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悠久なる輪舞曲
kugutsushi[HP]


悠久幻想曲「悠久の輪舞曲」
序曲:破壊者の調べ
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忘却の果てに見えたのは希望という名の日常だった・・・・・。



                           それは人の持つ可能性か?








変わらない日常は






                       人の心に何を残すのか・・・・・・・。





――ローズレイク中流――





少しずつ光が広がっていく。重い瞼をあげると青年はゆっくり立ち上がった。


彼の足元に咲き乱れる黒アザミの花弁には水滴が乗っている。
それに一瞥をくれると、彼は憂いを顔に浮かべながら、口の両端を上げた。
横に目をやると、穏やかな清流が、まるで彼を至高の世界へと導くかのように流れている。





「エンフィールド・・・・か・・・・・。」
誰に話し掛けるでもなく、赤茶けたローブに身を包んだ青年の口からこぼれた言葉は、小鳥のさえずりと、心地よい春風の流れによって吹き消された・・・・。








――同時刻――
エンフィールド最南端に広がる湖、ローズレイク。
街が王国衛星都市だった時代も、50年前の戦災のときも、変わらないこの湖の下流に、少女たちの談笑する声が響いていた。






「ねえ、エル!見てみてこの花。とっても綺麗だよ、なんて花なの?」
長いブラウンの髪の毛を大きな黄色いリボンでとめた少女が、眼前にある深紅の花を指差して言った。
その言葉に、彼女の後ろで薬草を黙々と摘んでいた、特徴的な切れ長の耳を持つエルフの少女がギョッとする。
「バ、馬鹿、トリーシャ!そいつは艶女草(あでめぐさ)って名の猛毒の花だよ!触るんじゃない!」


「ちょっと、トリーシャぁ。薬草摘みを手伝ってくれるのは有難いけど、変なのばっかり見つけてないでよ。その度エルの手が止まっちゃうんだから、
いい加減にしないと日が暮れちゃうわよ。」
二人のやり取りを見ていたショートカットの、ボーイッシュな感じの少女が呆れ顔をしている。

「パティの言う通りだよ、トリーシャ。さくら亭で使う薬草摘みに来てるんだ、アタシの教えた以外の草や花は触るんじゃない。」
「だ、だって〜。」
パティと呼んだショートカットの少女に相槌を打つエルに膨れっ面をして見せるトリーシャ。




彼女達は、パティの両親が営むエンフィールドの宿屋兼食堂、「さくら亭」で使う薬草や香草を採取しに、ここ、ローズレイクにやってきた。
最初は、普段から登山をしたり薬草摘みをしたりしているエルと、パティだけが行くはずだったのだが、丁度さくら亭に来ていたトリーシャが、
「わ〜、面白そう!ボクも連れてってよ。」と、言った風に無理やりついて来る事になったのだ。
人手が増えてラッキーだ、等と考えていたパティだったが、実際、現場に来てみて顔面蒼白となった。
とにかくわけの分からない毒草ばかりにトリーシャが手を出すため、2人共薬草摘みに専念できないのだ。
既にローズレイクに到着してから1時間が経っているが、いまだ籠の一つも一杯になってはいない。血管を額に浮き上がらせた父の怒った顔が、パティの脳裏を過った。











「あっ!パティさんに、エルさん、それにトリーシャさんじゃないッスか!」
突然、後ろから聞き覚えのある妙な語尾の声が聞こえる。彼女達が振り向くと、そこには二足歩行する珍妙な犬と、エプロンをかけた柔和な顔立ちの女性が立っていた。エプロン姿の女性の右腕には大きなバスケットが下げられている。

「アリサおば様、それにテディ。今日はどうしたんですか?バスケットなんて下げて。」
アリサと呼ばれたこの女性は、エンフィールドでジョートショップという名の、何でも屋を営んでいる。
元々夫とはじめたのだが、その夫に先立たれ、一人で店を切り盛りしている、だがアリサは生まれつき弱視のため、思うように仕事はできない。
とはいえ,その人柄や、仕事の丁寧さ等から、街の人々からの人望は厚い。実際、パティは実の母のようにアリサを慕っていた。

ちなみに、アリサの手を引いている犬のような生物は、魔法生物のテディである。アリサの夫が、弱視のアリサの手助けをするために昔連れてきたのだが、
抜けているところがあり、少し心もとない。
まあ、本人はアリサのために一生懸命やっているつもりだし、アリサもそれを十分理解している。


「ええ、カッセルさんにちょっとピザを届けてきて、少し散歩でもしようと思って来てみたのだけど、パティちゃん達はどうしたのかしら?」
「あ、実は、「ええ〜っ!アリサさんのピザ〜!!ううっ、カッセルおじいさんがうらやましい・・・。」
アリサと談話し始めたパティの声に割って入ってきたのはトリーシャだった。

