中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲 第九話
わ〜の





  「な・・・・・・」

 そこで、影の言葉は途切れた・・・・・・首を薙がれて。
 
 その首は、地に落ちることもなく・・・・・・残された体は、地に臥すこともなく・・・・・・跡形もなく、消え去った。
 
 俺は、影を薙いだ武器を、無造作に肩に掛けた。・・・・・・いびつな、大鎌だ。
 
 ゆっくりと、辺りを見回す。・・・・・・そこには、ただ呆然と立ちつくす、他の影たち。
 
 目の前で起きたことが理解できていない影たちに・・・・・・俺は、無言で襲いかかった。
 
 また一つ、影が消える。
 
 そこに至って、ようやく理解したらしい・・・・・・目の前の・・・・・・自分たちの創った『兵器』と思いこんでいたモノが・・・・・・自分たちを、破滅させようとしている、ということを。
 
 慌てて逃げ出す。止めようと、反撃しようとは、毛頭考えていないようだ。
 
 それは、俺のチカラを承知していて、自分たちの手には負えない、と理解しているのか・・・・・・それとも、ただ怯えて、気が動転しているのか・・・・・・。
 
 ・・・・・・たぶん、後者だろう。影たちは、自分自身が命の危険に晒されることを、あまり経験したことがないようだ・・・・・・椅子にふんぞり返って、アゴで指揮をする、という経験は多々あるようだが。
 
 影たちは、さらに数を減らしつつ、『扉のようなモノ』を通り抜けた。俺も続こうとして・・・・・・目の前で、扉が消えた。
 
 再び辺りを見回しても・・・・・・目に付くモノは、光、光、光、光・・・・・・・・・・・・それだけだ。
 
 影たちは、これが狙いだったのだろう。俺を、この光の海に、閉じこめることが。
 
 ・・・・・・再び辺りを見回す・・・・・・
 
 






 ・・・・・・出口は・・・・・・無い・・・・・・







  兆候


 「そうねぇ、あの髪の毛は、何とかした方がいいと思うけどねぇ。でも、あの『丈夫で汚れが簡単に落ちる魔法繊維』を発見した人でしょう?あれは私たち主婦の味方よねぇ。亭主は汚れ仕事だし、遊び盛りの息子が3人もいるから、あれが製品化されると助かるわねぇ・・・・・・」(主婦・30歳)
 「あの髪は何とかした方がいいと思う・・・・・・『何で?』なんて聞く必要ないでしょ!これでもかってぐらい怪しいし、何より怖いわよ!・・・・・・ん〜〜、でもあの人、にかっ、て笑うと、何かカワイイのよね・・・・・・」(女学生・17歳)
 「・・・あ?あの流れ者か?まあ、一言で言って胡散臭いな。ノォブル賞受賞者だか何だか知ねぇが。・・・・・・まったく、アリサさんは人がいいからなぁ・・・・・・あんな奴を拾っちまって・・・・・・」(飲食店経営者・52歳)
 「おとおさんとおかあさんはね、『あのひととはなしちゃいけません』っていってたよ。でもフィルおにいちゃんは、とってもいいひとだっていってたよ。」(エンフィールド幼稚園生・5歳)
 「悪い人だ、と一概に決めつけることはできませんけれど、信用できる人、とは思えませんね」(役所職員・28歳)





