中央改札 交響曲 感想 説明

死神の奏でる幻想曲  第十話
わ〜の





 「何故だ・・・・・・」
 
 呆然と影が、呟いた。

「何故、暴走したのだ・・・・・・・?」

「知らん・・・!」
 
 そう返す影も、息が荒く、震えている。
 
 六人だった自分たちが、たった三人にまで減っているという事実に。

「計算上・・・・・・問題は無かった筈だ・・・・・・」
 
 さらに呟く影に、今まで黙っていた影が、不機嫌な視線を送る。

「論点は計算ではない、事実だ。・・・・・・『兵器』が暴走し、盟友が三人滅びた。・・・・・・我々の計画は、失敗した・・・・・・という、な」
 
 影たちから、血の気が失せる。
 
 ――――こんなことを――――


「王様が知ったら大変だなぁ?」

『!?』

 突然割り込んできた、第四の声。
 
 影たちは、弾かれたようにそちらを見て・・・・・・驚愕にか、恐怖にか、顔を歪める。
 
 そこには・・・・・・

 決して、居ないはずのモノが居た。

 いや、『影達にとって』居ない筈のモノ・・・・・・




 ・・・・・・俺が居た。









 「どうでしょう?」
 そう言って彼は、先を促す。
 対して中年の女性は・・・・・・呆然としていた。
 確かに噂では聞いていた。従来より簡単に落ちると。・・・・・・だが、まさかここまでとは・・・・・・それこそ、夢にも思わなかったのだ。
 予想を遙かに上回る結果に、しばし絶句していたが・・・・・・気を取り直し、目の前の人物に視線を戻す。
「素晴らしいわ・・・・・・予想以上、・・・非の打ち所もないわ」
「それじゃあ―――」
「でもね?」
 前髪の下から覗く、黒曜石の瞳を輝かせる彼に、言葉を被せる。
「分かっているでしょうけど、商売をする中で、評判というものはとても大事なのよ?」
 彼女の言葉に、彼は不敵に微笑む・・・・・・というより、にかっ、と笑う。
 その笑顔を見ると、なぜか信頼できるような気がする。
「評判の方は、こちらにお任せ下さい・・・・・・方法は、考えてあります」
 探るように彼を見る。・・・・・・確かに怪しい風貌だ。
 だが、その誠実な瞳を見る限り、彼女には彼が犯罪者とは、とても思えなかった。
 しばらくの観察を終えて・・・・・・ふぅ、と溜息を吐く。
「・・・・・・商談、成立よ」
 そう言って差し出した右手を、彼はしっかりと握り返し、
「有り難うございます!」
元気良く、頭を下げた。




  計画その壱、始動!


  からんからん・・・
「ただいま・・・・・・」
 ガラガラの声で。本来ならば来客を告げるベルを鳴らしつつ、レアーはジョートショップヘと帰ってきた。そのまま事務用のテーブルに着き・・・・・・べたっ、と突っ伏した。
 うう・・・、と呻く。どうやらかなり疲れているようだ。
「お帰り、レアークン・・・お茶、入れましょうか?」
「あ〜・・・お願いします・・・・・・」
 音を聞き付けてやって来たアリサに顔を上げ、やはり嗄れた声で答える。
「調子はどうだったっスか?」
「頭に乗るなテディ・・・・・・掴みはオッケー、って所だな・・・・・・今のところは、計画通りだ・・・・・・」
 再び突っ伏した頭に、ぴょん、と乗ってきたテディをどかしつつ、ニヤリと笑みを浮かべる。
 ・・・・・・彼のこういった笑みは、端から見ると非常に怖い。唯一見える口元が、三日月型につり上がるのだから。・・・・・・今回も例に漏れず、テディは及び腰で、「そ、そうっスか・・・」と答えただけだった。
 彼の声が嗄れているのは、住民への無罪の主張とジョートショップの宣伝の為に、何十件という家を廻ったせいだ。それだけ喋れば、誰でも声が嗄れる。
「ほとんどの人は、俺がどんな人間かをこの一年で見極めさせて貰う、って言ってたよ・・・・・・」
「あら、良かったじゃない。それならきっと、一年後の再審も大丈夫ね」
 そう言ってアリサが、彼の為に入れたお茶を持って戻ってきた。随分早いが、多分彼がいつ戻ってきてもいいように、準備をしてくれていたのだろう。
 そのことに感謝しつつ、レアーはお茶を啜る。
「チラシも試供品もちゃんと配れましたし・・・・・・」
 試供品とは、例の、『丈夫で汚れが簡単に落ちる魔法繊維』の布きれである。ジョートショップの宣伝と同時に、その繊維がどんなに画期的かをアピールしたのだ。この度、ローレライ洋服店との提携が決まりました・・・・・・と付け加えながら。
「・・・そうだ、テディ。ほれ」
「何っスか?」
 思い出したように、一枚の書類をテディに渡す。
「ローレライ洋服店との提携、その契約内容だ。読み上げてくれ。俺はあまり喋りたくない・・・・・・」
「わかったっス!」
 元気にそう言うと、テディは契約内容を読み上げていった。
 要約すると、ジョートショップは魔法繊維で織られた布を提供する。代わりにローレライ洋服店は、それによる売り上げの何割かをジョートショップヘ支払う。・・・・・・という内容だ。
「・・・・・・悪くない契約内容だろ?」
 レアーはお茶を啜りつつ、得意気にそう言った。
「今年は『販売記念セール』を予定しているからな・・・・・・利益はかなり少ない。・・・・・・だが少なくとも、これだけで純利益は10万ゴールドを超えるだろう・・・ククククク・・・・・」
「あの、レアーさん・・・・・・」
「ククククク・・・・・・何だ?」
 恐る恐る、といった調子で声を掛けるテディは、ひたすら含み笑いをするレアーに怯えながら、
「それって、『何でも屋』の業務内容じゃないっス・・・・・・」
 もっともな意見を言う。それによって、彼は動きをピタリと止めた。
 暫くの沈黙が、その空間を支配し・・・・・・。
「いいじゃないのテディ。今の目的は、レアークンの信頼を得る事なんだから。
 これが成功すれば、彼はきっと人気者になるわ。だって、レアークンの服って本当に汚れが落ちやすいもの。実際に洗った私だから、よく分かるわ」
「そうですよね、アリサさん」
 彼女の言葉に力を得て、コクコクと頷く。確かに今回の企画は、間違いなく主婦や家事手伝いの方々を救う事になるだろう。そうなれば、彼の信頼もグンと上がる。
 彼がちらりとテディを見ると、未だ不満そうである。苦笑して、その頭をやや乱暴に撫でる。
「それにな、テディ。ジョートショップとしての宣伝もしてきたんだ。明日には・・・・・・何件か依頼が来てるさ。な?」
 それでも何事かを考えていたが、やがて、何かを得たかのように力強く言った。
「・・・・・・そうっスね。それに、ご主人様がいいって言うなら、きっと成功するっス!」
「俺がいいって言っても成功しないのか・・・?まあ、それはともかく・・・・・・」
 彼はいつの間にか席を立ち、窓に向かって両腕を、ばさぁ、広げ、
「『計画その壱!魔法繊維で信頼ゲットだぜぇ作戦!』始動!ククククク・・・・・・ふははははははははは!!」
  びしゃあぁぁぁぁん!!    ごろごろごろ・・・
 晴れている筈の窓の外で、なぜだか知らないが雷鳴が轟く。今のレアーを表現すると正に、『自分の世界に逝っちゃったマッドサイエンティスト』といった感じだ。
「な、何で雷が鳴るっスか!?」
「俺のマジックアイテムの効果に決まってるだろう!俺の愛用アイテムだ!」
 当然の疑問を投げかけるテディに、無意味に威張る彼。
「使用者の精神・動作にシンクロして、あらゆる演出効果を生み出すのだ!もちろん幻術だから、実害はZERO!騒音対策として消音結界をオプションしている!操作は簡単、この目盛りを動かすだけで結界の範囲を設定可能!その名も『エンクン』!ふはははははははははは!!!!!」
  びしゃぁぁぁぁぁん!!    ごろごろごろ・・・
『・・・・・・』
 ついさっき、あんまり喋りたくない、と言っていた者とは思えない演説。テディのみならず、アリサですら呆然と彼を眺めていた・・・・・・。



