
シーラは、少し気後れしつつ、口を開く。
「フィルさんは・・・・・・その、・・・何でそんなに、他の人たちの事を、一生懸命助ける事ができるんですか?・・・・・・どうしてそんなに、喜ぶ事ができるんですか・・・?」
彼女は、前々から不思議に思っていたのだが、先程の彼の表情を見て、思い切って聞いてみようと思ったのだ。・・・・・・対して彼は、ふふっ・・・と笑った。
「そうですね・・・・・・理由は、特にありません・・・・・・まあ、強いて言えば、『喜びを分かち合いたいから』でしょうか」
「喜びを・・・・・・?」
「はい・・・・・・喜びは、魂を強くし、浄化します・・・・・・誰かを助けるために、その誰かと共に努力をし、それが喜びに変わった瞬間・・・・・・そのために私は、人を助けるのです」
「そうなんですか・・・・・・」
彼の言い分に、シーラは、尊敬の目で彼を見た。彼女の今までの人生では当たり前だが、こんな考え方を持った人物に会ったのは初めてだったのだ。
「ふぅん。じゃあロ−ラの件もその理由で?」
問うパティに、フィルはやはり、笑顔を向ける。
「ええ、その理由です・・・・・・それに・・・・・・」
「それに?」
言葉を切る彼に、問い返す。ふわり、と。彼から、慈愛があふれてくる。
「あんなに小さな子が、孤独で震えているというのに・・・・・・放って置く事などできません」
・・・・・・言う彼を見て、リサは思わず苦笑した。





「あんたはやっぱり、究極のお人好しだよ・・・・・・」








 あとがき

どうも、わ〜のです。第六話、これだけです。『拍子抜け』という人、ごめんなさい。でも、これでいいんです。これで。フィルは、こういう考えの持ち主だ・・・・・・それが伝われば、十分なんです。
受験が終わったら、1st主人公を登場させようと思います。
二ヶ月後に、また投稿するので、その時まで待ってやって下さい。くれぐれも、お願いします。・・・・・・くれぐれも。
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