 これこのように、レアーの評判は・・・・・・微妙だった。
 『良い』とは言えないが、怪しい流れ者の割には、そう『悪い』とも言えない・・・・・・といったところ。
 この要因として挙げられるのは3つ。
 一つ目はやはり、ノォブル賞受賞者という名声。主婦、家政婦の皆さんから、大いに歓迎された。ローレライ洋服店との提携を求める声も、多数聞かれる今日この頃である。
 二つ目は、エンフィールド屈指の人望の持ち主たちが、彼をとても信頼している、ということだ。・・・・・・アリサとフィルである。この二人のお陰で、レアーが直接批判に遭うことは一度もなかった・・・・・・陰口を叩かれることは、しばしばであったが、彼はそんなことを気にする程、繊細な神経を持ち合わせていない。
 三つ目として挙げられるのは、彼自身の、どこか愛嬌のある笑顔、であろう。暴走したときの高笑いは、例外を除いて、怯えるか退くかどちらかだ。・・・・・・しかし彼が白い歯を見せて、にかっ、と笑うと、なぜか憎めないのである。容貌に似合っていないその笑顔は、なぜかその場を和ませる。
 こういった事情もあって、レアーの評判は、そう悪いものではなかった。




 ・・・・・・しかし・・・・・・自警団にとっ捕まった、という話が広まれば、話はだいぶ違ってくる。




 「よし、引っ捕らえろ!」
「ほぇ?」
 ジョートショップに帰ってきた早々、アルベルトの声と、一斉に飛び掛かってくる自警団員たちがお出迎えした。ものすごく間抜けな声を上げたレアーは・・・・・・あっさり捕まってしまった。
「おい!何のつもりだ!」
「やかましい!とぼける気か!」
 我に返って食って掛かる彼に、アルベルトは逆に怒鳴りつけた。
「とぼける、だと・・・・・・?・・・・・・まさか!」
 そこでレアーは、何かに思い当たったかのように、目を見開いた。
「へっ、やっぱり、身に覚えがあるらしいな」
「おまえら・・・・・・俺のグレェトな才能に嫉妬して・・・・・・!」
『んな訳あるかあぁぁぁ!!』
 彼のボケに、声を揃えてツッコミを入れる自警団の面々。
 この青年、本気の時も冗談の時も、同じ真顔でボケるのだ。一体どこからが本気で、どこからがわざとかは、判別することはとても困難である。今回は・・・・・・
「レアー君・・・・・・今のは本気かね?それとも冗談かね?」
 レアーは、リカルドの問いに答えずに・・・・・・自分の真後ろにいる団員に、強烈な頭突きを食らわせた。その瞬間、わずかな捕縛の綻びが現れる。その隙を逃さず、両脇を固めていた二人を、力任せにぶん投げて、床に叩き付ける。
「てめぇ!」
「待て、アルベルト」
 その様子を見て、アルベルトが吼えて彼に槍を向け・・・・・・リカルドに止められた。
 対するレアーは、口をへの字に曲げて彼らを睨みつけた・・・・・・長い前髪のせいでよく見えないが。
「安心しろフォスター。さっきのは二割は冗談だ」
「残りの八割は?」
「・・・・・・とにかく、あんた等に捕まるような事を、俺はやった覚えはない」
「話を逸らしてるっス」
 ボソッ、とテディがツッコミを入れるが、彼はそれが聞こえない振りをした。
「理由も解らずに拘束されてやる程、お人好しでもない」
 そう言って、持っていたドコデモ・ノートクンを開いた。中から、ナゾの物体が多数吐き出され、彼の周りに展開する。そして、今まで以上に視線を鋭くし、こう宣言した。
「・・・・・・答えろ。なぜ俺を拘束しようとした?」
 辺りに、沈黙が訪れる。
 彼を取り巻いている物は、まず間違いなく、彼オリジナルのマジックアイテムだろう。自警団側は、この物体がどんな効果を持っているか判らないので、迂闊に突っ込む気にはなれなかった。それ以前に彼の友人であるフィルから、彼のマジックアイテムの威力を聞いている。どんな物かも分からない威力を、身をもって味わいたい、という人間はいなかった。
