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悠久の輪舞4話「己という者」
ユーイチ


悠久幻想曲「悠久の輪舞」
4話「己という者」



暗い・・・・・・・・・・・







どこまでも続く漆黒の深淵。









その底から顔を覗かせる男。









―ダレダ?オマエハ?―









オレハ・・・・・・・・・・・・








物凄い音と共にそのビジョンは消え去った。
青年はその声のほうに目をやる、そこには自分の使い魔が声を荒げていた。
「おはよう、ミーコ。」青年、シンの言葉にミーコはため息をついた。
「主様、早くしないとお仕事に送れてしまいます。」ジト目でシンを睨むミーコ。
シンは慌ててベッドから飛び起きるとこの家、ジョートショップの一階に走っていった。


「おはようございます!アリサさん、それにテデイ。」
「おはようシン君。」「おはようございますッス。シンさん。」
ジョートショップの住みこみ従業員、火傀真がこの店で働き始めてからはや3週間。
彼の事は既にエンフィールド中の人々に知れ渡っている、なぜかといえばその原因は簡単。
彼の使い魔が毎朝彼を起こすために大声を張り上げるからだ。
この使い魔の声は町中に聞こえ渡るほどの音量で、いまではニワトリよりも正確と言う事でエンフィールドの人々の目覚し時計と化している。




「それじゃあアリサさん、いってきます。」従業員が意気揚揚と仕事に出かける。
「ええ、いってらっしゃいシン君。お昼には戻ってきてね。」その青年を見送る店主。
この時彼等にはまだ自分たちの身に何が起こるのか知る由もなかった。






「あ、お兄ちゃん!!」依頼先から少女、ローラが飛び出してくる。
午前中の彼の仕事はセント・ウィンザー教会の子供の世話であった。

彼が働き始めてからジョートショップの経営はかなり安定してきた。
普通、収入が増えても従業員(しかも住みこみ)が増えては、大して変らないように思える、
しかしそれは並みの従業員の場合だった。
シンの仕事ぶりは超人的だったのだ。早い、丁寧、またアリサさんの経営方針、低価格となれば、依頼が少ないわけがない。
アリサさんは、「働きすぎは良くないわ。」といっているのだが、
シン曰く、これぐらいは朝飯まえと言う事でアリサも渋々納得している。






「いつ来てもここの仕事は疲れるな。」
小一時間後、首をパキポキと鳴らしながら教会から出てくるシン。
流石の彼も子供の相手は常人と変らないようだ。

「さて、ジョートショップに戻るとするか。」
そういってシンがアリサさんの待つジョートショップへ帰ろうとしたその時

「シンさん!大変ッス!大変ッス!一大事ッス!」「主様!!予期せぬ事態が起こりました!」
声を張り上げてシンに向かってくるテディとミーコがいた。


「どうした?」二人の剣幕から危険な状況を察したシンが尋ねる。
「どうしたもこうしたも無いッス!ジョートショップにアルベルトさんや自警団の人が来てシンさんを逮捕するって言ってるッス!」
「オレが何かしたか?」心当たりの無いシンは首をかしげる。

「それが、主様の部屋から昨晩フェニックス美術館から盗まれた有名絵画数点が見つかったのです!」
「何故そんな物がオレの部屋に?」
素っ頓狂な顔をしてシンは思案する、が考えていても仕方が無いため
とりあえずジョートショップに駆け出していった。











「来やがったな!犯罪者!!」
ジョートショップに帰着するといの一番にアルベルトが飛び出してきた。
「どうしたんだ?アルベルト?」
「どうしたもこうしたもねえ!窃盗の容疑でテメエを逮捕する!!」
(こいつに話してもムダなようだ・・・・)
あい相変わらずマイペースなシンを尻目にかけて愛用のハルバートをつきつけるアルベルト。
そのアルベルトの横をいつのまにか通りぬけてシンはアリサさんの前に立っていた。

「一体どう言うことですか?」
「それがわたしにも良く分からないの。アルベルトさん達がやってきて
シン君の部屋を調べさせて欲しいと言うからわたしが見ていれば良いと思ってあがってもらったら・・・・・・」