「まったく、食い意地張ってるねえ。」
「まったくッス!」
もっともな指摘をエルのみならず、テディにまでされてトリーシャは何か言いたげな表情を浮かべている。
 


 だが、本当のところ、エルもパティもアリサさんのピザと聞いて一瞬心をときめかしていた。
実際、アリサの料理の腕は超一流であり、特にピザの腕に関しては、エンフィールド中の人々が認めるもので、食堂であるさくら亭の娘、パティも絶対にアリサさんのピザには敵わない、と感じている。







「それで、パティちゃん達は何をしにここへ?」
「えっ、ああ、うちの店で使う薬草や香草が切れていたから、エルとトリーシャと一緒に取りに来たんです。」
すっかり忘れられていた質問をもう一度するアリサに、やっとパティが答える。

しかし、次の瞬間その場に居合わせた全員が硬直した。








「グルゥ。」
「!!!!」
彼女達(+犬)の背後にオーガが立ち塞がっていたのだ!
一般的に、オーガは成人男性より少し大きい程度なのだが、今、彼女達の瞳に映っているそれは、由に3メートルはあろうかという体つきである。
相当レベルの高い魔物であるということは火を見るより明らかであった。



「オ、オーガ!?なんでこんな下流に高等な魔物が?」
普段、雷鳴山に行っても相当奥に行かなければ現れないような魔物を前にしてエルが叫ぶ。
(この周辺は一面に広がる草原、ただ単に走って逃げても隠れる場所もないし、魔物の脚力を考えれば十中八九追いつかれる。
しかも、弱視のアリサさんがいる状態では、ただ敵に背中を向けるだけとなってしまう。
・・・・・・・となると・・・・・・戦うしかない!!)
状況を的確に把握したエルは突破方法を考え出すと忌々しげに舌打ちをすると凛とした声で指示を出した。

「トリーシャ!アタシが打撃で奴の足を止めるから魔法で援護してくれ。パティはアリサさんを守るんだ。テディは今すぐ自警団に応援をよんできな!」
「で、でもご主人様が・・・。」
「テディ、私の事は心配しないで早くリカルドさん達に通報してきて。」
ぐずるテディをアリサがせかす。
そう、いくら腕に自身があるエルがいるとはいえ、高レベルの魔物を彼女達が食い止められる時間はあまりに少ない。
テディも動物的なカンがこのオーガの危険性を恐ろしいほどに感じ取っていた。そして意を決するとエンフィールドの街に向かって、
脱兎のごとく駆けていった。






「いくよ!!」
テディが小さくなっていくのを確かめると、エルがオーガに向かって左右にフェイントをかけながら近づいていく。

『大気に住まう火のエレメンタル、サラマンダーよ、我が身よりその力を具現し、彼の者に浄化の炎を与えよ!!ルーン・バレット!』
トリーシャが呪文を詠唱し終えると、手で組まれた印の間から複数の火球が交差しながら、弧を描いてオーガに飛んでいく。




ボシュッ
「!?」
魔物に火球が直撃した、と、その場の全員が確信した刹那、トリーシャの放った魔法の火は乾いた音を立てて消し飛んだ。
オーガにダメージを与えるどころか、ただいたずらに相手を興奮させる結果になってしまったらしい。

「みんな!!逃げるんだ!!!」
予想にくらべ、はるかに強大な力を持ったオーガを前にして,少女達はあまりに無力だった。
こうなっては、逃げられるところまで逃げるしかなかった。


「アリサおば様!こっちに!!」
パティがアリサの体を支えながら走り出すが、思うようにいかない。
「パティ!アリサさん!!」
エルが二人に注意を払ったその刹那、わずかな隙を見て,オーガは弱い獲物,つまりパティとアリサの元に飛びこんだ。


「しまった!!」
そうエルが言い終わらないうちに、オーガはパティの眼前に迫っていた。
「パティちゃん!私のことはいいから、あなただけでも逃げて!!」
「イヤ!そんな事絶対にイヤ!!アリサおば様を捨てていく事なんてできない!!」
強大な魔物を前にしても、パティは退かなかった,アリサをかばうように体を覆う、
そのパティの体に,オーガの鋭い爪が突き刺されようとした。


「「パティ!!!!」」



(ダメ!!やられる!!)



ガキィ!!!!!!


オーガの爪がパティを今まさに貫こうとした瞬間,鈍い金属音が湖畔に木霊した。


(え?アタシ,生きてる?)
自分の意識がしっかりあることを確認すると,パティはやさしげな声を聞いた。





「大丈夫?」





To Be Continued
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後書き
お久しぶりです,ユーイチ改め、kugutsushiです。
前に書いていた「悠久の輪舞」はあまりにも、アレなので,改訂版,というか
根本的な設定を少し変えて、最初から書き始めてみました。
キャラの概要はほとんど同じなので悪しからず。
若輩ゆえ,文章力はまだまだですが、これからもよろしくお願いします。
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