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悠久の輪舞3話「エンフィールドの町並み」
ユーイチ


悠久幻想曲「悠久の輪舞」
3話「エンフィールドの町並み」
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いつもと変らないエンフィールドの朝
この町のほぼ中央にある何でも屋「ジョーとショップ」にも朝が訪れようとしていた。




「おきてシン君、もう朝よ。」
そういって青年の眠っているベッドをゆする女性、アリサ。しかし何度呼びかけても布団の中の青年、シンは起きる気配さえない。
「あ、おはようございます、アリサ様。」「あらミーコちゃん、早いのね、ところでシン君が起きないのだけれど・・・」
店の主人、アリサと言葉を交わしたのはシンの使い魔であるネコのミーコだった。
「ああ、やっぱり。アリサ様、主様は朝には非常に弱くて生半可な事では起きないのです。」ため息混じりにぼやくミーコ。



「「起きてください!!!あるじさまああああああああああああ!!!!!!!」」



その瞬間エンフィールドの町に衝撃が走った。少なくとも町中の人々が(由羅を含めて)完全に目を覚ましただろう。
哀れなのはその部屋にいたアリサさんと、下の階で朝食用の皿を並べていたテディであった。

「ミ、ミーコちゃん、い、いまのは?」耳を押さえながら声の発信源に尋ねるアリサ。「ええ、いつもこれで起きるんです。」
はつらつと答えるミーコにアリサはそれ以上何も言う気力はなかった。

「う〜ん、おはようミーコ。あっ、おはようございますアリサさん。」あれだけの大きな声をもろに食らっておきながらいまだ寝ぼけ眼で挨拶をするシン。「もう!主様!!いつもの事ながら寝起きが悪すぎます!!アリサ様が何度呼んでいた事か!」と、怒号を飛ばすミーコに対して「いやあ、悪い。」と、少しも悪びれることなく返事をするシンであった。
「ま、まあとにかく早く朝ご飯を食べましょう、さめてしまうわ。」アリサの言葉に従い一階に降りていくシン達の前にはいつも乗っかっているミカンの箱から転げ落ちて目を回すテディがいたそうな・・・・





「ふう、おいしかった。アリサさんは料理が上手ですね。」昨日と違って普通の一人前の朝食を済ませたシンが言う。
彼の言った言葉お世辞だと受け止めるのはこの町でもアリサのみだろう、彼女の料理の味は料亭であるさくら亭やレストランであるラ・ルナの料理以上といわれているのだ。シンがこう言うのも無理はない。

「ありがとう、シン君。ところで今日は仕事について知ってもらうためにこの町を回ってきてもらいたいの、役所に行って住人登録もしなくてはならないし・・・」
ジョートショップは何でも屋であるため、覚えるような仕事はない、現場に行って指示を受けるものか、要望を受けて期限内に要望内容を達成するかのみなのだ。だから町の施設について知ってもらうことが重要だった。
「ボクが説明するッス!」テディが元気良く飛び出す。先ほどの大きな音の影響はさしてないようだった。
「ええ、そのつもりよテディ、今日は伝票をまとめるから私も店から出ないし。そう言う事で良いかしら、シン君。」
アリサもテディの意見に同意する。
「はい、分かりましたアリサさん、テディ、よろしくな。」「うイッス!まかせるッス!」
そう言う事で今日の予定が決まったシン、テディ、ミーコの3人(正確には1人と2匹)は意気揚揚と町に繰り出していった。




「それじゃあ、まずは役所に住人登録をしに行こう。」そういってジョートショップと道を隔てたところにある役所に向かう一行。
はっきり言って、異様なパーティである。役所の人々も謎の来客人の登録手続きが終わるまで終始戸惑っていた。





さて、彼らが次に向かった先は自警団の事務所であった。
「やあ、君か。」事務所にやってきたシンを出迎えたのはオーガの1件で顔を合わせたことのあるレインだった。
「この間は本当に助かったよ、トリーシャから君の事を聞いたが、あれほどのオーガを倒すなんて相当な腕前のようだな。ええと、シンでいいかな?」
「ああ構わない、俺もレインと呼ばせてもらうから。」と、互いに挨拶を交わすと奥からアルベルトがでてきた。

「き、貴様は!!話は聞いたぞ!アリサさんを誑かしやがって何を企んでやがる!!」
どうやらジョートショップでシンが働く事を既に聞きつけていたようだ。さすがにアリサさんのことになると情報が早い、まあその間様々な思い過ごしが含まれるが・・・
「アルベルトだったか?自警団員ともあろうものが無闇に住人を罵っていいと思うのか?それに俺はアリサさんの好意で働かせてもらう事になった。その事を間違えないでくれ。」
「何が住人だ!素性もしれない放浪者のくせに一般市民ズラするんじゃねえ!」アルベルトの言葉に一瞬哀しい色を浮かべるシン、その隣でミーコは怒りをあらわにする。