「フム。」テディやアリサさんの話でだいたいの状況をシンは掴んだ
つまり昨晩フェニックス美術館から盗まれた絵画が自分の部屋から見つかり自分に窃盗の容疑がかけられている、と言う事だろう。

「分かった、大人しくついていこう。」そういって手をアルベルトに差し出すシン。
「な、なんだ?やけにあっさりしてるじゃねえか。犯行を認めたのか?」
シンの手首に魔法錠という特殊な手錠をかけながらアルベルトが問う。
「窃盗なんてしてないんだから調べりゃ分かる事だろう?それにここで騒がれちゃアリサさんに迷惑がかかる。
自警団で詳しく話を聞こう。」

手錠をかけられたままスタスタ歩き出すシン。
「シン君・・・」
「大丈夫ですよ、アリサさん。すぐに無実だと分かります。」
アリサに微笑かけシンと自警団員はジョートショップを後にした。












「やあ、シン。すまないな、しかし目撃証言があるので仕方なかったんだ。」
普段から町の事件を解決してもらっているだけに幾分やりにくそうなレインが待っていた。

「それじゃあまずは君の事件発生時刻、午前2時30分頃の行動を証言してもらおう。」
自警団の詰め所奥にある尋問室で口を開くレイン。
「ああ、その時刻ならとっくに眠ってたよ。オレはエンフィールドに来てからいつも1時までには寝るようににしてるから。」

「それを知っている人はいるのか?」
「使い魔のミーコもオレの足元で寝てるけど・・・・・・」「使い魔じゃアリバイにはならんな・・・・」
そうこうしている内に部屋にリカルドが入ってきた。


「火傀真君、突然で悪いが君を逮捕する。」
「!?」
そう言ったリカルドの手にはシンの逮捕状がしっかりと握られていた。
「尋問も終わら無いうちにすまないが命令だ。すまないが牢屋に入ってもらうよ。」
淡々と語るリカルド、しかしそれに異議を唱えたのはレインだった。
「リカルドさん!どういうことですか!彼は尋問も終わってませんし逮捕権が出されるなんておかしいです!!」
「レイン君、納得がいかんだろうがこれは上からの命令だ、我々に反論する余地は無い。」
仕事をあくまで冷徹にこなすリカルド、しかし彼も心の中ではこの行為に対して自分に怒りを感じていた。
その心中を察してかシンは直に牢屋に向かった。




「幾つか質問しても良いか?リカルド。」
牢屋の鉄格子を隔ててシンが言う。
「やかましい!犯罪者は大人しくしてやがれ!!」
「やめんか!アル。 それで、何が聞きたいんだね?」
シンの言葉を跳ね除けるリカルド。

「オレが美術館から盗みを働いたというが目撃者は本当にいるのか?昨夜は新月だったし、美術館の所には街灯も少ないはずだ。」
「ああ、3人ほど目撃していてしっかりとは確認できていないが証言はみな一致していたし、髪型、背格好は君の容姿と一致している。」
なにかを頭の中で模索しながら次の質問に移るシン。
「もう一つ、アルベルトがオレの部屋から絵を発見したとき、それはどこにあったんだ?
朝オレはミーコとアリサさんに起こされたがその時はそんな物はなかったが?」


その話にリカルドも首をかしげるがアルベルトが返答した。
「何言ってやがる!絵ならお前のベッドの横に立てかけてあったぜ。」
「ベッドの横?そんな見つけてくださいと言わんばかりのところに何故置く?」
「てめえが置いたくせにいけしゃあしゃあと言いやがって!」
シンも首をかしげるがいくら思案しても答えは見つからなかった。



「ふむ、ところでリカルド、オレがもし有罪になったらどう言った判決が出るんだ?」
「死刑とまでは行かないが、盗まれた物は有名絵画だ、追放は免れないだろう・・・・。」
「・・・・・・分かった。すまなかったな。時間を割いてもらって。」
シンはリカルドに言葉を投げかけ牢屋の寝台に横になった。