 ナゾの物体が、妖しげな輝きを放ち始める。
「・・・・・・何も言わなければ、自分の自由のために、問答無用でお前等を始末する」
 彼の加えた補足。その後の沈黙は短かった。
「いいだろう」
「隊長!?」
「考えてもみろ。ここで争うことになれば、ジョートショップに迷惑が掛かることになる」
「う・・・」
 リカルドの一言に、アルベルトは何も言えずに沈黙した。憧れであるアリサの店に迷惑をかけるなど、彼にはそれこそ死んでもできないであろう。
 ちらりとアリサの様子を見ると・・・・・・テディを抱いて、不安げな表情で、事の成り行きを見ていた。
 アリサを掛け合いに出されると、彼は本当に弱いのだ・・・・・・仕方なく引き下がる。
 レアーは、マジックアイテムを引っ込めたものの、未だに鋭い視線でリカルドを睨みつけていた。
「・・・・・・昨夜、フェニックス美術館で強盗事件が起こった。犯人は、歴史的・文化的価値も高い美術品を十数点も盗み、見とがめた警備員を魔法で攻撃、逃走した」
 リカルドの説明を、レアーは少なくとも表面的には、冷静に聞いていた。
「犯人と警備員が交戦した際、犯人のしていた眼帯がはずれたらしい。その顔は・・・・・・」
「俺だった、と言うのか」
 口を挟む彼に、リカルドは小さく頷いた。
「正確に言うと、警備員から聞いた事は犯人の顔の特徴だけだ。その他の目撃証言を統合して、我々は君を容疑者として挙げた。・・・・・・家宅捜索を行うため、ここへ急行した。その際、君は出掛けていて居なかったが・・・・・・アリサさんの立ち会いの元、君の部屋を捜索した所、盗まれた美術品の全てが発見された」
「何かの間違いです!」
 そう叫んだのは、疑われている本人ではなく・・・・・・今まで黙っていたアリサであった。不安のためか、テディを強く抱きしめている。
「アリサさん・・・・・・あなたの立ち会いの元、美術品が発見されたのですよ?」
「それでも・・・信じられません!この子は、盗みをするような子じゃないんです!」
 いつものおっとりとした彼女からは、想像もできない激しさに、アルベルトのみならず、リカルドまでもが困惑した。その点ではレアーとテディも同じであるが。
 彼女は更に言い募る。
「お願いします。もう一度、調べ直して下さい!」
「・・・・・・分かった、大人しく付いていくよ」
 溜息と一緒に吐いたような一言。・・・・・・他ならぬレアーだった。全員が驚いて彼を見る。
 彼は、先程の鋭さを消していた。代わりに・・・・・・何も、感じさせなかった。怒りも、憎しみも、悲しみも。・・・・・・恐ろしい程無表情に、彼は口を開く。
「断っておくが、俺はやっていないぞ。・・・・・・言いたい事も聞きたい事も色々あるが、ここで騒いでもアリサさんに迷惑を掛けるだけだからな」
「いいのかね?」
「あんたの心配する事じゃないだろう?」
 リカルドの問いを一蹴すると、彼はアリサの方を向き・・・・・・いつもの調子で、にかっ、と笑った。
「大丈夫ですよアリサさん、すぐに帰ってきますよ」
「でも・・・・・・」
「俺はやっていないんです。・・・・・・信じてくれないんですか?」
「・・・・・・そんなことはないけど・・・・・・」
「でも心配ッス!」
 声を上げるテディをくしゃくしゃっ、と撫でる。
「すぐに帰ってくるさ・・・・・・」
 一方的にそう言うと、彼は先に店を出ていってしまった。
 慌てて追う自警団の面々。
 最後にリカルドが敬礼し、出ていくと・・・・・・そこに取り残されたのは・・・・・・
「レアーさん、大丈夫ッスかねぇ?」
「・・・・・・きっと、大丈夫よ・・・・・・」