 次の日・・・・・・



 「・・・つまり、逃げたペットを探せ、と?」
「ペットじゃないよ、友達だもん」
 拗ねた口調で彼女は言った。対するレアーの表情は、長い前髪に隠されて、全く読みとることが出来ない・・・・・・多分、嫌そーな顔をしているのだろうが。
 彼女の話によると、昨日の夕方、リスにエサをあげるために小屋へ行くと―――――もぬけのカラだったそうだ。まあ、鍵の閉め忘れが原因だろうが。
 とにかく、事態を理解して、彼女はすぐに探しに出掛けようとしたが・・・何分、既に夕方であったため、彼女の身を案じた人々が外出を許さなかった。
 勿論マリアがおとなしく引き留められるわけがない。だが、屋敷の一角を吹っ飛ばしたり、人々の『こんに暗くては見つからない。明日、明るくなってから探すべきだ』という意見を聞いたりした結果、仕方なく夜が明けるのを待ち・・・・・・朝一番、日が昇るより早くジョートショップへ駆け込んできたのだ。
 ジョートショップは早起きなので問題はなかったが、朝食は流石にまだである。三人でのんびりお茶を飲んでいる時分である・・・・・・ちなみにテディはミルクだ。
「・・・・・・仕方ないな・・・・・・」
 ため息をつきつつ、レアーは席を立った。マリアの顔が、パァ、と明るくなる。
 これに慌てたのはテディだ。
「レアーさん、行くッスか?」
「ああ。行くぞ、マリア」
「うん!」
「で、でも今日の依頼に響くんじゃ・・・・・・」
 テディの危惧に、レアーは、にやっ、笑ってドアへと向かう。
「ふっ。大丈夫だ、俺にかかれば一時間も掛けずに見つけてみせる。それに・・・・・・」
 ドアに手を掛けたところで、彼は苦笑した。
「昨日の今日だ。依頼はまだ、一個も来てないだろ?」
「う・・・」
「それじゃあアリサさん、ちょっと行って来ます」
「ええ、行ってらっしゃい」
 絶句するテディを残し、アリサに見送られて、二人はジョートショップを後にした。




 「それでレアー、どうやって探すの?」
「ふふふ・・・・・・これを使うのだ!」
 無意味にエラソウな口調で、ドコデモ・ノートクンから取り出したそれは・・・・・・
「何よ、それ。・・・ボール?」
 彼女の言う通り、まさに一抱えほどの大きさの、黒いボールだった。正確に言うと、鎖に繋がれたボールだ。
「なんかプニプニしてる・・・あ、目とハナが付いてる。結構カワイイね」
「ほらほら、観察はいいから。それよりマリア、探しているリスが身につけていた物ってないか?」
「ここにリボンがあるけど・・・・・・何に使うの?」
「くっくっくっくっく・・・・・・貸してみろ」
「う、うん・・・・・・」
 マリアは不気味な含み笑いに怯え、おずおずと彼にそのリボンを渡した。ピンク色の、いかにも女の子が好みそうなリボンを見て・・・彼は眉をひそめた。長い髪のせいで、その表情の変化はマリアに伝わらなかったが。
 とにかく、彼がリボンをボールの前に持っていく・・・・・すると、ボールが目を覚ましたかのように、ブルルン、と震え、小さなハナで、クンクンとその匂いをかぎ始めた。その動作が妙に可愛らしい。
「ふふふふふ。これは生体固有の気配・魔力パターンをインプットし、目標を追跡・捕縛するアイテムだ」
「これで追いかける、っていうのは解るけど・・・・・・」
 自慢気に説明するレアーに対し、マリアがボールに目を向けると・・・・・・未だに、ヒクヒクとハナを動かし、リボンの匂いを嗅いでいる。・・・・・・カワイイ。だが―――――
「こんなので、捕まえられるの?」
 懐疑的な視線を、レアーに向けた。
 一見プニプニしただけの物体に、捕まえることが出来るのだろうか?彼女がそう思うのも分かる。
 だがレアーは、その疑問を受け流して唐突に、マリアに手を差し出した。彼女が『この手は何?』と言った様子でレアーを見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
「ふふふふふ。百聞は一見に如かず、だ。・・・手を貸せ、この鎖に掴まっていると空が飛べるんだ」
「そうなの?」
「ああ。これは人間が無線操作でコントロールする予定なんだが・・・・・・実は開発中でな、まだ有線操作なんだ」
「それで鎖が付いてるのね」
「そうだ。こいつは空を飛ぶことも出来るんだがな、付いていけるように、操作する人間も飛べるようにしたんだ・・・おっと、インプットが完了したようだぞ。ほれ、手を貸せ」
 そう言って彼が、一方的にマリアの手を取った瞬間・・・・・・



