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悠久なる輪舞曲第二話
kugutsushi[HP]


悠久幻想曲「悠久なる輪舞曲」
2話「楽園の扉」
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「大丈夫?」





死を覚悟したパティの眼前に、赤茶けたローブに身を包んだ人間が立っていた。
彼女の視点からでは分かりにくかったが,その男は、オーガの巨木のような腕を、鞘に入れたままの刀で、しかも片手で押さえているようだった。



「もう一度聞くけど,大丈夫?」
獣の異様な殺気が漲る湖畔に、凛とした,それでいて優しげな声が響く。

「あ、アンタ、一体?」
未だ茫然自失となっているパティに代わり、少なからず実践経験のあるエルが、いち早く状況を理解して,呟いた。

男の持っている刀は、一見したところ,東洋で多く見られる片刃の剣で,切れ味が鋭く、殺傷能力においては非常に優れているが、
防御と言う面では刃こぼれしやすく、刀身が薄いため、からっきしというもの。つまり一対一の、一撃が勝負の闘いにおいてのみ有効な逸品なのだが、
この男は、細腕一本で,オーガの強靭な腕を押さえている,というよりは受け流しているのだ。
 こと、武器に関しての知識は飛びぬけているエルは、驚きを隠せなかった。


「一体,って言われてもねっと!」
ほんの一瞬,男が腕を押すと,オーガの巨体が、まるで羽毛のように吹き飛ぶ。
地面になぎ倒されると,湖畔に咲く黒アザミの花弁があたり一面に飛び散り,その魔物の質量を物語る。



「さ、立てるか?」
無防備に後ろを振り向くと、男はパティに手を差し伸べた。


「あ、ありがと・・・。」
その手に捕まり,ゆっくりと立ちあがる。
先ほどの恐怖で,足が地に付かないような感覚を覚える。
「そこの女性と一緒に離れていろ,相手はまだやる気だ。」
ヤレヤレといった感じで肩を竦めると,男はオーガの方に向きかえり、敵を見据え、手で何かの印を組んだ。




周囲に言い知れぬ緊張感が漂う,しかし当の男は、刀にも手をかけず,一言で言うのなら,この場にそぐわないのだが,「ボーっとしている」状態にあった。


「グガァ――――――――――!!!!!!」
不意にオーガが耳を劈くような咆哮をあげて、ローブの男に突進してくる。
前足も地面につけ、獣としての本能のまま,狩人としての姿で本気になって獲物を捕らえる構えだった。




少女達は、その光景に呆然とした。




いつの間にか聞くものを震撼させる魔物の咆哮が止んでおり、それと同時に,魔物の姿は跡形もなく消えていた,そう、この世から消滅していたのだから。
後に残ったのは,オーガのシルエットを映したかのような、大地の模様。
黒アザミの花が、全く存在しない、オーガを模っている、黒ずんだ地面。



「え・・・・・オーガは?」
魔物の姿が消えた安堵感よりも先に、率直な疑問がトリーシャの口を媒体として発せられる。

「倒したよ?」
男が涼しげに言う。


オーガが男の間合いに入った瞬間,男の刀が戒めを解かれたかのように鞘から抜かれ,魔物の体を両断した、と、同時にはじめから詠唱していた火炎の魔法を左手から発動させて,オーガの体を焼き尽くした、いや,消滅させたのだが,エルでさえ,その一連の動きの中で確認できたのは、最後に魔法を発動させていた、という事だけであった。
無論,他の2人から見れば,いつのまにかオーガが消えていた、としか考えられなかっただろう。





「あ、あの、危ないところを助けていただいて、有難うございました。」
少女達を子とも想う淑女、アリサが男に話しかけた。
「いえ、人が殺されるのを見過ごせるほど,道徳心に欠けてはいませんのでね。」
悪戯っぽく、機知をきかせて男が微笑む、下手をすれば皮肉にも聞こえるのだが,この男が喋るとそうは聞こえない。
「私、アリサ・アスティアと申します。あなたのお名前は?」
「火傀真(ホノカイ シン)と言います。おっと、こういった場合は名乗るほどの者ではありません,と言ったほうが良かったかな?」
男,シンのおどけたような仕草に、少女達の緊張が解けていく。
先天的に眼が不自由なため、とりわけ、相手の心の状態を敏感に察知するアリサは,シンの自然な心遣いに感謝していた。
徐々に少女達の脳が本来の働きを取り戻していったその時、



「アリサさあああああああああああああああんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「!?」
魔物の咆哮とは異質の,しかし負けず劣らず声高な叫び声が、一同の耳に入った。



「アリサさん!!ご無事でしたか!!このアルベルトが来たからにはご安心ください!!悪漢は必ずや成敗いたしましょう!」
ハルバードと呼ばれる長矛を自在に繰り、やや時代がかった口調で、(少々自分によっているようだが)黒髪の男が叫んだ。

「遅いよ、アルベルトさん!」
「おお!トリーシャちゃん!もう大丈夫だ!そこの男!神妙にしろ!」
「ま〜た勘違いしてるよ。」
不満をたれるトリーシャを尻目に、シンに向かってハルバードを突き出し、おもいっきり勘違いをかますアルベルトに、エルは辟易した様にため息を漏らす。
シンはつい先刻までのパティ達と同じ状態に陥っていた。すなわち、茫然。