 「彼はやっていません!」
「しかし。そうは言っても。目撃証言と証拠が揃っていて、彼を犯人でないという根拠は・・・・・・はっきり言って、無いに等しい」
 いつものおっとりした彼からは想像できない程の激しさに、第一部隊隊長であるリカルドですら気圧されていた。
 レアーを地下牢に収容して尋問を行い、第一部隊の控室に戻り椅子に腰掛けた所で・・・・・・彼がノックもなしに、扉が吹っ飛びそうな勢いで乗り込んできたのだ・・・・・・止めようとする友人を、引きずりながら。
 そして開口一番、『何かの間違いです!』である。
「彼は美術品になど興味はありませんよ!」
「金銭目的、と考えられるが?研究費がかさんでいたとか・・・・・・」
「お金にも、材料にも、難儀をしてなどいませんでした!」
 リカルドの意見を、一蹴する。瞳がメラメラと燃えている。
 ・・・・・・リカルドを睨み付けつつ、暫く黙ったかと思うと・・・・・・何を思ったか、くるり、ときびすを返し、ドアへと向かう。
「待ちたまえ」
 その行動に、何かを感じたリカルドは、出ていこうとする彼に声を掛けた。
「何を考えているのだね?」
「第一部隊隊長の貴方には、関係のない事です」
 つっけんどんにそう言うと、再びドアを壊しそうな勢いで出ていった。
 ・・・・・・そこに取り残されたのは・・・・・・
「何なんだ?・・・・・・あれは・・・・・・」














 「おい、レアー」
 心地よい眠りを、台無しにする奴がいた。
 町を見下ろす、小高い丘。柔らかい、絨毯のような下草。清々しい、どこか甘い香りのそよ風。暖かい、包み込むような日差し。
「おいレアー、起ろ」
 俺は知ってる。こいつは、俺の睡眠になど欠片も気を遣わない奴だ。
 煩いな・・・・・・。
 無視をする。目を開けなくても、誰だか分かるから。
「起きないなら・・・・・・」
「起きてるよ」
 目を開き、そいつを横目で見やる。
 予想した通り、そこには、自分より年下の親友。手には、凝縮された魔力の塊。
「お前、今俺が返事しなかったら・・・・・・」
「これを、ぶつけていた」
 無愛想に言いながら、手にあるそれを無造作に消す。
「ったく、相変わらず過激な・・・・・・可愛い顔が台無しだぜ」
 ごもっともな意見を言ってやったが、奴は鼻で笑って受け流し、俺の横に腰掛けた。
「で?俺の快眠を妨げる理由は何だ?」
「聞くまでもないだろう?最近の『異変』の件だ」
「やっぱり?」
 ま、予想してたけどな。その件についてなら、俺もこいつと話したいと思ってたし。
 身を起こし、意味もなく町を眺める。俺は、ここからの風景が好きだった。町に買い出しに来る時は、必ずここで一眠りしている、お気に入りの場所だ。・・・・・・こいつと初めて会ったのも、ここだっけ。
「どう思う?」
 聞くと、奴は一瞬沈黙し、口を開く。
「・・・・・・やはり、連中の仕業だろう」
「俺も同じ意見だ。・・・・・・残党狩り、ってやつだな」
「ああ・・・・・・」
 覇気のない返事だった。こいつにしては珍しいことだ。
 こいつは、『この件』の話になると、いつも憂鬱な顔をする。・・・・・・悲しげな、虚ろな・・・・・・。
「もったいない。こんな可愛い子が男だなんて」
「ケンカを売っているのか?」
 憮然とした表情で、俺を軽く睨む。
 俺はこいつの気を紛らわすために言ったのだが・・・・・・それが分かっているから、こいつも強く文句を言えないんだろう。
 互いに苦笑して、再び町を眺める。