  マリアの悲鳴が響いた。




 「どうやら、リスはここにいるらしいな」
 レアーは無意味に仁王立ちをしつつ、目の前の森に目を向けた。太陽が出たため、森の中でも探すのに支障はないだろう。
「ところで・・・・・・マリア、どうした?青い顔して、肩で息なんかして」
「ど・どうしたじゃ・・・ない、わよ・・・・・・」
 地面にへたり込んでいたマリアは、何とか立ち上がりつつ、レアーを睨み付けた。
「な・・何なのよ・・・・・・あの、とんでも・・・・ない空の旅は・・・・・・!」
「ふはは。だから言っただろ?開発中だ、って。実は出力調整も未完成なんだ」
「そ、そんな話・・・聞いてないわよ・・・・・・!」
「ふはははは。そりゃそうだ。言ってないからな」
「ぶ〜・・・☆ふははじゃないわよ・・・!」
 ようやく呼吸が整ってきたマリアは、腹立ち紛れにレアーの背中をバシッ、と叩いた。まあ、予告無しにあんな旅をさせられたら、誰でも腹は立つだろう。
 ちなみにレアーは、慣れているのか無神経なのか、とにかく平然としていた。それどころかケラケラと・・・いや、ふはは、と笑っている始末だ。
 なおも不機嫌そうなマリア。
 彼女を見てレアーは、苦笑しつつ彼女の頭を撫でた。
「そんなに怒るなよマリア。あのスピードが出れば、リスを捕まえるのだって簡単だろ?」
「うっ・・・・・・それは、そうだけど・・・・・・」
 彼女は、このもっともな意見に勢いをそがれた。
「お〜い!レアーさ〜ん、マリア〜!」
「ん?」
 呼ばれてそちらを振り向くと、向こうから走ってくるのはトリーシャだった。更に向こうからは、エルがゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「よぉトリーシャ、エル。ずいぶん早起きだな、何かあったのか?」
「レアーさん達こそ、どうしたの?」
 質問で返してくるトリーシャに、レアーは肩をすくめて言った。
「マリアの飼っていたリスが逃げたそうだ。で、これを使って探してるんだ」
 彼が目で指すと、そこには、ぶにんぶにんと跳ねながら待機する黒いボール。
「わぁ、カワイイね、これ・・・・・・レアーさんが作ったの?」
「ふふふ。その通り、追跡捕縛装置『ホバークン』だ。名前の由来は・・・」
『言わなくていい』
「な、何だよ、声を揃えて断らなくてもいいだろ?」
「だってぇ・・・・・・ねぇ?」
 そう言ってトリーシャがエルに視線を向けると、
「どうせ『捕縛』『ホバク』だから『ホバークン』なんだろ?」
 エルがあきれた口調でそう言うと、レアーは後ろ首を掻きつつそっぽを向いた。
 その仕草を見て、エルはフフンと鼻で笑った。
「やっぱり図星か・・・ところで・・・・・・」
 視線をマリアに移して、馬鹿にしきった口調で。
「マリア、お前ペットに逃げられたのか?マヌケだな・・・・・・」
「なんですってぇエル!魔法も使えないオマヌケエルフに言われたくないわよ!」
「なんだと!?失敗ばかりの爆裂お嬢に言われたくないね!」
「ちょ、ちょっと、やめなよ二人とも・・・・・・」
 例のごとく、いきなりケンカを始めた二人に割って入ったトリーシャ。
「レアーさん、見てないで二人をとめて・・・あれ?」
 加勢を頼もうとした相手は、こつ然と姿を消していた。慌てて辺りを見回すと・・・・・・なんと、一人だけで森へと消えていくところだった。
「おーい、マリアー。先に行ってるぞー」
 そう言い残して、段々と緑の中へ消えていく。これに一番慌てたのはマリアだ。一方的にケンカを止める。
「ま、待ってよ!レアー!置いてかないでよ〜!」
 レアーの背中を追って、マリアも緑の中へ消えていった。
 完全に二人の姿が見えなくなり・・・・・・しばらくの沈黙。
 トリーシャはエルに笑いかけた。
「さっ、ボクたちも行こう、エル!」
「ああ・・・・・・」
 エルは、不機嫌に返事をした。