「俺は、2年前に記憶喪失になってそれ以来ずっと旅をしている。素性なんてわからないさ、
だがアリサさんはそんな俺を快く雇ってくれたんだ。それに住人登録も今さっき済ませてきたよ。」淡々とシンは語った。

「うっ、すまん。遂頭に血が上って・・・」アルベルトもその一言で我に返る。
「別に気になどしていないさ、これからジョートショップで働くから、魔物の退治とかあったら気軽に依頼してくれ。」と、微笑むシン。
「ああ、そうさせてもらおう。リカルドさんも君には一目置いていたからな。」
了承するレインに軽く会釈しシン達は昼食を取りにさくら亭に向かった。




カラン♪
「いらっしゃーい!あ、シンにテディにミーコじゃない、お、面白い組み合わせね。どうしたの?」さくら亭に入るとパティが出迎える。
カウンターに腰掛けながらテディが答えた。「シンさんに仕事場を見学してもらってるッス。」
「へえ、見学ねえ。アンタの方が仕事を勉強した方がいいんじゃないの。」とリサがグラスを磨きながら呟く。
「ひ、ひどいッス〜。」涙目になってテディはシンの服にすがりついた。そんなテディを笑いながら話続けるリサ。

「それにしてもボウヤ、あんた美形だねえ〜。」
そう、昨日はあの皿の山に目を奪われていて気付かなかったがシンは美形なのだ。長く美しい黒髪に同じ色の目、顔立ちもスラリと整っている。
その体のどこにオーガを倒すほどの力を隠しているのか、端から見ては分からない。
「主さまが美形だなんて、当然ですわ。」ミーコが誇らしげに言うがシンは笑っているだけであった。

「で、何を食べるの?もしかして、またあんなに食べるの?」そう言うパティの顔には冷や汗が流れていた。
「いや、昨日はもう死にそうだったから特別だよ、このおすすめ定食を頼む。ミーコには本日のお魚ランチを、テディは・・」

「お子様ランチッス!」

「・・・・・・・・・・・・。」
「テディ、あなたは何歳なの?」しばしの沈黙のあとミーコが皮肉を言う。
「いいじゃなッスか。旗がほしいだけッス。」平然と答えるテディに一同は目をそむけた。


数分後
「はい、おまたせ〜。」パティが料理をカウンターに乗せた、と同時にカウベルが音を立てる。
「ん?シンじゃないか。食事か?」「よう!」入ってきたのはエルとアレフの二人だった。
「またまためずらしい組み合わせじゃない、二人ともどうしたの?」連続しての変った組み合わせに首をかしげるパティ。
「いやあ、エルがチェスに勝ったらデートしてくれるって言うから。」アレフが至福の笑みを浮かべる。
「何が言うからだ!散々付きまとって勝手に決めておきながら言うに事欠いて。」物凄い剣幕でエルが異論を唱えた、
その様子を見てパティは事情を察知した。

「まったく、あんたも懲りないわね〜。どうせコテンパンにやられちゃうのに・・・」パティがぼやくのも無理はない、
現在このエンフィールドでチェスの腕でエルに勝る者は見当たらないし実際エルが負けたところを目撃した記憶もない。
「まあアタシも勝負する相手がいなくて退屈してたのは事実だけど、アレフじゃねえ。」
暇つぶしにもならない宣言をしたエルの言葉どおり早5分後には勝負は決していた。当然エルの勝ち。


「腹ごなしに俺とも一局頼むよ。」その様子を見ていたシンがエルに勝負を挑む。エルも初めての相手とあり喜びを隠せない。
「よし!勝負だ。アタシに試合を仕掛けてきた事を後悔させてやるよ。」





「ヴ〜ン・・・」
20分後、唸り声をあげていたのはエルではなくシンであった。
ナイトを主軸にエルを攻め立て既にクイーンなどのコマを奪いキングを前線まで追いやっていた。
(仕方がない、あんまり気が進まないけど50手終えるまで逃げるか。)エルが心の中で作戦を練る。
チェスでは50手目が終わると引き分けになるというルールがあるのだ。

「じゃあここにポーンを置いて進行をとめるか。」 コツンと象牙でできた乳白色のコマが音を立てて盤に置かれる。
「よし、アンパサンだ。」シンは言うが早いかエルの駒を盤上から除く。
これもチェスの特殊ルールで、あるマスにポーンが置かれると隣にある自分のポーンで相手の駒を取れるというものだ。