 しばらくの沈黙・・・・・・

「おい、起きろ!」
「うわぁ!」
 急に聞こえた怒鳴り声に、俺は思わず声を上げていた。慌てて辺りを見回す。だがそこには、キョトン、とした表情をした親友が一人。
「どうした?」
「・・・・・・いや、さっき・・・」
「起きろって言ってんだろ!」
 またさっきの声だ。親友の声ではない、俺と同年代の男の声だ。しかも俺にしか聞こえない声。
 う〜む、俺も遂に逝ってしまったのだろうか?電波を受け取る異質な体質になってしまったのだろうか!?やっぱり『あの』研究がマズかったのか?
 そうこう考えていると・・・・・・
「起きないなら・・・・・・」
 や、やばい!このパターンは・・・・・・・



「お、起きてるおきてるおきてるってええぇぇぇぇぇ!!!」




 何の変哲もない地下牢。レアーは、固い石畳を、無言で転げ回っていた。が、
「頭殴るか普通槍の石附でえぇぇぇぇ!」
 がばぁ!といきなり立ち上がり、猛然と彼に食って掛かる。
「やかましい!すぐに起きないのが悪いんだよ!とっとと出ろ!釈放だ!」
「なに?」
 怒鳴り返してきたアルベルトの言葉に、レアーは思わず聞き返した。寝ぼけていた頭が、クリアになっていく。
 一瞬考えて・・・・・・
「・・・・・・俺の無実が証明されたのか?」
「そんな訳あるか!保釈金が支払われたんだよ!強盗傷害と、偽証罪で20万ゴールドだ!」
 再び怒鳴りつけるアルベルト。何やら虫の居所が悪いらしい。
 彼は思わず顔をしかめた。
「いちいち怒鳴るな・・・・・・で、誰が払ったんだ?そんな大金・・・・・・ひょっとして、アリサさんか?」
「他に誰がいるってんだ!」
「フィルとか」
「うっ・・・たしかにあり得る」
 思わぬ反撃に、アルベルトは思わず賛同した。あの、アリサと並ぶお人好しのフィルならば、確かにあり得そうな話だが・・・・・・
「だがあいつに蓄えはない」
「ん?結構いい生活してるように見えるんだが・・・・・・」
「あいつは、給料の九割を孤児院に寄付をしている」
「うわぁ。本格的にシューキョージンだな」
 その回答に、思わず棒読みで驚いた。アルベルトも、「まぁな」と苦笑する。
「・・・・・・じゃああいつ、どうやって生活してるんだ?・・・・・・九割って言うと、残るのはせいぜい200ゴールドくらいだろう?」
 更に質問すると・・・・・・アルベルトの目が、急に遠くなった。
「休みになると、森へ消え・・・・・・山菜を採ったり・・・木の実を採ったり・・・狩りをしたり・・・魚を釣ったり・・・・・・」
「う。」
「その際珍しいものを見つけると、それを旅の商人を相手に、物々交換したり・・・・・・」
「うわぁ。」
「いつだか、大顎月光魚を釣ってきた時もあったし・・・・・・」
「オイオイ」
「冬になると、大猪を担いで山を下りてくるし・・・・・・」
「・・・・・・」
「あいつの趣味、『優雅にお茶』なんだがな。そのお茶っ葉も、森の何処からか自分で採ってくるし・・・・・・」
「・・・・・・もういいよ・・・・・・」
「もう一つの趣味は、『芸術家をする』だ。石膏などの材料も、どこからか自分で掘り出してくる・・・・・・」
「・・・・・・アルベルト・・・・・・」
「なんだか、あいつって・・・・・・・・・・・・はっ!?何で俺は、こいつとこんな話をしてるんだぁ〜!?」
「自分でツッコミを入れてちゃ世話無いな・・・・・・」
 ようやく我に返った彼に、レアーは、ぼそっ、と呟いた。内心フィルの生態に驚きながら。
(・・・・・・あいつの宗教って、生臭はいいのか?今度、本格的に生態調査でもしてみるか・・・・・・)
 心からフィルに失礼な事を考えつつ、彼は未だに頭を抱えているアルベルトを後目に、勝手に地下牢から出ていった・・・・・・。
(それにしても・・・・・・)
 天井を、見上げる。
(変わった夢を見たな・・・・・・ったく、アルベルトのせいで忘れちまったよ・・・・・・)
 






