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悠久の輪舞 序曲「ある青年の出会い」(後編)
ユーイチ


悠久幻想曲「悠久の輪舞」
序曲:ある青年の出会い(後編)
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「大丈夫かい?」







もうだめだ、誰もがそう思った瞬間、耳を劈くような金属音が湖畔に鳴り響いた。







「?」



何かが、オーガの前に立ちふさがっている・・・・







「大丈夫かい?」






赤茶け、所々ささくれたローブを羽織った男が尋ねてきた。



その言葉が彼女達の脳裏に働きかけ、徐々に体の機能が正常に動き始める。





「お、おまえは・・・・?」





少なからず、戦闘経験のあるエルがいち早く状況を飲み込み、男に問いかけた。







「今はこいつの退治が優先されるだろう?」




ローブの男は不敵な笑みを浮かベながら言う。





その時点で全員が状況を把握した。
オーガの巨木のような腕を阻むようにローブの男が片手で持つ、鞘から出されていない刀があったのだ。
先ほどからオーガは唸っているが、刀も、男の腕もピクリとも動かない。
本来、刀という物は、相手を一瞬のうちに切り捨てる物であり、そのため、薄く、長く練金してある。そのため、防御には全く不向きな代物なのである。
その刀で、高レベルのオーガが放った渾身の一撃を受け止めて微動だにしない男の力量は計り知れない。(もっともその力量に気付いているのは、武器屋に勤めるエルのみであったが・・・)





「やれやれ、いきなりこんな事件に遭遇するとは、この街は治安が悪いのかな?よっと!」



男はそう言うと鞘を依然抜かぬままオーガを片手で吹き飛ばす。




ドン!!地響きのような音と共にオーガの下から黒アザミの花が散乱する。

あまりに簡単に吹き飛ばされオーガは困惑していた。





『天空のかなたに住まう雷帝インドラよ・・・』
ローブの男はその場にいる者が聞きなれない呪文を詠唱し始める、と同じに、自分の放ったルーン・バレットをいとも簡単に粉砕されたことを思い出したトリーシャが叫んだ。



「ダメだよ!そいつの魔法抵抗力は半端じゃないんだ!逆効果だよ!」





『我が呼びかけに応え、さばきの鉄槌を彼の者に与えよ!ライトニング・ジャベリン!!』
トリーシャの静止を無視し、男が魔法を発動させると、オーガの頭上から幾筋もの槍のような落雷が発生しオーガを貫く、
次の瞬間、木偶の坊のように黒こげたオーガが一同の前に立っていた。



「う、うそ!?」
その光景を目の当たりにして唖然とするとリーシャ。







ドスリ・・・



灰燼と化したオーガは力なく大地に突っ伏した。




「ど、どういうこと?トリーシャの魔法は全く効いてなかったのに。」
ローブの男の後ろで呟くパティ。





「魔法力の違いだよ、奴の魔法抵抗力以上の魔法力をぶつければ効果があるのは当然だろう?」
男は振り向きざまに微笑みかける。


ここで説明しておくが、魔法抵抗力とは、その名の通り魔法に対する抵抗力の値である。これが高ければ相手の魔法を受け付けなかったり、反射してしまったりする事さえある。反対に魔法力とは、自分の持つ魔法の効力を表していて、この値が高いほど、相手に大きな効果を与えられる。
だから、魔法力が魔法抵抗力よりも高ければ、相手に効果を与えるのは当然の理なのである。






「もう一度聞くけど大丈夫かい?」男はそういうといまだ地面に座り込んでいるパティに手を差し出した。


「え、あっ、ああ、ありがとう。おかげさまで助かったわ。」
そういって自分でたちあがるが、命の危険さらされていたのだ、まだフラフラしていて足元が危うい。


「あのう、あなたは一体どなたなのですか?」
落としたバスケットを拾いながらアリサが尋ねる。




「えっ?俺ですか?俺はこの大陸を旅している者で、火傀 真(ほのかい しん)といいます。偶然この街に立ち寄ろうとしていたら殺気を感じて駆けつけたんですが、危ないところでしたね。」




「ええ、助かったわ。私はアリサ・アスティア、ええと、シン君で良いかしら?」
もう既に相手ととけこんでいるアリサ。





「ええ、構いませんよ。それにしてもあれだけの高レベルのオーガがこんな所に出るなんて、この街は治安組織がないのですか?」
シンと名乗った男が眉をひそめる。




「い、嫌この街は自治領だから、治安組織はあるんだが・・・」と、エルが説明しようとしたとき、大きな叫び声と共に一団に向かってくる存在がいた。







「「アリサさあああああああああああああああああああんんん!!!!!」」






その存在はものすごいスピードでアリサとシンの間に割り込んで来るが早いかシンに向かって叫んだ。

「いちおうあれだよ、この街の治安組織の奴は・・・」
エルはばつが悪そうに言う。


「貴様かああああ!!アリサさんを襲った暴漢は!!!!!」






「は??なんだ、お前は?」
いきなりの事態に状況を読みこめないシン。



「アリサさん!!オレが来たからにはもう大丈夫です!!この悪漢はオレが命に代えても打ち砕いて見せます!!」
走ってきた男が勝手に張り切っている。より一層困惑するシン。