 「まったく・・・置いていかないでよね、デリカシーがないんだから・・・・・・」
「ケンカを始めるお前らが悪い」
 木漏れ日の差し込む森の中を歩きながら。文句をたれるマリアに、レアーはピシャリと言い切った。
「それに、ああすればケンカを仲裁する手間が省けたからな。ああやって置いてきぼりになりそうな状況を作ってやれば、お前は慌てて追いかけてくる。そうすればケンカは強制的に終了する、という訳だ」
「ああ〜!わざとやったのね!」
「ふっ、当然だ」
「ぶ〜☆」
 胸を張って言うレアーに、マリアは頬を膨らませた。
「とにかく、目的はエルとケンカすることじゃない。リスを捕まえることが先だろ?」
「うっ・・・・・・そうだけど・・・・・・」
 そう言われて、いつの間にか止まっていた足を、再び動かす。
「でも、何かさっきから誤魔化されてばっかりのような気が・・・・・・」
「気のせいだ気のせいだ。所で、俺から質問があるんだが――――」
 本当はマリアの言う通りなのだが、レアーはサラリと話題を変えた。
「探してるリスって、ひょっとしてペットモンスターか?」
「そうだよ?言ってなかったっけ?」
「言ってない・・・」
 サラリと返され、レアーはこめかみを押さえた。
「ピエールクンで視たとき、道理であのリボンからモンスターのニオイがすると思ったら・・・・・・」
 初め、リボンを見たときに彼が眉をひそめた理由はこれである。発せられる気配が魔物のそれだったので、おかしいと思ったのだ。
 彼は、やれやれ、とつぶやきながら、横を歩くマリアを見た。
「しかし『リス』って・・・・・・うぷぷ。なんてナンセンスなネーミングだ」
「あんたにだけは言われたくないわよ!ナンセンス大魔王!!」
 あまつさえ笑われ、彼にだけは言われたくなかったことを言われて、思わずマリアは言い返していた。
 対してレアーは、まるでガン告知でもされたかのように呆然とし・・・やがてカタカタと震えだした。
「俺の・・・・・・俺のネーミングセンスが悪いって言うのか・・・・・・!?」
「自覚のないこと言うんじゃないわよ!あんたのどこにネーミングセンスのカケラがあるって言うのよ!」
 自覚ZEROで呆然とした調子で聞く彼に、マリアの容赦ない一撃が浴びせられる!
 レアーは、『くっ・・・』と呻いて、大地に片膝を付く。
「俺に・・・俺にネーミングセンスがない、だと・・・・・・?」
「みーんな言ってるわよ。『そのまんま』とか『オヤジギャグ』とか。」
「『オヤジギャグ』とまで・・・・・・くぅ!」
 マリアのトドメに、ついに両膝を地に落とした。
「そんな・・・・・・結構評判いいと思ってたのに・・・・・・」
 頭を垂れると、なぜか彼の周りが暗くなり、人魂がドロドロと飛びだした。
「――――何で人魂が飛ぶの・・・・・・?」
「俺の開発した演出用装置の効果だ・・・・・・使用者の精神・行動にシンクロして、あらゆる演出を行うのだ・・・・・・。名前は『エンクン』――――」
「きゃはは☆サイテーのネーミングじゃない。マリアの『リス』の方がまだ可愛くてセンスがあるわ」
 今の言いようでは、レアーと同レベルであることを認めたようなもんである。それに気づかずに胸を張って威張るマリア。
 更に言い募ろうと―――――
「いや・・・・・・」
 したところで、レアーがポツリとつぶやいた。人魂が、ふっ、と掻き消える。
 なんだと思って耳を傾けると―――――
「そんな筈はない・・・・・・俺のネーミングはいつもオオウケなんだ・・・・・・」
「そんなわけ―――」
「いいか!マリア!帰ったらみんなに聞いてやる!」
 がばぁ!と立ち上がってビシィ!とマリアに指を突きつける。
「俺のネーミングは素晴らしいか?とな!その時、後悔しても知らんからな!ふはははははははははは!!!!!」
   びしゃぁぁぁぁん!!  ごろごろごろごろ・・・・・・
 ばさぁ、と両腕を広げて、いつもの調子で高笑い。エンクンの効果でバックに雷が落ちる。
 言いたいことは山ほどあるのだが、何も言えないマリア。
 彼女を無視して、更に高笑いを――――
「ふはぁ〜ははは――――は?」
 したところで。持っていた鎖から、今までに無かった振動が伝わってきた。その鎖の先を見ると、ホバークンが落ち着きなく、ブニンブニンと跳ねている。
「これは―――!」
「何なの?」
「これは『近くに目標がいる』という反応だ。こいつの見ている方向に―――」
「―――見つけた!」
 レアーより先に、マリアがある一点を指し示した。そこには―――はるか樹上の枝に、ちょこんと座るモンスター。あれがそうだろう。外見は確かに、動物のリスに似ていなくもない。
「あんな高いところに・・・・・・」
 思わず消沈した声を上げるマリアに対し―――レアーはニィ、と唇を三日月型につり上げる・・・・・・当然だが、とても怖い。薄暗い森の中であるため、更に不気味さが増す。
「マリア、このホバークンがどんなアイテムか忘れたのか?こいつは追跡に加え、捕縛も可能なんだぞ。・・・・・・相手を傷つけずに、な」
「ホントに?」
 マリアが顔を輝かせてレアーを見ると・・・・・・怪しさ大爆発な笑みにぶつかって、顔を引きつらせてそっぽを向く。
 レアーはその反応を気にせずに、片手を腰に当て、今度はリスに、ビシィ!と指を突きつける。
「それでは早速、命令を―――」
「ねぇ・・・・・・レアー・・・・・・」
 横からおずおずと声をかけられ、ピタリと動きを止める。そのままのポーズで、首だけを動かし、マリアを見る。
 彼女はレアーを見ていない。引きつった顔でホバークンを見ている。
「何だよ、マリア。今いい所だったのに」
「何がいい所かどうかの論議は置いといて・・・・・・ホバークンが―――」
「ホバークンが何だ―――」
 レアーもそれに視線を移し―――――マリアと同様、いや、彼女以上に引きつった。
 ホバークンが―――
「な、何で口があるの・・・・・・?」
「い。いや、口ぐらいあったっていいだろ・・・・・・?」
「それはそうだけど・・・・・・そうなんだけど・・・・・・」
 ―――――沈黙が、その空間を支配する―――――
『しゃぎゃおぉぉぉぉん!!』
 その沈黙を、凶暴な雄叫びがぶち壊した!その雄叫びの主は、弾き出された弾丸のように、はるか頭上のリスに襲いかかる!
 しかしリスも、ペット用に改良を施してあるとはいえモンスターである。ヒトを越えた反応速度で、間一髪!他の木へと飛び移った!雄叫びの主は目標を見失い、木に激突する寸前にストップした。そして、方向を変え、再びリスに襲いかかる!