 「くくくくく・・・・・・」
 真夜中。
 薄暗い部屋に、怪しすぎる含み笑いが響いた。
「・・・・・・任せて下さい、アリサさん!20万ゴールドくらい、俺がマジになれば、一年もあれば充分稼いで見せますから・・・・・・くくくくく・・・・・・」
 そんな独り言を呟きつつ、レアーは自室の机に向かっていた。その間も、ペンを動かす手は止まらない。ひたすら手元の紙に何かを書き込んでいる。メモ、計算、グラフ・・・・・・。
「アリサさんが、この土地を追われるなんて事態は、是が非でも避けなくちゃならないんだからな・・・・・・」
 昼間の事を思い出しつつ、自分を鼓舞する。
 流れ者の自分を、見ず知らずの自分を助けるために、かけがえのない思い出を懸けてくれた恩人のために・・・・・・。
「・・・・・・それはともかく・・・・・・」
 再び呟く。
「フィル、お前、何しに来たんだ?」
「貴方にお話がありまして」
 彼が、背もたれに肩肘を掛け、そちらを向くと・・・・・・窓から射し込む月光を背に、たたずむシューキョー自警団員。やたら行儀良く窓を閉める。
「・・・・・・夜這いか?俺にその手の趣味はないぞ」
「つまらない。冗談にもならない冗談は、お控え下さい」
 彼のボケに、いつもの笑顔で答え、机に置いてある大量の紙に注目した。
「・・・・・・何です?それ・・・・・・」
「『一年で20万ゴールド稼いで、尚かつ信頼ゲットだぜプロジェクト』の原案だ」
「分かり易いネーミングですね」
「そうだろう?」
 心から感心した口調のフィルと、心から自慢げな口調のレアー。
 もしこの場に、第三者がいたとすれば、『そんな事に感心するなよ』とか『そんな事でイバるなよ』と言ったツッコミが飛ぶだろう。
 だが、悲しいかなこの場には二人だけ。
「上手く行きそうですか?」
「何とかな・・・・・・で?話って何だ?」
 この質問に、フィルの表情が変わった。笑顔を消し、口を開く。
「・・・・・・貴方の、手助けがしたいのです」
「自警団員のお前が、か?」
「アリサさんが貴方の無実を信じるのと同じく、私も貴方の無実を信じていますから」
 皮肉気な口調のレアー。
 いつも通りの、穏やかな口調で語りかけるフィル。
 二人の視線が絡み合い・・・・・・レアーが、机に目を落とし、再びペンを動かし始める。
「具体的には、どう手助けしてくれるんだ?」
「真犯人を捜します」
「・・・・・・」
 きっぱりと言った彼に、レアーはやはりペンを動かし続ける。
「真犯人の目星は大体付いています・・・・・・目的は、ジョートショップの土地そのもの・・・・・・」
「20万ゴールド貸した奴が真犯人なのか。だが、そこまで分かっていて、何で俺以外に容疑者がいないんだ?」
「奴が犯人だ、と言う証拠が、今のところないからです・・・・・・奴は慎重で、証拠を掴む隙がないのです」
「・・・・・・だから俺には、真犯人に、『ひょっとしたら20万ゴールドを稼いでしまうんじゃないか』という不安を与えて欲しい、と言う事だな?」
 小さく、頷く。
「そうなれば、奴は動かざるを得ない。貴方が20万ゴールドを稼いでしまったら、計画が全て水泡に帰すのだから・・・・・・そこで生まれる隙を衝きます」
「・・・・・・簡単に言うなぁ。お前にできるのか?」
「できますよ」
 そう言って、背を向ける。
「貴方は、お店と、信頼の事だけを考えてください。その過程で、真犯人からの妨害がある可能性がありますが・・・・・・」
「大丈夫だ、そんなの。俺のマルヒアイテムで全て撃退してみせる」