「・・・・・・・・・・。」
リカルド、アルベルトもその場を後にした。













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暗い・・・・・・・・・・・







どこまでも続く漆黒の深淵。









その底から顔を覗かせる男。









―ダレダ?オマエハ?―





―オレはシン、火傀真だ。―






―フッ、オマエカ・・・・。セイゼイ苦シムコッタナ・・・・・・。―




(まただ、またこの夢だ。お前こそ誰なんだ?俺の夢に出てきて・・・・)







―オキロ―
―オキロ―
―オキロ―





「おい!おきやがれいつまで寝てんだ!」
暗い深淵のビジョンが一転し目の前にはアルベルトが立っていた。

「ったく、すげえ神経の太さだぜ。」
「なんだ?アルベルト?判決が出たのか?」
目をこすりながらシンが起きあがる。

「釈放だ!釈放!!ったく、なんでアリサさんもこんな奴に・・・・」

次の瞬間シンはアルベルトの目の前に移動していた。

「なんだと?アリサさんがどうしたんだ。」
「うっ・・・」
その漆黒の瞳と殺気にアルベルトもたじろぐ、
「あ、アリサさんが保釈金の10万Gを払ったんだよ。」
「なに?あの人はそんな大金を持ってないぞ!」
「うるせえ!そんな事はこっちが聞きたいぜ!さっさと出やがれ!!」
目にもとまらぬ早さでシンは自警団の外に出ていった。






「シン君!よかった、ひどい事されなかった?」
自警団を出るとすぐにアリサがシンを抱き寄せた。

「あ、アリサさん!保釈金を払ったってどこからそんなお金を?こんな見ず知らずのオレのために!」
「話はあとで詳しくするわ。みんな待ってるからさくら亭へ行きましょう。」
有無を言わさずシンを引っ張っていくアリサにシンはまずはついて行った。






「主様〜、主様〜。」
さくら亭からグシグシとなく嗚咽が流れていた。

カラン♪
「!!!」
「主様〜!!!ご無事でしたか!私が不甲斐ないばかりに申し訳ありません!!」
シン達が店に入るといの一番にミーコが飛びこんできた。

「ミーコ、すまない、心配をかけたな。」

「シンさん!!」「シン君!」「シン!」「ボウヤ!」
店内を見渡すとみんなが待っていた。

「み、みんな?どうしてここに?」
シンは驚きを隠しきれなかった。

「みんなあなたを慕って来てくれたのよ。」
アリサが微笑む。


シンは席につくとアリサに話の続きを始めた。
「それで・・・・お金はどうやって?」
「ええ、あのあとすごく親切な方が一年間の期限月でお金を貸してくださって、それで仮釈放をしてもらったの。」
「オレのために10万Gもの大金を?」
「ええ、それに一年後にある住民投票で過半数を超えれば再判決ができるの。その再判決で無罪が証明されればお金も返してもらえるわ。」
微笑みながら言うアリサの言葉にシンは涙を止められなかった。


「オイオイ!シン、涙なんて男の流すもんじゃないぜ?」
アレフが笑いながらタオルを渡す。

「そうよ、ここにいるのはアンタを助けようって集まったんだから。泣いてないでさ。」
「やれやれ、パティもシーラのトリーシャも泣いて泣いて、大変だったんだよ。ボウヤ。」
「そ、そ、それは言わない約束でしょ(すよ)!リサ(さん)!!」
顔を真っ赤にして3人が叫ぶ。




「みんながジョートショップの仕事を手伝ってくれるって言うのよ。
お金が貯まれば何があっても返せるし、仕事をして住人の信頼も得られるでしょう。」




「みんな・・・・・。ありがとう。」


「よせよ、ワタシ達は命を助けられたんだし。他のみんなも迷惑かけてるんだ。お互い様だろ?」と、エル。


「そうですよ、シンさん。」「そうだぜ!!」「そうよ!」「そうなのだ〜。」「そうッス!!」



全員が口をそろえる。

「良かったですね、主様。」シンの肩からミーコも胸をなでおろす。




「・・・・・これからよろしく。みんな。」











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後書き
予告とずれてます。
長いです。
時間かかってます。
すいません・・・・・・・

しかし仲間の絆っていいですね。
これから次回作は考えていきたいと思います。それでは。
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