「これでチェックメイトだな。」シンが自分の勝利を宣言する。「ふう、すごい腕だね、久しぶりに負けたよ。」
稀に見る好敵手との戦いに満足するエル。もっとも周りの人々にはハイレベル過ぎて良く分からない試合だったのだが・・・・



「それじゃあそろそろ次の場所に行かないとな。」
そう言ってシンが席を立った途端に荒荒しくドアを開けて3人組の男がさくら亭に入ってきた。

「いらっしゃ〜い。ご注文をどうぞ。」パティがすぐに接客に入る。
しかしそのパティを静止するようにリサが手をあげた。「まちなパティ。どうやらこいつらは悪党らしい。」
訳がわからず困惑する一同、その中をシンだけは冷静に男たちを凝視する。

「悪党ったあ人聞きの悪い、オレ達はこの町に金ズルになるネコ娘がいるっつうから遠路はるばる北の果てからこの町に来たんだぜ?」
太った男の言葉に全員が一人の少女を思い浮かべる。 
「あたしも元傭兵だ、あんた達の悪名は聞いてるよ、バルザガル兄弟。」
男たちの顔が悪意に染まっていく。「オレ達のことを知ってるんなら話は早い、邪魔しなけりゃ命は救ってやるよ。」
ノッポの男が高らかに言い放った。
「アンタ達!メロディに何の用・・・「だめだ!!」
パティがフライパン片手に男たちに叫んだ。とっさにシンがパティをとめるがとき既に遅し、

「ほう、お嬢ちゃんは金ズルの知り合いかい。痛い目に会いたくなければさっさとそいつの居所をはきな。」
リーダー格の男が口を開いた。ミーコがパティやアレフ、テディをカウンターの隅に避難させる。
「やれやれ、愚鈍な奴等は扱いにくい、話が通じないからな。」これまでの様子を傍観していたシンが乗り出した。

「ボ、ボウヤ!?」

彼等の噂を聞いていただけにリサは戸惑う。この3兄弟の実力は北国の悪党の中でも五指に入るものだったのだ。

「なんだ、お前ェ。死にてえのかよ。」太った男がシンの前に立ち尽くす。手には巨大な棍棒が握られている、
こんなものを振り回されたら店は滅茶苦茶だろう。そう悟ったシンは腰に構えていた刀を外した。
「げへっへへ。バカか?お前ェ。」 

「・・・・・・ウインド・ウイング。」

刀を置いたままでシンは耳に聞き取れるか否か判らないほど小さな声で魔法を唱える、突然
シンの姿が消え、大男の背後に現れた。



「なっ!!」
男が振向こうとするが次の瞬間シンの手刀が男を捕らえる。
力なく大男が崩れ落ちていく、しかし男が倒れるよりも早くシンは他の2人にも手刀を加える。




「す、すげえ。」その様を見ていたアレフが驚きを露にする。他のメンバーも口をあけてその光景に見入っている。
「ボウヤ、今使った魔法は詠唱をしていなかったようだけど・・・?」リサがシンの行動に疑問を持つ。
「そうだが、別にあの程度の連中が相手なら必要ないさ。」シンはいたって冷静だ。
本来魔法とは呪文の詠唱を成立させてはじめてその威力を発揮するのだ。魔法単体を発動させてもその効果は本来の十分の一程度であろう。
しかしシンは魔法のみを発動させたにもかかわらず常人が確認できない動きをしたのだ。その身体能力と魔力には計り知れない物があった。



「と、とにかく助かったわ、ありがと。」カウンターの影から顔を出し礼をするパティ。
「それじゃあテディ、ミーコ、次の場所に行こうか。」いつのまにか男たちを店の柱に縄でくくりつけてシンが平然という。
ミーコはトコトコとシンの方へ向かうがテディは驚きから覚めやらずポカンとしていた。


「後始末は自警団の人にお願いするから通報しといてくれ。」
そういってシン達は仕事場の見学に戻っていった。店の人々は10分程ただ呆然していた。





「ああ〜!勘定もらい忘れてたわ!!」シンが去ってからパティが重要な事に気付く。2日も続けて無銭飲食をされていたのだ。
「まあ、暴漢から店を救ってもらったんだからいいんじゃないか?」エルのもっともな発言にパティもしぶしぶ納得していたそうな。








数時間後、通報を受けてやってきた自警団第3部隊隊長のレイン・レイフォードは「なんだか彼の後始末ばかりしているな。」と苦笑しながら語っていた。








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後書き
シンはすごい能力者です、と同時に非常にマイペースですね。
仕事場の紹介から発展していきましたが・・・
自警団の出る幕無しですね(笑)。
さて、次はシンの過去に迫ります。(といっても記憶のある2年前からですが・・)
もっと文才を磨きたいと思います。ホント。
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