「何であんなに凶暴そうなのよぉぉぉぉ!!!」
「ははは。凶暴そう、と言うより、凶暴だな。あれは。ほら。見てみろよ。あの鋭くて乱杭の牙を。」
「笑顔で言わないでぇぇぇぇ!!!傷つけないんじゃなかったのぉぉぉぉぉ!!??」
 マリアの絶叫に、レアーは、ははは。と、ひたすら誤魔化し笑いをする。
 今、ホバークンは。肉食動物と化していた。
 一抱えほどの大きさが、どういう訳か数倍の大きさに肥大している。更に、『オーガーなんて一口ですよ!』と言わんばかりの大きさの口が現れたのだ。
 そして、特筆すべきは―――――なんと言っても、やはりその牙だろう。鋭く乱杭に生え、少し黄ばんだそれは、正に『肉を引き裂くのに最適!』といった感じだ。
 つぶらな瞳は、今や、見る者の恐怖を相乗する役目にしかなっていない。
「レアー!あれを!あれをとめなさいよぉぉぉぉ!」
 マリアはもはや半泣きで、レアーに食ってかかる。
「ははは。無理だ。鎖を離した状態で、ああやって勝手に動いてるって事は・・・・・・」
「事は?」
「暴走している、ということだ!言っただろ?『開発中だ』、と!ふはははははははははは!!!!!」
「ふははじゃなぁぁぁぁい!!!!!」
 絶叫するマリア。
 レアーは額に、エンクンの効果で現れたデフォルメされた汗(命名、エンクン汗)を浮かべつつ、ひたすら誤魔化し高笑いをする。
 その間にも、樹上での『狩る者(ホバークン)』と『狩られる者(リス)』の攻防が続く。
 とは言っても、ホバークンが一方的にリスを追い回している、という構図なのだが。リスは、改良されているため、攻撃手段を持っていないのだ。出来ることは回避のみ。
 ホバークンの攻撃を、リスが回避する。そんなパターンが何度か続き・・・・・・リスに突進していったホバークンが、攻撃を回避され、勢いを殺しきれずにそのまま太い木の幹へと噛みついた!
   ばりん。
「ふはは―――ふへ?」
 まさに、生木を砕いたような音を聞いて、レアーが誤魔化し高笑いを中断して上を見上げると・・・・・・そこには、ホバークンにあっさりと幹を砕かれ、こちらへ倒れ込んでくる大木が!
「わきゃぁぁぁぁ!!!」
 悲鳴を上げ、レアーにしがみつくマリア。
 耳元で悲鳴を上げられて顔をしかめつつも、レアーは素早くドコデモ・ノートクンを開いた。中から金色のリングが、多数飛び出し周囲に展開して―――
  ばぎゃぎっ!!
 それに、触れるか触れないかというところで、大木は木片と化して辺りに散らばった。その木片も、リングに触れた途端、あらぬ方向へはじき飛ばされる。
「う〜〜〜。何とか止めないとマズイなぁ・・・・・・」
 リングをしまいつつ、今更のようにぼやくレアー。
 その時―――――
「おい!レアー、何があった!?」
「二人とも、大丈夫!?」
 駆けつけて来たエルとトリーシャに、レアーは目を丸くした。だが、考えてみれば当たり前だ。謎の吼え声だの叫び声だの木が倒れる音だの―――とにかく、これだけ騒げば普通駆けつける。
 駆けつけた二人は、大量の木片が散乱した様子を見て、しばし絶句し・・・・・・樹上が騒がしいことに気づき、見上げると―――――
「な、何だあれ!?」
「レアーさん!何あれ!?何あの凶暴なモンスターは!!」
「ええっと・・・その―――」
「ホバークンよ・・・・・・」
『ええ!?』
 言い淀むレアーの代わりに答えたマリアの一言に、声を揃えて再び上を見上げる。
 言われてみると、確かにその面影はある・・・・・・ほんの少しだけ。
「な、何であんな風になったの・・・・・・?」
 カワイイつぶらな瞳が、シニカルにマッチした乱杭な牙を見て、顔を青くしつつ聞くトリーシャ。
 その途端に、レアーの目が遠くなる。
「ふっ。話せば長くなるが―――」
「ポンコツだったから暴走したのよ」
「違う!開発中だ、と言っているだろう!?」
 ハッキリキッパリ言い切るマリアを、レアーはキッと睨み付けた。
「ただ、制御装置が未完成なだけで―――」
『そんなの使うなぁぁぁぁ!』
 声を揃えてツッコミを入れられ、レアーは見事に沈黙した。
「制御装置が未完成!?それって致命的だよ!」
「とにかく、早くあれを止めな!あのモンスター、食われちまうよ!」
「わ。分かってるって。じゃあ―――」
  ばきん。
『え。』
 四人、声を揃えて上を見上げると―――――再び、こちらに倒れ込んでくる大木が!
「だぁ〜〜〜!!!」
 レアーはそう叫ぶと、うろたえる他の面々を後目に、再び先程のリングを辺りに展開する!
   ばぎゃぎっ!!
 大木は、先程の物と同じ末路をたどる。
「ふっ。危なかった・・・・・・」
 エラソウな口調で、エンクン汗をぬぐうレアーの頭を、エルは無言でぶん殴った。
「ああ!見て、あれ!」
 頭を抱えてしゃがみ込むレアーを後目に、後の三人は樹上を見上げる。
 その先では――――
「リスが・・・・・・飛んでる!?」
「あいつ、飛べるのか!?」
 そう、今リスは、捕食者(ホバークン)の魔の手から逃れるべく、ムササビのようにして虚空を舞っていたのだ!そのまま一目散に、遠くの空へと飛んでいく。
 しかし。その時、ホバークンのつぶらな瞳と鋭い牙が、ギラリと同時に光ったような気がした。
 がっ!と口を大きく開く!ぎらぎらと輝く牙の奥。そこには深淵へと続きそうな闇。そこから毒々しいほど赤い舌が勢いよく飛び出した!
 その舌は、ヨッ○ーもシッポを巻いて逃げ出すほどに伸びる伸びる!!更に伸びて、逃げていくリスを捕らえた!そのまま―――
  ぱくり。
『あ。』
 リスはホバークンにたべられちゃいました。呆然とする少女三人。
 ホバークンは、任務を果たしたためか、急に静かになって元の大きさへと戻り―――ぽてん、と地面に落っこちた。
 やがて、彼女たちの視線は、当然レアーへと集まって―――――
   じり―――
 と、一歩詰め寄る。恐ろしいほど無表情に。
 その気迫に押されて、レアーはだらだらエンクン汗をかきつつ、詰め寄られた分だけ後ずさりする。
 それが続いて―――――やがて、レアーの背中に、硬い感触。木が、彼の退路を塞いでいた。
「ま、待てマテまてぇぇぇ!話を聞け、話を!」
 なおも詰め寄る少女たち。
「あのホバークンは、このドコデモ・ノートクンとリンクしてるんだよ!あれが飲み込んで、これから出す、ってシステムなんだよ!今出すから待ってくれぇぇぇぇぇ!!」
 もはや半泣きで懇願するレアーの弁明に、三人の足が止まる。
 一瞬、顔を見合わせて―――――再び、レアーに視線を戻して一言。