 自信満々にレアー。
 フィルは、『そうですか』と呟いて、再び窓を開ける。・・・・・・夜風が、静かに部屋を舞う。
 彼が窓に手を掛けて・・・・・・
「待て、フィル」
「?、何か?」
 レアーに呼び止められる。ペンを止め、顔をこちらに向けている。
「・・・・・・なぜお前は、俺を信頼する?お前の知っている俺は、『四年前の俺』の筈だ。『今の俺』じゃない・・・・・・それなのに、なぜそこまでする?」
 聞かれて、クス、と微笑む。
「貴方は覚えていないでしょうが、貴方には恩がありますから。・・・・・・それと・・・・・・」
「それと?」
「友達を助けたい、それだけです」
「更に待て」
 言い捨てて、再び出ていこうとする彼を、再び呼び止める。
「お前、なんだか性格が微妙に変わってないか?」
 そう問われ、微笑む。
 光と闇の瞳が、遠く、虚ろになる。
 視線を外にやる。つられてレアーもそちらを見ると・・・・・・煌々と輝く、満月。
「・・・・・・今夜は・・・・・・」
 ぽそっ、と、口の中での呟きに、
 ふと、彼に視線を戻す。
 踊る夜風に、身につけたアクセサリーが、月光に煌めく。
 光と闇の瞳が、月光に、虚ろに煌めく。
 蒼白い顔が、月光に映え、更に蒼白く見る。
 レアーは、眉をひそめた。
 こんな表情を、いつだか見たような気がした。
 どこだったか・・・・・・思い出せない。
 ・・・・・・そもそも、記憶がないのだから・・・・・・
「今夜は・・・・・・満月ですから・・・・・・」
「狼男かお前は。ローラを襲うなよ、このシューキョー自警団員」
「どういう意味ですか、しかも何でローラさんなのですか?」
「自分で考えろ」
 憮然とした表情でレアーを見て・・・・・・窓の外へと消えていった。
「やれやれ・・・・・・」
 そうつぶやきながら、窓から外を眺める。
 彼の姿は、もはやどこにも見えない。・・・・・・見えるのは・・・・・・闇に寝そべる、家、家、家・・・・・・そして満月。
 ぞっとする程、蒼白い、どこか温かい光。どこか懐かしい光。つい甘えたくなるような・・・・・・。
(何考えてんだ?俺・・・・・・)
 そこまで考えて。
 頭を振りつつ、窓を閉める。
 机に目をやって・・・・・・
「もう寝るか・・・・・・」
 誰にともなく、呟く。
 片眼鏡のピエールクンをはずし、
 手製のマジック・トーチを消し・・・・・・どさっ、とベッドに倒れ込む。
 その途端、睡魔がおそってきた。
 それを無視して視線を動かせば、窓から見えるのは、満月。
 思わず、苦笑する。
「満月だから、ねぇ・・・・・・でもまあ・・・・・・」
 睡魔に・・・・・・気が遠くなっていく。
 薄れ行く意識の中で・・・・・・
(・・・・・・あいつが言う事も・・・・・・わかる気がするな・・・・・・)
 彼は、そう思うのであった。






   あとがき
 う〜ん、長いですねぇ(人事の調子で)。それに、なんだか場面が変わりすぎ。二つに分けようかとも考えたんですが、どうしてもここまで入れたくて・・・・・・。しかもなんだか意味不明な気がするし。ちゃんと伝わったのかなぁ?伝わってない可能性大。
 まぁいいや(オイ)。
 そうそう、和亜野商会さんから、言付けを預かっております。『今回のカタログショッピングは、都合によりお休みさせて頂きます』・・・・・・だ、そうです。ご了承下さい♪

 ご感想を頂ければ、・・・・・・・・・・・・嬉しいです(それだけかい)。
中央改札 交響曲 感想 説明