「アルベルトさん、この人は違うのよ・・・・」
アルベルトと呼ぶ男に話をしようとするアリサだが、アルベルトの耳にはそんな声は聞こえていない。

「ええい!!覚悟しろ!!怪しい男め!!」



端から見ればアルベルトのほうが十分怪しいのだが・・・・



(何をわけのわからないことを言ってるんだ?この突進男は?)

シンは頭の中でそんなことを思い巡らしていた。



ゴン!!
突如としてアルベルトの後頭部から濁音が響き渡る。
「なに勘違いしてんのよ!!こいつはあたし達をオーガから救ってくれた命の恩人なのよ!!悪漢はあんたじゃないのよ!」
怒号をアルベルトに向けるパティ。




「ぐおおおおおお。こいつがあ??」
頭を押さえながらうずくまるアルベルト。





「ヤレヤレ、アル、軽率な行動はいかんといつも言っているだろう。」
アルベルトの来た方向から、腕組をしてあごをなでる白髪の男性と、肩をすくめてため息をつく男が現れて、一団に合流した。
「アル、同僚として情けないよ、私は。」頭を抱えながら言う男。



「遅いよォ!父さん!レインさん!シンさんがいなかったらボク達どうなってた事か。」
トリーシャが腰に手を当てて軽く怒鳴った。

「すまないトリーシャ。カッセルさんに通報を受けて急いできたんだが・・・」
また肩をすくめてレインと呼ばれた男がトリ―シャに弁解する。

「しかし全員無事でよかった。」
と、全員に怪我がないのを確認すると安堵して息を吐くトリーシャの父、リカルド。



「君が彼女達を救ってくれたのか、自警団を代表して礼を言う。私は自警団第一部隊隊長のリカルド・フォスター、そこにいるトリーシャの父親だ。そこで頭を抱えているのが部下のアルベルト・コーレイン、となりの彼が第三部隊隊長のレイン・レイフォード君だ。アルが勘違いして君を暴漢呼ばわりしたようだ。真に申し訳ない。」リカルドはそう言うと深深と頭を下げた。



「いや、別に構わない。偶然通りがかっただけだ。まあ、このアルベルトとかいう男には驚いたが・・・・」

「なんだとテメエ!!」アルベルトは立ち上がるとシンに突っかかっていく。
「よさんか!!アル!」
「うッ、すいません隊長。」しかしすぐにリカルドに一喝された。



「本当にすまない、私のことはレインと呼んでくれ。アルも根は言い奴なんだが、アリサさんがからむといつもああなんだ。気にしないでくれ。」
レインと名乗る男がすまなそうに言う。
シンは別に気にはしていなかった。



「いや、いいんだ。それに、元からこの街を訪れようとしていたんだし、街の自警団に会えて好都合だったよ。」


「ハハハハハ・・・・」
いきなり汚点を見られ笑うしかないレインだった。






「ところでいい加減に街を案内してくれないか?もう一週間も何も食べていないんだ。」
淡々とものすごいことを言うシン。
「ええっ!それであんなにすごい魔法を使ったの!?」
トリーシャを筆頭に驚愕する人々。



「ま、まあね。もう倒れそうだよ・・・。」
シンはさすがに辛そうだった。



「こうしちゃいらんないわ!!早くうちの店に行きましょ!!みんなも戻りましょ!」
パティがシンや一同をせかす。


「そうね、倒れたら大変だわ。」
「この現場の事は私達に任せて、早く行ってくれ。」

「それじゃあお言葉に甘えて。」と、リカルド達自警団員に後を任せるシン。




シンの目の前には美しい街の風景が広がっていた。









「ようこそ!エンフィールドへ!!」
アリサ、パティ、トリーシャ、エルが一斉にシンを歓迎する。






そう、これは青年の一つの物語の始まりを意味していたのだ・・・・・
エンフィールドの仲間と、一人の青年の悠久なる輪舞〜ロンド〜の・・・・・・







後書き
ユーイチです。長い話になりましたが、物語の始まりが終わりましたね。
前編を読み返すと、既におかしな所ばかり・・・・
恥ずかしいです。
まあ、これから力をつけていきたいと思うので・・・・(汗)
よろしくお願いします。
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