『出しなさい』
「はい!」
 完全に及び腰で、震える手でドコデモ・ノートクンを開き、ブンブン逆さに振る。
   ポテ。
「リス!」
 現れたリスを、マリアが抱きしめた。
 リスは、さんざん追いかけ回されて疲れ切っているようだが、特に外傷はないようだ。安心したせいか、ふっと目を閉じる。
「リス!?」
「大丈夫だマリア、疲れて眠っちまっただけだ。まあ―――」
 言葉を切って、視線を動かす。その瞳は、冷たいものを含んでいる。
「あれだけ追っかけ回されれば、誰だって疲れるだろうけどね」
 視線の先には、ホバークンを回収して、決まり悪そうに頭を掻いているレアー。
「悪かったって。そんなにネチネチ言うなよ。マリア、悪かったよ・・・・・・機嫌、直してくれよ・・・・・・」
 そう言って頭を下げるレアー。だがマリアは、ふんっ、とそっぽを向くだけ。
「ちゃんとしたマジックアイテム、何かやるから―――おわっ!」
「なになに☆今度はちゃんとした物でしょうねぇ・・・・・・」
 マリアは一瞬で間合いを詰め、殺気のこもった瞳で、レアーの胸倉をひっつかむ。
 彼は及び腰で、
「そ、そんなに怖い顔するなよマリア・・・・・・」
「レアーさん、さっきの今で、よくマジックアイテムを勧められるね・・・・・・」
 半分関心、半分あきれて言うトリーシャ。
「と、とにかくだな。今度のはしっかり完成品だぞ。しかも希少すぎて、『金を積めば手に入る』って訳じゃない代物だぞ」
「胡散臭いぞ。さっきの今で」
 エルの的確なツッコミを無視して、ドコデモ・ノートクンに手を突っ込んで、何やらゴソゴソやっている。
 やがて取り出したのは、銀色に輝く小さなチョーカーだった。形は、調和を現す正球形。
 それを受け取ったマリアの手に、他の二人が注目する。そうすると、とても精巧な細工がしてあることが見て取れる。
「へぇ・・・・・・これ、いいデザインだね。マリア、これなら許してあげてもいいんじゃない?」
「トリーシャ、外見にダマされちゃダメよ。さっきのホバークンだってああなんだから」
 鋭い指摘に、それに触れようとしていた手を思わず引くトリーシャ。
 レアーは、『これって何なの?』といった表情で見る少女たちに、さっきの及び腰はどこへやら、やたらと自慢げに胸を張る。
「ふふふ。聞いて驚け!それは、精霊との調和力を高めるアイテムだ!」
『えええ!?』
「いい反応だ、お前ら」
 自分の言葉に驚く三人を見て、ものすごく満足げに笑う。ただし、周りから見えるのは、にまり、と歪んだ口元のみ。やや薄暗い森の中、その不気味さはひとしおだ。
「そう・・・・・・普通、驚くよな。
 通常、調和力を高めるには魔法陣の力を借りる必要がある。と言うよりその方法しか、調和力を高める手立てはない―――現代の、一般的な技術力では、な」
 そこで、詞を切って、無意味にバサァ!と白衣を翻す。
「しかぁぁぁぁぁっし!『マッド・マジック・エンジニア』と呼ばれるこの俺、レアーの手に掛かれば、そんなセコい常識を覆すなど、赤子の手をひねるより造作もない事だ!
 精霊の力を借りた魔法の成功率・威力を数倍に跳ね上げることが可能!
 魔法陣という枠を越えたその性能!洗練されたフォルム!その名も―――」
「言わないで。」
「な・・・何だよ、マリア。なぜ言ってはいけないんだ?」
「いいから言わないで!」
「まあ、そこまで言うなら黙っておくが・・・・・・」
 ノッて来たところで水を差され、口をへの字に曲げるレアー。
 実はマリアは、このチョーカーが気に入ったのだ。デザインも、効果も。
 だが、彼の最悪な命名を聞いたら、これのイメージが壊れてしまう、という危機感を抱いたのだ。
「これ、もうマリアの物でしょ?だから、自分で名前を付けたいの。いいでしょ?」
「・・・・・・構わないが・・・・・・」
 なおも不服そうなレアーを、何とか言いくるめることに成功し、ホッと胸をなで下ろすマリア。
「じゃあ、なんて名前を付けるの?」
「えっとねえ・・・・・・」
 トリーシャの問いに、彼女は少しの間それに見入り・・・・・・。
「精霊の涙☆」
「うわあ。なんてありがちな。おもしろ味に欠ける。」
「ウルサイわね!おもしろ味があればいい、ってもんじゃないでしょ!」
 棒読みで驚くレアーを、マリアは『精霊の涙』を身に付けながら睨む。そしてレアーを正面に捉え―――
「それじゃ、威力テストと行きましょうか☆」
「・・・・・・ほへ?」
「呪文無しでぇ〜、『る〜ん・ばれっとぉ〜☆』」
 意味が分からず、マヌケな声を上げるレアーに、時間を与えず魔法を放つ!
「どえぇぇぇぇ!?」
 叫んで身を伏せる彼の上を、通常の『ルーン・バレット』の、何倍という数の光球が飛び去った!
 そして――――
  ずがががががががぁぁぁぁ!!!
 後方で、連続した爆発音!
 更に――――
  ぎっ―ぎぎぎぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・
 レアーが上を見上げると、本日、三本目の大木が彼に向かって倒れ込んできた!
「ななななななな!!!」
  ずしゃぁ・・・・・・!
「・・・・・・」
 間一髪。彼の伏せている所から、少しだけズレて倒れ込んだ。
「・・・・・・」
 レアーは静かに立ち上がり――――
「いきなり何をするぅぅぅぅぅ!!!」
 涙目でマリアに詰め寄った。対して彼女は、予想以上の威力に、ひたすらはしゃいでいる。
「すっごぉぉぉぉい、これ!レアー、ホバークンの事、全部水に流してあげるわ☆」
「ハイどうも―――――って、そうじゃないだろ!本気で死ぬかと思ったんだぞぉぉぉぉ!!!」
「やっぱり魔法が一番よね〜☆」
「よね〜☆って・・・・・・はぁ、もぉいいよ・・・・・・」
 完全に舞い上がっている彼女に、何を言っても無駄だと悟り、溜息をついて頭を垂れる。
「でも、いいの?レアーさん。あんなに高そうな物あげちゃって」
 そんな彼の気を遣ってか、心配そうに聞いてくるトリーシャ。
 確かに、『精霊の涙』は、本当に高価だろう。現在世間に知れていない、画期的な技術。値段は付けられないくらいの価値がある。
 しかしレアーは苦笑して、
「ま、そんな物、俺がその気になれば創ろうと思えば創れるし。それに・・・・・・」
「それに?」
「俺、魔力が無いから、それを持っていても仕方がないし。元々魔力がないヤツが持ってても、無意味だからな」
  しーん。
『―――――――は?―――――――』
