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死神の奏でる幻想曲 第七話
わ〜の


 誕生の森。エンフィールドの近くにある森林である。
 其処を、一人の青年が歩いていた。
 荒い息を吐きながら。昼なお暗く、文明の波も畏怖し、近付かぬ其処を。
 魔物たちの棲息する、誰もが絶対に一人では立ち入らぬ其処を。
 なぜだか解らないが、ノートくらいの大きさの黒い鉄板のような物を、後生大事に抱えている・・・・・・持ち物といえば
それだけである。武器の一つも持っている様子がない。
 なぜ、この森を、武器も持たずにたった一人で歩いているのか・・・・・・。腕に覚えでもあるのか、自殺願望者か、余
程の命知らずか、どれであろうか?・・・・・・だが、この青年は、少なくとも自殺願望者ではないようだ。
 手入れも何もなっていない、バサバサに伸ばした金髪。その長い髪の下から覗く、片眼鏡をかけた黒曜石のような
瞳。その瞳が抱くのは、強い意志、生への執着・・・・・・自殺願望者には、持つ事の出来ない瞳だった。
 彼の着ている衣服は、所々が破け、血に濡れている。血は既に止まっているようだが、その人間の足取りは、覚束
ない。体力の消耗が激しいようだ。
 肩を上下させつつ・・・・・・歩く・・・・・・だが・・・・・・何かにつまずいて、倒れた。
「・・・・・・ぐ・・・・・・」
 青年は、小さく呻いた。それだけであった。・・・・・・立ち上がる体力すら、残っていないのだ。
 それでも何とか歯を食いしばり、顔を上げる。
「・・・・・・くっ・・・・・・後、少しで・・・・・・人里が・・・・・・」
 呻くように、声を漏らす。彼は、ただ彷徨っていた、という訳ではない。人の使っているらしい道を、ひたすら歩いてい
たのだった。そしてついに、森を抜けようかという所まで、辿り着いたのだが・・・・・・もはや、立ち上がる力すら、残って
いない。
「・・・・・・っ・・・・・・」
 顔を上げる力も、尽きてしまった。頭を落とし・・・・・・それでも何とか、力を入れようとするが・・・・・・もはや、指一本
動かせない。それどころか、段々と、心地よい睡魔がおそってきた。
(・・・・・・やば・・・・・・)
 青年は、それに抵抗する。だが・・・・・・抵抗むなしく、意識が、遠のいていく。
(・・・・・・いっそのこと、一眠りするか・・・・・・)
 ・・・・・・この眠りが、永遠の眠りである可能性を、思考のどこかに追いやって・・・・・・心地よい闇へ、意識を手放す。

 彼が、意識を闇へと手放す直前に聞いたのは・・・・・・呑気な鳥のさえずり・・・・・・単調な木々のざわめき・・・・・・誰
かの・・・・・・声・・・・・・。






   流れ者


 「・・・・・・ん・・・・・・」
 彼が再び目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。
「ここは・・・・・・」
 白い天井、白い壁、白いベッド、白いカーテン、白い・・・・・・。見知らぬ部屋だが、大体どんな場所か見当がつく。辺
りに漂う、あの独特な匂い。
「・・・・・・生体実験施設か。」
「違う。」
 一人でボケたつもりだった。しかしそのボケに、突っ込みを入れる声があった。その声の方向に目線をやると、白衣
の男が立っていた。やや鋭い目つきに、眼鏡をかけている。その手にはカルテ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 二人の視線が交錯し、一瞬の沈黙が支配する・・・・・・。
「・・・・・・ふっ。冗談だ。少しボケてみただけだ。病院だな」
「そうだ。ここはクラウド医院。お前は近くの森で倒れている所を発見され、三日間眠っていた」
 無意味に気取った口調で青年。それをカケラも気にした様子もなく、淡々と返す医者。
「・・・・・・あんたが助けてくれたのか?」
「いや、俺は運び込まれたお前を治療しただけだ」
 やはり淡々と言葉を返す。彼はカルテに目線を落とし、何事かを書き込んでいく。その間に青年は、無造作にベッド
から半身を起こし、手を伸ばして白いカーテンを開けた。日差しが差し込み、彼のバサバサに伸びたボサボサの金髪
が更にボサボサに見えた。朝というには遅い、昼というには早すぎる、といった時間帯である。そこから見える通りに、
人の姿はあまり見当たらない。
「名前は何という?」
 医者がカルテを記入する手を止め、顔を上げた。先程からこの医者、能面のように表情が動かない。 青年は、外見
通り大雑把な性格なのかそんなことを気にした様子はないが。
「レアーだ」
「名字は?」
「秘密だ。・・・・・・スリーサイズは聞くなよ」
「聞くか。」
「ふっ。冗談だ」
 青年・・・レアーがそう言ったときには、既に医者はカルテに目を落としていた。
「俺はトーヤ・クラウドだ。お前は犯罪者ではないようだからな、深くは聞かない」
「ありがとよ」
 礼を言って、にかっ、と笑う。バサバサの髪が顔を半分以上隠している、という怪しい風貌。だがそうやって笑うと、妙
に愛嬌があり、空気が和んだようだった。
 トーヤは釣られて、ふっ、と軽く微笑み、再び口を開く。
「お前を助けた連中に礼を言いに行け。無理なことをしなければ退院しても構わない。」
「そうか・・・世話になったな」
 そう言って彼は、ひょいとベッドから降りると、サイドテーブルに置いてあった片眼鏡をかけ、唯一の持ち物である黒
い鉄板を小脇に抱えた。そのまま病室を出ていこうとして・・・・・・
「待て」
 トーヤに呼び止められた。
「一つ聞きたいことがある」
「・・・・・・何だ?」
 不思議そうに振り返る。
 彼はやはり無表情のままレアーの顔を見る。長い髪のせいで、口元から下しか見えないが。
「その格好で出ていく気か?」
淡々とした口調で聞いた。
「・・・・・・うっかりしていた・・・・・・」
 患者用の寝間着を着たまま出て行こうとしたことに、レアーはたった今気が付いた。






  あとがき

 ひさしぶりっ!短いっ!調子でないっ!・・・・・・この辺は勘弁してください。これだけで感想も何もあったモンじゃない
と思いますが、下さったら嬉しぃなぁ〜♪と愚考の次第です。
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