「・・・・・・あなたは一体・・・・。」
シンの口から,エルが数分前に発した言葉が発せられる。


「自警団第一部隊、きりこみ隊長、アルベルト・コーレイン!!アリサさんを襲う不貞の輩め!覚悟しろぉ!!!!」
そう言うと、アルベルトは問答無用でシンに突進してきた。
「ふう、今日は厄日かな?」
使い込まれ、赤茶けたローブの中からシンは一枚の紙切れ、正確に言うと、相手の神経を遮断する魔力を持った御札(緊縛符)を取りだし,アルベルトの長矛が振り上げられるや否や、この自称きりこみ隊長の顔に貼り付ける。


「アガガ!!!!」
なんとも間の抜けた声を出して、アルベルトが地面に突っ伏した。



「・・・・、アリサさん、この猪男はなんです、頭は悪いが、悪人ではない様ですけど?」
前髪にかかった漆黒の髪をかきあげながら、心底だるそうにシンがぼやく。


「あの・・・」
「アル!何をしているんだ!」
「おや、モンスターが現れたと聞いたのですが・・・・・、どうやら片付いたようですね。」
アリサが答える前に,白髪のやや齢のいった男性と,栗毛の青年がこの場に姿を見せた。


「遅いよ!!お父さん!!」
「すまない、トリーシャ、テディ君から通報を受けて飛んできたのだが・・・・。」
黄色いリボンを付けた少女,トリーシャが、お父さんと呼んだ白髪の男性は,すぐさま周囲に視線を走らせ,危険が無い事を確認した。
「察するところ,君が娘や、彼女達を助けてくれたようだな,有難う。この娘の,トリーシャの父として礼を言う。」
白髪の紳士が深深と頭を垂れる。


「僕はレイン・レイフォード、この町の自警団の第三部隊隊長を務めている者だ,こちらは同じく第一部隊隊長のリカルド・フォスターさんだ、僕からも礼を言うよ。」
栗毛色の髪の持ち主,自警団の隊長と言っているが,非常に若く見える(実際に21なので若いのだが)青年、レインも頭を下げた。


「いえ、顔を上げてください,ただ通りがかっただけですので・・・・。」
礼を重んじる二人に、シンが困惑してしまう。
「あの・・・・・・、言いにくいのですが,この男の同僚さんですか?」



「・・・・・・・・・ええ・・・・・。」
深くため息をついて、リカルドとレインがお腹の底から搾り出すように言った。




「アルも、根は良い奴なんですが,アリサさんが絡んでくるとどうも冷静さを欠いてしまって。」
ほぼ同時期に自警団に入隊し、親友と呼ぶ男を見下ろしてレインが付け足す。
「驚きましたが,別に気にしてませんよ。」




「あ、シンでいいかな?アタシ、パティ、パティ・ソール、さっきはその、本当にありがと。」
「そう言えば自己紹介もしてなかったね,あたしはエル・ルイス、お前さん,やるもんだね,驚いたよ。」
「ボク、トリーシャ!そこにいるリカルド・フォスターの一人娘なんだ!シンさん、ありがとね!」
一段落ついたところで、思い出したかのように、少女達が自己紹介をする、ショートカットで、ボーイッシュな感じのするパティ、尖った耳がエルフであるという事を主張するエル,大きなリボンをつけた少女、トリーシャ。


「ああ、どういたしまして、かな?」
やや苦笑交じりにシンが答える。


「現場の記録をしていくから,先に街の方に戻っていてくれるかい?」
レインが施す。
本来、事件の後なのだから、自警団員が責任持って送り届けるのが筋なのだが、咄嗟の事だったので,詰め所にいたレインとリカルド(アルベルトも)のみが駆けつけた。そのため、他の団員が到着するには時間がかかる、しかもアルベルトはシンの札によって行動不能になっている、
つまり、腕に覚えのあるシンがいれば安心だろうと考えたのだ。
実際のところ,それが最善の策なのだが,無責任ともいえる行為をさらりと言ってのけるレインに、リカルドは苦笑するしかなかったし、シンもその意図を察して、微笑んだ。


「結構ですよ,どうせ少しの間、この街で羽を休めるつもりだったし,ここ1週間、食事をとっていないものでね。」
あっけらかんとしたシンの言葉に、またも一同は凍りつく。

「い、1週間なんにも食べてないであんな化け物を倒したの・・・・?」
「どっちが化け物だか分からないね・・・・・。」
順にパティ、エルである。


「とにかく、早く戻りましょう?テディも心配していると思うわ。」
もっともなアリサの意見に,シン達は歩を進めた。



5人の視線の先に、エンフィールドへの入り口、祈りと灯火の門が姿を覗かせる。
その奥には、長い歴史を感じさせる美しい建物が軒を連ね,この街を彩っていた。
美しい,シンは思った、それは安に街の風景が美しいということではなく、そこに住む人々の、そして自分の横を歩く人達を育んできた街に対する
畏敬の念だったのかも知れない。


すると、パティ、エル、トリーシャがシンの目の前に回りこんで、自分達の街にシンを導くように言った。




「ようこそ!エンフィールドへ!」

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後書き
第二話でしたが、いかがでした?
スキルアップして戻ってくるつもりだったんですが、相変わらず、
文章が微妙ですよ、でも、読んでやって下さい。
感想などいただけると、嬉しいです。なんといっても、自分の現在の
レベルがつかめてないもので・・・・・。では。
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