 レアーといい勝負な程、マヌケな声を上げる彼女たちを、彼は、目を丸くして見た。・・・・・・勿論、それは彼女たちには見えないが。
 さらに沈黙が流れ・・・・・・
「あはははは・・・・・・」
「な・・・何言ってるの?レアーさん・・・・・・」
「そんなこと・・・ある訳・・・・・・」
 ようやく。引きつりながらも口を開く彼女たち。
 対してレアーは、目を丸くしたまま―――
「・・・・・・言ってなかったか?」
『言ってない!!!』
 声を揃えたツッコミが入る。
「じゃ・・・・・じゃあ、どうやって今までマジックアイテムを動かしてたの!?」
「いくらでもあるもんだぞ。魔力が無くても魔法を使う方法なんて」
「まあ・・・・・・それは、そうだけど・・・・・・」
 簡単に言われて、黙り込んでしまうトリーシャ。
「お前・・・・・・気にしてないのか・・・・・・?」
 黙り込んでしまった彼女を、苦笑して眺めていたレアー。
 エルは呆然と、信じられないものを見るように聞いた。
「まあ、確かに、なぜ魔法が使えないのかを知りたい、って考えはあるけどな」
「そうじゃなくて・・・・・・!」
 少しずれた答えを口にする彼に、困惑した眼差しを向けるエル。
 何となく黙り込んでしまう少女たちに、レアーは真摯な目を向けた。長い前髪のせいで、周りには分からないが、雰囲気で伝わる。
「いいか、お前ら。これから言う事を、よく覚えとけ・・・・・・。
 筋力だの魔力だの・・・・・・そんなチカラの違いなんて関係ない。肝心なのはチカラを振るう者の、心の強さなんだ・・・・・・。
 俺が旅をしていたとき・・・・・・いろんな奴に会った。イイ奴もいれば、ヤな奴もいた。強力なチカラを持ち、周りを傷つける奴もいた。チカラに振り回されて、死んでいった奴もいた。
 そういった連中は、強い心を持っていなかった・・・・・・」
 そこで、詞を切る。
 そしてマリアの頭を、やや乱暴に撫でた。
「ちょ・・・・・・髪、乱れる・・・・・・」
 マリアの抗議を無視して、再び口を開く。
「お前は、強い心を持て。
 あんな連中みたいには、なるなよ・・・・・・」
「・・・・・・うん・・・・・・」
 彼の、重く、優しい口調に。マリアが出来るのは、そう答えることだけだった。
 なぜか、彼の詞が、重く響く。
 暫くの沈黙が流れる・・・・・・
  ッ―――、ッ―――、ッ―――
 その沈黙を破ったのは、小さな電子音だった。静寂の中でその場に響く。
「・・・?・・・何?この音・・・・・・?」
「ああ。俺だ・・・・」
 そう言ったのはレアー。胸の前で、左腕にしてあったブレスレットらしき物を操作する。
 すると、空中に、光でできた板のような物が浮かび上がった。そこに映し出されたのは・・・・・・
「あ・・・・・・アリサさん!?」
 トリーシャが叫んだ通り、そこに映し出されていたのは、ジョーとショップの女主人、アリサであった。
 アリサは、彼女の声が聞こえたのか、その姿を探すように、辺りを見回した。
「どうも、アリサさん。
さっきの声なら、トリーシャですよ。今、こっちにいるんです」
『そうなの』
「ちょっと待ってよ!それ―――」
「後にしてくれ―――――アリサさん、何かありましたか?」
 横で騒ぎ出したマリアを軽くあしらって、画面の中のアリサに聞いた。
『それが・・・・・・今、お客さんが来ていて・・・・・・』
「・・・・・・依頼ですか?」
『ええ。そうよ』
 彼女が肯定した途端、レアーの顔が、比喩抜きでパァ、と輝いた。・・・多分、エンクンの効果だろうが。
「そうですか!こっちは今終わったところです!すぐ帰りますから、少し待ってて下さい!」
 そう言ってブレスレットのボタンを押すと、ふっ、とアリサの顔が消える。
 その一瞬の間を逃さずに、マリアが口を開く。
「それ、何なの?」
「ふふふ。これは俺の開発した、究極通信装置『シンクン−2』だ」
「シンクン−2?」
「『通信』『つうしん』『つーしん』『2シン』―――」
「ああそう。」
「何だよ、その冷たい反応は。お前から聞いてきたくせに・・・・・・」
 そう言って口をへの字に曲げながら、
「とにかく、そう言うことだから俺は今すぐジョートショップへ向かう。お前ら、自分たちだけで帰れるよな」
「子供か。あたしたちは。
 余計な心配だよ」
「そうか・・・・・・」
 エルの言いように苦笑しつつ、着ている白衣の襟の裏を、何やらゴソゴソやりながら、
「なあ、お前ら、ちょっと離れてくれないか?」
 少女たちに顔を向ける。
「今度は何が始まるの?」
「ふふふ。トリーシャ、百聞は一見に如かず、だ。離れてくれ」
 そう言われると、離れない訳にはいかない。三人とも、レアーから距離を取る。
「これでいい?」
 マリアに、レアーは、ニッ、と怪しく微笑む。
 レアーは自ら、さらに数歩距離を取り、
「それでは―――」
 すっ、と空に片手をかざす。
「さらばだ!」
 ぱちん!と指を鳴らした。
  ざぁぁ・・・・・・
 その途端に。
「ど・・・・・・どこからこんなに枯葉が!」
「しかもこの風は一体!?」
 強風とともに、大量の枯葉が彼を渦巻いた!
 三人は、強風に目も開けていられない。
 枯葉が、ほんの一瞬、レアーの身体を隠し・・・・・・すぐに収まった。
 地に落ちた枯葉は、地面に溶け込むようにして消えた。
 だがそこに、あるはずのレアーの姿がない。恐らく空間転移したのだろう。
 呆然とする、取り残された三人。
「消えた・・・・・・」
「レアーさんの、マジックアイテムだよね・・・・・・」
「空間移動なら、別に木の葉を飛ばさなくたっていいのに・・・・・・」
「あいつの趣味だろ・・・・・・」
「変な趣味・・・・・・」
「まあ、ピートとかなら喜びそうだけど・・・・・・」
「レアーさんって、ホントに変わってるよね・・・・・・」
「同感だね・・・・・・」
「今年の『エンフィールド変人大会』、マーシャルの連続優勝記録が止まるかも・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「あ。そこに何か落ちてる・・・・・・」
 三人が近寄ってみてみると、それは適当に丸められた紙切れだった。
 広げてみると、かなり癖のある字で、何事かが書き込まれている。
『俺の創った、空間転移装置『マープクン』だ。
 風の魔法・幻術などを織り交ぜた、迫力の空間転移を可能にした、マニアにはヨダレ物の一品だ!ふはははははははははは!!!!!     byレアー』
『・・・・・・・・・・・・』
 永遠とも感じられる、永い沈黙。
 どこか、むなしい風か吹き・・・・・・

「一体、あんな短い間にどうやって・・・・・・」


「レアーって・・・・・・変わってるよね・・・・・・」


「ああ・・・・・・」






  あとがき

 し・・・・・・しまったぁぁぁぁぁぁ!!!図に乗ってノリと勢いで書いたら、こんな事になってしまったぁぁぁぁ!!!これって、もはや題名に合ってなぁぁぁぁぁい!!!何が、「計画その壱、始動!」だぁぁぁぁぁ!!!どっちかって言うと、「ホバークン、大活躍!(?)」じゃないかぁぁぁぁぁ!!!
 まあ、いいか(いいのか?)。
 それでは、和亜野通販のカタログショッピングぅ。



   レアー印の、マルヒ道具ショッピング ―これで世界は君の物だ!(意味無し)―

   ・演出装置「エンクン」 (3,000G)
   本文参照  使用者の精神・動作に同調し、あらゆる演出効果を生み出します(人魂・水玉型の汗など)  感情表現が上手くない方に最適の一品です

   ・追跡捕縛装置「ホバークン」 (お値段は未定)
   開発中のため、お売りできません。一ヶ月以内の製品化を目指しております。

   ・対精霊同調物質「精霊の涙」 (非売品ですので、製造元に直接ご連絡下さい)
   本文参照  精霊のチカラを借りた魔法の成功率・威力を高めるので、どこぞの爆裂お嬢様のような方に最適です  どこぞの爆裂お嬢様のような方がご購入になる場合、保護者の同意が必要です

   ・究極通信装置「シンクン−2」 (10,000G)
   本文参照  離れた場所にいる相手と、リアルタイムで交信することが出来ます(画像付き)  通信可能圏は、世界という壁を超えております

   ・携帯式転移装置「マープクン」 (8,000G)
   本文参照  セットでお付けする「出口魔法陣(五つ)」へ転移します  インプットされた場所(出口魔法陣)へのみ移動するので、失敗の可能性は皆無です  迫力の転移アクションで、一躍周りの人気者に!  転移アクションは、スキップする事も可能です


  和亜野通販


 ※値段は税込みです。
 ※レートは、1G=10円です。
 ※これらの文章は、全て架空の物です。実在する個人・団体とは一切関係ありません。
 ※この文章によっていかなる損害を受けても、当方は一切の責任を負いません。
 ※図に乗って長くなってゴメンナサイ。
 ※感想をお待ちしております。
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